初めての報酬
「守衛さんに憐れみの目を向けられたな。」
「私達、手ぶらだもんね。」
これはもしかすると、受付のアイラさんにも同じリアクションをされるかも知れないな。
そんな事を考えながらギルドに入ると、想像通りの事態になった。
「あ、あの…ちゃんと探しました?まだ2時間程度しか経っていませんが…。」
どうやら俺達は怠け者認定されてしまった様だ。
まぁこんな短時間で戻ってきた上に、手ぶらでは仕方がない。
「いえ。ちゃんと集めてきましたよ。『道具箱』という魔法で収納してあります。」
「!?」
アイラさんの顔が驚愕に染まる。
「ら、ラヴさん。空間魔法が使えるんですか?」
「ええ。Lv.1ですが。」
アイラさんは周囲を見回しながら声を潜めて聞いてきた。どうやら空間魔法を使える者は珍しいらしく、戦闘能力を持たない者は狙われる事もあるらしい。
身柄を拘束して強制的に奴隷にされる事もあるとか。
こっわ。
「でしたら量もあるんで、別の場所で納めたいんですが…」
「そうしましょう。こちらへ。」
そう言って案内されたのは、受付カウンターの脇を抜けた先の作業場の様な所だった。
作業場の中では、大型の魔物が解体されている。魔物を見たのは初めてだが、結構怖い顔してるんだな。
「こちらでお出しください。」
「はい。『道具箱』。」
指定された作業台の上に手を向け、脳内のリストからハート草を選択する。
ドサドサッ。
現れたハート草は作業台の上からこぼれ落ち、床にまで小さな山を作った。
「えぇ!?に、2時間でどうやってここまで…。」
「往復の時間を抜けば1時間ちょっとですけどね。方法は秘密です。…やっぱり買い取りきれないですか?」
「い、いえ!ハート草はいくらあっても足らないくらいなので、有り難く買い取らせて頂きます。ただ、ギルドの出しているクエストでは無く、個人で出されたクエストの場合はそうもいきませんのでお気を付け下さい。」
「分かりました。買い取って頂けて良かったです。」
量が量なので、数えるまで1時間程かかるらしい。作業場で手の空いている者が総出でやってくれるそうだ。
俺達は作業場を出て、受付カウンター前の椅子で待つ事にした。
ぐぅ〜〜ぅ。
「今の腹の音?」
「うぅ。…仕方ないでしょ。何も食べてないんだもん。」
これでも神なのか?
お腹を抑えながら恨めしそうにこちらを睨むテラは、普通のアホな女の子に見える。
「待ってろ。報酬貰ったらたらふく食わせてやるから。」
「え?…あ、うん。ありがと。」
「なんでお前が礼を言ってるんだ?今日の成果は殆どお前が上げたものだろ。礼を言うのは俺の方だ。」
「………。」
テラが唖然とした顔でこちらを見ている。
なんなんだいったい。
「アンタって……よく分からないわね。」
「なんだ急に。」
「私のこと、憎んでるんじゃないの?てっきり食事も泥とか食べさせるつもりかと…。」
「鬼畜過ぎるだろ。」
「『土弾』撃ち込むのも充分鬼畜よ。」
「幸いクソみたいな前世でも、飯だけはちゃんと食えたからな。」
「……。」
「言っておくけど、ちゃんと憎んでるからな?復讐はもっと爽やかなヤツを考えてる。飯を制限するなんて陰湿過ぎるだろ。」
テラはそれっきり返事をしなくなった。
俺は復讐もちゃんと行うつもりだが、それ以上に第2の人生を満喫したいんだ。神器が使い物にならなくなっては困る。
一緒に行動する以上、普通に人対人のコミュニケーションを取らないと気持ちが悪いので、働いたらそれに見合う礼をするつもりだ。
その辺は理解してもらいたいところだな。
報酬の支払いまで、ステータスでも確認しながら時間を潰そう。
と言っても魔物と戦ったわけじゃないのでレベルは上がっていないが。
名前―愛・拝堂
年齢―18歳
種族―人族
レベル―1
職業―冒険者
スキルー不老 鑑定 健康 成長率増加 薬草採取Lv.1
魔法―火Lv.1 水Lv.1 風Lv.1 土Lv.1 雷Lv.1 光Lv.1 闇Lv.1 生活Lv.1 念動Lv.1 治癒Lv.1 結界Lv.1 時空Lv.1
能力値―HP 996/1005
MP 150/1010
力 102
魔力 110
命中 100
敏捷 103
物防 100
魔防 100
運 100
おお。
微妙に能力値が上がってるし、スキルも増えてる。
あの程度の運動でも上がるのか。これはレベルアップだけに頼らず、ちゃんと鍛錬もした方がいいかもな。
MPの消費を見るに、『道具箱』のMP消費は50なのか。一回毎に消費するなら、使う時はまとめて使った方がいいな。別の種類の物を出し入れする時は一回扱いになるのだろうか?後で検証しなくては。
HPの減りはなんだろう?
体の疲れか腹減りか…。その両方かな?
