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初めての魔法

 

 目を開けると、そこは森の中。


 背の高い木々の隙間から、陽の光が差し込んでいる。

 多分朝だ。


 鳥のさえずりと葉擦れの音が何とも爽やかな気分にさせてくれる。3年も寝たきりの生活をしていたから、柔らかい土を踏みしめる感覚もなんだか嬉しい。



「さて、まずは魔法だな。」



 この世界には、やはりというか【魔物】と呼ばれる人類の敵がいるらしいので、ある程度戦える様になっておかないとな。


 せっかくの転生なので、無双系主人公を目指したいところだ。



「……あれ?大人しいな売女?」


「………ぐすん。」



 全然喋らないなーと思ってテラを見ると、蹲って泣いている。



「なに?お前みたいな邪神が泣いても良心は痛まないぞ?」


「…私は、もう終わりよぉ。…ぅう……こんなゴミに使役され続けるなんて……他の神に笑われちゃう。」



 プライドがあるなら人間1人を呪い殺すなんてショボいマネすんなよ。



「はいはい。もう過ぎた事なんだから切り替えて。これからは俺の奴隷なんだから、精々俺の生活を豊かにする為に頑張ってよ。」


「す、過ぎて無いわ!真っ只中じゃないの!」



 おお、もう元気になりやがった。

 やはり嘘泣きか。


 ノア様が言うには、俺の気が済んだら解放する事も出来るらしい。ただそうすると、俺は神器無しで生きていかないとならない。他の転移者に負ける様でそれは嫌だな。



「はは。どうせ逆らえないんだろ?」


「な、なめんなっ!」



 テラはそう言って、どこから取り出したのか、アサルトライフルを構えた。



「は?銃?」


「死ね!クソ虫!」



 そう言って俺に向けて躊躇いなく引き金を引く。


 ダッダダダッダッ!!


 が、当たらない。



「ああ、撃てるは撃てるんだな。」


「あーもー!!なんで当たらないのよ。」



 それはお前が俺の神器だからだろ?

 いい加減諦めろ。



「当たらないけど銃声は不快だな。『発砲禁止』。」


「…ぐっ!」



 意識的に命令する事で、テラの行動を縛れるらしい。

 これは便利だ。



「魔物が寄って来ちゃうだろ?大人しくしとけよ。」


「……危険の少ない場所って言ってたでしょ。」



 まぁ、それはそうだが。



「とにかく俺は魔法を試す。『おすわり』。」


「あ、あぁ…そんな、私…が、こんなっ。」



 テラは屈辱に顔を歪めながら、ワンちゃんの様なおすわりを披露する。



「髪が白くて顔が赤くなるとアレだな。何かしらの伝統芸能みたいだな。」


「…うぅ。」



 さて気を取り直して魔法だ。

 ステータスを開いて水魔法をタップしてみる。


 すると、いくつか魔法名と思しき物が表示された。これが今の段階で使える魔法の様だ。使える魔法を増やすには、魔導書などで勉強しないといけないらしい。町に着いたら探してみよう。


 とりあえずこの『水弾』というのを試してみよう。



「『水弾』。」



 手をかざしてそう唱えると、掌の前に水の玉が現れた。直径10センチ程の小さな玉だが、こんな物でも感動だ。俺は本当に魔法を使っているのだと思うと、グッとくるものがある。


 水の玉は、感覚的に自分の意思で打ち出せるのだと理解できた。



「くらえ。」


「きゃあっ!!」



 水の玉はそこそこの速度でもってテラに命中した。



「な、何するのよ!?」


「魔法を試すって言ったろ。どうだ?HP減った感じするか?」



 見たところ外傷は無さそうだが…



「知らないわよ!私はステータスなんか見られないんだからっ!」



 ああ、神器だもんな。

 残念。けど神器になると丈夫になるって話だし、元々神なんだからこの程度の攻撃じゃダメージは受けないか。



「次は火魔法かな。」


「ま、待って!服が燃えるのは困るわ!!」



 そう言ってテラは両手をこちらに向ける。


 そう言えばテラの服、俺と同じでノア様から与えられた物っぽいな。

 俺もテラも、真っ白な貫頭衣の様な物を身に付けている。田舎町ではこの服装がスタンダードなのだろうか?



