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夜の闇、月光に切り取られた氷の舞台を、白い風がつむじを巻いた。
細かい氷の破片が風に巻き上げられ、蒼白い月を反射して煌めいている。
それは踊り子が翔ぶ姿に似ていた。
(アレが魔女の歌ってヤツか)
風が氷筍や壁面をこすり、身も凍る叫びの様な、夜の闇へ誘う笛の様な音色を立てる。
それを麓の住人達は『魔女の歌』と呼んでいた。
(なんの事は無ぇ、ただ風が唸ってるだけじゃねぇか)
男が小屋に戻ろうと踵を返そうとした時、視界の隅に何かが揺れた。
「……っ!?」
つむじを巻き氷粒が絡まった風のなかに影が……
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「このくそ野郎、無駄に死にやがって」
罪人達が夜明けに見付けたのは、立ったまま凍り付いた男だった。身体中に張った霜が朝の光を受けている。
「片付けて作業を始めろ」
渋い顔の騎士に命令され、罪人達は動き出した。一日は始まったばかりである。手間取っている訳にはいかない。
二人の罪人が男の身体を死体置場に放り投げ、男は先に逝った者達に加わった。
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罪人達は残り少ない。
一人一人に課せられた作業は人数が減る毎に増えていく。溜まる疲労も増え、愚痴も増える。
「畜生め……」
「一年どころか半年も持たねぇぞ」
夜の冷え込みは更にきつくなり、焚き火の暖では足りなかった。
騎士達は寝酒の配給を倍にした。情のある措置とも云えたが、自分達の呑む量を増やす為の方便でもある。
「騎士様も貧乏クジだよなあ?戦で死ぬんならともかく、こんな場所で死ぬんじゃあよ。恨むんなら王様恨めよぉ」
「やかましい!」
騎士達も数を減らしていた。
「へっ、偉そうに。手前ぇらだって俺達と同じさ、使い捨てなんだよ!」
「よぉ騎士様コレ見ろよ?砂金だぜ砂金!俺達ゃこんなもん掘らされてんだ」
「けっ!お宝にゃあ違い無ぇが、俺らもアンタらも使う機会は無いぜ?コイツが金貨になる頃にゃあ皆御陀仏だからな」
「こんな砂粒が騎士様の命よか重いってよ、王様はよぉ」
酔いが回ったのだろう、罪人達は口々に愚弄する。
同じく酒に酔っていた騎士達も、一人が腰の剣を抜くと皆がそれに続いた。
罪人達にかけられた『強制』の魔術は『エル・セルドラからの逃亡』を防止する為のものであって、『監督する騎士への暴動抑止』では無かった。
……気が付けば丸太小屋は燃え上がり、生き残った騎士と罪人は揃って寒風吹き荒ぶ氷壁の許に尻餅をついていた。
消火するすべは無い。
そして夜は始まったばかりだ。
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