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龍戦記 ~龍を従える者~  作者: 龍神静人
第1章 青年期 ―邂逅編―
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第8話 ロイの正体

 吹き抜けの頭上から、ごく僅かな月明かりだけが、差し込む薄暗い大広間。辺りを見渡せば、至る所に地面がめくれ、へこみ、亀裂が入っている。まだ、ドラゴン・ブレスの小さな残り火が燻っている箇所も見受けられる。


 その大広間の中央に立っている青年、時宗。彼から放たれている異様なまでに重い圧力をこの場にいる誰もが感じていた。


 初めて産声を上げた敵意という感情が、彼の心の中を支配していた後悔の念を塗りつぶしていく。強い憎悪が心の中を支配しようとしていた。


 最早、時宗の目の中には、ロイという男だけしか入っていない。

 絶対に許さない。もう自分ではこの感情を制御することができない。もうあいつを斬らないと治まらない。時宗は、レオンの持っていた大剣を手に取り構える。あいつを斬る。考えるのはその1点のみ、下半身を沈め、足元に力を込める。時宗はロイに向かって突進した。


 ロイは、吹き飛ばされた瞬間、自分がいったいどんな力で吹き飛ばされたのか分からないでいた。ただ、凄まじい波動のようなものが身体に当たった感覚でしかないのだ。


(あれは、風魔法でもないですね。というより魔力を一切感知できなかったことから、魔法ではない事は明らかです。――――――東方の特有の技でしょうか)


 ロイは、知識欲が強いので、東方の国の知識もそれなりに持っていた。しかし自分の知識の中に先程の力に該当するようなものはなかった。ロイが少しの間、考察していると、時宗が迫ってきた。かなりの移動速度で魔法を行使する時間を与えてもらえない。


「ふふふ、それがキミの本気なのかな? いいね。面白いよキミ。前言撤回だ。私はキミに興味が出てきたよ」


 ロイはアイリスの攻撃を防いでいたのと同様の魔力の障壁で時宗の大剣を迎え撃つ。まず、初撃を防ぐ。時宗の振るった大剣は弾かれ、ロイの障壁も砕け散って消える。しかし、時宗は弾かれてもすぐさま、第二撃、三撃と斬撃を連続で繰り出す。時宗とロイの激しい攻防が繰り広げられる。


 時宗の斬撃は全て急所に目掛けて放たれる。一撃で仕留めるという強い殺気が込められているため、一撃一撃が非常に重い。上段から、下段から、左右から幾度となく連続で放たれる攻撃にロイの障壁がことごとく、砕かれ、避けきれずに身体に浅いとはいえ、裂傷が次第に増えていく。


「くっ!・・・いいですね。先程とはまるで別人ではないですか。――それに・・・」


 ロイは時宗の攻撃を防御しながら、時宗の目の色を見ていた。


(ふむ・・・・赤い目。しかも色づいているのではなく、仄かに輝きを放っている)


 全体的に薄暗いこの大広間にあって、その輝きは目立っていた。


 ロイは、何か思い当たる節でもあったのだろうか。一瞬考え込んで、不敵な笑みをこぼした。不意にロイは短距離の転移魔法を発動させて、時宗と距離をとる。


 時宗は、目の前から消えたロイに驚きの表情をしたが、すぐ辺りを見渡して探し出し、ロイに向かって疾走する。


(少し、試させて頂きますよ)


 ロイは両手を上に掲げて、短い詠唱を始める。


 《汝、魔に染まりし、黒き炎よ。我が意志に従い、顕現せよ。》


 両の手の平に黒い炎が燃え盛り現れる。それはグルグルと渦巻き、球体へとその姿を変える。そして、ロイの両手が振り下ろされ、黒い炎は時宗に向かって放たれた。


 時宗は、ロイから放たれた炎を見て、立ち止まり大剣を盾の様に自分の身体の前に突き立てて防御する。身体の周りに炎が飛び散り、身体を焼く。


「くっ!!」


 時宗は苦痛の表情をしながらも、怯まず炎を防ぎきり、またロイの方へ向かって疾走する。常人の身体なら焼き焦げて動けるはずもない炎である。


 時宗は、ロイという男を殺す。ただそれだけしか考えていなかった。自分がどんな傷を受けようと気にも留めていない。


(あの地獄の炎をほぼ生身の身体で喰らって耐えられる人間などいない。であれば、彼は人間に近い別の種族であるのは確定ですね)


