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龍戦記 ~龍を従える者~  作者: 龍神静人
第1章 青年期 ―邂逅編―
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第5話 魔法という力

 翌朝、ひんやりと冷たい空気に包まれて身震いをしながら目を覚ます。昨晩は、疲れていたせいかぐっすり眠れて目覚めがよかった。


 身体を伸ばしたりひねったりしてほぐす。まだ太陽が出てこようかどうか迷っているようなそんな時間帯だ。薄暗い部屋で旅装束に身を包み、部屋を出る。このまま普通に逃げてしまえるんじゃないかと思う程、通路は静かで誰もいない。


(普通に信用して貰えているのかな。まぁ、もう逃げる気なんてないけど)


 昨晩の宴は、楽しかったなぁと思い出す。時宗にとっては初めてなのだ。大勢の人と飲み食いをして語らい、笑い合ったのは。――僕がいた集落もあんなふうに楽しい賑やかなところだったのかな。と思いをめぐらせながら通路を歩き、洞窟の外に出た。


「はぁ」


白い息が口からでる。外は洞窟の中よりもさらに冷え、少し震えるほどだ。

(寒いなぁ。昼間とはかなり差があるな。大陸の下ってこんな気温差があるのか)


ここに向かう道中はここまで寒さを感じたことはなかった。この世界の環境ってどういったものなのか少し興味がでてきたな。国々によっても気温とか差があるんだ、きっと。


(さてと、はじめよう)


 時宗は日課の剣の鍛錬を始める。

とはいえ、剣はあの時の戦いで折れてないのだが、空気(エアー)剣とでもいうのか、剣を持っているつもりで構えからいろいろな型、技を繰り出しては正眼の構えに戻る。それを繰り返す。何度も何度も。時宗の身体からうっすらと汗が滲み出て、体温が上がる。


「ふぅー」身体の調子も悪くない。戦いの日までに万全の状態にしたいな。

「おっ!?時宗君じゃないか。朝から鍛錬とは関心、関心!」


 レオンが上半身裸の姿で、外に出てきた。その身体には無数の傷跡が残っており、歴戦の騎士という印象を色濃く与える。そして鍛え抜かれたその身体は男でも魅入ってしまうほどであった。


「おはようございます。レオンさん」

「おう、おはよう!で、鍛錬は終わりか?」

「はい。良い汗もかけましたしね。僕の日課なんです。じいちゃんに教えて貰いました」

「!?」


レオンがにやついて、近づく。


「はは、僕ねぇー。もう普通にしゃべることにしたんだな」

「まぁ、もう普通でいいやって思ったんで」


苦笑いをしながら、頭をかく。


「そうだろうよ。お前ぐらいの年齢の奴が「私」なんて言っていたら、何気取ってやがるってどやされるぜ」


 昨晩の宴で、周りの人はまるで昔からいるような感じで話かけてくれた。しかし、時宗は距離をとるように話ていたのだ。けれど、気がつけば自然に時宗の張っていた気持ちは(ほぐ)されていて、普通に話し始めていたのだった。


 皆が気さくで優しい良い人ばかりだったのだろう、時宗が最初にガゼルを見た時は、盗賊なんじゃないかって思ったと話したら、皆大笑いしていた。ガゼルのやつは別だな。あいつは顔が怖すぎなんだよ。っと思い思いに皆が口に出す。皆に感謝しなければならないな。おかげでなんか気持ちがすごく軽くなったと時宗は思う。


 時宗が気にしていた元貴族達は、女性と子供は別室でちゃんと同じような食事を取らせているとの事だった。男達は尋問されていたのだが、時間をかけてじっくり聞いたら必要な情報は全て吐いた。

 

 時宗は、ガゼル達に詳しく聞かなかったが、たぶん尋問じゃなく、拷問だったに違いない。と想像していた。


時宗が昨日の夜の事を思い出していると、レオンの声が聞こえた。


「俺の事は、レオンって呼び捨てでもいいからな。気にせず呼んでくれ」

「でも、さすがにそれはまだ抵抗があるからレオンさんって呼びます」

「おう。すぐに抵抗とやらも消えるさ」レオンは向きを変え背中をみせて、歩き出す。


「で、でも、そう呼べるようになりたいな(・・・・・)」と時宗は恥ずかしそうに年相応の笑顔を見せた。その声が聞こえたかどうかはわからないが、レオンは、アジトの入り口から左側にある小屋へ向かう。


(あんなところに小屋があったんだ。昨日は気がつかなかったな。)


