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龍戦記 ~龍を従える者~  作者: 龍神静人
第1章 青年期 ―邂逅編―
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第6話 揺れる心

 ジルの部屋、その前に一人(たたず)んだままの者がいた。扉を背に何か思いを巡らせているのだろうか。その表情は困惑と不安が滲み出ていた。


(どうしてだろう? ジルさんの話を聞いて、僕はドラゴンを哀れむ感情を抱いてしまった。ドラゴンに対しての同情?あんな事言うべきではなかった。ジルさんの目は・・・・あの目は、不信感・・だよね)


 時宗は、自分の部屋へと足早に向かう。通路には誰もおらず静かであった。

時折、部屋の前を通り過ぎると扉ごしに笑い声や話し声が聞こえてくる。ここにいる人々は皆、何かしら事情を抱えて集まってきた人たちだという事は聞いていた。それこそ、国を追放された人とか盗賊に村を焼かれた人など様々な理由でここに安住を求めてきたのだ。そんな人たちを匿っている、いや、面倒をみているのがガゼルである。


(ここに居る人たちを守るためなら、ガゼルさん達は、どんな相手でも迷わず戦う覚悟は持っているんだろうな)


時宗は、自分の部屋に入る。

扉を閉め、ベッドに飛び乗ってうつ伏せになり、顔を冷たくなっている毛布に埋める。


(あのドラゴンは、もう幾人もの人間を犠牲にしてきている。迷うことなんてない。捕らわれた人のためにドラゴンを討たなきゃ。ガゼルさんはドラゴンとの戦いにジルさんの話は役に立つかもしれないって、そう言った。

 でも・・でも、逆だよ、ガゼルさん。僕は今迷っている。殺さなくてもすむ方法を心のどこかで模索している。単純に殺してしまうことが正しいことなのか、分からないよ)


時宗は、夜の作戦会議まで思い悩むのであった。


そして、その夜。作戦会議が行われた。


 六人の男達がテーブルを囲んでいる。ガゼルを中止に元騎士のレオン、神官のスレイン、魔法使いのジル、元グラース領の領民であったキース、そして時宗である。


「まず、俺から今後の予定を言う」


「シードルの奴から聞き出したが、やはり売り渡していた娘達は、ドラゴンの生贄にされることが分かった。ただ、儀式の日は決まっていて、明後日の満月の夜らしい。そのときに集めた娘達を生贄として捧げるって話だ」


「時間はねえが、儀式の後だったら、贄は皆死んでいたんだからな。まだ運は味方してるぜ。それと、目的は四精のドラゴンを邪竜にするためだってよ。その買い手が何者かは知らねえが、そいつは西方の国を滅ぼすって言っていたらしい。で、シードルの野郎は西方の国が滅びた後に自分の地位を確約してもらう替わりに生贄を提供していたって事だ」


「・・・・・・」


「どうした時宗。暗い顔しているぜ。なにか不安要素があるのか?」


「あ、ごめん。大丈夫だよ」


「そうか。――ではまず、娘達を救出しに行くのは、明日の夜だ。日が沈んだ頃に出発する。キースには少しでも早くって思いがあるが、相手は四精のドラゴンになる、準備不足だけは避けたい焦る気持ちは分かるが、我慢してくれよ。キース」


「ああ」


「で、場所だが、買い手とは【迷い人の森】の中にある遺跡で会っていたらしい。そこで取引を行っていた。俺達がドラゴンと遭遇した場所とも近い。ドラゴンは遺跡に住み着いているらしい。買い手が一度、シードルにドラゴンの姿を見せたって事だから、間違いねぇーだろう。

 その場所まで明日シードルの野郎に案内させる。戦う場所の地形など環境の下見はできねえ。だが、遺跡に住み着いているとしたら十中八九、地下だ。あそこは昔の戦争で建造物はほぼ破壊されて残っちゃいねぇーからな」


「・・・・私の魔法は制限がかかるね・・・」


「そうだな。ジル。普段のようにはいかない。威力はセーブしねぇとお前の魔法で洞窟が崩落ってのは最悪の自滅だ」


「・・・・・分かっているよ」


「で、ドラゴンに遭遇したら、戦闘開始ってことなんだが、時宗」


「は、はい」


「お前は、俺と一緒に前戦だ。とにかく俺らでドラゴンの気を引きつける」


「分かりました」


「で、普段前衛のレオンが後衛に回る。例の盾も持って、ジルとスレインを守れ」


「ま、適材適所だな」


「レオンの後ろのジルが攻撃の要だ。どんな魔法を使うかはお前に任せるぜ」


「・・・・タイミングさえ間違えなければ・・・風の刃で、ドラゴンの首を・・落とす。・・・」


「期待してるぜ。――――で、スレインは、普段どおり全員のサポート。治癒と防御魔法でカバーしてくれ」


「ええ、わかりました」


「で、一つ警戒しなくてはならないのが、さっき言った買い手の奴だ。西方の国を滅ぼすっていう目的からして、狂った奴だろうが、ドラゴンに呪術を掛けられるとしたら、それなりの実力がある魔法使いだろう」


