初めてのお買い物part2 初めてのお泊りもあるよ
武器屋を後にした俺達は、続いて防具屋に入る。場所は武器屋の向かい側だ。
「なんでニヤニヤしてるのよ?」
「いや、だって楽しいだろこういうの。」
如何にもなファンタジー世界で如何にもな冒険者生活。最高だろうが。
地球で「これから防具屋行ってくる」なんて言ったらとんだイカレ野郎だが、ここならばそれが許される。ニヤニヤするなと言う方が無理だ。
「…まぁ、分からなくもないけど。」
「ほう。お前も心に少年を飼っているんだな。」
防具屋で身体の採寸をしてもらいながら、俺とテラはダラダラと話す。
「坊や、悪くない身体してるわね。…そそるわ。」
「オネェさんもお綺麗ですが、今は仕事に集中して下さい。」
採寸をしてくれているのはこの店の主、ロクサリーヌさんだ。武器屋のおっちゃんに負けないくらいの屈強な肉体に、短く刈りそろえた坊主頭。俺がこの世界で見てきた人の中で、1番男性らしい外見に、1番女性らしい心を持った人である。
「あら?お上手だこと。もし良ければ今晩…」
「誠にありがたい申し出ですが、先約がありますので。」
良い人そうだが、食い気味で拒否させてもらった。
人は見た目じゃ無いと言うが、限度がある。
「あらざんねん。代わりにまたゴイルでも誘ってみようかしら。」
「ゴイルさん?」
「ええ、隣のハゲよ。顔はイマイチだけど身体は中々なの。お高くとまってていつも振られちゃうんだけどね。」
あの人ゴイルさんていうのか。
名前も厳ついな。
「はい、終わったわヨ。ちょちょいとサイズいじっちゃうから、適当にお店の中でも見てて。」
そう言ってロクサリーヌさんは奥の作業部屋に消えていった。
「…私、あの人怖い。」
「測ってもらってる時、やけに大人しいと思ったらビビってたのか。」
「アンタはよく平気ね?まさかゲイなの?」
「いや、前世の俺を見てたなら分かるだろ。」
「…ああ。そうね。」
もちろん特別女たらしだった訳では無いが、少なくとも男色の趣味は無い。
「後は防具の下に着る服か。普段使い出来るようなやつが良いな。」
「そうね。服は別行動で買いましょう。」
「は?デートみたいで照れてんのか?」
「女性用の下着売り場に入りたいの?」
「……別行動で。」
次の行動が決まったところで、ロクサリーヌさんが防具の調整を終えて戻ってきた。
「おまたせ。調整代込みで32.500ハルよ。お嬢ちゃんの方も同じね。」
俺達はお揃いで安めの皮鎧を購入した。
俺はともかくとして、テラの方は防具なんて必要無さそうだが、これも武器と同じで『冒険者感』を出すためのコスプレの様なものだ。
「はい、これで。」
「…は、はい。」
やっぱりテラはオドオドしている。
「まいどぉー。サイズが合わなかったりしたらまたおいで!悩み相談でもいいわよ!」
「はい、またお邪魔します。」
「…します。」
俺達は店を後にすると、そこで別れる事にした。
服を買ったら宿に集合という事にしている。
日本と違ってあまり治安が良く無いので、本来なら女性の1人歩きなど勧めないが、テラに関しては別だ。他の邪神でも現れなければ問題ないだろう。
俺はいくつか服屋を回り、服とズボンと下着を3セット程購入した。所持金は既に10,000ハル程になっている。明日もちゃんと働かないとな。
いつまでもその日暮らしではどうしようもないが、初めのうちは早々安定した暮らしは出来ないだろう。
これでもテラのお陰で良いスタートはきれていると思う。これを無駄にせずに、楽しめる人生を送らなくては。
宿に戻り、借りている302号室に行くと、ドアの前にテラが立っていた。
「早いな。待たせたか?」
「ううん。今帰ってきたところよ。」
デートの待ち合わせみたいな会話だな。
鍵を開けて部屋に入る。
中々綺麗な部屋だ。家具は少ないが、ベッドは2台あるな。廊下と同じく、ランプで灯りをとっている。
