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翌日、麓から登って来た土砂運びの人足達が見たのは、焼けて半壊した丸太小屋と、その中に倒れたいくつかの死体。そして小屋の外で身を寄せ合い、全身を霜に覆われた三人の姿であった。
報せは麓から早馬で王都へ、王宮へと運ばれた。
騎士達を悼む声が挙がり、国王派とその対立派閥が罵り合い、最終的には金鉱脈を諦める事になった。
当時の議事録に曰く。
『エル・セルドラ山金鉱開発は人力にて及ばざるもの。採掘技術・魔導技術・その他何れかの発展を待つべしとの事、決議す』
隣国も同じ頃、採掘を計画していたらしいが、この失敗を密かに聞きつけ、断念したという。
罪人達を悼む者は無かった。
エル・セルドラ山は二国の境界を脇に押し退けていて、長い時を経た今も両国はお互い領有を主張しないでいる。手に入れれば金鉱採掘の魔力にまたとり憑かれるからだ。
近在の者達は、両国がエル・セルドラを手に入れようとしないのは、魔女が山を登ろうとする慮外者を許さないからだと云う。
魔女伝説は巷間に流布しているが、遡れば数百年の昔よりエル・セルドラ付近にて語り継がれている民話である。それだけの期間維持される魔導は技術的に存在しておらず、また魔女本人がそれだけの年月を経て実在するはずも無い。
しかし現に今もエル・セルドラは一年を通じて凍えている。常に寒風が強く弱く吹き続け、硬い岩盤の山肌を更に厚い氷層が包んで、蒼白く月光を照り返す。
自然現象と断ずるには判断材料に乏しい。
伝説にある魔女討伐は何故起きたのか?仮に新規の魔法技術を魔女が秘匿していたのを手に入れる為で、それが不老不死に関するものであったとしたら?
しかし確かめようの無い疑問である。
エル・セルドラは魔女の山。
月夜の晩に魔女は風に乗り、歌いながら己が領地を巡るのだと云う。
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