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『すっぽん』

山口多門さんが主催する「架空戦記創作大会2017夏」参加作品です。

お題2の「架空の河川・湖用兵器に関する架空戦記」

この作品はフィクションです。現実の人物事件とはなんら関係ありません。


1945年1月。パナマ湾から500kmほどの洋上。

夜闇にまぎれて浮上した特型潜水艦『伊400』。

その甲板上では、あわただしく、だが静かにある作業が始まった。

直径4mという巨大な格納筒の扉が開けられ、中に収められていた物が引き出される。

まず、直径2.5m幅50cmのタイヤが12本と直径2mのギアが6個。そして本体、6枚のキャタピラのような部品。そして、長さ1mほどのシャフトが6本。途中にいくつかの関節を持つアームが2本と、それより少し長い直径7cmはあるホースが2本。

本体は大雑把に言うと長さ10m直径4mほどの円柱の前後に、高さ3m底辺の長さ2.8mほどの鋭い4角錐を尖った方を前後に向けて付けた形をしている。四角錐からはみ出た本体の左右の胴体部分は四角錐の斜面を延長した面にそって切り取られ穴になっている。

円柱と言ったが、その上部60cmほどは切り取られ、平らになっており、その上には高さ20cmほどのゴムの堤(?)が本体上部の平らな面に内接する楕円の形に付けられており、その上には丈夫なゴム膜が張られていた。

ゴム膜の真ん中には、直径2cmほどの穴が1個あり、ゴム膜を貫いて伸びる丈夫なホースにつながっていた。

本体の横にも左右3箇所づつのくぼみがあり、巨大なタイヤが収まるようになっている。

「吸盤機能確認!。」

本体に乗り込んだ2名の吸盤担当操作員によってポンプが操作され、ゴム膜がぷっくりとふくらんでいく。

「吸盤内側、気密問題なし!。」

「吸盤吸着機能確認せよ!。」

今度はふくらんでいたゴム膜がへこみ、平らからさらにへこんで皿型になる。ホースでその皿に海水が注がれ、その上に吸盤より大きな鉄板が乗せられる。

「吸引、開始!。」

ゴム膜の真ん中の穴から海水が吸引され、鉄板がかすかにへこむ。

「吸引やめ!、吸盤離着操作!。」

ぽこん!、そんな音とともに鉄板が元の形に戻り、吸盤に乗せられていた鉄板がどけられる。ゴム膜等がチェックされる。

「吸盤吸着機能問題なし!。」

その声に作業員達の顔に笑顔が浮かんだ。

その間にも、組立作業が進む。

タイヤ用のくぼみの中の本体から出ているスイングアームを一旦よけて奥のタイヤを入れ、スイングアームを戻してシャフトを差し込み、ギアをそれに取り付けてスイングアームと同軸の駆動歯車にかみ合わせる。スイングアームを上からのサスペンションに繋ぎ、シャフトに外側のタイヤをはめる。

さらにタイヤの周りに鋭いつめの付いたキャタピラがチェーンのように巻かれ、専用工具でタイヤに食い込むように締め付けられた。

そして本体後部の左右にアームとホースが取り付けられる。

こうして、前後が尖った6輪のごつい装甲車(?)のようなものが完成した。

これぞ、ワシントンDC強襲決戦兵器『すっぽん(正式名称『神竜』)』であった!。


事の起こりは、海軍によって立案された潜水空母によるワシントンDC襲撃計画だった。

そのために、2機の専用攻撃機『晴嵐』を積んだ、米東海岸までの長大な航続力を持つ特型潜水艦の建造が計画された。

だが戦局の悪化によって、その建造数は削減され制海権も喪失しつつあった。さらに『晴嵐』の開発も滞っていた。

当初の計画よりはるかに少ない機数と、制海権の喪失。そもそも肝心の攻撃機がない。

これでは、とても成果は望めないと判断された。

そして、計画はパナマ運河破壊計画へと変更されかけたのだが・・・

頼みの綱の『晴嵐』はいまだ完成しておらず、その方法は空爆から陸戦隊の強襲上陸による爆破へと変更された。

敵だらけのパナマ湾に強襲上陸し、パナマ運河のゲートとその操作部を破壊する。

その困難な任務を短時間でなすために、水陸両用の兵員輸送車を兼ねた潜水揚陸艇が計画された。

それこそが、『すっぽん』の前身であった。

極力戦闘を避けるため、潜水艦から発進した後は海面すれすれを航行もしくは海底を走行し、そのまま運河のゲートまで進み、運河を通る船にまぎれてゲートの中に入り、運河の核心部まで達する、そんな計画が立てられた。