「そう考えてた方がいいだろうな。それに魔法は一発で戦況を大きく変えられる」


レオンがジルを見ながらそう警戒する。


「・・・・うむ」ジルは同意とばかりに頷く。


「だよなー」


ガゼルは考え込む。相手の実力次第ではかなりまずい。最悪、撤退も考慮しておかなくてはならない。少し考え込む仕草をして、顔を上げる。


「よし、最優先は何よりも救出だ。そして撤退。ドラゴンは必要に迫られた場合以外は、倒すことは二の次でいい。とにかく、助け出す! こちらから仕掛ける必要はない」


「わかった」


おのおのが返事をして、了解の意を表す。


「じゃあ、各自準備に入ってくれ」


それから、娘達がいなかった場合、相手の魔法使いとの戦闘になった場合など、いろいろ話合って作戦会議は終わった。


□□□□


会議終了後、時宗が自分の部屋に戻ろうとしていた時。


「時宗!ちょっとこっち来い」


「ガゼルさん、なんですか?」


「レオンから聞いたがお前の装備、剣以外見つかってないんだよな?」


「あ、はい」


「そういう大事なことは早く教えろ。俺の部屋にお前に合う防具があるから来い」



時宗はガゼルの後を付いて行って、ガゼルの部屋に入る。


「・・・・・・ジルさんの部屋とは大違いですね。・・」


「ほっとけ。きたねぇーって言いたいんだろ。――――ほらよ、これ着てみな」


「わっ!」


いきなり、時宗に投げられたのは、鎖帷子、篭手、(すね)当ての防具であった。


「どうしたんですか?これ。僕の国の装備にそっくりです」


「東方の国は娘と一度行ったことがあってな。娘が気に入って買ってきた防具だ。動き易さは折り紙つきだぜ」


 時宗は渡された防具を着込む。全部ピンク色であった。。。。身体にちゃんと馴染んでる感じだ。動きやすい。手足をいろいろな角度に動かして感触を確かめる。色はがんばって塗り替えようっと思う時宗であった。


「色はともかくとして、サイズもちょうどいいですね。娘さんって僕と体格が同じくらいなんですか?」


「まぁな。背格好は似てるぜ。年も近いんじゃないか。まぁーもしかしたら、性格はお前より男っぽいかもしれないがな。ははは」


(同世代の女の子か。会って見たいなぁー)


「おっと、言っておくが娘と会って、鼻の下伸ばしやがったら、その鼻へし折るからな!」


時宗の心を呼んだかのようにガゼルは忠告するのであった。



「―――――なぁ。時宗。油断するなよ。躊躇もだ。戦闘中は迷うな。命取りになる」


ガゼルが急に真剣な顔つきで近づいてきて、両肩をつかんだ。


「まだ、お前は実践経験がない。こんな事言えた立場じゃないんだが、巻き込んで済まないとは思っている。だから、最初にお前が言ったように本当にやばくなったら逃げろよ。その活路は、必ず俺が開いてやる。お前が命を掛ける必要はないんだからな」


「・・・ガゼルさん、本当に今更ですね。実戦経験はないですが、それなりに実戦に近い稽古は故郷の森で散々やってきました。大丈夫です。それに、参加を決めたのは僕です。僕が一緒に戦うと決めました。そう決めた以上、僕も娘さん達を助けます。危険は承知の上で、僕の意志でやることです。それだけは伝えておきますよ」


「それに、逃げるつもりもないですし、死ぬつもりもありません。きっとうまくいきます!」


時宗は、自分の意思で決めたんだと強調して、なにか自分にも言い聞かせるように覚悟を決めるような思いでガゼルに伝えた。


「―――――ありがとな」


ガゼルは、娘以外には見せないであろう、優しい視線で時宗の目を見て、感謝を口にした。




□□□




 【迷い人の森】、この名前の通り、森に入って出てきた者がいないと伝えられている森である。奥へ行けば行くほど霧が濃くなり、侵入者の方向感覚を狂わせる。今でも必要な準備をせずに森に入り、戻ってこれずに行方不明となる人が絶えないのだ。


 今、時宗達は、馬車でその森の目の前まで来ている。不気味なほどに静かで、鳥のさえずりも何も森からは聞こえてこない。今は月明かりが森を照らしている。ここにいるのは、時宗達六人と案内役のシードルである。シードルはさっきから不安そうな表情をしている。


「なんか、不気味な森だなぁ。静か過ぎると言うか、本当に入ったら戻ってこれないのかな」


時宗は、自分が通ってきた極夜の森と比べるように森を眺めていた。


「あー、【導きの杖】がありゃ、ある程度まで奥に進むことはできるが、最奥までは不可能だ。奥に進むにつれて霧が濃くなり、導きの杖の効果もだんだん打ち消してしまうからな」


 時宗の独り言にガゼルが反応して答えた。今回、最も準備で苦労したのが、その【導きの杖】という魔道具を手に入れる事だった。

 

 国内では高値だが普通に売っているものだ。しかし、ガゼル達のような古き大地の住民には手の届かない代物だ。ガゼルはどうやって手に入れてきたのかは、なぜか時宗には教えなかった。


