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龍戦記 ~龍を従える者~  作者: 龍神静人
第1章 青年期 ―邂逅編―
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第9話 終わる試練

 

「まぁ、そうでしょうね」


アルシエルが呟く。そして、後ろに大きく転移魔法で移動する。ドラゴンから放たれた炎は、時宗の身体の上を通過して、アルシエルの方へ向った。


「うっ・・・・!?」


 時宗の身体は炎の熱で焼かれる。と思いきや、熱くない。すぐ上を通過しているにも関わらず、熱を感じない事に一体何が起きているのかと時宗は不思議に思う。


「なっ!?あ、あれは。聖火!?」


 炎の影響を受けていない時宗を見てジルが驚く。聖火。邪悪なモノを焼き祓うという火。対魔族となると絶大な効果を発揮する力である。しかし、それを扱える者は現在においては存在しない。なぜドラゴンが? と疑問が生じているジルにスレインがその疑問を消す。


「いえ、ジル。あれは聖火ではありませんよ。聖火であれば無色透明むしろ白に近いはずです。あれは、似て非なるものですね」


 スレインは、そう言いながらもアレが何なのかはっきりと断定できないでいた。一つ思い当たるモノがあるが、それをドラゴンが放つなど考えられなかった。


「また厄介なものを放つものです」


 追尾してくる炎を見て、そう言い放つと、何やら詠唱を唱えるように囁いて、自身の前に何枚も重なる様に魔法陣を形成して、炎から身を守ろうとする。が、ガラスが砕けたような甲高い音が響いた。炎は、手前の魔法陣から順番に砕きつつその進行の勢いを弱めることなく、1枚また1枚と魔法陣を砕き、アルシエルへと向っていく。


「これは!?――――なにっ!光焔だというのかっ!」


 珍しく大きな驚きをしたアルシエルは、初めて焦りを表情を見せ、すばやく詠唱を行う。


《我が命に従い、集え。最奥に眠りし偉大なる闇の炎よ。我の前に存在し、聖なる光を覆いい尽くせ!》


 と、言い終わると同時に、アルシエルの頭上に円を描く紫色の炎が出現し、一瞬にして円の中心に向って紫色の炎が収束する。小石程度に圧縮された球体が、魔法陣を砕きながら進んでくる光焔に向って放たれた。そして、触れた瞬間にその小さな球体に瞬く間に吸い込まれ、光焔が掻き消えた。


 アルシエルは、一つ息を大きく吐いてから今の魔法でかなりの魔力を消耗したことを実感する。光焔。火属性と光属性の混合魔法で最強クラスの熱量と輝きを有する魔法である。ありとあらゆる闇を打ち滅ぼす魔法。特徴的なのは人間には無害であること。闇に属するモノのみが甚大な被害を受ける魔法である。


「あのドラゴン・・・・まさか森の守護竜ですか。どういった経緯で位を上げたのでしょうか。ふふふ、あの青年といい、四精のドラゴンにして守護竜ですか。今日は本当に運が良いですね」

「グルルゥゥゥ」

『ふむ、我のとっておきの炎で消滅させてやろうと思ったが、できなんだか』


 時宗を守るように立っているドラゴンは低い唸り声を発した。また同時に時宗には残念そうに発した言葉も聞こえた。


(ぼ・・僕を助けたのか?)

『我の呪術を解いてくれたのでな。その礼だ。それに奴には我を呪った償いをさせなければならんでな』

(う・・ドラゴンっていうのは喋れるんだな。・・・さっきの喋っていた子とは違うんだろ?)

『当然。あれは、我に住み憑いている妖精だ。うるさくて敵わんのだが。それよりも―――』

(あ、あんた!なにふつうに しゃべっているのよ! ずがたかいわよ!)

