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第九話 君を信じるよ

 う~ん、困った……。

 もしかして私は今、異世界に来てから最大のピンチに立たされているんじゃないだろうか。

 闇適性かぁ……。

 そんな予感はちょっとあったけど、実際に目にすると冷や汗が止まらないな。


「リコ、魔法適性については知っているんだね?」


 難しい顔でレオンが言うので、私はコクンと頷く。


「じゃあ、闇適性がどんな存在に付与されるのかも、知っているよね?」

「……はい。魔族、もしくは闇落ちした人間、ですよね……」


 そうなのだ。

 この世界に魔法属性は6種類存在している。

 基本属性の火・水・風・土・光と、普通の人間には使用不可とされている、影属性。

 それぞれ、熟練度を高めると火が炎に、水が氷に、風は空に、土が大地に、光は聖に、影は闇にという風にクラスチェンジし、

 より強力な効果を持つ魔法を使うことができるようになるのだ。

 ちなみに、この鑑定晶(かんていしょう)に現れるのは基本属性が丸い印、上位属性が星型となっており、

 私にはなんと「炎・氷・空・大地・聖・闇」の適性があることになる。


「そう。人間にとっては禁忌とされている影魔法、しかもリコにはその上位の闇適性がある。

 ……ここしばらく、魔族との軋轢はないけれど、彼らはボクらとは違った価値観で生きているから、相容れるものではない。

 それに、闇落ちした人間なら、街の治安の為にも放っておく訳にはいかないから、発見次第ギルド長か自警団に報告する義務が、この街の市民には課せられているんだ」


 ……知ってます……。

 危険思想に染まったり犯罪を犯して魂が汚れてしまった人を、闇落ちした人間と呼ぶ。

 そして、魔族には生まれながらに影適性があって、大人になるまでに大体の魔族が闇属性にクラスチェンジするんだよね。



「リコ。答えて欲しい。君は何者なんだ?」



 キュッと眉を寄せて私を見つめるレオン。

 ……ええ、大変麗しいですが、今はそれどころじゃないことくらい、いくら私でも解ります……。


 けど、どう説明したもんか……。

 私はこの世界を小説にしてたくらいだから、かなり明確に魔法に対するイメージを持っているワケで、

 どんな属性だろうが適性があること自体は、私にとって不思議なことではない。

 この世界の魔法はイメージだ。

 明確な呪文とかがあるワケではなくて、適性のある人が事象を強くイメージして発動の言葉を唱えることで世界に力を顕現させることができる。

 小説の中では、ちょっとやっかいな魔族さんとかも出してたし、彼は闇属性のスペシャリストだったので、

 作者たる私がそれを使えるのは至極当たり前のことなのかもしれないけど……


「……信じてもらえるかは解らないですけど……。

 私の故郷では、ちょっと特殊な訓練を積めば魔法に対するイメージをかなり明確に持つ事ができるようになるんです……」


 ……う~ん、説明としてはちょっとキビしいかなぁ?

 けど、現代日本で少しでもRPGとかやったことある人なら、魔法に対して明確なイメージを持つことは難しいことではないんじゃないかな?

 私の場合は「作者」という特殊な立場でこの世界にやって来ちゃったけど、

 ゲームとかは人並みにやったことあるし、派手なエフェクトで放たれる魔法に対してのイメージは視認できるレベルと言って良いだろう。

 ゲームの中では呪文名や効果、相手に与えるダメージなんかが数値として示されることが多いからね。


「確かに……。カードに示された君の種族は【ヒト族】だったね……。

 リコが迷い人と考えるなら、闇適性すらも不思議なことではないのか……」


 私から視線を外し、軽く顎に手を当てる、思案顔のレオン様!

 はわわぁぁぁ~、真面目な顔も超ステキ…!!!!



「……わかった。君を信じるよ。この街の全てが君を信じなくても、ボクだけは君を信じよう。不安にさせてごめんね?」



 レオン様ぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!!!!!!



 ヤバい。感動で泣けそうだ。

 レオンにとっては闇適性なんて、不安材料でしかない筈なのに……。

 私なんて、今日初めて会った不審者でしかないのに!

