第13話 王都ヴァリスと職探し -前編-
※第13話からしばらく主人公=時宗の一人称視点で書いていきます。
それは、昔絵本でみた光景そのままだった。人の多さは言うまでもないだろうけど、風景はついこの間までいた関所の街とは比較にならない。様々な形と色をした建物が所狭しと建ち並んでいる。現在立っている向きの正面、遠目に見える一際目立つ建物は教会だろう。一番上の尖った塔には大きな鐘が備え付けられているからなぁ。
さらに教会の後方の丘の上には王城が聳え立つ。その迫力は遠目でもしっかりと伝わってくる。あそこに王様がいると思うと、ドキドキしてくるな。そして、少し右に視線を動かすと横長の大きな四角い建物がある。あれは王立図書館だとイリスが教えてくれた。いろいろな書物があり、地下には古くから伝わる書物が大切に保管されているんだとか、そこには許可がないと入れないらしい。
イリスは、先に所属している近衛騎士団に帰還の報告をしないといけないらしく、王都に来てすぐに別れた。イリスからは一緒に来ない? と誘われたがなんかいきなり王城まで行くのは気が引けたので断った。町の中央広場にある噴水で2時間後に待ち合わせている。それまでは自由行動だ。
とは、言ったものの現在は、街の雰囲気に圧倒されて立ちすくんで周りを見渡しているところなのだ。
しかし、ここにきて本当に良かった。あのままじいちゃんと一緒に住んでいた集落で過ごしていたら、世界がこんなにも広いなんて知らなかったもんな。この光景だって一生知らないでいたんだし。
僕は、ガゼルさん達やドラゴンとの戦い、そして魔族アルシエル・ゲヘナとの戦いを思い返していた。改めて考えてみると、旅に出て数日間ですごい経験しているなぁ。それに……レオンさんとは――。
「よっ! 兄ちゃん。しけた面してんじゃねぇーよ」
いきなり誰かに背中を叩かれた。
「・・・・だ、誰ですか?」
「ははは、俺はあそこで焼き菓子を作って売っているんだ。どうよ? そんなしけた面してないで、俺の菓子を食ってみないか?」
焼き菓子? お菓子かぁ。しかし、このおじさんは焼き菓子を作るような人間には見えないな。
「なんだ!? その顔は疑っているのか? こっちこいよ。1個試食させてやるよ。うまいぞ~俺の焼き菓子は」
試食って事は無料で食べられるってことかな。まぁ、行ってやらんでもないな。うん。本当におじさんが作っているのか確かめないとな。
「それじゃ、お言葉に甘えて」
僕はおじさんの後についていき、露店と言うらしいが、道の隅に構えているお店まで来た。すると、おじさんは手際よく菓子の元なのか、何かをこねて丸めて油に投入して、揚げ出した。本当に作っていたんだ。人は見かけによらないな。あんな強面の顔なのに。
「ほらよ! できたぞ。焼き立てだぞ。食いな」
「あ、ありがとう」
しかし、これ焼き菓子というか正確には揚げ菓子って言うんじゃないの? よく知らないけど。と思いつつ、僕はもらった菓子を口に頬張る。さすがに揚げ立ては、熱い。口を縦長に開けて空気を出し入れしながら食べた。
「うぐ。ほっ、もぐもぐもぐ。ほっ」ごくり。うん。うまいな、これ。
「どうよ? 美味いだろ?」
「はい。美味いです。すごく」
その後、5個入りで500ヴィッド(銅貨5枚)でいいから買ってくれと言われたが、今はお金がないと言って、また今度買いに来ると行って僕は足早に去った。
そうなのだ、王都に来たのに僕はお金を持っていない。ここでしばらくは生活してみようと思っているのだ。お金の稼ぎ方を調べないといけないのだ。イリスに借りているお金もちゃんと早いうちに返さないといけないしな。
と言うことで、僕はブラブラと王都を歩いてお金の稼ぎ方を模索することに決めたのだ。1時間もあるけど考えながらブラブラしていればあっという間に時間は過ぎるだろうさ。
王都を歩いていて、僕の目を引いたのは、物を配達をする人だった。駆け足でいろいろな建物に入っては物を渡して、なにか紙をもらっていた。たぶんあれも仕事だろう。しかも僕にでもできそうな仕事と見た。
配達の人が背負っているカバンを見ると、そこには猫の手みたいなマークがついていた。そして、街をブラブラ歩いて待ち合わせの中央広場の噴水に向かう途中で僕はそれを見つけてしまった。
「あ、あのマークだ!? ねこのてしょうかい? 猫の手商会」