(そして、あの赤く輝く目。。。ふふふ。これは・・・)


 ロイがある程度自分の予想通りであると思っていたとき、時宗のスピードが急激に上がり、瞬く間にロイとの間合いを歩幅にして2歩ほどの距離まで詰めてきた。


「っ!ぐ・・があ」


 ロイはその急激に上がった速度に対応できず、防御の障壁を展開できなかった。そして、時宗の大剣がロイの胴体を貫いた。




 □□□




 時は少し遡り、時宗とロイの攻防が始まった頃。


「アイリス、ガゼルの元まで戻ります。来なさい」

「え!?で、でもスレイン。トキムネはどうするのよ」

「彼の纏った力はあきらかに常人のそれとは異なります。あのロイという男を相手にしてもあの攻防であれば、もしかしたら倒せるかもしれません」

「そ、そんなこと・・確かになんかすごい圧力みたいのは感じるけど、彼は実戦経験がないのよね? 任せちゃっていいの?」

「ガゼルを起こして、先にこの遺跡から脱出させたいのです。アイリス。今は時宗の援護ではなく、ガゼルを優先させます」

「・・・・・レオンはどうするの?」

「残念ですが、レオンの遺体を運べるほど余裕はありません。ここに置いていきます」


 スレインは苦渋の決断をするような表情をして決める。


「・・・・」

 納得はしていない様子であったが、アイリスはスレインの指示に従い、二人はジルのいる場所まで走った。


 すでに、ガゼルは目を覚ましており、ジルの隣で座り込んでいた。


「レオン・・・・・」ガゼルが悲壮な表情をして言った。

「ガゼル、レオンは残念ですが置いていきます。あなたは、先にこの遺跡から脱出してください」

「スレイン! 本気で言っているのか。時宗を置いて逃げるなんてできるかよ!! むしろ、俺があいつを抑えている間に時宗を逃がす」

「今のあなたでは、無理です。それに私とジルは残ります。あなた達だけ逃げて下さい」

「ふざけるな。それこそ、無理だろうが、神官と魔法使いで何ができる。しかもお前ら、ろくに魔力も残っていないだろうが!」


 と、その時、時宗とロイの戦場に黒い炎が出現した。

 ロイと言う男が黒い炎を放ち、時宗が大剣で防いだものの防ぎきれずに身体に受けてしまった。その光景を見たジルとスレインが言う。


「・・・確定だな。スレインの読みどおりになった。・・・驚きだ。。」

「えぇ、ロイという男は魔族ですね。あの黒い炎・・・間違いありません」


 ジルの言葉を肯定するスレインは、険しい表情を崩さない。


「そして、時宗も・・・まず普通の人間ではなく、特異な種族ですね。人間に限りなく近い種族でしょうが、あの炎を生身で耐えられるなど、ありえない」


 スレインは黒い炎を大剣一つで防ぎ、身体に少し食らうもおそらく火傷で済んでいる状態を見つめつつ種族が異なるであろう事を告げる。


「・・え、そうなの?・・・確かにさっきの炎を耐え凌いだのには驚いたけど」

 アイリスは、まだよく分からない様子だが、スレインは理由を説明する。


「黒い炎は、魔族が召還する地獄の炎です。我々が使う炎とは熱量が桁違いです。アイリス、もしあなたが生身でまともにアレをくらえば、間違いなく当たった箇所は火傷どころではなく、高熱で溶けてしまいます」