(そうよ、そうよ)

(ランドアールヴァルさま、こんなよわっちいやつをたすけなくてもよかったのに)

『煩い。黙っておれ。我が話してみたいと思ったのだ。―――それよりもお前のその回復の早さといい、その目の輝きといい、龍の血を継ぐ者―――龍人族か?』

(・・・・・)

『ふむ。その無言で我は確信したぞ。お前達はいつの時代も種族を聞かれると黙る―――っと、おしゃべりが過ぎたな。お前はそこにいろ』


 ドラゴンが時宗から離れ、アルシエルの方へと動き出す。


「ここまで、珍しい面子がそろうと、この戦いは何か必然的なモノを感じたくなりますね」


 アルシエルはこちらに歩いてくるドラゴンを見ながら呟く。そして、足元には巨大な魔法陣が形成されていた。大きさは先程までのものとは比較にならないほど大きい。


「儀式は台無しにされてしまいましたが、彼の確認もできましたし、十分な成果ですのでそろそろお別れです。これは私と遊んでくれたお礼です。受け取ってください」


 魔法陣が大きく輝きを放ち、そこから巨大な影が姿を現し始めた。



■■■



「く、くそ、まだ身体が思うように動かない」


 時宗の裂傷は全て塞がっている。流れ出ていた血も止まっているが、あの強烈な重力魔法の一撃で受けた鈍痛がまだ抜けない。とそこへ、


「トキムネ!大丈夫!?」アイリスたちが駆け寄って来た。

「今、治癒魔法をかけてあげる」


 アイリスはそう言って、時宗のすでに塞がりかけている裂傷を見て一瞬驚くが、表情には出さずに、時宗に治癒魔法をかける。感じていた鈍痛が治まり、立ち上がる時宗。


「ありがとう。助かったよ」

「時宗。その・・傷口が塞がっていたようだが・・・・」


 スレインが言いにくそうに聞いてきた。当然な事だが、こんな短時間で裂傷が塞がるなんて事はありえない。これは時宗が普通の人間とは異なる事を意味しているのだ。


「・・・・すみません。以前ガゼルさんにも言われましたが、戦いが終わったらちゃんと説明します」

「あぁ、おれはもう余りこだわってねぇがな。魔族が出てきた以上、お前がどんな種族でもおどろかねぇーよ」


 ガゼルは言いたくないのなら、無理に言わなくてもいい様なそんな表情をしていた。アイリスも肩をすくめて、興味なさそうな表情をする。


「・・・あのドラゴンが庇うとはな。そっちの方が驚きだ」ジルがドラゴンの方を見て不思議そうに言った。と、その時、アルシエルの足元で魔法陣が発動し、輝きを放ちながら何かが出現している様子が見えた。


「・・・しょ・・・・召還魔法! な、何を召還しようとしている」


 ジルが目を大きく見開き、出現してくる影を凝視している。時宗は初めて聞く言葉によく意味が分からないでいたが、アルシエルが何かを呼び出した事は分かった。その巨大な影は人型に見えたのである。


「ちょっと、あれって・・・グ、グレンデルじゃない!?」


 アイリスが出現する人影を見て、そういった。グレンデル。巨人の怪物。体長4メートルを超える全身毛むくじゃらで猿人のような姿をしている。その姿は醜く、性格も凶暴である。魔界の住人とされておりその膂力は、同じ巨人種の中では最強クラスといわれている。


「おいおい、冗談きついぜ、グレンデルなんて、周りの生きる者全てを殺し尽くさないと止まらない殺人狂の化け物だぜ」


 ガゼルの表情がだんだんと強張りだした。

 スレインもジルもその表情からは完全に余裕がなくなる。


「そんなにやばい奴なんですか。。」


 時宗が相手の脅威を確認する。


「やばいな。万全の俺らであれば何とか倒せるが、今のこの状態ではあっさり殺されるだろうよ。なぁ、ジル。お前、魔力は少しは回復したのか?」

「いや、まだだ。・・・火炎魔法ぐらいなら2回は使えるか」

「火炎魔法じゃ、あいつの体毛をチリチリにしてやるぐらいだな。あの身体で完全な火の耐性があるってんだから、おかしいよな」

「物理攻撃が最も有効って事ですか」


 さらに時宗が問う。


「まぁそうだが、あいつの身体はそうそう切り裂くのは難しいぜ。俺が万全なら殴り倒すんだがな」

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 凄まじい殺気を乗せた咆哮が大広間に響き渡る。グレンデルがその全貌を現した。視線はすでに時宗達に向いている。すでに獲物は決まっているのだ。


