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龍戦記 ~龍を従える者~  作者: 龍神静人
第1章 青年期 ―邂逅編―
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第3話 西方の国

[ 時宗視点 始 ]


 僕は今、馬車に乗せられている。拘束され運ばれること6日目である。長旅もいいところだ。やはり世界は広いな。


 移動手段は三台の馬車だ。先頭にはガゼル達の仲間が乗っている。その後ろに収容人数の多い大きい馬車が走っており、その中に捕らわれた元貴族達がまとめて乗せられていた。

 その馬車を挟むように位置する最後尾の馬車に僕、そしてなぜかガゼルが一緒に乗っている。あの貴族達の乗る馬車は、貴族達自身が持っていたものらしい。元貴族はダテじゃないか。少し装飾が施されていた。


 この6日間の内、最初の2日間ぐらいは、ガゼルの質問攻めに答える日々だった。どこで生まれて、何処で育ったのか?本当にじいちゃん以外の人間と会うのは、初めてなのか? 剣術は誰に習ったのか? じいちゃんは強いのか?


 根掘り葉掘り聞いてきた。確かこの人は、僕についてあんまり興味がないと言っていた気がするが、あれは嘘だったのだろうか。


 もちろん、龍人族であることは伏せている。

 お返しとばかりに、僕もこの世界についていろいろとガゼルに質問して教えてもらう。結論としては、僕が相当な世間知らずであることを思い知ったし、ガゼルにも知られてしまった。まぁー恥ずかしいけど、仕方が無い事だ。


 それにしても、馬車という乗り物は、話には聞いていたので知ってはいたのだが、実際乗ってみると乗り心地のいいモノではなかった。


 とにかく、車輪から来る振動でお尻が痛い。せめて椅子の上に座布団を敷いてほしい。手は身体の前で括られているので、お尻を撫でることも出来ないのだ。これはかなりの我慢比べである。


 と言うのもガゼルとの勝負に負けて、今の僕の状況は木製の手枷と足枷を付けられており、足枷は鎖が垂れ下がっており、微妙に重い。身動きについてはかなり制限をかけられている。乗り心地についてはその拘束のせいもあるとは思うけど。


 さっきまで、お尻が痛く、ガゼルにお尻を揉んでくれ、と頼むかどうかって事を真剣に悩んでいた。それぐらいお尻がズキズキしていたのだ。本当、いい加減に察して欲しいものだ。


 だけど今は、僕を夢中にさせるものがあるので、大丈夫なのだ。

 それは、馬車の車窓からみえる風景だ。これまでは、ただの平原で代わり映えのない景色だったのだが、今走っている場所はとても美しい風景だった。そのため、乗り心地の悪さや手足の不自由さも、そしてお尻も気にならない。


 車窓から流れるように常に変わる大自然の景色は、僕を夢中にさせるには十分すぎる光景だ。聳え立つ山、太陽の光で輝く川、群れて走っている知らない動物。特にものすごい数の鳥が群れて空を自由に飛んでいる光景には口が開きっぱなしだった。


 自分が捕らわれている事なんて忘れてしまいそうな圧巻の風景だった。そして、なによりも目が釘付けになったのは、進行方向にそびえ立つ巨大という言葉では足りないほど大きな壁があるのだ。


 これまでも遠くから見えてはいたのだが、近づけば近づく程にその迫力が増してくる。思わず窓に自分の顔を押し付けてしまう。



[ 時宗視点 終 ]



「あれが隆起した大陸なんですか?」

時宗は前に座るガゼルに確認するように言った。


「ああ、西方の国だ」

「え!? じゃあ、あれが?本当に国? てっぺんに人々が暮らしている?」

「そうだ。今馬車で走っている地面から隆起した大陸だ。すげぇよな」

「・・・」

「驚いたか?」

「はい。この世界の大地にはあんな巨大な隆起した大陸が4つもあるんですね」

「そうだぜ。大陸の形は国によって様々だが、高さはほぼ同じだと聞く。おれも全ての大陸に行った事は無いからな。その辺は詳しい奴がアジトにいるから興味があるならそいつにでも聞くといい」

「僕の国もあんな感じなんだろうか。先に東方の国へ行くはずだったんだけど」

「久々の僕ちゃん登場か?――――――時折、素を出すが無理しなくていいんだぜ。普通に自然体にしてればいい。別に王族と話しているわけじゃねーんだ」

「あっ、いや、いいんだ。ほっといてくれ。別に僕は無理してない」

「そうかい」


(僕って言ってるぜ。まぁー、アジトの連中としゃべればもう【私】なんて気取っていられないだろうさ)


ガゼルは昔のある人物を思い出し少し懐かしむように微笑んだ。時宗はしばらくその隆起した大陸、西方の国を眺めていた――


 この隆起した大陸は謎が多い。いつ? なぜ? 隆起したのかは不明だ。いろいろな学者や探求家達がそれこそ様々な説を発表している。


 大陸の真下は、空洞になっていて長い年月をかけて大陸は沈んでいるのではないかと言う者。逆に大陸は少しずつまだ隆起し続けていて天空へと伸びつづけるのではないかと言う者。大陸の真下を掘り進めれば、地底世界が広がっているのではないかっていう者も。とにかく納得できそうなものから夢物語までいろいろあるのだ。それこそ神々の仕業だっていう者もいる。


