二話 可愛い悲鳴はレアケース
「このへんの街灯は明るいねー、LED電球?」
「あー、確かに。家の周りはこんなに明るくないですね」
「結構影がくっきり映って……みてみて、目」
両手を頭頂に乗せているが彼女の目線は下を見ている。
「め」
なるほど、言われていれば目のような形の影だ。ならば
「まつげ」
せっかくなので彼女の目にまつげを生やしてみる。
「あははっ! ギャグセン高めじゃん!」
「それはどうも」
「でもさー、この街灯明るすぎじゃない?」
「まあ確かにそんな気はしますね、でも虫とか寄ってこなくていいんじゃないですか」
「そうなの?」
「そうらしいですよ」
「足元にゴッキいるよ!」
「ッ!?」
声にならない悲鳴を上げながら飛びのいたが意図せず彼女にしがみついてしまった。
「わっ、めっちゃはやいじゃん。ボルトに勝てそう!」
笑いながら虫苦手なやつー? とか聞かれるが恥ずかしくて死にそう。
「頭にデッカイ蛾止まってますよ」
「うおあ!」
野太い声で叫びながらヘドバンする姿に笑ってしまったが虫が苦手なのは私だけじゃなかったらしい。
「はー、虫とかほんと無理だから早くいこっ」
「そうですね」
「うーん?」
「どうしましたか?」
「いや、あそこさぁ。階段上らないと向こう側いけないじゃん?」
「たしかあの駅って線路の上に改札があるとこですよね」
「そーそー!」
ちょうどこっち側はこの先線路沿いすぐに建物が建っていて線路をはさんだ向こう側にいかないといけないのだが。
「シャッター閉まってない?」
「本当ですね、どうしましょうか」
どうするも何も踏切を探すしかないのだが――
――ゴオッ、ガタンガタン
とても速い何かが隣を駆けていく。
「あ―――んし――、てんじゃん!」
電車が走る轟音のせいで彼女の声がうまく聞き取れないが表情といい状況といい、たぶん「電車走ってんじゃん」とかそんな感じのことだろう。
グワーッ。っと走り抜けた余韻を残して長方形の長い箱が遠ざかっていく。
「電車走ってましたね、回送でしたが」
「ありえなくない? まだ走るなら乗せてくれてもいいじゃん」
それについては同感だがそう出来ない理由があるのだろう、腹立たしい。
「あーあ、まあいっか。いこいこ」
線路を離れて建物に囲まれた道路へ歩き出す。
「少しうしろに歩けば踏切あったと思いますけど」
「わたしたちの辞書に後退はないよ!」
たち、って言わないでほしいけどな。
「それにさっき踏切の音聞こえたし、ちょっとあるけばすぐ見つかるって」