「よし、キースは、ここで待っていてくれ。シードルもだ」


「わかった」


「ま、まってくれ。私はもういいだろ、戻らせてくれ」


ガゼルの指示にシードルが異を唱えた。なにか怯えているようにココから離れたがっている。


「だめだ。てめえもココで待っていろ」


「キース、何か妙な事をするようなら、かまわないからな」


キースには剣を持たせている、シードルが妙な行動にでたら、始末していいと言う事である。


「く、くそ。何で私が・・・」


 ガゼルが、キースとシードルのいる場所に火を焚いて明かりを灯す。獣よけの匂い袋も念のため炊いておく。この周辺に生息している獣はまずこの匂いが香っている範囲は近づいてこないのだ。


 キースとシードルを森の手前に残して、【導きの杖】を持ったガゼルを先頭に他4人も森の中へ歩き出す。

この【導きの杖】は、夜には松明代わりにもなる結構便利な魔道具である。

最初に杖を発動した場所を記憶して、魔力を込めるとその場所の方向を光で指し示してくれると言う物である。


そして、各自の主な装備は、ガゼルは今回、槍を背負っている。それも長槍である。


スレインとジルはお披露目のときと同じだ。


レオンは、あの時の装備に追加で盾を背負っている。結構な大きさである。


その盾は、魔法の力を宿した特別な盾でドラゴンのブレスや魔法も耐えられるという。


時宗は、ガゼルからもらった防具を着込んで(色は黒に塗り替えてある)、倉庫から選んだミスリルの長剣を装備している。


あとは、各自治癒のポーションを一つ持っている。


スレインは、後衛という事もあり、治癒のポーションを5つ持っている。

治癒のポーションは、致命傷を受けたときに迷わず使うように皆に配られたのだ。


 少し歩いていくと森の中は、木々こそ多く立ち並んでいるが、足元の草は、長くても膝までで、歩くには然程(さほど)に問題はなかった。しかし、この森も獣がいないわけではなく、皆、周囲を警戒しながら進んで行くのであった。




□□□




 ガゼル達が出発して10分ほど経った頃、キースとシードルは、焚き火の周りで座っていた。


「まさか、お前が私を追ってくるとは思わなかったぞ。キース。お前は一番私を恐れていたではないか」


「うるせぇー。黙れ」

「もし、娘が戻ってこなかったときは、てめぇーを殺してやる!」


キースが睨む。


「あっ・・・あ、あ」

シードルが酷く驚いて、口ごもった。酷い怯え様であった。


「あ? どうした。そんな怯えることはないだろ」


シードルは、今もなお口を開けたまま、キースの後ろを震える指で差した。


キースが後ろを振り返ると、そこには何の音立てずに、男がすぐ後ろに立っていたのだ。


「なっ!!」


キースが驚きと同時にすぐさまシードルのほうへ移動した。


「だ、誰だ!! い、いつからそこにいた」


男はキースの言葉を無視するように口を開く。


「これはこれは、シードルさんではないですか。こんな夜になぜここに?」


「ひっ!あ、あな、あなたは・・・・・あ、いや―――――」


「今日は、お取引のお約束はありませんよ。どうしたんですか。それに――そこの男性は、物騒なものをお持ちだ。あまり穏やかではありませんね。もしかして、お困りですか?」


「あ、いや、違うんだ。これは。な、なんていうか」


シードルは言葉が出てこない。変わりにキースが再度、問いかける。


「な、何者だと聞いているんだ」


「ふむ。まぁーシードルさんが言葉に困っているようですし、あなたとお話しましょうか。私はシードルさんとお仕事をさせていただいてました。ロイと言う者です。――で、あなたはどなたですか?」


「っ!」


キースは返答に困った。


(どうする。なんて答える。まさか・・・娘を取り戻しにきたとは言えない・・・・)


「ふむ。あなたも言葉にお困りのようだ。これは困りましたね。話が進みませんよ。シードルさん」


ロイと名乗った男は、シードルの方に顔を向け、不敵な笑みを浮かべた。その表情は穏やかではあるが、シードルはなぜか脂汗を吹き出している。


(こ、この男はすでに知っている。私がいる理由も目的も。。。ただ、面白がって聞いているだけだ)


シードルは恐怖で震える。


「ふぅ。実につまらないですね。何かおっしゃったらどうですか?」


「ち、ちがうんだ。これは。脅されて。裏切ったわけではないぞ。そいつに脅されてそれで案内したんだ。裏切ってなどいない」


「ふむ。ま、仕方ありませんね。脅されては。しかし、これでもうこの計画は半分失敗したようなものですねぇ。第3者に知られてしまったわけですから」


「・・・こ、こいつを始末すればいい。そうすれば知る者はいなくなる!」


シードルがキースを殺せと提案する。


「てめぇー何言ってやがる!」


「いえいえ、シードルさん。違うでしょ? 五人―――森の中に入った者がいらっしゃるのでないですか?」


「あ、いや、中には・・・・」


「あなた、どこまでしゃべりました?」


「・・・・」


シードルの生唾が喉を通る音が妙に大きく聞こえた。


「わたし、約束も守れずにペラペラとおしゃべりが過ぎる人は好きじゃないんですよ」


ロイが邪悪な笑みを浮かべて、シードルの方へ歩き出した。


「ちょっ、ちょっとまってくれ。中に入っていった奴らも殺せばよいであろう。お前ほどの魔法使いであれば容易にできるではないか。な?私は、まだお前が必要としている者を提供できるぞ」


