エピローグ
「あちゃー、もうこんな時間かぁ。ごめんね今日も遅くまで手伝ってもらっちゃって」
ぼさぼさの長い髪をたらした頭を抱えながら、なんなら泊まっていってもいいんだけど。と言われるが断った。
「大丈夫ですよ、それに私も好きでこういうことしてますし。それでは」
「うん、じゃーね。また」
時計を見ながら電車に乗り込んだ、この時間ならなんとか帰れる時間だろう。
なめらかに線路を進んでいった金属の箱は何事もなく乗換駅についた。連絡通路をすぎてホームに下りた、終電はホームで乗客を待ちわびている。視線を巡らすと見覚えのある人影が目に止まった、人影が私のそばまで近づいてきた。
「今日は間に合ったんだ」
「はい、でも」
でも? と彼女の双眸が続きを聞きたそうにこちらを覗き込む。
「今から見逃すとこです」
乗るはずだった電車を目の前でわざと見逃すとは我ながら頭がおかしいと思った。
発車ベルがけたたましく鳴り響いた、2人分の足音をかき消して閉まるドアを背に改札を出て二人とも慣れたように同じ方向に歩きはじめた。
「これ、ありがとうございました」
一週間別に会うこともなかったので返すことができなかった音楽プレイヤーを手渡した。
「よかったでしょー!」
「すごく良かったです、それと」
勝手に見たのは悪かったと思うが彼女の端末の中の他のグループの曲も好きだったと伝えた。それは最近活動を始めたインディーズなのだという。
「ほら、やっぱり私たち似たもの同士じゃない?」
「そう、かもしれません」
彼女の外見は装っているだけでその中身は想像と少し違う姿をしているらしい、警戒色の話を思い出してなるほどなと思った。
「ねえねえ、実はおすすめの場所があるんだけど」
「どんなところなんですか?」
「高台の方なんだけどさ、けっこう景色がよくて気に入ると思うんだよね」
星空のしたの高台、なんというか
「ロマンティック」思ったことが口に出てしまった。
「そうでしょそうでしょ、でもすこーしだけ遠回りなんだけど。でも、遠回りなら慣れてるもんね?」
暗くていまいち見えなかったがイタズラめいた笑顔をしていたのだろう、なにより遠回りがバレていたのが恥ずかしい。
「はやく案内してください」
いつもと違う顔をした世界を今日も2人で歩いていく。2人だけの静かな夜を。