「時宗もこっちに来い!」


レオンが小屋に向かいながら、手を上げて呼んだ。時宗はレオンを追いかけて小屋へと向かう。


 入り口には錠がかかっており、扉も頑丈そうな作りになっている。扉は、木製の扉で、扉の淵に鉄製の枠が取り付けてあった。


「ここにはな、武具が沢山保管されているんだ。おまえ、剣が折れて今は武器もってねぇーんだろ」


レオンは扉の錠を外して、扉を開ける。ギシギシと扉の淵の鉄が擦れるような音がした。


「好きな武器を選んでいいぜ。これだけあればお前が扱えそうな物もあるだろう」


「いいんですか?」


「あぁー好きなの選べ。お前の物にしていい。元々ここにあるのは戦利品で今は誰の物でもねぇからな」


 時宗は小屋に入ってあたりを見渡す。整理整頓はされておらず、無造作にごろごろと置かれているのは、剣、槍、ハンマー、斧など、それに見たこともない変わった武器もある。防具も鎧、兜、盾、篭手といったものまで本当にいろいろな物が所狭しと転がっている。


「す、すごい。こんないろいろあるんですね」


「そうだろ」


「できれば、刀があればうれしいんですけど」


「あぁ、刀ね。お前が使っていた東方の国の剣だな。どうかなぁ、ありそうな気もするが。確か東方の国に行った誰かさんが市場でいろいろ買ってきたやつもこの小屋に放り込んでるはずだな。もしかしたらあるかもな。探してみな」


「じゃあ、しばらくココで探していてもいいですか?」


「いいぜ。心行くまで探すといい」


時宗は、たくさんある武器や防具を手に取り、興味津々な様子で見ながら、目的の刀を探し始めた。


「あ、そうだ。朝飯の時間になったら来いよ。飯食ったら1時間後に外に集合な」


「はい!」


時宗はそれから武器や防具をみるのに夢中になり、少し朝食の時間に遅れたのであった。



□□□



朝食後、約束の時間になり、時宗は外の広場に来ていた。

そこには、すでに四人が待っていて、皆、普段戦うときに装備するであろうものを身に着けていた。


 ガゼルは初めて会った時と同じ格好である。動きやすさ重視の軽装で、身体の致命傷だけは防げるように急所部分に防具を纏っている。ただ、会った時と違う点は、大剣を持っていない事。いや武器自体を持っていない。最後に見せた体術が得意なのだろうと時宗は思い出す。


 逆に大剣を持っているのはレオンだ。

レオンはガゼルと逆で身体の8割は鎧で隠れている。手には大剣と頭に被るであろう兜を持っている。時宗がよく知る騎士の姿がそこにあった。


 魔法使いのジルと神官のスレインは、二人とも同じような格好をしていた。


 ジルは黒い繋ぎのワンピースのような服を着ており、手には篭手が装備されており、その右手には、分厚い本を持っていた。

 スレインは逆に白いワンピースのような服を着ており、木製の杖をもっている。至ってシンプルな装備である。


(こうしてみると四人とも昔、絵本で見た英雄と呼ばれていた人達に見えてくる。すごい!!)


「じゃあ、さっそく始めるか! 俺はもう実力を見せる必要はねぇよな。存分に見せたもんな」


ガゼルが笑って、時宗の方をみる。


「あれが全てではない気はしますけど。もう十分です」


「ははは、やっぱり、なかなかの観察力だな」とガゼルが言った。


「じゃあ、俺ら3人だな。まずは俺の実力をみせるか」


レオンが大剣を肩に担ぎ、前へ出てくる。


「当然、剣の腕前の披露なんだ、時宗! お前が相手役だぜ。身体に教えてやる」


(どっかで聞いたことのある台詞だな。)


「よ、よろしくお願いします」


 二人とも剣を構える、レオンは自分の大剣だが、時宗は小屋から適当な剣を持ってきていた。その長剣を構える。二人ともジリジリと間合いを詰めていく。


「うんじゃ、いくぜ」


 レオンが横から大剣を払ってくる。時宗が剣で受けて、受けきれずに長剣が弾かれる。時宗の両腕は大きく上へと振りあがる。がら空きになった胴目掛けて、大剣の突きがくる。


(え!?嘘!!本気ですか???)


