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第八話 魔法適性

「勝手にごめんね?」


 レオンがそう言って苦笑する。


「いやいや! 私こそ、そんな大事なことを引き受けてもらって申し訳ないというか……」


 ブンブン、と両手を顔の前で交差させてレオンの謝罪を否定する。

 もう、本当に何なんだ、このレオンという人は!

 いくら困っている女性を助けるのが使命だと心に誓っているからと言って、初対面の人間にここまで出来るだろうか。

 身元請負人だなんて……

 私が犯罪者とかだったらどうするつもりなんだろう。

 女性だからって、初見でここまで尽くしてしまえるレオンを見ているとなんだか心配になってしまうよ……。


「どうしてそこまで……?」


 つい心配になって聞いてしまう。

 私のいた日本という国は確かに平和だけど、その分人間同士の陰謀に塗れた所だ。

 信じていた人に裏切られるなんて、当たり前にあることなのを、日本人なら私みたいな子供だって知っている。


「リコだから、かな」


 ……うん、解ってた! レオンならそう言うだろうって解ってたよ、私!

 これが小説の中なら、私だってレオンにそう言わせていただろう。

 例え騙されても「それはボクの責任だ」とか言うんでしょ!?


「リコとは今日初めて会ったばかりだけど、例え騙されてもそれはボクの責任だから」



 ほらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~!!!!



「それに、解るよ。リコは悪い子じゃないし、嘘も言ってない。ただ本当に困っているだけ。

 ……これでも、女の子を見る目には自信があるんだよ?」



 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~~!!!!

 もう、そのキラキラスマイル勘弁してくださいぃぃぃぃぃ~~!!!!



 登録ブースの、肩が触れ合ってしまいそうな近距離で放たれた、もう何度目かも解らない王子様スマイル。

 レオンってばこの笑顔で人を殺せるんじゃないだろうか……。

 少なくとも、心に後ろ暗い所のある人は、そのキラキラスマイルの前で懺悔したくなっちゃうかもしれない。

 かく言う私も、なんだか自分に後ろめたいことがあるような……それをレオンに告げなければいけないような気になってしまう。


「……ハイ。嘘は言ってない、です。

 ……と言うか、まだ言っていないこともたくさん、あります」


 ここは私の小説の中の世界で、レオンはその登場人物で……なんて言っても、きっと今は信じて貰えないだろうし

 どう話そうか考えながら、少しずつ、話す。


「……自分でもまだ、整理しきれて、ないんです……。

 この世界のことは知らないワケじゃないけど……私の国とはあまりに違いすぎるし、

 どうして自分がここに来てしまったのかも、予想すらついていない状態で……」


 そんなアップアップな私の頭を、レオンの大きな手がポン、と優しく撫でてくれた。

 はわ~ん……!


「大丈夫。きっとリコの故郷を見つけて連れていってあげるよ」


 そして、私から視線を外して再び遠くを見つめるレオン。


「魔物が出現しない平和な国。リコみたいに幸せそうな子がいっぱいいるんだろうね。

 ……この街の中は平和だけれど、この世界にはまだまだボク達人間が敵わないような魔物が闊歩している土地がいっぱいあって

 ボクの知らない所で、子猫ちゃんたちが涙を流すことも多いんだ。

 ボクはね、その原因を突き止めたい。そして、それを排除して、この街の皆が心から安心して暮らせる環境を作りたいと思ってる」


 それにね?


 そう言って悪戯っぽく微笑むレオン。


「君の住んでいた所を、ボクも見てみたいな。

 色んな世界を見てみたくて、親にも無理を言って冒険者をやってるんだ。

 聞いたこともない国がもしあるなら、行ってみたいと思うのは当然でしょ?」



 レオン様ぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!



 ……完敗だ。

 さすがは私の理想の王子様。言われて嬉しい言葉を本能で理解していらっしゃる!