見つけたその建物は、見上げるほど高く。窓が縦に6個並んでいたので、おそらく6階建てだろう。大きいな。先程からさっき見かけた配達の人らしき人達がちょくちょくとその建物に出入りしている。それに様々な装備品を身につけた人達も出入りしている。なんだろう? と、その建物から意外な人物が出てきた。
「あ、イリス!?」
イリスが僕の声を聞いてこちらを見た。すると不敵な笑みを見せてこちらに駆け足で近づいてくる。
「トキムネじゃない。ここで会うなんて奇遇ね。町は十分に観て周ったの?」
「あぁ、いろいろ観てきたよ。どれも初めて見る物ばかりで楽しかったよ」
「それはよかったわ」
「で、イリスはなんでココから出てきたの? 報告は終わったの?」
「えぇ、報告は意外と短く済んだわ。ココにはね。あんたを紹介しにきていたの」
「紹介?」
「そそ、あんた。お金ないでしょう。稼ぎ口を見つけないとさ。宿にも泊まれないじゃない」
「え、この猫の手商会で働けるって事?」
「まぁそれを頼みに来たのよ。そしたら、明日会長がいるから明日来いってさ。会長が認めたら、従業員にしてやるって言ってたわ」
「なんか、気が効くね。助かるよ。ありがとう」
「まぁね。あたしも会長に紹介したかったの。強い奴を見つけたってね」
イリスがそう言って片方の目を閉じて見せた。なんか機嫌がよさそうだな。それに強い奴って、ここってどんな仕事をするところなの?
「明日来てのお楽しみってね。今日は私が宿代出してあげるわ。大丈夫あんたなら、すぐにお金を沢山稼げるに違いないわ。あたしが断言してあげる!」
イリスは膨らみのある胸を張った。僕は一瞬その突き出された胸を見てしまったので、視線をすぐに逸らす。自分に灯った邪な気持ちを祓う。イリスが初めて接した女の子だからなのか妙に身体に興味が沸いてくる。これはやばい。いかん。修行が足りんぞ、時宗。
「宿も見つけてあるから案内するわ。今日はゆっくり休みなさい」
「いろいろありがとう。世話になってばかりだな。早いうちにお礼をするから」
「あら、そう? 楽しみにしてるわ!」
それから、イリスに今晩の寝床である宿屋に案内されて、僕はそこで一晩を明かすことにする。イリスは、王城の隣にある近衛騎士団の寄宿舎がありそこで暮らしているらしい。なんでも個室が与えられているとか。成績上位三名は待遇が良いらしい。ってことは、他にイリスみたいに強い同年代の人がいるってことだよな。
さすが、王都だ。しかも近衛騎士団は当然候補生よりも強い。世界は広いな。この世界で頂点に立つ強者っているのかな。会ってみたいもんだ。
そんな事を思いながら、寝床に就く。しかしこの宿屋少し豪華じゃないか。ベッドがふかふかだ。っていうか、思い出したぞ。イリスってどうやってお金稼いでいるんだ? 近衛騎士団の候補生って聞いただけで答えてもらってないや。……まぁいいけど。明日にでももう一度聞こう。もしかしたら、候補生ってだけでお金を貰えているのかもしれない。うん、王都ならありえるかもしれん。
□□□
翌朝。
朝一番に僕はイリスと共に例の『猫の手商会』に出向いていた。
今は、その待合室で会長との面談を待っているところである。しかし商会って名前なのだからきっと商売なんだろうな。どんな商売しているのか想像がつかないぞ。
待合室は一つの四角いテーブル(大理石製)をはさんだ形で向かい合わせにソファーが置いてあり、その異常なまでにフカフカのソファーにお尻を深く沈ませて待っているところである。壁には絵画が飾ってあったり、窓際にはいろいろは花が置いてある。いろいろと部屋中をキョロキョロ見渡していると、
「そう、緊張しないでいいわよ。会長と言っても名ばかりの奴だから」
「奴って!? そんな言い方して良いの? 会長だろ?」
「いいの。いいの。トキムネも会えば分かるわ」
「そうなのか?」
すると、ノックも何もなく、勢い良くドアが開かれた。
「おまたせしたニャ!! 待ったか? これでも急いできたんだ! ってイリス、久しぶりだニャ~~。元気してたか? 今日はニャんでも私に紹介したい奴がいるって聞いているぞ! どこのどいつだ? どこにいる?ってそこニィいたか。ニャるほど、男だニャ。いいニェ。若いじゃにゃいの」
「相変わらず、にゃにゃとたくさん喋るわね」
「・・・・」
な、なんだ? 猫? 猫族?