「さぁ、私の置き土産です。存分に楽しんでください。ちなみに私が普通に召還した化け物でも、通常の1.5倍増しの強さですよ」


 アルシエルが不敵な笑みを見せてからお辞儀をする。


「では、さようなら。―――そうそう、キミにはまた会う事になりますので、よろしく」


 そういうと、アルシエルは転移魔法を使い、一瞬で姿を消して、どこかに行ってしまった。


「あっ!あいつ。くそ!逃げたのか!!―――くっそ~~~!」


 時宗はレオンの仇であるアルシエルが姿を消したことに強い憤りを感じた。しかし、今はそれどころではないのだ。


「時宗! あいつはもういい。それより今は目の前の奴に集中しろ」

「くっ」


 時宗は悔しい気持ちを抑え、目の前に集中する。依然すさまじい殺気がこちらに向いている。いや、むしろ時宗のみに向けられていた。


「ガゼルさん達は離れていてください。僕があいつの気をひきつけます。その隙に遺跡から撤退してください」

「なにを言ってやがる!おまえ、ひと――」

「皆さん、戦える状態じゃないでしょ!!! イリスも救い出せました。もう目的は果してます。あとは脱出するだけです!」


 ガゼルの反対意見を抑えるように時宗は矢継ぎ早に言う。


「僕とドラゴンで足止めしておきますから、行ってください! あとで、僕も逃げます。大丈夫です。僕もドラゴンをうまく囮にして逃げますから」

『・・・・・』

「グルルゥゥ」


 そう言うと、時宗は巨人に向かって疾走する。


 自身に突き刺さる殺気・・・おそらくガゼル達が逃げなくても攻撃されるのは自分だけだと思う程に強く鋭い、おそらくアルシエルの指示なのかもしれない。と時宗は思う。ただ、ガゼル達の状態を考えれば、自分が囮になって逃げられるようにするのが、自分の今できる唯一の良策だと思ったのだ。


「ぐおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 グレンデルが向かってくる時宗に対して咆える。


そして――。


■■



「あ、あいつ・・・今、お前の事をイリスって呼んだぞ」

「なによ・・・・あたしがそう呼んでって言ったからよ。こんな時に気にすることじゃないでしょ!」

「・・・・・・あとで、ちゃんと説明しろよ!」

「今、説明したじゃない」

「くっ、まぁ、いい。それより、ドラゴンも協力するような言い方だったが、あいつ頭でも打ったのか?」


 ガゼルがドラゴンのほうを見て言うと、


『安心せい。我があやつの手助けをしてやる。お前達は逃げるがよかろう』


 いつの間にか近くまで来ていたドラゴンがガゼル達に聞こえるように喋った。


「なっ!?」

「え!?」

「なんと!?」

「っ!!」


 四人全員が固まる。ドラゴンが人に聞こえるように喋ったのだ。


「ど、ドラゴンが喋りやがった・・・まじか」

「・・・・・」


『我はこの森の守護竜だ。驚くのも無理はなかろう。お前達人間にとっては、ほとんどの竜は、悪の化身なのだからな。特に我は、吸血する竜と恐れられているのであろう。もう数百年も前の事だが』


 驚きながらも、ジルは知識欲に勝てずに口を開いて問う。

「い・・今も吸血衝動はあるのか?」

『いや、バンパイアの血は全て浄化してもらっておる。それが森の守護竜となった理由でもあるが』と、その時、地響きのように足元が揺れた


 大きな爆発音がなり、地面に振動が起こる。グレンデルの拳が地面を粉砕した音である。


「トキムネ!」

 アイリスが心配そうに時宗の方を見る。


 時宗は、疾走の速さをさらに瞬間的に上げて、前方に転がりながら、グレンデルの拳を避ける。そのままグレンデルの懐深くまで入り込めた時宗は、大剣を横から斬り払い、足の膝部分を斬る。


「くっ!」

(な、なんて硬い皮膚だ。ドラゴンと同じか!)