「ぬぉぉぉ!」

時宗が身体を横に捻るようにして突きを交わす。服の脇腹あたりが破れた。


「ちょっと、殺す気ですか!?」


(あのままだったら、身体を貫かれ僕は死んでいた。)


「いや。そんなつもりはないぜ。まぁー安心しな。お前が死に掛けてもスレインが治癒してやれる。それでスレインの実力も同時にみれるだろ?」


「いやいやいや、え?そういうつもりで?身体に教えるってそういうこと?いやいやいや。。」


この人―――――なんか考え方がガゼルさんに似ているような気がしてならない。危険だ!


「ちょっと待ってください。えっと―――――――僕が攻めます。それをレオンさんが対処してください。それで実力を見るのは十分です」


「なんだ!?お前。ビビッたのか。冗談だろ」


レオンは嫌らしく笑って挑発してくる。


「っ!ビビッてない!! 僕が攻めたいんだ! レオンさんに僕の実力を見てもらったほうがお互い実力がわかって早いと思っただけ! ビビッてない」


むきになって反論する。


(ふ、お前は、まだまだ子供だな・・・)


「まぁーいいさ。じゃあ来いよ。ガゼルがいう実力が本当か確かめてやる」


(よし、いくぞ。殺してやる!)


時宗はさっきのお返しとばかりにメラメラと闘志を燃やした。



が、あっけなく燃やした闘志は鎮火させられてしまったのだった。





「やれやれ、レオンは容赦ないですね」

そういうと、スレインが僕の身体に治癒魔法をかけてくれた。


(なにこれ!? あったかい!! 痛みが消えていく。心地良いなぁー。)


「スレインさん。もう一度かけてもらっていいですか?」


「傷は完治してますよ?」


「でも、なんかもう一回かけて欲しいなって」


「よし!じゃあ、もう1回、身体に教え込んでやる俺の実力を」


レオンが意気揚々と近づいてきた。


「あ、違う。こなくていいです!!!」


「遠慮すんなよ、時宗」


「遠慮じゃない! いいからあっちいってください!!」


「つまんねぇな。。」


(二人の実力は十分に分かった。レオンさんには、僕では到底勝てない。存分に痛めつけられて、動けないくらいになってしまった。)


 (スレインさんは、治癒の魔法であっという間にその傷を癒してくれた。これもすごい。何事もなかったように治ってしまった。他にも神聖魔法というのが使えるらしいけど、魔族相手でじゃないと効果が分からないらしい。魔族って、英雄譚で出てくる悪者だよな。)


(まぁーそれは置いといて、僕が一番楽しみにしていた魔法使いのジルさんの番だ。)


「じゃあ、最後はジルだな。ジルよ、準備はいいか?」


「ああ。問題ないが・・・・一様説明をさせてほしい・・・」


「いいぜ。―――――時宗! 難しいかもしれないが、ちゃんと聞けよ」


「は、はい」

(なんで、ガゼルさんが偉そうなんだ?)


「・・・・魔法は・・魔力によって起こす奇跡と言える力だ。魔力は生まれつき持っている者もいれば、後で発現するものもいる。ただ、後者は圧倒的に少ない。

 そして、属性と言って、火、水、土、風、聖、闇、空間がある。それぞれ、その人間が持つ適正によって使えるものが制限される。

 詳しい起源云々は、ココでは話さないが・・・・・魔力を己の体内で、練り上げ、頭で描いたイメージを具現化する。具現化するために、言葉を発する者もいる・・・・それが詠唱文。

 ・・・・魔法は魔力を練り上げるのに多かれ少なかれ時間を要する。・・・・魔法の弱点は、その要する時間・・・魔法使いは近距離では決して戦わない・・・・。今から見せるのは、火属性の魔法。目標物を焼き尽くす魔法・・・・」


「魔力かぁ。僕にはあるんだろうか?」


「まぁーそれは、後で確認してもらえや。西方の国には適正を見てくれるババアが居るからな。―――で、ジルが狙う的だが――――――レオン! お前が的になるか? 実際に食らうヤツが必要だろう」


「ちょっとまてよ。お前話し聞いてたか? 火属性だって言ってただろ! いくらなんでもジルの火属性魔法はごめんだぜ。あいつは手加減をしらねぇー」


「・・・・もちろん、最大火力を放つ・・・・」


「な、みろよ。あいつ、珍しくうれしそうだぜ。ガゼル、お前が例のヤツ(・・・・)やって受けろや」


「いや・・・いいや。しょ・しょうがねぇ。ジル。あの岩を狙え。あのでかい岩だ」


ガゼルが指差す方向を見ると、200メートル以上は離れている所に巨大な岩があった。


「あんな遠くの物を狙うんですか? 届くんですか?」


「あぁー。魔法っていうのは遠距離になればなるほど、そいつの実力が高い証明にもなる。そして威力も然りだぜ。魔力の密度が高いって証になる。まず、あの距離の目標物に届く高威力の魔法を放てるやつは、西方の国ではそうはいねぇ」


