リュウゼ 過去編<前編>
リュウゼとイシェル(この時はまだマリー)の出会い編です
ふふふ。
私は校舎裏で猫と戯れていた。この子猫は、完璧な令嬢生活を演じ、男爵令嬢からの嫌がらせにも耐える日々の唯一の癒しだ。
いつも通り楽しんでいただけなのだが……
ゾゾゾという悪寒が背中を走った。
ふと、辺りを見回すと、校舎の影に人がいるのに気づいた。やばい、こんなことがバレたら、完璧令嬢という評判に傷がついてしまう。
私は令嬢モードをオンにして、校舎の影に向かう。
そこには深い紺色の髪に空を写したような青い目を持つ、現宰相、『モルラン・シーレフ』の息子、リュウゼ・シーレフがいた。私と同じ学年で、第一王子のアランの友人だ。
第一王子のアランも私と同学年だが、双子の第二王子のルーズベルトとは違って、将来の王に相応しい方だと聞いている。病弱らしいけど。
あ、そういえば今年の学年って結構大変だね。第一王子、第一王子の友人の宰相の息子、第二王子に第二王子の婚約者とか。将来の重要人物(ほぼ攻略対象)もまだまだ学校にいるし。先生たちは胃がキリキリと痛んだことだろう。御愁傷様です。
ーーー現実逃避してないで、リュウゼと向き合うとしよう。
「御機嫌よう。リュウゼ・シーレフ様。」
「マリー・ヴァレンシュタイン公爵令嬢。今日は猫と戯れるのにはいい日ですね。」
うん、バッチリ見られてた。
そして、私は自分の評判を守るという防衛本能で次の瞬間にはリュウゼに回し蹴りをしていた。
ドゴォォォン
私の足はリュウゼ……ではなく、校舎の角にぶち当たって、大きなヒビを校舎に入れていた。
そして、リュウゼはしっかりと後退して攻撃を避けている。私は淑女を演じる為に即座に足を元の位置に戻した。リュウゼはまた元の位置に戻ってきて、口を開いた。
「出会い頭に攻撃してくるとは、さすが、淑女ですね。」
リュウゼは皮肉をぶつけてきた。とりあえず、ここは……
「攻撃、とは。なんの事でございましょうか?」
惚けてみよう。
「ふーん。」
リュウゼは黒い笑顔を浮かべる。こういうタイプ苦手なんだよな。単純なバカなら扱いやすいのに。
「じゃあ、このヒビは?」
リュウゼはそういって、先ほど私がつくったヒビを指差す。
「この校舎が建てられてから長い年月が経っていますから、ヒビの一つや二つ、あっても不思議ではないでしょう。」
正論をぶつける。
「リュウゼ・シーレフ様、そこまでヒビが気になるのなら私が魔法で直しましょうか?」
「ああ、じゃあお願いするよ。」
リュウゼがそういったので、遠慮なく魔法を行使させてもらおう。
『修繕』
私がヒビに手を当てながら、そういうと、魔法陣がヒビを包み、次の瞬間にはヒビは跡形も無くなっていた。
「へえ、見事な魔法の腕前だね。」
リュウゼが褒めるが、その手には私が消滅させたいと思うものが入っていた。
ーー私が猫と戯れている時の、魔導写真だ。
「これが、バラされたくなかったら、僕に付き合ってくれない?」
げっ。脅してきた。男女のお付き合いかどうかによるけどな……
「それは……男女のお付き合いという事でしょうか?」
「違うよ?ちょっと、鍛錬に付き合って欲しいなって事だけど?」
鍛錬か。でも、私が訓練場とかにいた方が大変なんじゃない?
「まあ、ご冗談を。私は強くありませんことよ?」
ここは『ワタクシツヨクナイヨ』アピールで乗りきってみよう。
「さっきの蹴りを見た後にそんなこと言われてもな……」
そうですかー、さっきの蹴りもバッチリ見られてましたか……
「けれど……」
私が言い訳を言おうとすると、リュウゼはこの学園の男子制服と金髪のカツラを差し出した。
「けれど?」
リュウゼが詰め寄ってくる。
「な、なんでもありませんわ。」
だめだ。負けた。
「じゃあ、校門で待ってるよ。」
そういって、リュウゼは去っていった。
ーーー厄介な相手と知り合ってしまったな……
私は去っていくリュウゼの背中を見ながらそう思った。
引き続き、過去編をお送りしたいと思います。