「この世界はね、生まれてまだ千年程度しか経っていないと言われている。

 未だ解明していないことも多くて、リコみたいに突然この世界にやって来る人もいるし、

 その逆に、突然消えてしまう人も、たまにいるんだよ」


 そう言いながら、寂しそうに遠くを見つめるレオン。


「君のような人を、この世界では【迷い人】と呼んでいる。

 ボクも出会うのは初めてだし、ここ最近では単なる都市伝説じゃないかって言われていたくらい、稀な存在だけどね。

 迷い人は、ボク達の知らない世界の知識をもたらしてくれる存在で、この街にもし現れたら丁重に保護しようと議会で決まっているんだけど……」



 ……君は、ボクがこの手で守りたいな。



 レオン様ぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!



 もはや私の身体は、鼻血を吹くことすら忘れてレオンに釘付けだ!

 私は燃え滾るレオン力に任せ、ギュウウウウウっとレオンの片腕にしがみ付いた。



「ありがとうレオン……大好きです……!」



 思わず、そう口にしてしまう。

 ……ってちょっと待て、ストップ私! なんで突然告白めいたこと言っちゃってんだ!

 だけど、言ってしまった言葉は返らない。

 覆水盆に返らず、後悔先に立たず!

 日本の諺は本当に良いことを言っています!


 けど、そんな私の言葉を聞いて、レオンはその白い肌をポッと薔薇色に染めると。


「……身に余る光栄だな」


 そう言って、アワアワしている私の肩を優しく抱いてくれるのだった。





「……あの~」


 気がつけば、先ほどのネコ耳ララちゃんが書類と何かの器具を持って、私達の前に立っている。


「盛り上がっている所、申し訳ないんですが~。準備が出来たので登録作業を進めても良いですか~?」


 笑っていない笑顔でそう告げて対面のカウンターに座り。


「レオン様、言動には気を付けて下さいねぇ?

 私は大丈夫ですけど、他の子は泣いたり騒いだり色々厄介ですし~。

 イチャつくならもっと人目のない所をオススメしておきます~」


 恐怖すら感じるその笑顔のまま、バサッ、ドンっと音を立てて書類と器具をカウンターに置いたので。


「「スミマセン」」


 私とレオンは口を揃えて彼女に向って頭を下げたのでした。



 ------------------



「それでは、リコさん。まずはこの鏡を見て貰えますか~?」


 そう言って渡された、片手サイズの丸い手鏡。

 透明な糸のような物で、ララちゃんが脇に置いた黒くて四角い器具と繋がっている。


「網膜認証の魔道具です~。簡単な情報はそれで読み取れちゃいますので」


 この世界の魔法って凄いな!

 下手をしたら地球の科学より発達してるんじゃないだろうか。


「危険なことは何もありませんので、どうぞ~?」


 有無を言わさぬ迫力!

 何となくだけど、この子を怒らせてはいけない気がする……。


「は、ハイ!」


 迫力に負けて、私が手鏡をそっと覗き込むと、一瞬だけパッと眩しい白い光が放たれる。

 本当に一瞬だったので、光が引いてしまえば手元にあるのはただの手鏡にしか見えない。

 見慣れた私の顔が映っているだけだ。


「ありがとうございます~」


 そう言ってララちゃんが私から手鏡を受け取る。

 すると、糸のような物で繋がれた黒い器具から、ガーーーッという音がし始めた。

 数秒するとその音も止み、器具の上に銀色に輝く手のひらサイズのカードが何処からともなく現れる。


「どうぞ~。リコさんのギルドカードです。内容をご確認ください。

 身分証明にもなるので、携帯しておくことをオススメしてます~

 ……ってアラ。珍しい特別技能(スキル)をお持ちですねぇ!」


 ララちゃんが驚いた表情でカードを眺め、そのまま私に渡してくれた。

 免許証くらいのサイズのそれは、銀色の金属のような手触りで、何やら文字が刻印されている。


「ボクにも見せてもらえる?」


 隣にいるレオンと二人で、渡されたカードに視線を落とした。



 ■Name:リコ・イチノセ

 ■Age:17

 ■Gender:♀

 ■Race:ヒト族

 ■Lank:E

 ■Skill:心眼



 おお、本当にたったあれだけで基本的な情報が読み取られてしまった。


「年齢や、婚姻等によって名前が変わった場合、特殊な状況下で種族や性別が変わった時は自動更新されますので~」


 ララちゃんがそう説明してくれる。

 自動更新って! すごいな、異世界!