「あぁー、それはもう必要ありませんよ。もう大丈夫です。安心して逝ってください」


っと言うと、シードルの足元から炎が発生して、一瞬で灰となってしまった。


「あ、あと。私を魔法使いなどと安っぽい名で呼ばないでくれます。私は魔術師ですので」


その男は、灰となって消えたシードルに別れの言葉を掛けるように言った。


「っ、な、く、くそ」


とキースが剣を振り上げたと同時にシードル同様、足元から発生した炎に包まれ―――

―――「□□□~~~~!」―――


 それは、炎に包まれる直前、刹那に垣間見れたキースの残留思念であろう。おそらくは、娘の名前を最後に呼ぼうとしたのだ。そんな余韻を僅かに思念として残しつつ灰となってキースが消えていった。


「ふふふ、実にあっけない最後ですね。私、虫けら相手に少しの時間も消費したくありませんし。大嫌いなのですよ。無駄な時間を過ごすのは。時間大切ですからね」


「さて、5人のお客様は、遺跡でしょうかね。少しは遊べるような方々だとよいのですけど」


そういって、その男は、時宗達がいる遺跡へと向かうのであった。




□□□ 



ガゼル達が出発して、小1時間程経った頃である。


「見えたぜ、あれが遺跡だ」


ガゼルが指を指した方向には、遺跡があった。

建物は破壊されて、柱だけだ数本立っており、その周りは緑の蔦や苔が生い茂っていて、長い時間の経過を物語っていた。


「なんか神々しい感じですね」


「時宗は初めてか? いつの時代の遺跡かは分からないが発見されたときにはすでにこの有様だったって話だ」


初めて見る遺跡に目を奪われていると、レオンがそう声を掛けた。


「このまま遺跡の中に入るぞ、ここは地下に大広間があるからな。そこが目的地だ」


ガゼルが観光じゃないぜと言わんばかりに、口早に指示をだす。


「ここからは、私も明かりを用意しましょう」


《我が元に集いて、導きの光を灯せ。》


スレインが簡単な詠唱を口ずさみ、杖が光に包まれた。


「よし、進むぜ」


今度は先頭にガゼル、後方にスレインが光を灯している。

5人は警戒しつつ、黙々と地下の奥へと進んでいく。

傾斜はそれほどきつくはないが、地下深くへ進んでいる実感を与えるには十分な坂道である。


しばらく歩みを進め、どのくらいの時間が経過しただろうか。

下に淡い光が集まる場所が見えた。


 そこは、大広間であった。直径にして100メートルほどの円状の大広間で、天井は何処までも続く吹き抜けの穴が開いていた。おそらく地上に出る穴だろう。そこから月光が差し込んでいる。


 時宗達が時計盤に例えて、6時の方向にいるとすれば、ちょうど正面にあたる12時の方向に大きな祭壇らしき建造物があった。そこに・・・・


「っ!ド、ドラゴンですか?」


初めて見る時宗でも、その存在感と絵本でみたままの形状からして、ドラゴンだとすぐにわかった。


「いきなり、ご対面か」


「どうやら、眠っているようですね」


レオンとスレインがそれぞれ反応する。


「いえ、あそこに人影も見えます」


時宗が指を指した方に、人影が見えた。


「攫われた娘達か?」


ガゼルがその方向を凝視する。


「そのように見えますね。しかし、一人のようです」

「・・・・うむ・・」


スレインとジルもその人影を視認した。


「だけど、ドラゴンの周りに淡い光が・・みえませんか?」


「えぇ、見えます。あれは、魔法の光ですね。魔力を感じます」


スレインが時宗の指摘した光の正体を見抜く。


「眠っているなら好都合か。行くぞ」


ガゼル達は周りを最大限に警戒しながら祭壇に向かう。


ドラゴンはその巨体を丸めるような姿勢で眠る、すぐ横に一人横たわっている。

ガゼル達は、ゆっくりと歩みを続けて、近づいていく。ドラゴンと娘との距離がもうほんの10メートル程まで縮まった時ガゼルが驚き、思わず声を上げてしまう。


「っ!アイリス!!!!」


そこに横たわっていたのは、ガゼルの娘であった。

しかし、ガゼルが思わず声を上げたのには別の理由があった。


アイリスの身体から光が漏れ出ていて、ドラゴンの方に吸収されているように見えたのだ。


「なんでしょうか?あれは。儀式魔法のようにみえますね」


「そんなことは、どうだっていい。助け出すぞ!!」


スレインが冷静に確認していると、ガゼルが焦りを見せて、娘の方へ駆け寄って行こうとした。


しかし、レオンが羽交い絞めで止める。


「ガゼル!! 落ち着け。お前らしくもない。焦るな。ドラゴンが目を覚ましちまう」


「離せ! レオン! アレを見て落ち着いてられるか! アイリスが何かされている。やばいだろあれは」


「いいから、落ち着け。気持ちは分かるが罠かもしれん。あの魔法陣がなんなのか分かるか? ジル」


「・・・・・・おそらくだが・・・・あれは何らかの儀式魔法だろう・・・・よく見てみるとドラゴンの方にも魔法陣が設置されている。対になるように・・・・だが、あのドラゴンと娘の間で流れている光は、見たままのただの光だ。魔力を感じない。今はな」