「まっ、見たほうが早えぇな。ジル!」


「・・・・」

ジルが頷き、集中し始めた。


「□☆△▽*::-)!>○□@@@――――――」


ジルさんは持っていた本を開き、い、いや、勝手に本が開いたような・・・

そして、なにやら、【うにょうにょごにょごにょ】と唱えている。よく聞こえないな。


すると、ジルの足元にサークル状の魔法陣が出現して赤く光る。

足元から巻き起る風で服が上に舞い、ひらひらと揺らめき始めた。


(風じゃないっぽいな・・・空気が蠢いているような。)


 そして、魔法陣の光が(まばゆ)いまでに輝くと、炎の塊が頭上に現れた。時宗一人であればまるまる飲み込んでしまうほどの大きさだ。


「あぇっ!」


時宗の空いた口が塞がらない。


 そのまま、ジルが何かを言った瞬間、炎の塊は目標の岩に向かって放たれた。

凄まじい轟音とスピードで、岩に向かって、一直線に進み、そして、直撃した。


岩が弾ける爆音が響き、目標物周辺が炎に包まれ、すぅーーと炎が消えていった。


「・・・」


「ふぅ。いつ見てもジルの魔法の火力は凄まじいねぇ」

「レオン、お前受けなくて正解だったわ」


「あたりまえだ!」


「・・・・・・・終わった。これが魔法」


「・・・・・・・」


「どうした時宗? 腰でも抜けたか?」


ガゼルは笑いながら時宗に近づいて顔を覗き込む。


「す、す、・・すごい!!!!」


「あれが、魔法!? すごすぎるよ。ジルさん」


「・・・・・うむ」


 時宗は興奮していた。絵本でみてきた魔法を初めて見たのである。治癒魔法も驚いたがやはり攻撃魔法の迫力はすさまじいものであり、時宗に与える印象は強い。ジルさんがいればドラゴンなんか瞬殺ではないのかとに思えた。


「あれなら、ドラゴンなんか一発じゃないの?」


「・・・・・・・いや、無理」


「ドラゴンは、水の魔法で相殺するか、防御しちまう」


「でも、当りさえすれば倒せるんじゃないの?」


「まぁ、大打撃は与えられるかもな、だがそもそもドラゴンの皮膚は硬いうろこで覆われていてそう易々と攻撃でダメージを与えるのは難しいんだ」


と、レオンが悔しそうに顔をしかめる。


「ドラゴンってそんな強いんですね。。。」


「まぁな。その台詞、国内で言ったら、世間知らずのお坊ちゃんで、バカにされるぜ」


「むっ!」


「まぁーその辺は夜の作戦会議で話そうや!―――――時宗、後でジルの部屋へ行け。いろいろ話を聞いておけ、戦いの役に立つかもしれねぇからな」


「はい」


「・・・・ゆっくり・・・休んでからでかまわない・・・」


「分かりました」


こうして、実力の披露は終わり、今夜の作戦会議までおのおの用事を済ませる。

時宗は、後で、ジルの部屋に行き、四精のドラゴンに(まつ)わる話を聞く事になったのである。



―――――――――――――――――――――


 アジトである洞窟は窓がないため、昼間でも部屋には蝋燭を灯して明かりを作っている。

ジルはその灯った明かりで、本を読んでいた。ジルの部屋は、ベットと机と椅子、そして本棚で構成されている。ちょっとした小さな図書館のような部屋である。


その扉をノックする音がした。


「ジルさん、入っていいですか?」


「・・・・ああ」


扉が開く、そして入ってきたのは、上着1枚にズボンという寝巻きのような格好の時宗である。


「昼間はありがとうございました。今も目に焼きついてますよ。僕は魔法を初めて見たんです」


「・・・・知っているよ。まぁー、座ってくれ・・・」


時宗は、部屋の中央にある丸い背もたれのない椅子に腰をかける。

ジルは紅茶を用意して、テーブルの上に置く。


「・・・・・ドラゴンについての話だったね・・・・・」


「そうです。ドラゴンは、昔じいちゃんがくれた本でしか見たことがないので、詳しくは知らないんです」


「・・・わかった」


ジルは時宗の目を見る。その目は英雄譚を聞きたがるようなキラキラした目をしていた。


(そういえば、まだ子供のようなものでしたね。)

