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初めての町

 

 アウランに到着した俺達は、商人風のおっちゃんに言われていた通り、ギルドを斡旋された。


 この町にあるギルドは3つ。


 冒険者ギルド


 商人ギルド


 治療師ギルド



 もっと大きい街ならば、傭兵ギルドや薬師ギルドもあるそうだが、この町だとこの3つが他のギルドの仕事も兼ねているらしい。


 外壁の門を守る守衛さんにそんな説明を聞き、俺達はどのギルドに行くか選択を迫られた。



「当然、冒険者ギルドですね。」


「何が当然なのか分からないけど…案内するね。」



 守衛のお兄さんが爽やかな苦笑いを浮かべながら案内してくれる。


 ここまで乗せてきてくれた商人風のおっちゃんに礼を言って別れた後、俺達は町を進んだ。



「良いおっちゃんだったなー。後でお礼をしに行かないと。」


「………。」


「ああ。お前と違ってな。」



 テラの視線から心を読んで返事をする。多分こう言いたかったのだろう。「アンタみたいなカスでも道徳心はあるのね。」と。


 守衛のお兄さんが訝しそうに俺達をチラ見している。俺達がどんな関係性なのか気になっているのだろう。こちらとしては、会う人全員に説明する気にはなれないが。



 冒険者ギルドは、門から伸びた大通りを直進した突き当たりにあった。この町の地理は分からないが、多分一等地だと思う。

 2階建の立派な作りで、酒場と宿屋と役所を足して3で割らなかった様な建物だ。



「ここが冒険者ギルドだよ。付いてきて。」



 守衛さんの案内に従い、中に入る。

 建物の中はイメージ通りだった。外見から感じたまま、酒場と宿屋と役所が足された様な作りをしている。

 その中の役所的な部分、受付カウンターに行くと、守衛さんが受付の女性に話を通してくれた。守衛さんは、後で守衛所に寄るようにと言ってから帰っていく。



「ようこそ冒険者ギルドへ!お二人とも冒険者登録をするという事でよろしいですか?」


「はい、お願いします。」


「………。」



 あ、テラを黙らせたままだった。


 まぁいいか。



「ではこちらの用紙に記入を。代筆は必要でしょうか?」


「いえ、書けます。」



 受付の女性は、胸元に『アイラ』と書かれた名札を付けている。これが読めるという事は、ノア様に聞いていた通り読み書きに問題は無いという事だろう。



「ほら、テラも『書いて』。」


「……。」



 睨んでるなー。

 怖くないけど。

 テラも俺と同じく、ノア様のサービスを受けているようで、不自由なく記入している。



「出来ました。」


「はい、お疲れ様です。ギルドカードを発行しますので、お掛けになってお待ち下さい。」



 言われた通り、受付カウンター前の椅子に座って待っていると、テラが身振り手振りで何かを伝えようとしてくる。



「はぁ……『話せ』。」



 バタバタと手足を動かされるのも鬱陶しいので、喋れるようにした。



「……黙ってるのしんどい。…空気読んで喋るから、黙れって命令するのはやめて。」


「まぁ、それならいいけど。」



 ホントに空気が読めるかは疑問だが、ここまで大人しく付いてきてはいるんだよな。色々と諦めたのかも知れない。



「……それで、アンタは私にも働かせるつもりって事よね?」


「ああ、もちろん。()()()前世では碌な仕事に就けなかったからな。埋め合わせはしてもらう。」


「…分かったわ。」



 なんだ?

 素直過ぎて気持ちが悪いな。



「何よその顔?アンタが楽な生活を送れるようになれば、私も良い暮らしが出来るって事でしょ?最悪な事に、アンタとは一連托生なワケだし。」



 厳密には少し違うが、まぁ言わんとしてる事は分かる。



「やる気になってくれた様で何よりだ。」


「ふん。この世界じゃ貢物も期待出来ないからね。面倒くさいけど、働かないとだし。」



 神もメシを食べないと死ぬのか?

