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龍戦記 ~龍を従える者~  作者: 龍神静人
第2章 青年期 ―胎動編―
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第10話 暗躍する者たち。の裏で


 ここは、西方の国『ヴィッドコンウェイ』にある都『ヴァリス』。現在の王の名である『カディオス・ヴァリス』から名づけられた西方の国の王都である。太陽が沈み、月明かりが世界を支配し始めた頃、とある場所にひっそりと建てられた館の一室の扉が叩かれた。


「□□□□様、ご子息がお戻りになられました。面会をご希望ですが、如何致しましょうか?」

「・・・通せ」


 女中が報告をしてくると、その低い声で発せられた言葉だけで貫禄を感じさせる男性が連れてくるように促す。そして、その男性が大きく溜息を吐くと同時にノックもせず急に扉が開かれた。


「おやじ!行ってきたぞ!・・・ったく、人使いが荒いぜまったく」


 その言葉使いだけで、粗暴な性格であるとすぐに分かってしまうその若い男性は、30歳前半であろう。ある程度の人生経験を積んできた事を窺わせる雰囲気を出していた。


「自業自得であろう、元はといえば貴様が15年前に集落を全滅させなければこんな手間をかける必要はなかったのだからな」

「ちっ!まだ根に持っているのかよ。年寄りはいつもまでも昔の事を掘り起こして話したがる。悪かったって謝っただろうがよ!どんだけ根に持つんだよ」

「それはそうであろう。あれさえなければ、とっくに世界はワシの物になっていたはずなのだからな!」

「ちっ!そうかよ!」

「で、どうであった? 何か見つけてきたか?」

「収穫はあるっちゃーあるがよ。目的のヤツの姿はなかった。ただ、遺跡の中の大広間によ。激しくやりあった戦闘の跡はあったな」

「ふむ。。。やはりまだ生き残ってはいるのだな。この魔道具に一瞬反応した時は、驚いたが、ちゃんと機能はしているようだな」

「なぁ、それって誰からもらったんだよ? なんかすげぇ高値で売れそうな感じだよな」

「お前が知る必要はない。これはお前なんぞより大切なものだ」

「ちっ!―――あ、そうそう、当初の目的だった、東方の国だがよ。あそこはやべぇな」

「なにがだ?」

「あそこの国の連中は、かなりの手練れ揃いだ。おれの相棒のドラゴンでも危ねえな。偵察がてらに国の周りをうろちょろしてたらよ。すぐに見つかって戦闘になったんだが、化け物揃いだぜ。えーと、カタナだったか、ドラゴンの皮膚すらも簡単に斬りやがる。俺の判断が遅かったらドラゴンの首が刎ねられてたかもしれないな」

「まぁ、あそこは魔法というものがないからな。それゆえ、剣術に長けた者たちが大勢いる。お前なんぞ相手にもならん輩がうじゃうじゃいるわ。特にカタナは、あやつらが扱う最も危険な武器だ」

「んだよ! そういう所に俺を行かせるなよ。死ぬ思いで逃げてきたんだぜ。そんで、途中でいきなり【迷い人の森の遺跡】を捜索しろとか、勝手な事言いやがって」

「ふん、お前の唯一の取柄は、そのドラゴンを使役している事。それを有効活用してやっているんだ。感謝せい」


 そう言われて、息子は父親を睨む。その目は、もはや親を見る目とは異なる。その視線には殺気すら感じるほど、憎悪に満ちていた。


「やっと長い年月をかけて発見した龍人族だ。どんな手を使ってでも生け捕りにするんだ。邪神の力を手に入れるのはワシだからな。ふはははは」


 その父親は、自らの野望を果そうと欲にまみれた表情を浮かべて笑う。


(ふふふ・・・待っておれよ。カディオス、貴様の首、このワシが取ってやる)


 この王都の中で王の首を狙っている者がいるとは、誰も知る由もなく、夜が更けていくのであった。


□□□□□□□□□□□□


「う・・・ぅぅぅん」


 時宗は目を覚ます。最初はぼやけていた視界であったが、すぐにくっきりと物が見えてくる。

目の前に見知らぬ天井があった。


 それは真っ白で綺麗な天井で、何か壁画が描かれている。不意に横から心地の良い風が吹いてきたのを肌で感じる。時宗はゆっくりと顔だけを横に向けると大きな両開きの窓が開いており、部屋の中に風を誘い込んでいる。薄く透けている布のカーテンが風に吹かれてヒラヒラと舞っている。


(ここは・・・どこだろう?)