「なら、今なら娘を助け出せそうだな」とガゼルが一歩踏み出そうとしたときだった。


「おやおや、困りましたね。大事な儀式の準備中ですので、お客様はご遠慮願いたかったのですが」


ガゼル達の後方から聞き覚えのない声がしたのであった。



5人全員が同時に後ろを振り向くと、さっきまでいた大広間の入り口に一人の男が立っていた。


「ちっ!なにもんだ!!」


ガゼルが突然現れた男へ警戒心を高めて、問いただす。


「シードルさんからお話がありませんでしたか。私は、シードルさんと契約をしていたロイと言う者です。お初にお目にかかります」


ロイと名乗った男は、丁寧に頭を下げた。


「ちっ!って事は魔法使いか。本当に遭遇しちまったのかよ。ついてねぇな」


ガゼルが苦い表情を浮かべると、スレインが近づき耳元で告げた。


「いえ、ガゼル。あの男からは違います」


「違うって何がだ?」


「おそらく、人間ではないかと」


スレインが額に汗をかきながら、ガゼル告げる。


「っ!」


「おいおい、それは本当かよ」


レオンも近づいてきて再度確認する。


「ええ、おびただしい邪悪な魔力を感じます。人間には不釣合いなほどに」


時宗だけが会話から置いてけぼりであったが、質問できる雰囲気ではなかった。


「くそ、まいったね。こりゃ」


「ですが、相手がまだどう出るかわかりません。あまり相手を刺激したくない」


ガゼルが運の悪さを愚痴り、スレインは冷静に自分の考えを伝えた。


「これは、なかなか如何して、先程のお二人と違ってお強そうだ。ふふふ」


「っ!ふ、ふたり?キースさん達の事ですか?」


時宗が思わず、問いただしてしまう。


「キースと言う方は知りませんが、シードルさんにお会いましたよ、なんせ森の入り口で暢気に焚き火をしてたものでね。でも、もういませんよ。焚き火で遊んでいたからなのか、灰になってしまいましたよ。ふふふ」


「え!?・・・・・」


時宗はロイが言った言葉の意味を一瞬分からなかった。がすぐに殺されてしまったと気がつく。


「で、あなた方は何しにきたのですか? まぁ、聞く必要はありませんけど。一様、聞いておきませんと」


「・・・・・俺の娘がそこで暢気に寝てるもんでね。起こして連れて帰ろうとしていたところだ」


ガゼルはジリジリと身体を移動し、娘と男の間に入る形で立っていた。


「あぁ、彼女の父親ですか。彼女かなりおてんばですね。寝かしつけるのに苦労しましたよ。なんせ大事な生贄です。傷がついてはよくありませんから」


「それは感謝したほうがいいのかね。――――とりあえず、娘を連れてココから出たいんだがよ。他にも娘達がいたはずだが?」


「ふふふ。もうその一人ですよ。あとの娘さん達はちゃんと有効活用させて頂きましたので、もういません」


時宗、レオン、スレイン、ジル、それぞれが、すぐにでも戦闘に入れるように身構える。


「せっかく珍しい四精のドラゴンがいるのです。すこし遊んでいきませんか?」


そういうと、ドラゴンの身体の下にあった魔法陣が消え、ドラゴンが目を覚ます。いや、男が起こしたのだ。ドラゴンが立ち上がり、時宗達のほうへ向き直る。


そして、けたたましい咆哮が大広間に響き渡る。


「ガゼル! 娘を確保しろ!! その時間は俺らで稼ぐ。早く行け!!!」


レオンがすかさず、大剣を手にドラゴンに斬りかかる。


「すまねぇ!!」


ガゼルが全速力で娘のところまで行き、娘を抱きかかえる。魔法陣は抱き上げた瞬間消えた。


「ふむ。魔法陣が発動していたなら、娘さんは粉々に散りになっているところですよ。乱暴ですね。それとも、発動していないことがわかっていたのですかね……となると、それなりの方々と言うことになりますね。儀式魔法陣の魔力の流れは、少なくとも並みの魔術師では視認できませんからね」



一方、目を覚ましたドラゴンは、咆哮をあげながら、レオン達に襲いかかろうとしていた。


しかし、すばやく、ドラゴンの懐に入ったレオンは、足元目掛けて、大剣を振るう。そして鮮血が飛ぶ。鱗の隙間を狙ってうまく切ったのだ。


「す、すごい!レオンさん」


「時宗! お前も注意をひきつけろ! 一定の距離で動き回ればいい! 距離を取りすぎるとブレスがくるぞ!」


「ジルは魔法を練り上げろ!」


「スレイン! 俺らの防御力を底上げしてくれ!」


レオンがガゼルに変わりに矢継ぎ早に指示を出す。


時宗もドラゴンの前で動き回り、注意をひきつけつつ、攻撃を加えていく。

しかし、うまく鱗の隙間を狙えず、全て弾かれていく。


『我が願いを聞き届けたまえ、彼の者達に光の加護を与えよ。』


スレインが魔法を発動し、時宗とレオンの身体の回りに光が灯った。


『我が元に集いし、風の精霊よ。鋭き刃となりて、全てを切り裂け』


詠唱し、ジルの持つ本のページが勢い良くめくられる。


魔法陣が出現、風が一箇所に渦巻きだした。そして、


「・・・・レオン!」


ジルの合図とともにレオンと時宗は、ドラゴンから離れる。


そして、風の刃がジルの描いた魔法陣から放たれた。


ドラゴンの脇腹当たりに直撃し、ドラゴンが悲鳴のような咆哮を上げて、身体を仰け反らせた。おびただしい血が飛び散る。


(ジルさん、すごい。一撃であんな傷を負わせるなんて)