 もっぱら、この隆起した大陸について調べているのが、西方の国【ヴィッドコンウェイ】の人間達である。この西方の国は、別名【魔法王国】と呼ばれており、この世界で最も人々が集まってくる国である。その目的地は主に王都である。

 自分の中の魔力の存在に気がついた者は必ず移住を求めてやってくる。また、自分の魔力の可能性を確かめるために来る者もおり、そんな魔法に秀でた人々でいっぱいなのだ。その魔法により様々な技術を発明し続けており、この世界では一番文明が発達している国といえるだろう。

 町には魔法を原動力としている道具にあふれている、それこそ外の世界から来たものは最初は夢の国ように映ることだろう。


 この西方の国【ヴィッドコンウェイ】は国王を頂点に、貴族という身分があり貴族達は国内に自分の領地を持つ、そして自分達の領地に暮らす領民の生活を支えているのだ。


 しかし、長い年月が経つにつれて貴族という高い身分を利用して、私利私欲のために領地を支配する輩も少なからずおり、決して安寧の国とは言えないのである。

 

 そのため、王は貴族達の領地での政策、行動などを監視し、悪事を起こす前に注意喚起し、事が起きた場合は領民を守るため、実力行使も許されている国王直轄の十人から成る部隊【モーゼの十戒】を組織したのである。


 その十人の詳しい素性もその戦力も含め極秘扱いとしていて、国内でも王を除いて二人しか知らないのであった。貴族達からは【十戒】と呼ばれて恐れられ、貴族達の戒めとなっている。


 実際、十戒により制裁が加えられて、没落した貴族は少なくない。その制裁を加える際に貴族が独自に抱えている騎士団や傭兵と戦闘になることもあるのだが、まず十戒に敵う者はいない。

 十戒の十人はそれぞれが卓越した実力を持つ者らしい。特に部隊の隊長は、別格であると言う噂がいつの間にか広がっている。


 とにかく十戒に関しての情報は皆無に等しいのだ。戦闘になれば、生存者は一人も残さないというのが十戒の唯一の掟なのだ。


 西方の国は、罪人を大陸から落とすいう刑が死刑の次に重い。

大陸の下は、魔獣も普通に住み着いている危険な場所でもあり、大陸から落とすと言うのは、国外追放と言う事になる。あとは、自力で生き延びろってことなんだろう。

 もちろん、普通の人々の入国希望者のための入り口(関所)は存在しており、厳しい審査の上、許可を得れば誰でも入国できるのである。


□□□


 馬車の車窓から眩しいくらいの真っ赤な光が差し込んでくる、時宗の顔に無遠慮に照らす光によって目が醒め、初めて自分が眠りに落ちていたことに気がつく。車窓に目を移すと、そこには美しい夕日があった。


「ふあっあーーーあっ、いつの間にか眠っちった。―――それにしても、きれいだぁ。これが昨日言っていた夕日か。確かに風景によって違った見え方で、とてもきれいだ」

 一つ大きなあくびをして時宗はこの世界の風景に感動していた。

「おっ!? 起きたか。捕らわれの身で居眠りとは気が緩んできたな。だいぶ慣れたんじゃないか」

 ガゼルが微笑む。


「そろそろ、アジトに着くぜ」


 馬車の進行方向を見るともうあの巨大に見えた大陸の壁は、目の前にあり大きすぎてもうなんだかよく分からない。ただの絶壁にしか見えなかった。


「うぅぅ~、やっとですか。随分とかかりましたね」時宗は、両腕を頭の上に上げて伸びをする。もう夕刻の時でお腹も減ってきた。


「ごはんは、アジトで頂けるんですか?」なんとも緊張感のない質問である。時宗は完全に気が緩んでしまっている。


「あぁーそうだな。ちゃんと食えるぜ。もっといいもんがな」ガゼルがニヤリと笑う。


 馬車は、しばらく隆起した大陸の側面を沿うように進んでいく。


 やがて、側面の壁に設置された松明で明かりを灯している箇所が見え始めた。入り口に二人の人影も見える。どうやらあそこがアジトらしい。

 側面の壁に空いてる横穴を拠点にしているようだった。四角い形をしている入り口にはちゃんと木製の両開きの扉が設置されている。その扉の手前まで来て、馬車は止まった。


「着いたぜ」


ガゼルは馬車から降りる。


 時宗も馬車から降りると、ちょうど前を走っていた馬車から元貴族達が降ろされているのが見えた。皆疲れきっているようだ。時宗もさすがに疲れていた。馬車に乗っているとはいえ、乗りっぱなしと言うのはさすがに疲れる。先に下りていたガゼルは仲間に指示を出して、元貴族達をどこかに移動させていた。


(あの人達は、これからどうなるんだろう。特に女性達と子供は気になってしまう)


しばらくして、外で突っ立ている時宗に、一人の男がやってきて言う。


「お前さんは、こっち。ガゼルが仲間に紹介したいんだとよ」

「紹介?仲間にですか?―――――分かりました。行きます」時宗は少し、違和感を覚えつつ、男の後について行った。


 時宗は、男の案内を受けて入り口の開いている扉からアジトに入り、ガゼルの待つ部屋に案内されるのであった。





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