(たしか・・・遺跡に行って・・・・・ドラゴンと・・・きょ・・じん)

(っ!!)


 時宗は思い出したかのように勢い良く上半身を起き上がらせた。


(そうだ!巨人。あいつはどうなった。イリスたちは・・・どこだ)


 時宗は顔を左右に振り、辺りを見回す。


 天井と同じく壁も真っ白で、時宗は自分がベッドに寝かされていたことに気がつく。周りには同じベッドがいくつも綺麗に並べられてある。が、人は一人もいない。それぞれのベッドの脇には花が生けてあった。


(ガゼルさんのアジトではないな。いったいどこなんだ?)


 すると、外で奏でられている様々な音を乗せて一際大きな風が窓から入ってきた。


(ひ、人の声? 楽器のような音も聞こえる。なんか、賑やかだな)


 時宗はベッドから起き上がり、窓の方へ歩いていき、両手を下について身を乗り出して窓の外を見る。すると、


「えっ!?――――ま、街?」


 窓の外、そこから見えたのは、所狭しと建ち並ぶ沢山の建物。そして、下を見れば、様々な格好をした人々が歩いている。街路の端っこには露店が並び、いろいろなものが売られている。


 買い物をしている女性。子供達が通りを駆けていく。屈強そうな男の人もいる。街路の隅には、人だかりができており、なにやら楽器を演奏して道行く人に音楽を聞かせている。まるでお祭りみたいな光景であった。時宗は初めて見る街の様子に心がざわつく。居ても立ってもいられない。


「こ、これが街! 人が沢山いる! みんな笑顔で楽しそうだ。僕も外に行きたい!」


 時宗は体の向きを180度反転して、歩き出す。


「街だ! 街! 夢みたいだ! ははっ!!」


 うれしそうに部屋の扉を開けると、


「きゃっ!」


 ちょうど、部屋に入ってこようとした女性とぶつかりそうになった。


「あっ!ごめんなさい。大丈夫ですか?」


 時宗は、女性がよろめいたので、手を差し出す仕草をした。


「ト、トキムネ! 目を覚ましたのね!」


 その女性は、差し出した手をしっかりと掴み、時宗の顔をじっと見つめる。


「ぬあっ! え、だ。。だれ?」

「はあ!? あんた、あたしを忘れたの? イリスよ。イリス! ア・イ・リ・ス!」

「え!?イリス?……だって――」


 時宗は女性の姿をよく見る。肩に触れそうなまでに伸びた髪の毛は、金色で毛先が刎ねている。服は薄い桃色のワンピースに白いサンダル。それに白い透き通るような肌。細く伸びた肢体はこれが女性だと主張しているようであった。


(顔は、似てるけど。こんな美人さんだったっけ?なんか、魔族に殴りかかっていた記憶が鮮明に残っているから、悪いけど全然同一人物に見えなかった)


「な、なによ。あんた、本気で分からないとか言わないでしょうね」


 イリスが時宗を睨む。


「え? あ、――いや、イリスだね。うん。やぁ、イリス。おはよう」

「おはようじゃないわよ。もうお昼をとっくに過ぎているのよ! っていうか、あんたは3日間も眠ってたんだからね。心配したんだから!」

「え、3日間も!本当に」

「そうよ。だから念のため国にある診療所で診て貰っていたのよ。もう~」

「そうだったのか。・・・心配してくれてありがとう」

「え!? し、心配なんてしてないわよ。バカ!!念のため、医師に診てもらっただけ、私もこの街に用があったし、ついでよ。ついで」

「え? さっき心配してたって・・・怒ってたと思うけど」

「お、怒ってないし、言ってないし。あんた頭打ってボケてんじゃない」


 時宗には確かに聞こえていたのだが、なんでそこまで否定しているのかイリスの方がボケてるんじゃないかと思わざる得なかった。


(自分ではっきり言ってたんだけど。……まぁ、いいや)