ところが、そこである若い参謀がつぶやいた。

「いっそ、コバンザメみたいに運河に入る船にくっつけたら楽だなぁー。」

と。

その場の全員が顔を見合わせた。

そう、それならば無理に海岸近くまで行く必要はないのである。

パナマ運河を通る時、船は順番待ちのために沖合いに一時停泊する事が多い。

その時にくっついてしまえば良いのである。

こうして、潜水揚陸艇には船底に吸い付く機能が付けられた。

そして、話はここで終わらなかった。

「くっついた船がニューヨーク行きなら、そのままくっついていれば、ニューヨークまで行けるな。」

ふたたび全員が顔を見合わせた。ニューヨークへの途中にはワシントンDCがあり、ポトマック川に面している。

チェサピーク湾で離脱し、ポトマック川を遡れば・・・いや、ポトマック川の河畔には多数の港があり、ワシントンDCにも港はある!。上手くワシントンDC行きの船にくっつければ!。

こうして、計画はパナマ運河襲撃から大元の最初の計画であったワシントンDC襲撃計画へと戻った。

そうして結成されたのが、この『ワシントンDC強襲任務艦隊』であった!。

参加艦は、

『すっぽん』とその兵員の輸送に当たる特型潜水艦、

先行してパナマ湾で情報収集に当たる、情報収集能力を強化した巡潜甲型潜水艦、

の2隻。

艦隊司令は、行きは『すっぽん』の艇長を兼ねる少将が勤め、『すっぽん』発進後は、特型潜水艦艦長が勤める事となった。

そして、攻撃隊は規模こそ小隊以下だが、その任務の重大さから師団とされていた。


『ワシントンDCを襲撃し、安心しきった米国民の心胆を寒むからせしむ。』

認可された計画には、名目上の最高責任者の上級将官の趣味によって、こんな勇ましいだけで目的不明の文言が書かれていたが、計画の実務を行う若い参謀達には明確な目標があった。

『ルーズベルト大統領の暗殺』

親ソ派のルーズベルトによって、現在ソ連には大量の武器援助がなされている。

だが一方で、ソ連の進撃によって東欧諸国の大部分が共産化されてしまう事に大きな危機感を抱いている者が、米英ともに多かった。

ここでルーズベルトを殺害し、反ソ派の者が大統領になれば。

米ソの対立をあおり、同盟国である独の東部戦線の戦況を有利に出来るかもしれない。

また、米がヨーロッパ戦線により注力するようになれば、太平洋戦線にも余裕が生まれる可能性があった。

もちろん、ソ連との対立が深まれば、欧州戦線での戦況が不利になる事は米英ともに分かるだろう。

だが、日本も独もすでに負けかかっている状態だ。

すでに、勝つのは確実となったならば、次に考えるのはより利益の大きな勝ち方だ。

米英の反ソ派にとっては、すでに日独よりもソ連の方がより大きな脅威として映っている。

独を倒した後に、ソ連との戦いが待っているなら先にソ連の勢力を削っておいた方が、トータルでは楽かも知れない、そんな風に考える者もいるだろう。

米に潜り込ませた間諜によれば、『対ソ参戦と国民党政府の承認および南方資源地帯の放棄と引き換えに、満州の限定的支配権を認める形での日本との講和』を言い出す反共政治家までいるらしかった。

ならば・・・・・



甲板に残った兵員が、『すっぽん』の底に付けられた2つのウインチのフックを後方の物は艦のリングに、前方の物は後方のワイヤーを別のリングに2つ折りにして通して作った輪につなぐ。

