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第四話 くまちゃんジャージ

 レ、レ、レ、レ……!!!!

 レレレのレ~……って!!!

 違う、ちがう、ちっっがぁぁ~~う!!!!


 レオンドール・フォン・アウンスバッハって名乗ったよ、この美形さん!!!

 その顔で、その声で、そのお姿で、名前まで私のレオンと一緒とかどんだけだ!!!

 しかも立ち居振る舞いも私の思い描くレオンそのまんまとかどんだけレオンなんだ!!!!!



 未だ私は大混乱の只中にいる。

 金髪の美形・レオンさん(仮名…いや、もういいか)は相変わらず微笑んだまま私を見つめており、握られた手からは私のそれより少し高めの体温が伝わって来る。


 空いているもう片方の手で頬を抓ってみた。


「……っ! いったぁーーーーーい!」


 ……ううっ、あまりの事に混乱して力加減を誤ったらしい。めっちゃ痛い。

 ……ってことは、夢ではない、と。

 ……そういう事…なのか、な……???



 相変わらず混乱はしているものの、頭の中で一応これは現実だと理解する。



「ああ、子猫ちゃん。その珠のような肌を傷つけるなんて、例えキミ自身の手だとしてもしてはいけないよ。ボクの心が打ちひしがれてしまうから……」



 そう言ってもう片方の手をちょっと赤くなったであろう私の頬にそっと当てるレオン。

 …ああ、もうホント、なんて神々しいんだろう…

 私を心配そうに見つめる瞳は、本当に宝石が埋め込まれているんじゃないかってくらい、キラキラと輝いている。

 見れば見る程、溜息が出そうな程の美形だ。



 ハッキリ言って、現実世界の男の子には興味がなくて、日々レオンについて妄想するだけで幸せだった私。

 当然、男の子と付き合ったことはないし、理想の男性像なんてものもない。

 一応、レオンは現実世界にはいない事を理解はしていて、男性に関しては将来はパパみたいな穏やかで優しい人と結婚出来たら良いかな~くらいの緩い理想しかなく、

 ぶっちゃけ、初恋もまだだ。高校生にもなって、それってどうなの!? ……とも思うけど仕方が無い。

 レオンが好き過ぎて、他の人の入る余地なんてなかったのだから。



 それがどうだ。

 目の前には私が溺愛してやまないレオンが、理想をそのまま体現した姿で立っており。

 私の書いてきた小説まんまの言動で私に接してくれており。

 その横では、これまた想像したまんまのフォレスが呆れた表情で立っていて。

 更にその奥ではレオンに声を掛けられ、甘い言葉を囁かれ、尚且つ触れて貰っている私に喧喧囂囂な女の子達の群れ。



 どこがどうなってこうなったのかは解らない。

 神様の悪戯としか言いようがないが、現実として、私は。



 ----レオンのいる世界にトリップしてしまった、らしい。



 自分で小説を書くくらいだから、読むのも大好きだし、異世界トリップ物の小説だって両手足の指に余る程の数を読んで来た。

 それが、まさか自分の身に起きるとは思ってなかったけど…

 しかも、自分の書いていた小説の中にトリップするなんて、誰が予想しただろうか。



 だけど。



 ……ああ、何ということでしょう!

 目の前にいるのはレオンだ。私を悶えさせてやまない、あのレオン! レオンドール・フォン・アウンスバッハ!

 その彼が、手を伸ばせば触れられる距離にいる。

 散々妄想した手触りの良さそうな肌も、柔らかそうな金髪も手の届く距離にあるのだ。

 しかもどうだ! 理想通りの体型で贅肉一つなく、しかも腰が砕けちゃいそうな美声まで理想そのまんま!



 どうしてこうなったかなんて二の次だ。

 今すべきことは、ただ一つ!



「……レオン……!!!!」



 堪らなくなった私は、そのまま。



 ぎゅうっとレオンに抱きついたのだった。



 ------------------


「ハハッ、なかなか積極的な子猫ちゃんだね。元気があってとても素敵だよ」


 全く動じることなく、私を受け止めて耳元でそう囁くレオン。

 ……ヤバい。あったかい。そして心臓がトクトク動いている音も聞こえる。

 何故だか、その鼓動は微妙に早いような気もするけれど……

 興奮度MAXの私のドキドキ度とは比べようもない。

 ……ヤバい。なんだか良い匂いもする。

 これが、レオン。レオンドール・フォン・アウンスバッハ!



