幕間1 二人の会話
上空から迷い人の森を見下ろすと、一箇所だけ木々の無い円形状の場所が見える。そこへ目指して、さらに急降下すると大穴がその姿を現し出した。
その大穴は、それこそドラゴン一匹が余裕で通り抜けられる程の大きな穴であった。その穴の中へ入ると、穴底へ向かって落ちれば落ちるほど円形の直径は広くなり、底が見え始める頃には、直径100メートル程になっていた。
その穴の壁面には大小様々な突起した岩の足場が無数に存在している。その内の一つにある男が着地する。
着地した足場にはすでに一人の女が立っていた。全身黒ずくめのその姿は、穴の暗がりに溶け込んでいて、遠めでは存在を視認する事は出来ない。
しかし、その男は最初からそこにいることが分かっていたようにそこに降り立った。最初からその人物と話すために。。。
「どうだ?」
「・・・・」
「その様子だとあんまり良くないのかな」
「失せなさい。あなたに用などありません」
「ま、そうだな。しかし無縁ってワケじゃない。俺が観に来ても可笑しくはあるまい?」
「・・・・」
「――へぇ、がんばるじゃないか。あれがそうなのか」
「・・・・」
「しかし、いきなり四精のドラゴンを相手にするってのも運が良いのやら悪いのやら」男が肩をすくめて、時宗の戦いを見ている。
「おいおい、甘ちゃんだね。心を乱しているのか」
「・・・・」
その女は、時宗の行動を見ていてどう思ったのか、表情をしかめた。
「しかし、精霊の声が聞こえているって事は、良い兆候かな。ますます可能性は高くなったわけだ」
「あなた・・・ですか?もしかして。この舞台をお膳立てしたのは」
「なんのことかな」
「あの子はまだ実戦の経験もなければ、しっかりとした戦闘の訓練もしていない。なのに、いきなりドラゴン退治に同行させるなど、普通に考えてありえない」
「まぁ、あいつが死んで喜ぶ奴でもいるんじゃないか?――ちなみに俺は関係ない」
「・・・・」
「いずれ、あれは俺達にとって脅威になるかもしれないモノだ。とはいえ、死んでもらっても困る存在だしな。こんな舞台をわざわざ用意するかよ」
その男は、関与をはっきり否定した。女は視線を時宗に向けたままで言う。
「そうですか。どちらにしろあの子が死んでしまったら、私達も困ります」
「そうだろうよ。少なくともあと2年は生きて、結果を示してくれないとな」
「ま、しっかり見守ってやりな。お前の役目をちゃんと果たせよ」
「なんのことですか?」
先程から、女は男の方に一度も顔を向けていない、ずっと時宗を見つめている。
「・・・・ちゃんと見守って育てろってことさ」
「じゃな。さっきの行動で少しはどんなモノか分かったから帰るわ」
「・・・・ここに来たのは誰の指示ですか?」
「おれの指示」
「・・・・」
「個人的に興味があっただけさ」
男はそういって、穴の壁面にあるいくつモノ足場を飛び移りながら、上へ登っていき去っていった。
□
男が立ち去って、すぐに女は指示を求めた。
「はぁ、どう致しましょうか?そろそろお助した方がよろしいでしょうか?」
《もう少し、お待ちなさい。もしかしたら、いいものが観られるかもしれないわ。》
《それを確認した後でも遅くはないわね。》
「御意」
そして、女は、ここには存在しない者の指示に従い、時宗の戦いを見守り続けるのであった。