「うむ。ノア様から貰った物を燃やすのはちょっとな…。仕方ないから服が破損しないような魔法をいくつか試すか。」



 その後俺は、土魔法で撃ち抜き、汚れた衣服を生活魔法で洗浄してみり、またしても水魔法で撃ち抜き、風魔法で乾かしてみたりした。


 この時点で俺のMPは500/1000と表記されていたので、おそらくはLv.1の魔法には100MPを使うのだと思う。



「こんなとこかな。」


「ゆ、ゆるさなぃ……。」



 テラが怒りに震えているが、許さないのはこっちだ。



「あ、まだおすわりしてるの?ほら、早く立って。町に向かうぞ。」



 魔法も試せたし、町を目指そう。

 お決まりのパターンとしては、道中で魔物でも狩っておけば宿代くらいは工面出来るはずだ。


 幸い、森の中には人の往来を感じさせる細い道が在るので、これを辿れば町にたどり着けるだろう。


 ただ、問題は…



「なぁ、この道…どっちに行けば町に着くと思う?」


「バカなの?どっちに行っても町でしょう。」


「そりゃいずれは着くけどさ。どっちが近い町かってこと。」


「そんな事、私が知るわけないでしょ。ここは地球じゃないのよ?」



 態度悪っ。

 あの程度の調教じゃそうそう変わらないか。

 後でみっちりイジメないとな。



「じゃあ…テラ倒しで決めるか。」


「棒倒しみたいに言わないで。」


「ほら倒れろよ。なんなら蹴ろうか?」


「そしたらアンタの蹴った方に倒れるだけでしょ!」



 そんな感じで道の真ん中でワーワー言い合っていると、馬の蹄の音が聞こえてきた。ガタガタと何かを引く様な音も聞こえるな。…馬車か?



「おーい!そこどいてくれるかー?」



 程なくして、馬車に乗った商人風の男が現れ、俺達に声をかけてくる。



「すみませーん!道をお聞きしたいんですけどー!」



 俺が呼びかけると、商人風の男が馬車を止める。



「なんだ?迷子か?」


「まぁ、そんなところです。最寄りの町の方向を教えて頂けると…」



 ノア様の言っていた通り、ちゃんと言葉が通じるな。



「おう。ちょうど俺も戻るところだ。ついでだから乗ってけ。」



 気のいいおっちゃんだな。

 お言葉に甘えて乗せてもらおう。



「ありがとうございます!助かりました!」


「いいって事よ!お二人さん、兄妹か?」


「ち、ちがうわよ!」


「ははっ、まぁ全然似てないもんな。駆け落ちってとこかな?」



 黒髪黒目の俺に対して、白髪白目のテラ。身長差的には兄妹に見えなくも無いが、外見が違い過ぎる。

 どちらも10代後半で服も綺麗なので、カップルだと思ったのだろう。



「そんな感じですね。……『黙れ』。」



 ボロを出さないように小声でテラに命令しておいた。

 異世界人に対するこの世界の人間の認識が分からないので、とりあえずはぐらかしておく。



「若いってのはいいねぇ!けどそんな格好で森に入るなんて、随分と命知らずなんだな!」


「…この森って危険なんですか?」


「そりゃまぁ…魔物が出るしな。弱っちいのばっかりだから冒険者ならなんて事ねぇんだろうが……ってかそんな事も知らねぇなんて、よっぽど良いとこの坊ちゃんか?」



 おお、冒険者!テンション上がる。

 それはまだヘルプで見てなかったな。



「ええ、一応は。ど田舎の集落でぬくぬくと育った感じです。ただ見ての通り着の身着のまま逃げてきたので、お金は全く…。あ、町に入るのにお金が必要だったりしますか?」


「いや、都会の方なら掛かるが【アウラン】は田舎町だからな。そんなもんいらねぇさ。」



 これから行く町はアウランというのか。



「ただ身分証は必要だが…それも無いよな?」


「無いです…。」


「そうなるとどっかしらのギルドを斡旋されるぞ?身分証が無いって事は働いて無いって事だからな。働かない者はどこの町も入れたがらねぇからよ。」



 なるほど。

 文明レベルもお決まりの中世ヨーロッパパターンだろう。浮浪者にそこまで寛容では無いということか。



「登録出来るなら良かったです。どのみち働かないと食っていけないので。」


「おう!若いうちは倒れるくらい働かなきゃな!そっちの子も養っていかなきゃならんだろうし。」



 養うどころか虐げるつもりでいるのだが。

 テラは何か言いたそうにこちらを睨んでいるが、俺の命令で喋らずにいる。



「お、見えてきたぞ!あれがアウランだ。」



 おっちゃんが指した先には、背の高い外壁に囲まれた小さな町が見えた。


 この世界で初めての町。


 どんなものが見られるのか非常に楽しみだ。



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