・・
一行の前に開けた場所が表れた。
山の一面が削り落とされた様に平らな地面が広がる。片側は絶壁になっていた。
そこはまるで劇場の舞台にも似ていた。足許を照らす月はスポットライトか。
絶壁の間際に丸太小屋が設えてある。小屋と呼ぶには大きい。大きさだけなら豪商か貴族の邸宅に並ぶかという程だ。
エル・セルドラの山中には木の一本も生えていないからには、麓から建材を運び込んで建てられたのであろう。
一団は小屋に入ると息をついた。早々に火が焚かれ、凍えた身体を溶かす様に集まる。
「こんな所で穴堀りかよ……」
一人がつぶやく。
室内が暖められ、吐く息に白いものが見えなくなった頃、騎士の一人が皆に言い渡す。
「明日より貴様等には絶壁を堀り進めてもらう。これは国家事業である。働きの如何によっては、貴様等の減刑も考慮される」
「騎士様よぉ、何を堀り起こそうってんだ?」
「目的のブツが分からねぇんじゃ、張り合いってもんが無ぇよ」
罪人達は口々に不平を漏らすが、騎士は取り合わない。
或いは彼等も目的物を知らないのかもしれなかった。
────────
「くそっ、硬ぇな」
ツルハシが岩盤を叩く。
エル・セルドラは岩山、そして氷の山である。
作業の最初期は表層の氷を削る事に終始した。ツルハシが一撃する毎にひび割れた氷の層が、ある時点で限界に達し、崩落を起こす。
不運にも逃げ遅れた何人かが、分厚い氷の下敷きとなった。
小山になった瓦礫の様な氷を片付け、男達の死体を堀り起こす。
「お前ら逆に運がいいかもな、こっからがしんどいだろうぜ?」
「謂えてら。逃げ出す事も出来無ぇからな」
罪人達には『強制』の術が掛けられている。任期が終わるまで穴を堀らなければならなかった。
氷層が取り除かれ、岩盤が表れるとツルハシで削る様に堀り、シャベルで砕けた屑石を荷車に載せる。
吐く息が白い。
大気の湿気は氷に吸いとられて乾いた風が吹き荒ぶ。
瓦礫を積んだ荷車は何処へと運ばれていく。運ぶのは罪人達ではなく、麓の住人である。
その運び方は丁寧で、瓦礫を溢さない様に意識している様であった。
岩盤を削るツルハシの音が辺りに響く。
それは陽が落ちるまで続くのであった。
────────