 大剣はグレンデルの足の肉にめり込んだまま進まない。肉が分厚く斬るまでに至らないのである。むしろ、大剣を持つ時宗の手が反動で痺れている。


 そのままグレンデルは足蹴りを繰り出す。時宗は大剣を自身の前に持っていき、直撃を避ける。が、そのまま大剣越しに蹴られ、上空へ舞う。


「がはっ!」


 宙に浮き、落下しようとする時宗に、グレンデルは再度、拳を繰り出す。身体を自由に動かせない時宗は、今度こそ直撃を覚悟して、大剣で防御する。


「ぐあ!!」


 拳を振り下ろされ、地面に背中から叩きつけられる時宗。呼吸が止まる。そんな時宗に対して、容赦なくグレンデルは拳を振り下ろす。


(やば過ぎる!くっそ。なんて力だ)


 時宗は、すばやく横に転がり回避する。左肩部分に拳が掠った。掠っただけで、左肩の骨が砕ける音がした。


「はう・・・・ぐぐぎい!!!!」


 痛みを堪えて、そのまま起き上がりすばやく距離をとる。


(た、戦い方が容赦なさすぎる。まるで野生の化け物。本能で動いているようだ。―――それにしても、いきなり左腕を壊された。。右腕だけでこの大剣を振り回すのはきついな)


 時宗は動かせなくなった左腕を力なく垂らしながら、今の状況を早くも危ぶむ。


「ぐおおおおおおお!」


 グレンデルは力を誇示するように咆えた。


(落ち着け。落ち着くんだ。あの変な女の声が聞こえてから力が増したような気がするが、ぜんぜん優勢になった実感がない。うまく使えてない。どうすればこの力を使えるんだ)


 時宗は最初に怒り狂った時に、アルシエルを吹き飛ばしたような力がうまく使えないでいた。身体能力の向上は自分でも実感できている。力、速さ、耐久力、どれも普段の自分と比べれば、比較にならない。ただ、相手がさらに強いのだろう、自分が強くなった実感が持てないでいた。


(こんなのありか。もっと弱い敵はいないのか・・・この展開はおかしい)


 そもそも、時宗は、あの女性の声が幻聴だったのではないかと思い始めていた。よく分からないことを偉そうに言ってその後は、何の音沙汰もない。幻聴だったと思うほうが納得がいくのである。


(くそ、考えてもしょうがない。戦いながら見つけるしかない!)


 あの巨人の化け物は、力は強いが素早さに関しては自分の方に分がある。時宗は、しばらく攻撃を回避し続けることを選ぶ。その間にあの感覚を思い出そうと考えたのだ。あの時、叫んだだけだが、確かに力が解き放たれた感覚を思い出したいのだ。


「あたし、行くわ。やばいでしょ。あれ」

「っていうか、あいつ、どんな自信があって囮になるって言ったのかしら。いきなり、左腕をダメにしちゃって、心配で囮になんかできないわよ!!」


 アイリスが時宗の援護に向かおうとしている。


「お前は撤退しろ。俺が行く。そもそもこの戦いに巻き込んだのは俺だからな」

「そんな片腕だけしかない父さんは戦えないでしょう。あっさり死んじゃうわよ。体力だってぜんぜん戻ってないんだから!」


 親子で押し問答していると、ドラゴンが口を開く。


『お主らは、我が転移魔法で遺跡の外まで移動させる。その後、我があやつを助けるから心配無用だ。行くぞ』


 そういうと、瞬く間にガゼル達の足元に魔法陣が描かれ始め、輝きだす。


「ちょっ、ちょっと待って!!あたしは残して。トキムネを助けないと!」

「ばかやろう。俺もだ。やめろ。ドラゴン!!」

『我に任せておけ。よいな』


 そういうと、転移魔法が発動して、魔法陣の中にいたガゼル達が消えた。少し騒がしかったドラゴンの周囲が、今は静寂の中、少し離れたところから、地面が砕ける音だけが響いているのであった。