 ……けど、他ならぬレオンに信じてもらえて、なんだかすごくすごく、安心しちゃう。


「……ありがとう、ございます……」


 感動のあまり、瞳に涙が浮かんでしまう。

 グスッと鼻を鳴らした私の頭を、レオンが優しく撫でてくれた。


「リコの故郷を見つけて連れていってあげると約束したもんね?

 ……笑っていて、リコ。大丈夫、何があっても君を守るよ」

「レオン……!!!!!」


 再びギュウウウウウッとレオンの腕にしがみつく私。




「アンタら、今が緊急事態だって理解してます!?」




 ついに口調すら装うことが出来なくなって、私達の前でワナワナと震えているララちゃんに。



「「スミマセン」」



 私とレオンが口を揃えて謝罪をしたのは言うまでもない。



 ------------------



「ヘクトル様にお取次ぎ出来ました。執務室で面会なさるとの事ですので、こちらへどうぞ~」



 取り乱してしまった自分を戒めるように、コホン、と軽く咳払いをして私達を誘導するララちゃん。

 ……なんか、ペース乱しちゃってごめんね?


「ありがとう、ララ。助かるよ。

 ……一応、フォレスも同席させたいから、少し待ってもらえる?」


 そう言うと、レオンは首元から、ネックレスになっているらしい羽の付いているビー玉大の丸い珠を取り出して「フォレス」と呼びかけた。

 すると、羽がピョコっと揺れて珠が緑色に輝き、「おう、どした?」と、フォレスのやたらと良い声が返ってくる。

 あれも魔道具なんだろう、可愛い上にとても便利そうだ。


「ヘクターと面会することになった。ちょっと込み入った話になりそうだから、お前も同席してくれるか?」

「……マジか! どうしたら新規登録するだけでギルド長と面会することになるんだよ!?」

「詳しくはギルド長室で話す。早く来い」

「へいへい。今行く」


 フォレスが言い終わるのを待って、魔道具を再び首元に仕舞うレオン。


「【疾風】スキルを持っているアイツなら、そんなに時間はかからない筈だ。ララ、リコ、悪いけど少し待ってね」


 レオンが申し訳なさそうにそう言った。


 そうそう、フォレスの特別技能(スキル)は「疾風」で、常人の数倍のスピードで移動をすることができる。

 もちろん戦闘中でもその効果は威力を発揮するので、彼らの戦闘は基本的に前衛のフォレス、後衛のレオンという形でフォーメーションを取っていたっけ。

 スピードと、日頃の鍛錬の賜物である腕力で魔物をなぎ払うフォレス、

 自身も相当な剣の使い手だけど、マルチな才能を活かしてフォロー兼ヒーラーの役割を担っているレオン。

 フォレスは火と土の魔法適性があるけど、魔法はあまり得意じゃなかったはず。

 性格もどちらかというと猪突猛進型で、考えなしに突っ込むのが珠にキズ、といった感じ。



「……アイツが風魔法でも使えれば魔道具なんて必要ないんだけどね。

 全く、スキルは【疾風】のクセに風適性がないなんて、ホント難儀なヤツ……」



 レオンが呟くようにそう言って苦笑した。

 呆れたようにそんなこと言ってるけど、そこには溢れんばかりの信頼があることを、私は知っている。

 幼馴染だもんなぁ。お互いの事は信じるとか以前に、当たり前に理解できちゃうんだろう。

 ……良いな……。


 ふと、異世界にいるはずの私の親友、藤子(とうこ)を思い出してちょっと寂しい気持ちになる。

 藤子も何だかんだ文句は言いつつ世話焼きで、私のことを一番理解してくれていた、幼馴染にして親友。

 ……もう会えないのかな。


 そう考えて寂しくなってしまい、潤みそうになる瞳をレオンに見せまいと、俯いてジャージのズボンをギュッと掴んだ。


「リコ。大丈夫だから」


 そんな私の手を、レオンがそっと優しく包んでくれる。

 見上げれば女神様をも連想させるような、神々しくて優しい笑顔。


「レオン………」


 そうしてしばらく見つめ合う私達の前で、ララちゃんが「なんなのこのお花畑の住人達…あ~もう早く来てフォレスさま…」と、

 何やらブツブツ呟いている。

 なんだか彼女の精神に多大なダメージを与えてしまっていないだろうか…。

 ちょっと心配になっちゃうよ?