ジルはそう思うと話し始めた。



「これから、我々が戦う相手は、四精のドラゴンといいます。遠い昔は・・【迷い人の森】の主として住み着いていた【グリーンドラゴン】って種だったそうだよ。

・・・・長い年月が経って、森の精霊達の一部が、そのドラゴンにとり憑いたと言われている。元々ドラゴンっていうのは四大元素を体現化した存在として伝えられているからね。

 口から炎を吐き、地を這う蛇の尾を持ち、風に乗る鳥の翼を広げ、海に生きる魚の鱗を持つ伝説の混合生物。その特徴が四大元素である、火・土・風・水の属性を体現化していると言われたんだ。

 ドラゴンはその属性の魔力をその身に宿し、今では始原の魔法と言われる四大属性の魔法を操る生物であると伝えられているんだよ。だから、四大元素を司る森の精霊達も取り憑き易かったかもしれないね」


(ガゼルさんが言っていたけど、確かにジルさん、この手の話になると饒舌になるんだな。)


「とり憑いて精霊の力を宿したのが四精のドラゴンってわけさ。で、今存在してる四精のドラゴンは、その初代の四精のドラゴンの子で、とり憑いていた精霊も子に移ったみたいなんだ。


 この本を見てくれ・・・・・・ここに書いてあるのは、700年前の魔族と人間達との争いにて、四精のドラゴンは、バンパイアの王に吸血され眷属とされる。そして、その混血の血を受け継ぐ1匹の子が産まれた。


 その子は、四精のドラゴンでありながら吸血衝動を内に秘め、その衝動に(あらが)いながら生きる事となる。もし、衝動に抗えず、大量の血を求めたなら、やがて魔に落ちるであろう。と、この著者は警告しているね・・・・・・少なくとも今の四精のドラゴンも何百年も生きているエンシェント・ドラゴンだよ」


(また、魔族っていうのがでてきた。なんだろう。後で聞いてみようかな。)


「以前、対峙した時にそのドラゴンから呪術らしき気配を感じた・・・・おそらく何者かがドラゴンに呪術をかけ、吸血衝動を抑えられないような制約をかけたんだろうと思うんだ。

 ただ、その対象がドラゴン自体なのか、とり憑いている精霊達なのかは分からない。ただ、このまま放置すると本当に魔に落ちて、森を汚す怪物に成り果ててしまうかもしれない。・・・・・」


「だと、すると(ただ)単純に殺してしまうのはちょっと違う気がします」


「その呪術を解くだけで四精のドラゴンは、正気を取り戻せるのだとしたら、以前のように吸血衝動に抗うだけでよいはずですよね。

 それも、定期的にちょっとづつ人間達のほうで、血を提供してあげればその衝動に抗うような苦しみも解放させてあげられるのでは・・・あ、でも血を与えること自体だめなのか」


「どうだろうね。血を吸う行為が魔に近づくのだから、少しづつとはいえ、血を吸血すること自体がタブーになるんだろうね。ただ、母親よりは血の割合は薄いだろうと思うし、打開策があるとすれば、とり憑いている精霊達だろうね。

 森に住み着く精霊達は、森にある自然を浄化するという役割もあるからね。ドラゴンのバンパイアの血のみをうまく浄化できればいいのだけれど。それが出来るのは、高位の神官が使える神聖魔法だけだろうね」


「君は優しいね。ドラゴンを殺さなくてすむかもって発想は、西方の国の人間にしてみたら、絶対思いつかない考えだね・・・・」


「そうでしょうか」


「ああ、そうだよ。それゆえ、不安だね。君はドラゴンをちゃんと殺せるかな・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・すまない・・意地悪な質問だったな・・・・・・」


「ただ、戦う前までには、決断はしておいてくれ。ドラゴンを殺す(・・・・・・)。この決断が(ゆる)むと僕たちは全滅だよ。・・・・・」


ジルは、そう言って時宗の表情をみる。


「・・・はい」


時宗は、先程、芽生えたドラゴンへの気持ちを塗りつぶそうとしていた。。。。。。



部屋の扉が静かに閉まる。



(・・・先程のあの子の表情・・・・・・・あの子は、おそらくドラゴンを殺せない気がするね。・・・・)



ジルはそう予言するように思ったのであった。




次回 第6話『揺れる心』

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