ドラゴンがひるんだ隙に、仕切りなおそうと、五人とも一箇所に集まった。


「ガゼル、娘さんは無事ですね」

スレインが確認する。


「あぁー見た感じは気を失っているだけのようだ」


「さて、じゃあ、さっさと逃げるか!」


レオンが逃げると言ったのを聞いていたのか。ロイがドラゴンの後ろへいつの間にか移動していた。


「だめですよ。逃がしません。もう少し遊んでいってください」


「だよな。まぁー逃げれるとは思ってねぇが。。」レオンが背負っていた盾に持ち替える。


「スレイン、娘を頼む。なるべく後方に下がっていてくれ。ジルもレオンもいいな。娘を巻き込むわけにはいかねぇ。少々距離が開いちまうがしかたねぇ」


「ええ、わかりました」


「時宗、いけるか?」


「はい! いけます」


「ふぅ、じゃあ、やるか。まずはドラゴンを始末する。レオン。あの男の行動も注意してみていてくれよ」


「あぁ、当初よりやることが増えたな」


ドラゴンが体勢を立て直しており、ジルを睨んでいるようにみえた。先程の攻撃でジルを脅威と認識したのである。


「ジル、さっきのもう一発頼むぜ。今度はもっと強力な奴でかまわない」


「わかった・・・少しだけ時間をくれ」


「おう。行くぞ時宗。やつの気をこちらに釘付けにする。懐で動き回れ」


「はい!」


ガゼルと時宗がドラゴンに向かって走る。ジルとスレイン、そして娘を抱きかかえたレオンが後方に下がる。


ガゼル達は短期決戦で勝負をつけたいと考えていた。娘もいるのが理由だが、何よりも長期戦になれば、無尽蔵とも言える魔力を持つドラゴンの方が有利だからだ。


「うぉぉぉぉぉお!」


ガゼルが槍を掲げて、ドラゴンに迫る。


ドラゴンが後ろの尾をガゼル目掛けて、振り払う。


「っ!ぬお」


ガゼルが上に飛び上がり、振り払われる尻尾を避ける。時宗も上に飛び上がり避ける。


なぎ払い、尻尾の通過時の風で時宗は身体が流されそうになる。


(う、すごい。威力だな)


ガゼルの動きがすばやくドラゴンは、目で追っていけないようである。ガゼルは、怯むことなく、攻撃をしては距離をとる【一撃離脱】の繰り返しで、うまくドラゴンの気を引いている。


(やっぱり実戦経験が豊富なガゼルさんはすごいや)


そう思いながら、時宗もガゼルが引いた際に、逆にドラゴンに攻撃をしかけ、時宗が距離とるタイミングで、ガゼルが攻撃を仕掛けるという連携を繰り出し、ドラゴンに休む間を与えていない。


ガゼルの槍での攻撃は浅いとはいえ、鱗の隙間を狙っており、ドラゴンに傷を負わせている。時宗も弾かれる事が多いがドラゴンに傷をつけることは出来ていた。


まだ、ガゼルと時宗が攻撃を開始して、2、3分程度しか経過していない。


と、その時、時宗は誰かの囁くような、それでいて強く訴えかけるような声が聞こえた。


(おねがい、ドラゴンをきずつけないで!)


(きずつけないで!)


(ドラゴンはわるくないもの!)


(おねがい!わるいのはあいつなんだから!!)


(あいつなんだから!!)


(こうげき、しないで!!)


「っ!な、なんだ。だれだ!」


と時宗は顔を横に向けてしまう。


「時宗! 余所見してんじゃねぇ!!!!」


「え!?」

(あ、しまっ)


時宗が声に気を取られていた一瞬の隙で、ドラゴンの尻尾のなぎ払いが、振り向いた時宗の身体に直撃した。


「ぐっがぁあぁああああ!」


時宗の身体から軋む音がした瞬間、後方へ思いっきり吹き飛ばされ、大広間の端のほうまで吹き飛んだ。


「時宗~~!」

ガゼルが時宗を追いかける。


その時、それを援護するように今まで魔力を練り上げていたジルから魔法が放たれる。


『風の精霊シルフ! 我が身に宿りて、その力を示せ!』


先程とは違い、ジルを中心に風が竜巻のように渦巻き、そして上方へ吹き上がり


大きな鎌のような風の刃が、ドラゴン目掛けて、急降下して放たれた。


先程と違い、風の精霊の名を告げた事により上位の風魔法を放ったのだ。

魔法は、詠唱でその神や精霊の名を呼ぶとそれだけ強力な魔法を放つことができる。しかし、その代償にごっそりと魔力を捧げなければならないのだ。


凄まじい勢いでドラゴンに向かう風の刃だが、しかし、四精のドラゴンが初めて、魔法を使った。同じ風魔法。しかも下から上に吹き荒れる竜巻のような風がドラゴンの周りに発生する。風の壁のようであった。