頭に耳は生えてない。が、普通に顔の横にある耳が毛むくじゃらで尖っている。それに尻尾がさっきからブンブン振り回されている。
「ネフェルさん、紹介するわね。こちらがトキムネ。貴方の新しい手にあたしが推薦するわ。で、トキムネ。こちらが会長のネフェルさん」
「ニャは! 私がニェフェルだ! 初めまして」
ニェ? ネ? どっち? ニェフェルさん?で合ってるのか。
「よろしくお願いします。ニェフェルさん。時宗です」
「ちがう! ニェフェルだ。ニェフェル!」
「あ~違う違う。ネフェルさんね。彼女、猫科の獣人で、ナ行が正しく発音できないのよ。だから自分の名前も正しく発音できないと言う可哀相な人なの」
どうやら、ネフェルさんで正しいらしい。イリスの説明で理解した。なんかネフェルさんは不機嫌そうな表情に変わっているが。
「ニャ行が言えニャいとか。バカにするニャよ。それは差別発言と言うものだ!」
「そうかしら? 事実を説明してあげたんだけど」
「ふん! 最近依頼の方はどうした? またサボって修行の旅か? お気楽娘」
「ふふん。後でゆっくり話してあげるわよ。ドラゴン退治のは・な・し!」
「ニャんと! ドラゴンと殺り合ったのか?」
イリスはどうだとばかりに鼻高々にネフェルさんを見る。そんなイリスをネフェルさんは驚いたように見下ろす。そう、ネフェルさんは背が高い。なんかイメージと合わないが、僕やイリスよりも頭一つ分以上は高いと思う。しかもよくみると、四肢は獣のそれと同様毛むくじゃらで、触るとフカフカして気持ちよさそうである。
「おい! トキムニェとか言ったニャ。私の毛ニャみをみているが触ったら殺すぞ!」
うっ! なんかネフェルさんの目が急に猫目になってこわい。っていうか、僕の名前もナ行が入っているから言えないのか。
「すみません。すごく良い毛並みだったもので」
「ふふん! わかるか。トキムニェ! 私達キャットピープルは毛にゃみが誇りニャのだよ」
ネフェルさんは自分の腕の毛を撫でながら誇らしげな表情を見せた。
□□
「で、トキムニェはここで働きたいって事だな」
昨日、イリスが紹介してくれていたので面談の目的ははっきりしていた。僕の人となりを見て、働かせてもらえるかどうか決めてもらうのだ。イリスはネフェルさんにドラゴン退治の話をしながら、僕が果敢に戦ったことを少々盛って話していた。それを黙って頷きながら聞いていたネフェルさんの表情が急に鋭く大真面目な表情に変わった。
「ほほ~ん。その魔族は、アルシエル・ゲヘニャって名乗ったのか」
「え、ええ、そうね。そう名乗っていたわ」
「・・・・にゃるほどにゃ」
イリスが少し真顔になっているネフェルに緊張した感じで返答したら、ネフェルさんはなにやら考え事をしているようにそれ以降黙ってしまった。――今のネフェルさんの雰囲気は、すごくピリピリしていたけど、『ナ』が言えていなかったのを聞くと、緊張感が解れそうになってしまう。
ネフェルさんは、シリアスな語り口調の時は個性が災いするな。
「少し気ニィニャるニャ。……滅多に表舞台に姿を見せないあいつがなぜワザワザ初めて会う、しかも雑魚共に自分の名を名乗ったりした?」
「そんなの知らないわよ。それに名乗ったのは主にトキムネに対してじゃない?」
「ふふーん。トキムニェ!」
「はい!?」
「お前、東方の国のさらにぃ東の果てから来たってのは本当か?」
僕は頷く、でも龍人族とはまだ言わない。初めて会う人だし、イリスが紹介してくれた人だけど、信用できるかどうかもわかないしな。
「ふ~ん」
ネフェルさんは意味ありげに僕を見つめてくる。なんか、種族もバレそうな予感がしてきたな。僕は思わず目を逸らしてしまう。
「ふふ~ん。分かりやすいニェ。お前。……まぁ、いいよ。それより、トキムニェには一つ実技試験を受けて貰うよ。――お~い、入ってきてくれ」
ネフェルさんがそう言うと、部屋の扉が開かれてもう一人、今度は男性が部屋に入ってきた。その人は、黒髪に黒い瞳。服装こそ軽装の西方っぽい服を着ていたが明らかに東方の国の人だと分かった。
なぜなら、腰に刀を下げていたからだ。
余り間が空いてしまうのもどうかと思って、前後編に分けて投稿することにしました。
普通に1万字超えちゃったので。