「よぉ、待たせたな!」



 そんな微妙な空気を打ち破るかのように、フォレスの陽気な声が聞こえて来た。

 ……はっや! さすが【疾風】のスキル持ち。

 転移装置を利用したとしても、1分もかかってないんじゃないだろうか。



「お待ちしてました、フォレス様! さぁ行きましょう、すぐ行きましょう、さぁさぁさぁ!!!」



 フォレスが到着するや否や、ララちゃんがその大きな背中をぐいぐい押してカウンターの奥の扉の方へ移動する。



「アンタ達も早く来やがってくださいね~?」



 再びあの笑っていない目の笑顔を私達に向け、


「ちょっ、俺は何も事情知らないんだから先に話を聞かせろよ!」

「うっさいです! これ以上あの空気に当てられたら脳みそ腐っちゃいます!」

「なんだそれ! ちょっ、おい、レオン…!!!」


 フォレスとそんな風に騒ぎながらギルドの奥へと向かって行った。


「……フッ、騒がしいヤツらでごめんね、リコ。……さ、ボクらも行こう」


 そう言って、私の手を包んだまま立ち上がるレオン。

 私は「ハイ」と軽く頷き、レオンと共に登録ブースを出て。


「私、メルヘン耐性ないんです~!! 鳥肌立っちゃうんです~! 相棒なんだからちゃんと管理してくださいよぉ~!」

「何のことだか全然わっかんねぇよ! なんかお前、性格変わってんだろ、大丈夫かよ!?」

「大丈夫じゃないです~! 一刻も早くアレ回収してください~~!!!」


 そんな風に騒いでいるフォレスとララちゃんの方へ向かった。

 ……ララちゃん、なんか壊れてない……?

 なんか、ホントごめんなさい……。



 ------------------



 辿り着いたのは、木製の重厚な扉の前。


「ヘクトル様ぁ、お連れしました~」


 少し落ち着きを取り戻したらしいララちゃんがコンコンっとノックをした後そう告げると


「お~、入れ入れ」


 中から扉が開けられる。

 そこに立っていたのは、長身のフォレスより更に背の高い、「屈強」という言葉がいかにも似合いそうな男の人。

 鬣のようにうねった赤い髪を無造作に立ち上げて、その緑色の瞳で私達を射抜くかのようにジッと見つめている。


「ヘクター、手を煩わせてすまない」


 レオンは慣れた様子で落ち着いた雰囲気の調度品でまとめられたその部屋の中に入ると、


「リコだ。さっきギルド登録を済ませたばかりだよ」


 そう言って私の背をそっと押し、ギルド長さんの前に立たせてくれる。


「……アンタが闇適性持ちの迷い人か」


 鋭い眼光で私をジロっと検分するかのように見つめられて、なんとなく居心地が悪い。

 年の頃は30代後半といった所かな。

 顔の造りは美形といって差し支えないものなんだけど、その鋭い眼光と、こめかみに走った切り傷が歴戦の戦士といった雰囲気だ。

 黒い軍服のような服で身を包み、私を見下ろす様子はさながら獲物を前にした獅子、といった感じ。

 ……正直、ちょっと怖い。


「……ヘクター、リコが怯えているだろう。そう不躾にジロジロ見るのは止めてくれるか」


 レオンがそう言って自分の背に私を隠すようにヘクトルさんの視線を遮ってくれた。

 ……はわぁぁ~ん、優しいぃぃ~!



「がぁっはっは! 悪ィな、レオン。そんなに警戒しなくたって、取って食いやしねぇよ」



 と、突然ギルド長さんが愛好を崩して豪快に笑い始めた。

 部屋の中の窓が一瞬ガタッと震える程に大きな声で。



「ようこそデュレクへ、お嬢ちゃん。

 俺はヘクトル・ローンバインという。ギルドのヘクターで通ってるからそう呼んでくれ。

 一応、このギルドの長なんてものをやらせてもらってる。よろしく頼むぜ」



 そう言って差し出された大きな手。



「よ、よろしくお願いします」



 ……やっぱりちょっと怖くて、私はレオンの背に隠れたまま、へっぴり腰で握手を交わしたのだった。


お読み頂き、有り難うございました!

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