そこにジルの魔法が混ざり合うように接触して、相殺された。


「・・・くっ!やはり、相殺したか・・・・・・」


 ジルが予期していたかのようにつぶやく。が、その顔は焦りを滲ませていた。今のはドラゴンに当りさえすれば、致命傷を与えられるはずだった。やはりドラゴンの注意を逸らしてないと防がれると分かっていたのだ。


一方、時宗の方は、ガゼルがすかさず、時宗にポーションを振り掛けようとしていた。が、時宗の手がガゼルのポーションを持つ腕をつかむ。


「だ、大丈夫です。それは取って置いてください。はぁはぁ。骨とか大丈夫です。少し時間をもらえれば動けます。うっく・・・・」


「まじかよ。おい。普通の人間なら全身の骨が砕ける威力だったぜ?おまえ。まぁー最初に会った時から感じてた事だし。今はつっこまねぇーよ。ただ、あとでちゃんと聞かせろよ。いいな」


「は・・はい」

(教えることは出来ないけど)


時宗は鈍痛を我慢して治まるのを待つ。


「それより、ガゼルさん。今声が聞こえませんでしたか」


「いや、聞こえないぜ。何か聞こえたのか?」


(僕には確かに聞こえた。ドラゴンをきずつけるなって。なんなんだ。一体)


時宗が考えていると、


スレイン達のほうで爆音が聞こえた。


「っ!」

「っ!」


二人同時に振り返る。


四精のドラゴンが、スレイン達のいる方へ目掛けて、ブレスを吐いていた。


「くそ!!時宗、回復したら来いよ!」


「はい!」


ガゼルがそういい残して、ドラゴンの方に走りだす。


時宗は先程聞こえた声がドラゴンの方から聞こえたようなそんな感覚を覚えていた。

時宗のその感覚は正しかった。


その声の主は、ドラゴンに宿っている精霊達の声なのだから。



□□□□



自分の前で、ちょこまかと動き回っていたモノ達がいなくなった。


今なら、あの忌々しい魔法使いを焼き払える。


ドラゴンは、ジルの方へ身体を向ける。


奴を焼き殺してくれる。


 ドラゴンの下あごが膨れる、その顎は赤みを帯びており、口から僅かに炎が漏れ出している。ドラゴンのもっとも得意とする攻撃、ドラゴン・ブレスが放たれようとしていた。


咄嗟にレオンが声を張り上げて、盾を構えて踏ん張る。


「全員、俺の後ろから出るなよ!!」

(さぁー。こいよ。俺が防いでやる!!)


レオンが持つ盾は魔法の力を込められており、非常に耐火性に優れている。ドラゴン・ブレスを防ぎきると言われている盾である。


ドラゴンが仰け反り、大きなモーションから顔を前に突き出して、口を大きく開く。そして、炎が業火のごとく放たれた。


それと同時のスレインも詠唱し、魔法を行使する。


「光よ。障壁となりて、我らを守れ!」

光の幕が全員を包むように現れる。ブレスの高熱を防ぐ。


「うおおおおおおおおお!!!!!!!!」


同時に、炎を受けたレオンの身体が少し後ろに下げられる。足を地面に食い込ませるように踏ん張り、炎の勢いを止めようと、全身に力をこめる。


「うぉぉおぉっぉぉおぉぉぉおおおおおお!!!!!!!!」


レオンが全力で防いでいる。


レオンの装備している、鎧が端っこのほうから、少し融解し始めた。それほどの熱量である。スレインの魔法がなければ、炎は防げても熱で全員がやられてしまうのだ。


ドラゴン・ブレスの厄介なところは、一定量の炎が吐き出されるまで続くという事。つまりそれまで、魔力を注ぎ込み、魔法を行使し続けなければならないのだ。


「うっくぅうう」


スレインが耐える。


「もう少しだ!!スレイン耐えろ!!!!」


レオンが炎を防ぎながら叫ぶ。


そして、ジルはというと。


『・・・・風の精霊、大天使ラファエル、我が全ての魔力を対価に、その力をお貸ください、我の眼前に立ち塞がる魔を討ち滅ぼさん、・・・・』


最高位天使の名を呼び、自分の全ての魔力を注ぎ込み練り上げ、詠唱する。ジルが放てる最強の風魔法。


ブレスを吐き終わったドラゴンは、僅かの間、必ず動きが止まる。その一瞬に全てをかけるとジルは決めたのだ。


そして、―――――――――――


『我が名はジル、あなた様に変わり、魔を滅ぼすものなり。』


ジルの詠唱が終わる。


ドラゴンのブレスも終わる。


レオンの持っていた盾は、融解して原型を大きく崩していた。


スレインは、ほとんどの魔力を使い、膝をつく。


そして、ドラゴンはセオリーどおり、その動きを一時止めた。。。


「・・・くらえ!!!!!!!!!!」


ジルが魔法を放つ!!