 ……ってか、種族や性別が変わる状況ってどんな状況なんだろうか……?


「心眼とはまた……随分珍しいスキルだねぇ」


 私のカードを見たレオンが関心したように言った。

 気になるのはそこだよね、やっぱ。


「え~と、スキル大辞典によりますと、【全ての真実を見抜く眼】となっていますね。

 薬草の毒性、魔物の弱点や特性なんかも解りますから、とっても役に立つスキルだと思いますよ~!

 私も新規登録の担当をして何年か経ちますけど、初めて見ましたぁ!」


 どうやら私の特別技能(スキル)はとても珍しい物らしい。

 全ての真実を見抜くなんて、なんだか物騒な気もするけど、この世界で生き抜くには役に立つだろう。

 ……まぁ、自分で書いていた小説の世界だもんな。

 与えられるべくして与えられたような、気がしないでもない。



「魔法適性も見て行きますか~?」

「あ、ハイ、お願いします」

「了解で~す」



 そう言うと、ララちゃんは鏡に繋がれていた透明な糸のようなものを引き抜き、黒い器具をパカっと開いた。

 中には両手で抱えないといけないくらいの、大きな丸い水晶が収まっている。

 ララちゃんがテキパキとその廻りを組み立てると、周囲の板が台座に早変わり!

 良く出来てるなぁ~!


「それでは、この水晶に両手をかざしてみてください~」


 言われるままその水晶に手をかざすと、透明だった中身がクルクルといろんな色に変わり出す。

 色の付いた煙のようなものがだんだん形を帯びてきて、

 しばらくすると赤・青・緑・茶色・黄色・黒の星型が水晶に浮かび上がった。


「……って、ええええええ~~~っ!?」

「こ、これは!?」


 それを見たララちゃんとレオンが大きな声をあげる。

 ……え、何? なんかヤバい……?

「……レオン様、これって……」

「……ボクにも解らない。だが、鑑定晶(かんていしょう)の結果は絶対だ。

 ……そういうこと、なんじゃないかな」


 二人が呆然と水晶を見つめたままそんな会話をしている。

 ……えーと、この世界の魔法設定については、私も一応知っているけど……

 なんだろう、私、とんでもない魔法適性を発揮しちゃっているような……気が、する。


「ララ、とりあえずヘクターに報告して面会の段取りを付けてくれないか?」

「もちろんです~、影・闇適性保持者は発見次第報告の義務がありますから……。

 急いで連絡して来ますから、少々お待ちくださいねっ!」


 そう言いながら、慌てた様子で駆け去るララちゃん。

 後に残された私とレオンだけど、なんだろう……ちょっと気まずい雰囲気……。



「……驚いたな」



 レオンが、未だ六色の星型が浮かんだままの水晶を見つめたまま、呟くようにそう言った。

 額に少し落ちかかっていた髪をクシャッと無造作にかき上げる。



「闇適性だなんて……。リコ、君は一体何者なんだ……?」



 ……そんなに見つめられると困っちゃうなぁ……



「……えーと、ただの女子高生……です?」



 照れ隠しにヘラッと笑ってそう言うと。



「そんなワケないよね!?」



 一之瀬 璃心(りこ)、17歳。

 異世界に来て初めて、レオン様からツッコミ頂きましたぁ~!!


お読み頂き、有り難うございました!

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