さらに『すっぽん』と艦との通信ケーブルをつなぐ。

組み立て終わった『すっぽん』に燃料と大量の弾薬が積まれ、さらに9名の操縦担当操作員と司令、そして突撃隊員18名が乗り込む。

格納筒の扉も閉められ、艦長の声が飛ぶ。

「総員、潜行準備!。」

甲板に残った兵員が艦内に入り、艦はゆっくりと潜行を始めた。

『すっぽん』の置かれた甲板が20mほどの深度になったところで潜行を止める。

一方、『すっぽん』の中では。

「水密、問題なし!。」

操作員の報告に、司令の命令が飛ぶ。

「固定アンカーゆるめよ。」

『すっぽん』の底部に付けられた2つのウインチのロックがゆるめられる。

「『すっぽん』微速浮上。」

吸盤操作員がゆっくりと吸盤をふくらませる。

ワイヤーを繰り出しながら、ふくらんだ吸盤の浮力で『すっぽん』はゆっくりと甲板を離れた。

「シュノーケル、展開!。上部観察窓、開け。」

後部左右に付けられたアームが伸ばされ、ホースを水面へと出す。

本体上部の吸盤のない四隅の部分の装甲板が開けられ、分厚い強化ガラスのはめられた観測窓が姿を見せる。

「主機関起動!。」

どろろーん・・・

そんな音が『すっぽん』の中に響き、水冷化された『誉』2機からなる主機関が起動された。

ほぼアイドリング程度の回転数で、水中運動試験が始まる。

「微速前進」

「微速後退」

「右旋回」

「左旋回」

「右、わずかに寄せ」

「左、わずかに寄せ」

『すっぽん』は四角錐の根元の穴から水を噴射したり吸い込んだりして水中運動試験を行う。

「運動機能問題なし!。ウインチ、たるみとって固定。スクリュー、起動!。」

ウインチが少し巻かれワイヤーのたるみをなくし、スクリューが回される。

メインエンジンがうなりを高める。

スクリューの推力で、『すっぽん』に向けて艦からほぼ真上に伸びていたワイヤーが、ゆっくりと斜めになっていく。

「ワイヤー張力、角度、規定値に達しました。規定出力確認。推力問題なし!。」

「機関、停止、着艦!。」

メインエンジンが止まり、ウインチが巻かれ、ゆっくりと吸盤がしぼませられ、『すっぽん』はふたたび甲板に戻った。


ゆっくりと艦が浮上する。

艦の操縦に最低限度必要な人員を除いた艦の乗組員全員が甲板右舷に並ぶ。

それと相対して甲板の左舷に『すっぽん』に乗っていた司令と操縦員、突撃隊が並ぶ。

「『すっぽん師団』出撃する。敬礼っ!。」

(正式名称は『神竜師団』だが、そういう仰々しい名前は失敗した過去の作戦を連想させ、師団内では喰い付いたら離れないすっぽんにあやかって『すっぽん師団』と呼んでいた。)

司令の声とともに、『すっぽん』で出撃する者達=この任務のために選ばれた海軍陸戦隊の精鋭30名、が敬礼する。

この作戦は、生還を期さない片道の特攻作戦だ。

『すっぽん師団』の者は、司令(2階級特進で少将)以下全員が2階級特進していた。

「任務の成功を祈っております。道中、ご無事で。敬礼っ!。」

艦長の号令で、艦の乗組員が敬礼する。

出撃礼を終え、『すっぽん師団』の者が『すっぽん』に乗り込む。

『すっぽん師団』の者全員が乗り込むのを見届け、艦の乗員は艦内へと戻った。

組み立てを終えた『すっぽん』を甲板に乗せ、艦が動き出す。

ここから先は敵地だ。『すっぽん』を発進させ、またこの海域に戻ってくるまで、浮上する事は出来ない。

パナマ湾の近くまで潜行し、先行している情報収集艦が見つけたワシントンDC行きのタンカーに『すっぽん』をくっつければ、特型潜水艦の任務は終了だ。

この作戦における特型潜水艦の任務の最大の山場となる任務だった。


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