大広間中に風が吹き荒れ、ドラゴンの元には極細の線のような風が光のごとき速さでドラゴンの首元目掛けて迫る。そして・・・・・


ジルの放った魔法は、ドラゴンの首に命中した。


したのだが、ドラゴンの首の横を切り裂いて、後ろに逸れていったのだ。


「ば、ばかな!・・・・・」


ジルは考える。

確実に仕留められる首のド真ん中を狙って、直前までその狙い通りだったはずだ。なぜだ。なぜ逸れた?・・・あの逸れ方は不自然だ。

何か別の力が介入したとしか思えない。ジルは祭壇の方で高みの見物をしているロイを睨みつけた。



□□□ 《ほんの数分前に遡る。》 □□□


ドラゴン・ブレスを防ぎ耐えるレオン。


光の壁で皆を熱から守るスレイン。


後ろで唯一人、集中して魔法を発動させんと詠唱を続けるジル。


「ジル。切り札をつかんだな」


ドラゴンに向かって走っているガゼルが、ジルの考えを察してドラゴンまであと少しのところで、止まる。


ガゼルは、もしものときために、あの技の準備だけして、待機する。


(ジルの切り札が防がれた場合でも、ドラゴンには隙ができるはず、俺が脳天にこの槍を突き刺してやるぜ)


ガゼルが密かに力を溜めて、次の攻撃の準備をしていると、後方から時宗が追いついてきた。


「ガ、ガゼルさん?」


「時宗。ジルが切り札を放とうとしている。うまくいけばアレで決着がつく。が塞がれた場合は、俺がドラゴンの頭目掛けて、全力の技をぶち込む。おまえも間髪入れずに、最初に戦ったときの居合いで、ドラゴンの首を切れ!!いいな」


「わ、わかりました」


(風斬りはいいけれど、この剣、先程から不満に思ってたが、強度はあるが、切れ味が悪すぎる。どこまで切れるか疑問だ)


時宗は一抹の不安を残しつつも、攻撃準備に入るのであった。



彼らの戦闘を祭壇から眺める人物、ロイは楽しそうにそれぞれの人物を目踏みするように観戦していた。


(ふふ、西方の人間も昔と比べたら、随分と弱くなりましたね。たかだかグリーンドラゴン一匹、四精のっとはつくが、5人がかりでまだ倒しきれないとは。まぁ、一人だけほとんど戦力になっていない人がいますが。しかし、あの子はなぜココに参戦しているのでしょうか?お世辞でも他の4人と同じ実力とは言えないでしょうに)


ジルの風魔法がドラゴンの首の直前で逸れる。


(あぁ、外しちゃいましたか。いい魔法でしたのに。強大な力を制御しきれなかったのでしょうか?・・・しかし、あの魔術師は見所がありますね。ここで失うには少々惜しいかもしれません―――――うん? 私、睨まれてます?)




時宗は、ジルの魔法が直撃する瞬間、あの声が聞こえていた。


(だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!)


その声と同時にジルの風魔法が変な角度で逸れたように見えた。


「ち、外れた!」


ガゼルは、間髪入れずに詠唱した。


『我が肉体に宿れ! バーサーカー! 汝の力。この俺に示せ!!』


ガゼルの身体に文様が這うように走り、身体に吸い込まれた。


「でぇああああああ!」


跳躍、一回でドラゴンの頭上まで移動した。


槍の刃をドラゴンに向け、急降下する。


「油断してるんじゃねぇーぞ!!!おらぁああ!」


ドラゴンの額に槍が突き刺さる。その力の強さに槍がちょうど半分に折れる。


ガゼルは突き刺さって残った槍を掴み、さらに奥に突き刺し、これでもかと刺し込んでいく。ガゼルの身体全体に血管が浮き出ていて、その力の強さを誇示しているように見えた。


悲痛なドラゴンの咆哮が広間に響き渡る。ドラゴンはガゼルを振り落とそうと首を大きく前後左右に動かす。そして、


「ときむね~~~~! やれ!!!!!」


ガゼルがドラゴンから飛び退いて、叫ぶ。


時宗は、すでに走り出していた。ドラゴンの懐近くまですばやく移動して、ドラゴンの首が後ろに反れた瞬間、


抜刀! 風斬り!


狙うは、ドラゴンの首、ジルが残してくれた裂傷、そこしかないと、剣を振るう。


その直後、


(やめて!!!)

(だめぇ!!!!)


また、あの声が聞こえた。


一瞬の躊躇い。


時宗はドラゴンの首を切り裂く!



(くそ!浅い!!)


時宗は、ドラゴンの足元に着地した。


その表情は、悔しさで皺くちゃになっていた。

歯を食い縛って悔しがる、自分が情けないと責める。


それは剣の切れ味の性もあるだろう、ドラゴンの皮膚の強度もある。


しかし、斬ることを、ドラゴンに止めを刺すことを、時宗は躊躇してしまった。


一番大事な時に、迷いがでてしまったのだ。


(くそ、くそ、誰なんだ!僕の邪魔をするな!!!!)


っと、その直後である。


「もう見ていて、つまらないですね。なんなんですか?キミ」


時宗がはっと顔を上げる。


すると、目の前に時宗を見下すように見ているロイがいた。


「っ!!」


時宗が急いでそこから離れる。


そして、ロイを見て、時宗は心臓を鷲掴みにされたように胸が痛くなった。




「あ、、、あ、、ぁあ、なんで、、なん、、で、、、あぁぁぁぁぁ、、ガゼルさん!!!!」




ロイは、ガゼルの左腕を持っていた。





そう左腕だけを持っていたのである。



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