ドサッと荷物を降ろしてベッドに腰掛けると、なんだかドッと疲れがやってきた。
「今日は盛りだくさんだったなー。久しぶりに充実した1日だった。」
前世ではこうはいかなかった。
今日は生きていられるだろうかと考えながら、日々を過ごしていた。地球よりよっぽど危険の多い世界に来たのに、こちらの方が安心して過ごせるなんて変な話だ。
「まだ20時だけど、もう寝るの?」
「そうだな。今日は疲れたし早めに寝ようかな。腹減ったなら食ってきて良いぞ?」
「お昼遅かったから全然平気。…それより、その……。」
「ん?」
「…お仕置きは?」
「ああ、そうだった。」
バタバタしているうちに忘れたいた。
参ったな、まだプランを考えていないぞ。
「も、もしするなら…その前に私に『洗浄』の魔法使ってね。」
「………。」
「…なによ?神にだって羞恥心くらいあるんだからね?」
これはアレか。
お仕置きの内容を勝手に決められてる感じか。
「…なぁ。」
「な、なに?」
「もしかしてだけど…オマエ、俺に犯されると思ってるのか?」
「え?ち、ちがうの??」
やっぱりか。
部屋を取った時のあの反応は、いらん覚悟を決めた顔だったんだな。
「違うも何も……そもそもお前、生殖機能あるの?」
「あるわよ!!多分!」
「多分て。」
「した事ないから分からないけど、他の神があるって言ってたわ!…っていうかアンタ、私の事売女とか呼んでたわよね!?」
「それは冗談と罵倒だったんだが…。まぁでも出来るなら…それもアリか。」
テラがびくっと体を震わせる。
「けどなぁ…。」
「…なによ?」
「それってあんまりお仕置きにならなくね?」
「は?」
「だってお前、そんなに嫌がってないじゃん。」
「なっ!?」
ノリ気という程では無いが、絶対に嫌だという感じにも見えない。
「46億年モノの処女って、なんか怖いし。アレがもげそう。」
「くっ…マジで殺したいっ!」
おお。
良い表情だ。
この方がよっぽどお仕置き感があるな。
「まぁお前がどうしてもしたいんなら相手してやっても良いけどな。どうする?」
「もう寝るっ!何かしらの事故で死ね!」
直接殺せないからって、そんな消極的な殺意があるのか?
「……。」
テラは自分のベッドに潜り込み、黙ってしまった。
「『洗浄』。」
「……。」
あ、なんか今クラッと来たな。
テラに『洗浄』をかけてから自分にも、と思っていたのだが、どうやら無理っぽい。これは多分魔力切れだな。
ステータスを開いてみると、MPが残り50しか無い。ギリギリまで使うとこんな感じになるのか。覚えておこう。
バタンッとベッドに横になると、音に反応してテラがチラ見してきた。
「なぁテラ。」
「……。」
「魔力切れって寝れば治るのか?」
ガバッと布団をめくり、テラが起き上がる。
そのまま俺のベッドの横まで歩いてきた。
「…魔力は寝れば回復するわ。人間はね。」
「神は?」
「そもそも減らない。」
「ずっる。」
なんだコイツ。
なんでこんな心配そうな顔をしているんだ?
「…なんでMP少ないのに私に使ってるのよ。」
「いや、残量忘れてただけ。」
「バカなの?」
「まぁ、お前程じゃ無いが。」
精一杯罵倒してみたが、イマイチ声に力が入らない。
「ランプ消しといて。」
「…うん。」
「あとその顔やめて。意味分からんから。」
「……。」
俺を呪い殺しておきながら、今更心配そうな顔をされても困る。
「分からないのは私も同じよ。」
そう言ってテラは、ランプを消してベッドに戻る。
俺のベッドに。
「…いや、なんで?」
「…うるさい。早く寝なさい。」
やっぱり分からん。
ただの欲求不満か?
46億年間溜めに溜めたモノを発散する気なのか?
「邪神のクセに、いい匂いさせやがって。」
「……。」
不本意ながら少しムラムラしてしまったが、魔力切れからくる眠気に抗えず、俺はそのまま眠りに着いた。