「そ、そんな・・・」

 アイリスも時宗の様子を見ながら、驚きを隠せない。と、時宗の姿が霞むように見えたと思えば、ロイとの間合いが一気に詰まった。


「え!? うそ、は、速い!!!」

 アイリスはその一瞬跳ね上がった速度をみて、さらに驚愕する。そして、・・・


 □□□


「く、・・・・ふ・・ふふ。お見事と言うほかありませんね。。」


 時宗の大剣は、ロイの身体、ちょうど胴体のど真ん中を貫いていた。

 大剣の刃を伝って流れる血が、時宗の持つ柄まできて滴り落ちている。


「このまま、くたばれ!」


 時宗はさらに刺し込んで止めを刺す。確実に心臓を貫いているはずだ。確かな手ごたえがあった。時宗はそう思ったが、なぜか違和感が拭えない。


「・・ふふふ、いい一撃です。躊躇もなく完全に心臓目掛けての一突きですね」


 ロイは、口から血があふれ出てくるのを構うことなくしゃべる。


「キミを気に入りました。・・・そして我々の探し人であるかもしれない」

「なにを言っている?」

「あぁー、最後の言葉は気にしないでください。こちらの話ですから」


 そういいながら、大剣の刃の部分を両手で掴み、刺されているにも関わらず、時宗が大剣を抜かないように固定した。時宗は大剣に力を入れて抜こうとしてもびくとも動かない。


「な、なんのつもりだ!―――くそ!!」


 時宗は嫌な予感がして、大剣から手を離そうとしたが、大剣を握っている両手が開かない。まるで金縛りにあっているような感覚であった。


「ふふ、動けないでしょう。これ、私の奥の手の一つです。キミは貴重な体験をしているのですよ。説明が必要ですか?」

「ふ、ふざけるな」時宗は、全身に力をこめる。しかし、自由に身体が動かせない。

「くっ!! 余り抵抗はしないで欲しいですね。これ魔力を相当使いますからね。キミの手と私の血をよ~く見てみなさい」


 時宗が大剣を持っている両手を見ると、ロイの血が手に纏わりついている。それどころか、ゆっくりと手から腕に、腕から肩へと伝って全身を舐めるように移動し始めていた。


「っ!? な、なんだこれは・・・くっ!」

 時宗は抵抗しようとも身体は動かない。ゆっくりとロイの血が全身を覆っていく。身体の表面は、ロイの血で網目模様のような柄になっている。


「【血の制約】、ある条件を自分に課して、対象物に活動の制約をかけるんですよ」

「で、その条件は・・・継続的な苦痛。苦痛を自分に与え続ける間、その効果は持続します。そして、自分に与えられている苦痛の大きさに比例して、制約の力は強くなるのですよ」


「ふふふ・・凄いでしょ? マゾである私にはこれ以上ない条件です」

(ま、本当にマゾなわけではないですがね・・・)


 ロイは、最後にちょっとユーモアを交えつつ説明した。マゾという言葉を知らない時宗には最後の言葉は通じていないのだが。


「べらべらと煩い! そんな説明は必要ない」

「そうですか。でも、この条件を崩さない限り制約は解けません。そして、私はどんな苦痛も耐えられる自信があります。そして、剣は抜けない。ふふふ・・どうします?」

「時間の問題だろ。心臓をつ・・・」

「貫いてはいませんよ。私の心臓の場所、数百年前に変わっていますからね」


 そういうと、ロイの姿が変わり始めた。先程までの姿が嘘のように、身長も体格も肌の色も髪型もそして・・・・顔も。


「な!?」時宗は驚愕の表情を浮かべずにはいられなかった。

「ふふ、いいですね。間近でキミのその驚きの表情が見られるなんて最っ高です!」


 ロイは、その姿を変えた。

 金髪であった髪は、真っ黒になり、前髪は長く左目を隠すように伸びる。肌の色が小麦色に変わり、首の真下、鎖骨の中央あたりに紋章めいた物が浮き出ている。背丈は先程よりも伸びて、時宗の頭3つ分は抜き出ている。細身だが筋肉質でいて、しなやかさを感じさせた。


「な、なんなんだ!? おまえ!」

 時宗は目の前で起きた現象が信じられないでいた。


 また、その光景を遠くで見ていたガゼル・スレイン・ジル・アイリスもそれぞれ驚いていた。特にその変貌した姿をみたジルの心の内には、最大級の危険信号が灯った。

(あの姿・・・魔族でも上位・・・・まずいな・・・・)