「子猫ちゃん、出会いの記念に、このボクにキミの名前を教えては貰えないだろうか?」


 暖かいレオンの腕の中でうっとりとその現実を堪能していた私だが、ふと、体を離され、再びあの深い色の碧眼が優しく私を見つめて来たのと同時に問われた声。


「……璃心(りこ)、です」


 身長差がある為に上目遣いになってしまったけれど、その神々しいまでの花の顔に見とれて答えれば、

 何故か一瞬、驚いたように目を見開くレオン。

 その横のフォレスも何故だかビクッと反応している。


「……リコ……?」


 私の名を呟き、レオンはそのまま、驚いた表情のまま私を凝視している。

 …ああ、レオンに名前を呼ばれる日が来るなんて、と、浮かれていた私は、その驚愕と困惑の表情の意味も考えないまま、再びぎゅっとレオンにしがみついた。

 ……フフ、あったかい。し・あ・わ・せ♪


「……おい、レオン……」


 困惑気味のフォレスの声が聞こえる。

 うんうん、この声本当にヤバいよね~。レオンよりやや低めな、色気が滲んでいるとしか言い様のない声。


「……フォレス。偶然さ。そんな事、あるワケないんだ。だけど……ああ……」


 レオンとフォレスのそんな会話が聞こえて来るも、レオンの腕の中でニマニマしていた私の頭の中には入って来ない。

 だって、妄想の中でしか出会えなかったレオンが目の前にいて、抱きついた私を嫌がりもせず受け止めてくれている。

 こんな幸せなことがあるだろうか、いや、ない!(断言)


 すると、しがみついた私の背に不意にレオンの腕が回される。

 感動したように溜息を漏らし、その吐息が私の耳元を掠めて消えた。

 大切な物を扱うように優しく、けれど決して離さないとばかりに強く、そのまま抱きしめられる。

 驚き半分、嬉しさ半分でその抱擁の中にいた私だけれど、

 抱き合う形になった私達に、女の子達からの悲鳴が止まらない。



「キャーーー!! イヤァ、レオン様ぁぁぁぁーーーー!!!」

「ちょっと、なんなのよ、あの子……!!!!」

「レオン様はみんなのものなのにぃぃぃぃぃーーーー!!!!」

「しかも何なのよ、あの格好…!」



 ……ん? 格好?



 女の子達の悲鳴の中に、聞き捨てならない単語が聞こえる。


 ……ちょっと待って?

 私、仕事場で寝る時はいつも、中学の時に着てたあずき色のジャージをそのままパジャマ替わりにしてるんだけど。

 しかも胸には思いっ切り【3-A 一之瀬】とデカい名札が貼ってあるんですけど。

 藤子にも「寝るだけだからってもっと気を遣いなさいよ!」といつも怒られるジャージ。だって着心地良いんだもん。

 掃除当番の日に、男の子達とふざけて廊下でスライディング土下座の練習をした時に摺れて空いてしまった穴は、可愛いクマちゃんのワッペンで補修してあるジャージ。



 ……まさか、ね……?



 初めてレオンと出会うんだもの。

 何がどうしてこうなったかは解らないけど、異世界トリップなんて非現実的な体験をしちゃってるんだもの。

 異世界でジャージだなんてあるワケない。

 きっと、トリップ補正で、素敵なドレスに着替えている、は……ず……?


 背中に冷や汗が流れるのを感じながら、視線を降ろして自分の姿を確かめてみる。



 ……うん。全身あずき色!



 しかも、高校生になってから少し身長が伸びたせいか、ズボンの丈が寸足らずで踝から数cm上にある。

 白いラインの入った袖口は、長年愛用していたせいでちょっとだけ解れてしまっているが、愛着があり、着心地の良いジャージ。

 胸元の名札も、クマちゃんワッペンもそのまま異世界にごあんな~い♪


 ……え? 脚?


 もちろん裸足でしたけど何か!?



「フフ、とても個性的なファッションだね。見たことはないけど、動き易そうだし似合っているよ」



 どんな時も女の子を褒めることを忘れないレオン様クオリティ、さすがです!



 ……けどね?

 私にだって、一応、人並みの羞恥心というモノはあるワケで。



「うっぎゃああぁぁぁあああぁぁぁぁ~~~~!!??」



 本日二度目の。

 余り可憐とは言えない悲鳴が炸裂したのは、当たり前のこと……かもしれない。


お読み頂き、ありがとうございました!

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