■■■



まだ、月明かりだけが照らす薄暗い森、しかし夜明けを予感させる気配が漂い始めた遺跡跡。そこに眩い光が地面から出現して、4人の人影が現れる。


「あっ、月?本当に転移させられたのね。。」

 アイリスが最初に口を開いた。その表情は曇っている。


「くそ、あのドラゴンの野郎。人の話もろくに聞かずに転移させやがって!」

「しかし、生き残れる策としてはこれ以上ないでしょう。納得はできませんが」


 ガゼルがドラゴンに文句を言っていると、スレインが冷静にドラゴンの判断は正しいと告げる。


「あたし、戻るわよ。トキムネを一人残すなんて絶対できない」

「待ちなさい。アイリス。気持ちは分かりますが、今の状態では、あの巨人に全滅させられます。時宗が決断して、我々を助けようとしてくれたのです。信じましょう」

「で、でも!!」

「アイリス。キミの魔力はどのくらい残っている?」


 ジルが唐突に、アイリスに聞く。ジルにとっては答えなど聞く必要もない質問である。黙っているアイリスにあえて自分から言わせるのが目的なのだから。


「・・・・・・・・・まだ残って――」

「いや、もうほとんど残っていないのだろ?」

「キミのガゼルに使ったあの治癒魔法は、かなりの魔力を消費するはずだよ。【アスクレーピオス】あれは、最高神の一柱だ。その力の行使は多大な魔力の量と密度が必要になる。あの時点で半分以上の魔力を持っていかれたはずだ。そうだよね」

「・・・・・・・・でも、あ――」

「その後でも、治癒魔法と身体強化の魔法を使いこなすキミの魔力量には驚かされるが、もう限界近いだろ。・・・・・今戻っても時宗の力にはなれないよ」


 ジルはアイリスの言葉をあえて遮るように言った。


「情けない話だね。協力を仰いだ我々が先に力尽きて、撤退する。しかもまだ成人もしていない子を囮にして・・・・・。本当に情けない。。」


 ジルは珍しく感情を表に出し、悔しそうに唇を噛んでそう言ったのであった。



■■■



「ぬぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!」


 時宗はギリギリのところで、グレンデルの攻撃を避ける。そして、大剣で目の前の腕に斬撃を見舞う。あいかわらず、打撃でしかない。肉が斬れない。力が足りないのだ。


「くそっ!!!!!」


 時宗はそう言い放ち、また距離をとる。先程からこれの繰り返しである。さすがに時宗の息も切れ始めている。


「ガアアアア!」


 ドラゴンがグレンデルに向けて、風の魔法を放つ。風は刃となって巨人の体躯に斬りかかるが、傷を与えられない。


『あやつ、相当強化して、召還しよったな。何が1.5倍じゃ!忌々しい』

「ガゼルさん達は撤退できたんですよね?」

『今頃、遺跡跡におるだろう』

「であれば、すみませんがあいつの気を引き付けてください」

『ふむ、何か策があるのか?』

「僕も撤退します」

『・・・・・・・・・・・・良いが、後ろを見てみるがよい』


 ドラゴンはあきれたように時宗に出口を見ろと促す。時宗が出口の方を見ると、出口が崩れて塞がれている。


「え!?・・・・・・・なんで?」

『我が塞いだ。最悪、あやつはココに閉じ込めるつもりでな』

「・・・・・・・・」


 時宗は一瞬頭が真っ白になりかけた。


『覚悟を決めろ。お前も龍人族なのだろ? その誇りを見せてみよ』


 ドラゴンは時宗に早く龍人族の力を使えと言っているのだ。永い時間を生きているドラゴンは龍人族の力、その一端を目にしたことある。その力ならば、今相手にしているグレンデルも凌駕するであろうと思っているのだ。


「くそ、勝手に退路を断ちやがって・・・・それができれば撤退なんて考えない!」


 そういいながら、時宗はじいちゃんとの最後の鍛錬の日での言葉を思い出した。


《強者をめざせ。何者にも屈するな。そして諦めるな。命ある限り最後まで足掻け。不屈の闘志を燃やし続けろ!我らが龍人族の誇りじゃ。》


 不屈の闘志・・・じいちゃんが最後に教えてくれた誇りだ。時宗は自分にその言葉を刻み込む。そして、レオンの最後の言葉も付け加える。


《戦場で考えることは一つだ。どう殺るか。他の感情はかなぐり捨てろ!―――時宗・・・鬼になれ。》


 レオンさんが最後に託してくれた意志。

 それらを自分の心の中にさらに深く刻み込み集中する。

 あの力、何がきっかけとなったのか。

 時宗の心に刻み込まれた思いなのか。

 落ち着いて、自分の内なる力を意識しろ。

 時宗の中で何かが凝縮される感覚。

 まるで弓の弦が引かれるように。ジワジワと力が絞られていく。

 密度が増していく感覚。


 あの女性の声が聞こえた時と同じように。


(もう力の封印は解かれたと言っていた。なら、それを呼び出すだけだ)