「ふふふ、皆さん。さすがに驚かれているご様子。では改めまして」

「私の名は、アルシエル・ゲヘナ、魔界の最下層【ゲヘナ】の名を与えられた魔族の元幹部です」

「剣を刺されたままのくせに偉そうに名乗るな。くそ」


 時宗は知ったことかと抵抗を続け、身体に力を込める。


「あ、失礼。真の姿になりましたし、あなたの剣に貫かれたままというのはもう必要ないですね」


 と、アルシエルは手を離し、大剣が抜ける。と、時宗は、容赦なく首を刎ねようと斬りかかる。


「なめるなぁぁぁ!」

「ふふ、私の血の制約も舐めないで欲しいですね」


 と、アルシエルがいうと、


「があっ!」


 時宗の身体についていた血が一斉に破裂し、裂傷を負う。そして、そこから血が吹き出す。その激痛に振り被っていた大剣から手を離して落とす。そして、その場に倒れ込んだ。


「ぐ・・あああああああああ」

「血の制約の防衛機能とでもいいましょうか。条件が解けた時点でその制約で使った血は破裂して相手に深手を負わせる事ができるのですよ」

「痛いですよね。その威力も制約の力に比例しているのですから、キミの傷、かなり深い裂傷になっていると思いますよ? 一気に形勢逆転ですね」


 そして、不思議なことにそう言っている間にもアルシエルの胴体についていた大穴がみるみる内に塞がっていた。


「では、実験の意味も込めましてもう少し遊びましょう。そうですね。その状態でさらに、また重力魔法はいかがですか?今度はジワジワとではなく、ズドンと一発くらってみましょうか」


 アルシエルが時宗に右手の人差し指を指して、放つ。


「ズドン!!」


 地面に倒れこんでいる時宗の身体が、一瞬沈み込み、上に跳ね上がった。沈み込んだ瞬間、地面は凹み、クレータが出来上がる。一瞬の凄まじい圧力が時宗を襲ったのだ。


「ぐっ・・がぁぁぁぁぁあああああ」


 時宗は口から血を吐き、バウンドするように地面に叩きつけられた。


 アルシエルは、何かを確かめるようにその様子を観察する。


「ぐ・・ぐあああ。あ・・・・あ・・あぁぁ」


 時宗は苦痛に耐える。先程の衝撃によって押し出されるように無数の傷口から血が流れ出て、激痛で立ち上がる事ができない。


「ト、トキムネ!!」


 その様子を見ていたアイリスが駆け寄ろうとするが、ジルが止める。


「待ちなさい! アイリス!!! 少し待ちなさい。今飛び込んでもあなたは瞬殺されるのが落ちです。相手は、上位の魔族です。非常にまずい」

「で、でもトキムネが!!」

「分かっています。しかしむやみに飛び込んでも死ぬだけです」

「どうすればいいのよ! モタモタしてたら、トキムネがやられちゃうわ!」

「俺が行く。お前はここにいろ」とガゼルが立ち上がる。

「無茶だ!」


 スレインが制止しようとするが、ガゼルは弱った身体に鞭を打つようにバーサーカー化しようとしたときだった。


 時宗のいる方向ではない、別のところから大きな咆哮が上がった。


「なっ!こんなときに目を覚ましたのか!!糞ドラゴンの野郎!」

 追い討ちをかけるような最悪な事態への急変に毒を吐く。


 呪術が解けた四精のドラゴンが目を覚まし、起き上がる。そして、時宗とアルシエルの戦場の場へ向かっていく。


「ま、まずい。くそが!!」

「あたしがドラゴンを止めるわ。跳躍なら間に合うもの!!」と、アイリスは行動を起こす。


 四精のドラゴンは時宗達の方に向かいながら、下あごを膨らませる。


「っ!ドラゴン・ブレス!?」スレインが絶望的な表情になる。


 さすがにあの状態の時宗がドラゴン・ブレスをくらったら一溜まりもない。


 しかし、ドラゴンの口から、容赦なくドラゴン・ブレスが放たれた。アイリスも間に合わない。時宗の方に向かって、真っ赤な巨大な炎が迫るのであった。





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