「アンタ…どこ見てるのよ?」
「ん?」
ずっとだんまりだったテラが声をかけてきた。
「どこって…ステータスだけど?見えないのか?」
「何も見えないわ。何もない所を見つめる変人の姿しか見えない。」
ノア様は見られたのにな。
この世界の神とあちらの世界の神との違いなのだろうか。
そんな事を考えていると、アイラさんから声がかかる。
「お待たせしました!ハート草計1,800株で、クエスト90回分の報酬です。しめて360,000ハルですね。」
「……ど、どうも。」
思った以上の大金に、言葉に詰まってしまった。
厚めの布袋にずっしりと詰まっている。金貨36枚だ。
どうやら金貨が10,000ハル、銀貨が1,000ハル、銅貨が100ハルらしい。100ハル以下は鉄貨や銭貨という物が使われるらしいが、100ハル単位のキリのいい取引が多いようだ。
「当然ながら、ランクアップの試験を受ける権利が発生しました。Eランク試験は4日後ですので、考えておいて下さい。」
まぁ、90回もクリアすればな。
アイラさんに試験について聞いてみると、Eランクの試験というのはそれほど難しくはないらしい。Dランクより上は討伐クエストなどが入ってくるため、最低限の戦闘能力を持っているかを測る事になるのだとか。
あ、テラの戦う姿を想像して思い至ったのだが、1つ聞いておかないといけない事がある。
「これって、俺とテラ両方とも受けられるんですか?」
「はい。お2人をパーティ登録しておきましたので、お2人共ランクアップに必要な評価ポイントは貯まっていますよ。」
アイラさんの計らいで、パーティ登録とやらをしてくれていたらしい。
評価ポイントは折半になる様だが、それでも1人当たりクエスト45回分だ。充分過ぎる程に貯まっているのだろう。
「有難うございます。4日後ですね。何か手続きが必要ですか?」
「いえ、当日お越し下されば結構です。12時までにお願いしますね。」
「分かりました。ではまた。」
聞きたいことも聞けたので、俺達は酒場スペースに向かう。
正式には食堂らしいのだが、冒険者だらけという客層のせいか、実質酒場と化している。
「腹減ったな。思えば朝から何も食べてないもんなぁ。」
「そうね。…安い物の方が良いわよね?」
空いているテーブルに着きメニューを見てみると、結構料理の種類は多い。値段もピンキリで、テラは俺の財布の紐を気にしている様だ。
「ああ、金半分にするか。…ほら。」
皮袋から半分取り出してポケットに突っ込み、残った分を皮袋ごと渡した。
「…いいの?」
「ああ。稼いだのは殆どお前だしな。折半にしたのはご主人様特権てことで。」
本当なら大半の金を渡すところなんだろうが、テラは俺の神器だ。このくらいの不道徳は働いても許されるだろう。
「つうわけで、せっかくの初報酬なんだから思う存分食うぞ。」
「うん。食べる!」
そう言って笑ったテラは、不覚にも可愛く見えてしまった。
まぁそれでも、前世の分の仕返しはちゃんとするけどな。
メニューを見てもイマイチ料理の良し悪しが分からなかったので、店員さんを呼んでオススメを聞いてみた。その中で俺は魚料理を、テラは肉料理を頼み、上から2番目に高い酒を注文する。
15分程で出てきた料理は、中々美味そうだ。酒は赤ワインの様だが、原料は聞いても分からなかった。
「そんじゃ、いただきます!」
「いただきます!」
俺達は恥も外聞も無く、料理にかぶりつく。どうせここの客にマナーを気にするような上品な奴はいないだろう。
「うまっ!異世界の料理なんて期待してなかったけど、普通に美味いな!」
「そうね!地球には負けるけど中々美味しいわ!」
腹が減っていた事もあっただろうが、おかわりを注文してしまうくらいには美味かった。
「よお、坊主ども。随分羽振りが良いじゃねぇか?」
すると、隣のテーブルに座るガラの悪い2人組みから声をかけられた。
「…ええ、まぁ。たまたま運良くクエストが上手くいったので、そのお祝いです。」
俺は適当に返しながら酒を煽る。
ワインとは違うが、これはこれで中々…
「はっ!初心者ってのは大概そうやって調子に乗るんだよなぁ!」
「がははっ!ちげぇねぇ!」
2人組の男は下品に笑いながらこちらを馬鹿にする。
ああ、こういうのもテンプレだよな。
「そうかもしれませんね。お2人はベテラン冒険者さんですか?」
2人組は20代後半くらいに見える。
精々中堅と言ったところだろうが、少し煽てておこう。
「おう、こちとらCランクよ!親切心から言ってやる、しばらく俺達が世話してやるよ。その代わり…まずはこっちに座んな!」
言葉だけなら本当に親切心から言っているようにも聞こえるが、彼らの下卑た目がテラを舐め回す様に見ているので、狙いは彼女だろう。
「いえ、しばらくは自分達だけでやってみようかと。お気遣いありがとうございます。」
「あ?てめぇには言ってねぇんだよ!そっちの子だ!いいから座れって!」
相当酒に酔っているのだろう。男は顔を真っ赤にしながらテラの腕を掴んできた。
「ねえラヴ、これって殺しても良いのかしら?」
「いや、そこまでやると捕まるかも。気絶くらいで。」
「はーい。」
「てめぇら舐めてん…ぎゃっ!」
舐めてんぎゃっ。
という言葉は初めて聞いたな。
テラに掴みかかっていた男は、全身を震わせたかと思うと膝から崩れ落ちた。
「お、おいハンス!どうした!?」
もう1人の男は叫びながら、倒れた男の肩を揺すろうとする。
が、
「あぎゃっ!」
肩に触れた瞬間、同じ様な反応をして倒れた。
「何したんだ?」
「電気流した。…あ、おかわり来たわよ。」
料理を運んで来た店員さんが、倒れた2人組を見て固まっている。
テラは待ちきれないとばかりに店員さんから料理をふんだくると、周囲の騒ぎも気にせず食べ始めた。
「アンタも食べなさいよ。こっちのも美味しいわよ?…はい。」
テラが肉料理を切り分けて俺の皿に乗せてくれた。
てかコイツ、肉ばっかり食ってるな。
「…うま。」
俺もなんだかアホらしくなり、周りを気にせず食べることした。