 体中に内包していた力が外に出たがって仕方がないこの感覚。全身に力をみなぎらせて。心を一つに。

考えることは、あいつを斬る。その一点のみ。時宗は大きく深呼吸をした。そして、心の中で引き絞られた弓の弦が解き放たれる。体内にある力の源泉から一気に力が吹き出る。


 時宗の輝きが失われつつあった真紅の瞳がまた輝く。


 全身に力がみなぎり、あの重厚な圧が再び、周りに充満する。


(これだ。この感覚。いける)


 時宗は確信を得て、大剣を構える。あいつを斬り刻んでやる。あの鋭い殺気で暴れていたグレンデルでさえ、一瞬怯んだ。そして、今の時宗は、その一瞬の隙を見逃さない。石畳を蹴り上げ、グレンデルに突進する。すさまじい加速とともに。


「うおおおおおおおおおおおお!!」


 そして、目前で、飛び上がり、大剣を振り上げ、グレンデルの身体を両断しようと振り下ろす。


「ぎぁぁあああああああ」


 グレンデルは悲鳴を上げる。時宗の斬撃がグレンデルを両断するように斬る。傷は深くはないが、確かに斬る事ができた。グレンデルの体躯の中央に裂傷ができ、そこから血が吹き出す。


(いける!)

「まだだぁぁぁぁぁ!!!」


 グレンデルの足元に着地するなり、大剣を横に斬り払い足の膝部分を斬る。

 そして、後ろに回りこみ背中を、横に移動して腕を、素早い動きでグレンデルのありとあらゆる身体を斬り刻む。グレンデルはその素早い動きに目がついていけずに、斬られるがままであった。



「ぐっ!」

 時宗は自分の身体にも負担がかかっているのを感じていた。

(身体が軋む。筋肉が千切れそうな感覚・・・・力に身体が耐え切れてない?)

(でも、今は!!)



「でぁぁぁぁ!!!!!!!」


 そして、時宗は、細かく斬り刻むように怒涛の連続攻撃を繰り出している。その狙いは、同じ裂傷。なんども同じ場所を斬り、深い裂傷へと変えていく。


「ぐがああああああああああ」


 痛みのあまり大きな悲鳴を上げるグレンデル。

 そして、時宗が右肩付け根に狙いを定める。何度も斬り、深い裂傷となったその部分はもう3分の1程斬れており、落ちそうな状態である。そこに渾身の力を込めて大剣を振り下ろす。


「っ!ぐがああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 グレンデルの右腕が肩から斬り落とされた。


 時宗は、返り血で体中が汚れている。

 グレンデルを見ると、無数の傷から血がとめどなく流れており、見るからに重傷を負っていた。


 右腕を切り落とされ、前屈みに膝を突いた。そして、時宗はこの時を待っていたかのように大剣を突き出す。


「これで、終わりだ!」


 時宗は頭上に迫ったグレンデルの身体に目掛けて、大剣を突き刺す。


「ぐがああああああっぁあっぁあ!!・・・・」


 大剣は身体を刺し、心臓まで達していた。


 血が大剣を伝って時宗の身体を汚す。


「はぁはぁはぁ・・・やった・・か」


 グレンデルの身体は力を失い、時宗の方へ倒れてくる。


(あ、やばい。。。。潰される)と、思った時、凄まじい氷の塊が飛んできて、グレンデル頭に直撃してそのまま後ろへと倒れた。グレンデルの顔は氷の直撃で潰れてしまっていた。