 信仰心とかを食ってるイメージだったが。



「ラヴさん、テラさん!カードが出来ましたよー!」



 そんな事を考えていると、受付のアイラさんから声が掛かった。



「ハイどうぞ!こちらのカードに触れて頂ければ、レベルやスキル、使える魔法などが表示されます。表示出来たら、一度こちらで登録しますのでお貸しください。あ、もしスキルや魔法を公開したくなければ、非表示にしてからで結構ですよ?」



 カードには名前や職業の他に、『ランク』というモノが記入されていた。職業欄には冒険者と書かれており、名前は『ラヴ』だけだ。この世界では苗字持ちはある程度の地位を持っている者だけらしいので、目立たない様に名前だけにしておいた。

 ランクの方はFランクと書かれている。



 カードを受け取ると、アイラさんの言うようにレベルなどが表示される。一体どんな技術が使われているのか分からないが、これもテンプレなので驚きは少ない。


 俺とテラは、スキルと魔法を非表示設定にした。

 俺のスキルも目立ちそうなものだが、テラの方がもっとヤバそうだ。チラッと見ただけだが、バカみたいな数がある。



「テラもレベル1なんだな。ってかレベルがあるのか。」


「はい?レベルは誰にでもありますよ?」



 あ。

 アイラさんに不審がられてしまった。


 テラに余計な事を言うなと言いながら、俺が言ってしまった様だ。



「い、いえ、なんでもありません。…はい、登録お願いします。」


「……お願いします。」



 アイラさんは俺達のカードを受け取ると、黒い板の様な物に載せる。



「はい、これで登録完了です。冒険者ギルドについての説明は必要ですか?」


「あ、お願いします。」



 ヘルプを見ても良いが、説明してくれるというならそちらの方が早い。


 アイラさんの説明は簡単なものだったが、どれもお決まりのモノだったので、すんなり理解出来た。



 冒険者にはランクが有り、FからSまでの7段階。


 受けられるクエストは自分のランクの1つ上まで。


 ランクを上げるには、クエスト毎に割り振られた評価ポイントを貯め、試験を受ける必要がある。


 ランクが上がると様々な優遇を受けられる。


 冒険者同士の揉め事は自己責任だが、犯罪を犯せば普通に捕まる。


 と、こんな所だ。



「有り難うございます。早速クエストを受けてみたいんですが…」


「張り切ってますね!クエストボードからお選び下さい。」



 元気な身体を貰って張り切っているというのもあるが、単純に今夜の宿代もないからな。働かないとマズイんだ。



 クエストボードと呼ばれる掲示板には、実に多種多様なクエストが張り出されていた。


 とはいえ俺達が受けられるのはEランクまでなので、そこまで危険なモノは無さそうだ。



「んー、やっぱり最初は定番の…これだな!」


「薬草採取?地味ね。」



 確かに地味だが、初めてのクエストはこれがお決まりだろう。


『ハート草』という薬草を20株収める毎に、報酬は4,000ハル支払われる様だ。ハルというのがこの世界で1番多く使われている通貨で、分かりやすい事に1ハル=1円くらいの価値らしい。


 もしかしたら、これも都合よく翻訳されているだけなのかも知れないが。


 ギルドに併設された宿で、1番安い部屋が4,000ハルらしい。なので、最低でも20株集めてくれば今晩の宿は確保出来る。



「まぁ、もし無理なら売女に本領を発揮してもらう事にしよう。」


「!?…あ、あんた私を売る気!?だから売女って呼んでたの??」


「嫌なら精々働け。」



 俺はクエストボードから薬草採取の受注用紙を剥がし、アイラさんに提出する。



「あ、すみません!説明が足りませんでしたね。…右上にこのマークが付いているクエストは、『繰り返し受注加』というもので、指定品を納めて下さるだけで大丈夫なんです。」



 言われて見てみると、紙の右上に『∞』みたいなマークが書いてある。これは剥がしてはいけなかった様だ。



「なるほど、勉強になりました。貼り直しておきますね。」


「す、すみません。有り難うございます。」



 端が少し千切れてしまった紙をクエストボードに貼り直し、俺達は冒険者ギルドを後にした。



「ふふっ。ラヴが恥をかくところが見られた。」


「…うるせぇ。」



 初めてコイツに名前を呼ばれたな。


 けどコイツも、俺の名前をバカにしなかった。

 神からするとそれ程変な名前でもないのか?



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