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初めてのお買い物

 


「ふぅ。食ったぁ。」


「CMみたいね。」



 食事が終わった段階で、時刻は15時。

 日が傾きかけた頃だ。



「この後はどうするの?」


「とりあえず宿とって、その後買い物かな。」



 ワインを丸一本空けたが、あまり体に変化は無い。健康スキルのおかげだろうか。程よく気持ちがいい程度だ。

 明日以降に備えて、買っておきたい物がいくつかあるので、休む前に行っておこう。



 宿は、ギルドに併設されている所を使わせてもらう。部屋が埋まっていたら別の所を探さないといけないが…



「こんにちわ。2人なんですが、空いている部屋はありますか。」


「いらっしゃいませ。すいません、時期も時期なので一部屋しか空きがありません。一泊8,000ハルで朝食付きのお部屋です。」


「あ、元々一部屋のつもりなので大丈夫です。とりあえず5泊でお願いします。」



 この宿の中では少し高めの部屋だな。

 時期というのは何の事だろう?



「し、失礼しました。では302号室をお使い下さい。」



 受付は若い女の子だった。女の子は少し顔を赤らめながら、302と書かれた木札の付いた鍵を出してくれる。金貨を4枚出して鍵を受け取った。



「……。」


「ん?なんだテラ?」


「…別に。」



 テラがこちらをじっと見ているが、何も言わないのでスルーしておこう。



 宿を出ると、何となく人が少ない気がする。

 冒険者の中には午後一からクエストに向かう者達も多いとの事なので、食事を済ませた彼らが町を出ているからだと思う。



「よし。まずは武器だな。」



 武器の相場なんて分からないから、それを揃えてから他の物を買おう。最後に回して金が足りないなんて事になったら困る。

 最悪無くてもいいが、いつまでも魔法だけというのも味気ない。出来ればちゃんと冒険者らしい戦いも出来るようになりたいのだ。



「一応言っておくけど、私はいらないわよ?」


「なんで?」


「なんでって…これがあるから。」



 そう言ったテラの手には、いつの間にか拳銃が握られていた。



「それ前もやってたけど、どうやってんの?」


「地球から召喚してる。」


「…すげぇな。なら飯とかも出せるんじゃ…」


「出来るけどしないわ。誰かのご飯を取り上げる事になっちゃうもん。」



 銃なら取り上げてもいいと。

 神様の善悪感てのは分からないな。



「けどそれ、人前じゃあんまり出さない方がいいだろ。一応格好だけでもそれっぽく見える様になんか武器買うぞ。」


「まぁ、そうかもね。分かったわ。」



 テラは拳銃を消した。


 地球ではどうなっているのだろうか?

 突然銃が消えて、突然現れたら軽くパニックになると思うが。




 ギルド最寄りの武器屋に入る。


 店の中には刀剣や弓、斧などがずらっと並んでおり、中々に圧巻な光景だ。



「たのもーう。」


「あ?冷やかしか?」



 武器屋なので無骨な挨拶をしてみたのだが、店主と思しき男性に睨まれてしまった。店主はハゲ頭の強面で、その眼力に思わず足がすくんでしまう。



「あ、すいません。挨拶間違えました。ちゃんと買うつもりで来てます。」


「おう、なら客だな。見てけ。」



 言われて見て回るが、種類があり過ぎてどれを選べば良いのか迷うな。


 しばらくウロウロと見て回っていると、店主が声をかけてきた。



「なんだ素人か。一丁前なのは目だけかよ。」


「…俺ってそんな目つき悪いですかね?」


「そういう事じゃねぇが……まぁいい。分かんねぇなら俺が見繕ってやる。」



 そう言って店主は、カウンターの向こうからのっそりと出てきて俺の全身を見回す。


 近くに立つとデカイな。2メートル近くあるんじゃないか?俺は170センチ程度なので、殆ど見上げる様な感じになっている。



「身長172センチ、体重は…58.5キロってとこか。後は能力値だが、これ持ち上げてみろ。」



 見ただけでそんなに分かるもんか?