「はぁはぁはぁはぁ・・・・・あ、ありがと。た、助かったよ・・・・・」


 時宗は力を使い果たしたように、その場にしゃがみ込んでそのまま倒れた。


『よい。それにしても見事であった。龍人とは末恐ろしい存在よ。それでまだ覚醒していないのだからな』


 ドラゴンは関心した。そして、この時宗なる青年がどこまで成長するのか恐ろしくも思うのであった。


『意識を失いおったか。かなり身体への負担が大きかったのであろう』


 そうドラゴンが独り言のように言うと、それに答える声が後ろから発せられた。


「えぇ、力を使えたとはいえ、まだまだ未熟ですね。鍛え直さないと」


『誰だ!!』


 ドラゴンが後ろを振り返ると、そこには女性が立っていた。まったく気配を感じ取らせずに普通に、いつからそこにいたのか分からない。ドラゴンが初めて慄いた。


『い、一体いつからそこにいた。な、何者だ?』


 滅多に見れるような光景ではないであろう。ドラゴンがそれも守護竜として長きに生きてきた古のドラゴンが、恐れを抱いているのだから。


 その女性、全身黒ずくめの黒装束を着ており、すらりと伸びた白い肌の肢体が美しい。髪は後ろにポニーテールのように括られ、目つきが鋭く、綺麗な顔立ちをしている。右手には単槍を持っており、左腕の肩の部分には、刺青のような模様が肌に施されている。


「ついさっき。驚かせてすみません」

『な、何者だと聞いている、答えよ』


 ドラゴンは恐れを抱きながらも、返答を促す。


「あなたと同じような存在です。まぁあなたよりは格上ですが」


 その女性は、ドラゴンを見下すようにそう言った。

 自分と同じ存在だと、ドラゴンっという意味か。我らドラゴンは人の姿に変えることもできるが。しかし、この背筋が凍るような感覚。とても我らと同じ種族とは思えん。それに黒髪。東方の国ではないのか。とドラゴンは思考を巡らせる。その思考を読んだかのように、彼女は言う。


「そうですね。種族は全く別です」

「私も龍ですが、神の部類に入ります」

「東方の国の龍ですよ。龍神と言った方が早いですね」

『っ!!・・・東方の国の神。。。龍神・・・なるほど、こやつと関係があるのか』

「えぇ、そうです。時宗様を助けて頂いた方ですし、質問に答えないのは失礼にあたりますから」

『お主のような存在がわざわざ来るということは、こやつはいずれ・・・』

「時宗様です」

 女性が元々鋭い目つきをさらに鋭くさせて、ドラゴンを見つめる。


『す、すまん。そうすると、時宗殿はいずれ―――』

「はい。【龍神人】になられるお方です」

『なっ・・・であれば、そのような事を我に言っても構わんのか?それは・・』


「えぇ、どうせ、いずれは知られる事。それに貴方は、すでに薄々気がついているのでしょ? 東方の国についても少しは知っているご様子ですし。しかし、他言無用でお願いしますね」

『うむ。もちろん、他に言ったりはせんが』

「でわ。すみませんが、時宗様を貴方の魔法で、運んでくれますか? まだ私はこの方と会うわけにはいきませんので」

『うむ・・それは構わない。最初からそのつもりであったからな』

「そうでしたか。では私がココに来る必要はなかったですね。ありがとうございます」


 彼女は礼を言うと、そのまま上に飛び上がって消えていった。


『はあ~~~、あれが東方の国の龍か。。。聞いた事はあったが恐ろしい存在よ。まぁ当たり前か、神となれば我が恐れても仕方のないこと。。。』

『東方の国 カムイ。この世界で唯一、神々が住まう国と言われている。か』

『眉唾な伝承だとばかり思っておったが目の前に現れると思わなかったな』

『こやつ・・・・・ふぅ、同情してしまうぞ。トキムネよ』

「グルウゥゥゥゥ」


 そして、最後に唸り声を上げ、しばらく、時宗の様子を眺めていた四精のドラゴンは魔力の回復を待って、転移魔法を発動させて、自分ごと時宗を遺跡の外へと移動させたのであった。



□□□



 月が沈みかけて、太陽が顔を出そうとしている。森の中は、次第に生命の息吹が活発に活動し始めようとしていた。その森の中の遺跡跡で、時宗の帰りを待っている者達。その者達の目の前、遺跡の入り口付近に、輝きを放つ魔法陣が突如と現れて、巨大な生物が姿を見せた。