「ちょっと、あたし先生呼んでくるから、少しベッドで横になって待ってて」

「あぁ、分かった。で、ココって西方の国なんだよね?」

「そうよ。その関所がある町ね。じゃあ、呼んで来るから待っているのよ!」イリスは、そういって病室から出ていった。


 時宗はベッドで寝て待っていろとは言われたが、外の様子が気になっていたので、窓から外の様子を眺めならが待っていた。


□□


 先生曰く、全然問題ないって事だった。それを聞くなり、時宗は外に向かおうとしたが、イリスに止められて、せめて服装をなんとかするようにと言われたのであった。


「でも、最初に着ていた服は、ガゼルのアジトに置きっぱなしだしな」

「それ、あたしが持ってきたわよ。あんたの唯一の服だって聞いたからね。はい」


 アイリスは、時宗に旅装束を渡した。しかし洗ってあるとはいえ、布の端々が解れており、汚れの染みも目立っていた。


「でも、それを着て街を歩くのってどうなのかしら。言っちゃ悪いけどかなりみすぼらしいわよ。それ」

「そんなこと言ったって、これしかないしな。ガゼルさんから貰ったイリスの鎧はボロボロでもう使えなし・・・」

「え?なに?あたしの鎧?・・・・ボロボロって何のこと?」

「え? あ、いや。。。。違った。その・・イリスの着てたやつもボロボロだよねって事・・・・」

「・・・・まぁーそうね、結構激しい戦いだったものね」

「ねぇ、イリス。街で布生地とか売っているのかな?」

「売っているわよ。なんで?」

「悪いけど、それを買ってきてくれたら、それを使って自分で服作るよ」

「え、時宗、自分で服作れるの?」

「あ、そんな大層な物ではなくって、東方でいう簡単な袴みたいなものだよ」

「へぇー、なんか凄く興味があるわ!――わかった。買ってきてあげる。ふん?」


 と、アイリスは手の平を見せて、時宗の目の前に手を差し出す。


「?」

「ふん?」

「な、なに?」アイリスが目を細めて、時宗を見つめる。

「お・か・ね!!お金がないと買えないのよ」

「あ、ごめん。お金はない」

「・・・・まぁ、そうだと思ったけどね。お金持ってそうに見えないものね。いいわ。あたしが買ってあげる。言っておくけど、これ貸しだからね!今度何でも言う事を聞いてもらいますからね」


 アイリスがにたりと笑う。


「何でも言うこと聞くって、そんな大きな借りになるのか?」

「当然よ!」


 時宗は納得しかねたが、ココまで面倒見てもらったお礼もしていないし、当然かなっと思い、アイリスに欲しい布の形状と大きさを伝えて頼んだ。


「じゃ、ちょっと待っててね。すぐ戻ってくるから」


 そういってアイリスは、来ているワンピースをはためかせて、部屋を出て行った。


「う~ん、人は見かけに寄らないってじいちゃんが言っていたことがあるけど、イリスは普段の姿が、戦闘時とは別人だなぁ~」


 そんな事をぼやきつつ、時宗はアイリスの帰りを待ったのであった。


□□□□


 ここは、まだ魔族以外には誰にも知られていない場所。とある大陸の地下深く下りた場所。そこは魔の気配で満ちており、完全な闇が支配している世界。そこに一人の魔族、アルシエル・ゲヘナが帰還したところであった。


「さてさて、今回の出来事を何処までお伝えしましょうかね。バカ正直に全部説明する気には到底なりませんね。ふふふ」


 アルシエルは、王の間へ向かう途中で考えていた。今回のドラゴンの邪竜化の計画は失敗したが、それ以上に収穫があったのだ。滅んだとされていた龍人族の末裔の生き残り、あの力の発現と自己修復力から判断しても間違いないだろうとアルシエルは思っている。


「あの龍人族の青年の事は伏せておきましょうかね。せっかく見つけたんですから。この私が久しぶりにまた遊びたいと思った方です。すぐに報告して、彼らが知ったら容赦なく、あの青年を半殺しにして、生贄として捕まえてしまいますからね」