 武器屋としての経験なのか、あるいは何かしらのスキルなのか…


 店主が俺に持ち上げろと言ったのは、金属製の棒だ。

 おそらくこの世界の人間が、能力値を調べる時に使うものなのだろう。ステータスこそ見られないが、能力値の概念はあるらしい。


 棒を持ち上げると、まるで棒が置いてあった台に踏みとどまろうとしているかのように重くなった。



「ふん。100から105の間ってとこか。ひよっこだな。」



 店主が俺から棒をふんだくり、そんな事を言う。こんな棒でもかなり正確に読み取れるんだな。



「どんな武器が良いんでしょう?」


「そうだなぁ…好みはあるか?」


「剣とか刀がカッコいいかなと。」



 店には刀も並んでいる。日本風のいかにもな刀だ。この世界でも普通に生まれたのか、異世界人がもたらしたのかは分からないが、デザインからしておそらく後者だろう。



「刀とはまた…異世界人に憧れるなんてガキくせぇな。」


「はは。ですかね。」



 どうやら間違いないな。

 そして異世界人のイメージはそんなに悪くなさそうだ。



「まぁいい。なら最初は…これだな。」


「普通に刀なんですね。」


「ああ。さっきはああ言ったが、初心者には悪くねぇ武器だ。軽いし取り回しも良い。そんでそれがウチで1番安い刀だ。」



 俺には刀の良し悪しなんて分からないので、言われた通りの物を買う事にした。

 1番安いとの事だが、それでも50,000ハルした。やはり武器というのは高いんだな。



「鞘はサービスしてやる。そっちの嬢ちゃんのも選ぶか?」


「ありがとうございます。はい、お願いします。」



 店主がテラに近づき、ジロジロと見回す。

 酒場で絡んできた2人組とは違い、その目には下心など微塵も感じられない。



「私の武器は何が良いの?」


「あー……俺も鈍っちまったみてぇだ。さっぱり分からん。悪いがこの棒を持って見てくれ。」



 そう言って店主は、俺が持ち上げたのと同じ棒を指す。



「いいけど……何これ?全然軽いじゃない?」


「何?そんな筈は……ぐおっ!」



 テラが軽々と振り回している棒を、店主が奪い取る。

 瞬間、店主は棒を持った腕に引っ張られ、床にめり込んだ。



「だ、大丈夫ですか!?」


「っ…てて。…ああ、大丈夫だ。引っ張ってくれるか?」


「は、はい。テラも手伝って!」


「はーい。」



 俺は何とか店主を引っ張り上げようと踏ん張るが、結局テラが片手で持ち上げた。



「嬢ちゃん、どんな馬鹿力してんだ?見かけによらず高レベルなのか?」


「レベルは1よ?」


「……。」


「コイツの言う事は気にしないで下さい。」


「あ、ああ。何で隠すのか分からんが、嬢ちゃん程の奴に渡せる武器はここにはねぇぞ?この棒の容量を超えちまう様な奴にはな。」


「んー。それはちょっと…安いナイフでも出してくれませんか?」



 結局テラは、10,000ハルのナイフを購入する事にした。



「床の修理代出します。いくらくらいで直せます?」


「いや、これは俺のミスだ。この棒は持った奴の力に合わせて重くなるもんでな。俺みたいに手袋をしてないと力の分だけどこまでも重くなりやがる。嬢ちゃんを見た目で侮っちまった俺が悪い。」



 同じ重さの物を持っていたテラは、床に足が埋まる事もなく平然としていた。力以外の能力値が関係しているのだろうか。


 ともあれ、店主がこう言うならお言葉に甘えよう。あいにく武器代を支払うと、俺の持ち金は80,000ハル程度しか残らない。どのみちこれでは足りないだろうしな。



「あー、ただ1つ頼んでもいいか?」


「はい、何でしょう?」


「床にめり込んだ棒を回収してくれ。ここに置いてくれればリセット出来るから。」



 そう言って店主は床の一部に置かれた黒い木の台を指差す。初めに棒が置いてあった所だ。



「もう拾ったわ。はい。」



 いつの間にか拾っていたテラが、棒を黒い木の台に置く。

 会計を済ませ、無事(店以外)武器を手に入れた。



「悪かったな。懲りずにまた来てくれ。」


「はい。こちらこそすみません。次は何も壊させませんので。」


「それは気にすんなって。じゃあまぁ、精々頑張って使い熟せよ。…刀とその嬢ちゃんを。」



 店主に軽くトラウマを植え付けた所で、俺達は店を後にする。



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