6話 リュウゼとの遭遇
初めて、乙女ゲームっぽい要素が入ります。後半はリュウゼ視点です。
この謎の羽どうしよう。ギルマスなら何か知っているかも、と思って来たのだが、いない。いると思ったんだけどな。あ、もしかしたら、ギルドマスター室とかにいるのかも……
よし、ギルド嬢にきいてみよう!暇そうにしてるし。
「ギルド嬢さん!」
私が声をかけると、ギルド嬢はこちらに手を振った。私は彼女のところへ走っていく。
「イシェルさん!どうしたんですか?」
「ちょっと、ギルドマスターに訊いてみたいことがあったんだけど。」
「ふーん。今、ギルドマスターはいないよ。なんか隣国のお偉いさんが視察に来てるから、挨拶しに行ってるんだって。」
ぞくり。
背中に悪寒が走った。まさか、ね。
「へえ……どこの国なの?」
私は動揺をできるだけ隠しながらルーシーに訊いた。
「確か、レリーフ王国だったと思うけど……」
今の私に、レリーフ王国を恐れる理由はない。けれど、嫌なのだ。
もし、王室が来てるのだったら……
嫌だ。
「ああ、そうだ。レリーフ王国の宰相が来てるんだった。」
私は安堵した。宰相ならまだ……
いや、アイツがいるんだった。王室じゃなくても、私が苦手とするアイツがいる。
アイツとは……
そこまで考えて、私はギルド嬢が怪訝そうにこちらを見つめていることに気づいた。
「ありがとう、ギルド嬢さん。」
私はギルド嬢にお礼をいい、宿に向かうことにした。
***
アイツとはーーーレリーフ王国の宰相の『モルラン・シーレフ』の息子、リュウゼ・シーレフだ。私がレリーフ王国の学園に在学していた時の同級生で、次期宰相とも言われるやつなのだが、これがまた、乙女ゲームの攻略対象……ではなくサポートキャラクターだ。まあ、乙女ゲームの中にいた奴だ。
ちなみにルーズベルトとは違って、思慮深い男だ。それ故に私は苦手なんだけど。もし、アイツが来ていたら……いや、来ていないことを願おう。父親の仕事について来ないはず……なんだけど、将来の為とかで来てるかもしれないし……
けど、私は彼ーーリュウゼを苦手とするだけで、嫌いではないのだ。他の攻略対象と比べれば、そこまで嫌いではない。それに、他の攻略対象と違って、彼は私の断罪(やってもいない罪の)イベントにいなかったのだ。だから、全てを私のせいにしたどこかの奴らとは違って、好感がまだ持てるのだ。まあ、その時いなかったのはリュウゼが留学中だったからだけどね。
それにゲーム内では彼は断罪イベントに参加していたはず。少し違うのだが、もう終わったことだし、今何かをしようとしても何も変わらないけど。
それにアイツと話していた時、たまにゾゾゾと嫌な感じがするのだ。なんか、全てを見られているような……
私は早足で宿に向かっていた。あとはここの大通りを通って、角で曲がれば……
……いた。普通にいる。深い紺色の髪に空を写したような青い目。あれは、リュウゼだ。宰相とは一緒にいないようだけど。この道は避けて通れない。この道以外で行くのならば、もっと視界がひらけた大通りを歩かなければならないのだ。
気づかれないと思うけど、怖い。
ここは、足早に逃げていこう。幸いなことに女性たちに囲まれているようだし、見えないことを願う。
私は思わず下を向いてしまう。小走りしながらゆっくりと顔をあげると、リュウゼと目があったような気がした。気のせいに違いない。けど、ゾゾゾという嫌な感じがする。
気のせい、気のせい。
よし、ようやく曲がり角についた、と思ったら、ガッと左腕を掴まれた。そーっと目線をあげると、リュウゼが私の腕を掴んでいた。
「やあ、お嬢さん。」
リュウゼは私の腕を掴んだまま、微笑む。だが、これは偽物の笑顔だ。私にはわかる。
「ちょっと、お話がしたいんだけど、いいかな?」
リュウゼは自分の護衛に向かって目配せをして、下がらせた。そして、路地に引きずりこまれる。
「久しぶり、と言おうかな?」
リュウゼは笑顔を顔に貼り付けたままいう。
「失礼ですが、どなたでしょうか?今、初めて会ったと思うのですが?」
「ううん、間違いなく『久しぶり』だよ。」
彼は私の腕を引っ張った。すると、つられて体もリュウゼの方へと近づく。そして、彼は私の耳元に口を寄せ、優しく小さな声でいう。
「ねえ、マリー?」
こいつ。どうして……分かったの?
「元ヴァレンシュタイン公爵令嬢。」
リュウゼは淡々として言う。
「こんな近くにいたなんてね? 」
嫌だ。逃げたい。もう、戻りたくない。
私はレリーフ王国と戦争をしても勝てる自信がある。けど、嫌だ。もう、あんなところには戻りたくない。今度、戻ったら……
ポロポロと大粒の涙が流れる。
涙が、止まらない。
すると、リュウゼがそっとハンカチを差し出した。私はそれを奪い取り涙を拭く。すると、甘い香りがした。
これは眠り薬の香り……
「おやすみなさい。」
私が眠る寸前にリュウゼはそういったが、私の耳には届かなかった。
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留学生活ももうそろそろ終わりだ。
「シーレフさん、手紙です。」
手紙がきたようだ。レリーフからか。どうせ、あの男爵令嬢が素晴らしい、とかだろ。あんな奴より、彼女の方がずっと面白いのに。
僕は手紙を乱暴に開けた。
***
彼女が、死んだ?
彼女が男爵令嬢に暴力をふるった?誘拐しようと企んだ?だから、処刑?
彼女は絶対にそんなことはしない。そして、彼女はいなくなってしまった。
けど、彼女がそう簡単にいなくなる筈がない。
国と戦争をしても勝てる強大な力がある彼女が死ぬわけがない。
だとしたら、逃げた?もしかして、彼女ーーーマリーがあの国のことが嫌になって逃げた?
彼女が逃げたとしたら……パラティールだ。
そこに居るに違いない。
僕は、彼女を探すことにした。
***
街の娘たちからの視線が鬱陶しい。僕が、探しているのは彼女だ……
すると、視界の端に銀糸のようなものが見えた。そちらにふと目を向けると、銀糸のような細い銀色の髪に宝石のような緑色の瞳。
前と見た目は似ても似つかない。けど、あれは、マリーだ。
確認のため、魂眼を使う。あの、面白い魂……間違いなく彼女だ。
僕は彼女のところへ走っていく。早くしないと、また彼女はいなくなってしまう。
僕は彼女がちょうど角を曲がろうとしたところで捕まえた。
「失礼ですが、どなたでしょうか?今、初めて会ったと思うのですが?」
そう、彼女はとぼける。けど、僕は知っている。君がマリーだということを。僕が決め手の一言を言うと、彼女は大粒の涙を流し始めた。
僕はそっと、眠り薬が染み込んだハンカチを渡した。
そして、彼女は眠り薬を吸い込んだようで、倒れてしまった。
ごめんね、そして、おやすみなさい。
この世界は美女美男しかいません。