「っ!トキムネは!!無事なの?」

 一番最初に声をかけたのは、アイリスであった。


『うむ。約束どおり連れてきたぞ。無事だ』


「よかったぁ~」

 アイリスは肩を撫で下ろして安心する。そして、時宗の方へ行く。


「時宗!」

 ガゼル達もドラゴンのそばにやってきて時宗の様子をみる。


『力を使い果たしてな。気を失っているだけだ。ちゃんと生きておる』

「あいつは倒せたのか?」


 ガゼルが確認すると、ドラゴンが答える。


『倒した。見事であったぞ』

「そうか、すげぇなこいつは」

 ガゼルが関心した様に腕を組んで、時宗を見つめる。


「まず、傷は治しましょう。見ると至る所に傷があります。特に左肩が酷い」

「そうね。私が、」

「いえ、私がやりますよ。やらせてください。アイリス」


 アイリスが治そうとすると、スレインが自分に治させて欲しいと言ってきた。時宗に大きな負担をかけてしまったのだ。償いをしたいというスレインの気持ちからだった。


「あとで、私もなにか時宗にしてあげたいな」

 ジルもまた安堵の笑みをこぼした。


 スレインが治癒魔法をかけて、時宗の体中の傷が治り消えていく。


「よくがんばりましたね。ありがとう」

 スレインが眠っている時宗に言葉をかける。


「あたしは、目が覚めたら直接言うわ」


 アイリスがそういうと、「そのときは俺も同席しよう」とガゼルが言った。


「なんでよ?」

「なんでもだ!」


 アイリスとガゼルがなぜか睨みあっている。すると、不意にドラゴンがいう。


『こやつも連れ戻しておいたぞ』


 そういって、眠るレオンの身体を後ろから出してきた。


「レオン!!」


 皆がレオンの名を呼び、レオンの元に集まる。


「ありがとよ!ドラゴン。礼を言う」


 ガゼルがドラゴンに頭を下げる。


『気にするな。元はといえば、我のせいでもあるのだからな。このぐらいはさせてもらわねば、我も償えん。蘇生魔法が使えればよかったのだがな』

「いや、あいつは多分蘇生できたとしても、望まないだろうよ」

ガゼルがスレインとジルをみてそう言った。

「そうですね・・・」

スレインが同意とばかりに言って、ジルもうなずく。

「あいつは、そういう奴だよ。俺らだって一度死んでまた生き返るなんてごめんだね」


とガゼルは言う。彼らは国から追い出された身、それぞれが罪を背負っているのだ。ガゼル然り、レオンもまた償いきれない罪を背負い続けていた。


「あいつは、死に場所を求めてた節もあったからな、時宗を守りきってあいつは満足しているだろうさ。な、レオン」


 ガゼルはレオンを見つめて、そう話かけた。


『ふむ。では、我は遺跡に戻るとしよう。もう会う事もないだろう』

「もう、もどるのか。今回は、結果的に助かったぜ。ありがとな。ドラゴンに感謝するっていうのが、未だ信じられないがな」


 ガゼルが苦笑いしながら頭を下げた。


『我も、こんなに人間と話をするのはいつの時代以来か、よい時間であった』

「ね、ねぇ、貴方の名前を教えてよ。ただのドラゴンじゃないんでしょ?」

アイリスが最後にドラゴンの名前を聞いた。

『ふむ、この森の守護竜にして四精のドラゴン【ランドアールヴァル】だ。覚えておけ』

「ランドアールヴァル・・・アールね。覚えておくわ。ありがとう」

『・・・・省略するとは・・まぁ我は神ではないからな。好きにするがよい』


 そういうと、ドラゴンはさっさと、転移魔法で遺跡の住処へ戻っていった。



その後、レオンは、守護竜が守るこの森で静かに眠らせてあげようということで、その場で、お墓を作って埋葬した。そして、気を失い続ける時宗を馬車に乗せ、アジトへと戻るのであった。


 帰りの道中、アイリスが時宗の世話を率先して行っていたのを、ガゼルは横目で気にしながら見ていたのであった。ジルとスレインは、そんなガゼルの視線が『娘には指一本触れさせんぞ!』と宣言するような眼つきに見えていたのであった。




という事で、第一章の完結という感じです。

章分けしていくことにしました。


次回は、第2章ですが、その前に世界感と登場人物の紹介をしようかと思います。


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