「まぁ黙っていても、彼らに知られるのは時間の問題ではありますが、少しは遊べる猶予はあるはずです。ふふふ、近いうちにまた会いましょうね。たしか・・トキムネって呼ばれてましたね。今度は敬意を表してちゃんと名前で呼んであげましょう」


 そう言いながら、王の間に到着したアルシエルは、目の前の大きく重厚な両開きの扉を開けて中に入る。


「アルシエル・ゲヘナ。ただいま戻りましたよーーー」


 アルシエルは一礼して、その場に立っている。目の前には4人の人影が椅子に座っている。椅子は円の弧を描く形で配置されており、5つある内の4つが埋まっており、ちょうど中央の席が空席である。なぜならそこの席はアルシエルの席だからだ。


「お待たせして、すみませんね。でわ報告会を始めましょうか」

「まずは座ったらどうだ。アルシエル」

「ま、そうですね。ですけど、私、そこの中央の席って余り好きではないのですよね。なんか、偉そうな感じじゃないですか」

「いつもと同じ台詞は聞き飽きたわ。いいから座りなさいよ。ゲヘナ」

「む、その呼ばれ方も好きではないんですよ。ガリオナ・リゼル」

「わざとらしく、フルネームで呼ぶんじゃないわよ。私へのあてつけかしら」

「いえいえ、そんなつもりは。ふふ」

「お決まりの問答はもういい。報告しろ、アルシエル」

「はいはい。でわ――――」


 アルシエルは、仲間たちに今回の計画の失敗と、予期せぬ戦闘について報告した。もちろん、龍人族の青年の存在は伏せたまま。


□□□□□□□□


「なんで、隠してたのよ!」

「いや、イリスに教えるタイミングなんてなかったでしょ!」

(戦闘中に教える事でもないし。何言っているのさ)

「でも、凄いわ!あっという間に着物みたいな服が出来上がったわね。ねぇ、これ、あたしのも作って欲しいな」

「べ、別にいいけど。また今度ね」

「えぇ、いいわ。約束よ」


 時宗は、イリスが買ってきた布の生地で、手際よく上衣と下衣を作り、下衣をズボンのように穿いて、膝からくるぶしにかけて、細長い布を巻きつける。

 

 上衣を羽織ると、左手側の襟が右側の上に重なるように合わせて、帯の変わりに厚手の長い布を腰に巻きつける。東方の国では御馴染みの野袴のような格好になった。


「似合っているわよ。トキムネ!それに動きやすそうだし、いい出来じゃない」

「あ、ありがとう」


 最初に着ていた服よりもいい物ができたと時宗も思う。簡素なお手製の服だが、街を出歩く分には十分であった。


「初めての街で興奮気味だったけど、服を作ってたら少し落ち着いたよ。それで、あの戦いの後の事を教えて欲しいんだけど。みんなは無事なんだよね?」

「えぇ、もちろんよ。トキムネのおかげよ。ありがとう。それに、ドラゴンがレオンの遺体もあんたと一緒に運んでくれたから、あの遺跡の近くにお墓を作ったの」

「そっか、あの四精のドラゴンが・・・。レオンさんもちゃんと一緒に帰れたんだね。今度お墓参りに行かないと」

「そうね。国から下りるのに少し手続きが必要だけど、近いうちに行きましょう」

「で、いきなりこんな事言いづらいんだけど、せっかくだし、外の街を見て周りたいんだけど。いいかな? できれば、イリスに案内して欲しい」

「えぇ、もちろん。あんただけだったら、迷って帰ってこれないでしょ。それに宿も取ってあるから、今夜からはそこで寝食をすることになるわ」

「なんか、本当に何から何までありがとう。イリス。感謝してるよ」

「な、何よ。急に。いいから行くわよ。初めて見る街に驚き過ぎて腰抜かさないでよね!」


 イリスは、そういって顔を赤らめた後に笑って、時宗の手をとって引っ張り、一緒に病室から出て、街に向かう。


(やっぱり、女の子の手は柔らかいなぁ)と時宗はいつぞやと同じ事を思ってしまうのであった。。


 時宗も生まれて初めての街を見て周れる事にワクワクしていた。初めて見る人々が営む街の光景。時宗は心の中で、じいちゃんと一緒に来たかったなと思うのであった。



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