第三十四話 新たな依頼
そうしてそのまま、レオンとフォレスも合流し、私達は4人でそのお店でランチをすることになった。
私とティナちゃんは既にパンケーキを頂いていたので、
レオンがパスタのような物、フォレスは「俺もそれ!」と私達のパンケーキが乗っていたお皿を指さして嬉しそうに注文する。
私とティナちゃんは紅茶をもう一杯ずつお願いして、私達はしばらくの歓談タイム。
……突然のレオンの登場に、ティナちゃんはとっても嬉しそうに狐耳をひっきりなしにピョコピョコ動かしている。
うふふ、良かったね、ティナちゃん!
「そう言えばレオン、祝勝会を中止するって言ったんだって?
ダメだよ、そんなの。ちゃんとやってあげなよ!」
ふと、ティナちゃんが心を痛めていた原因をレオンに聞いてみる。
ティナちゃんだけじゃなく、祝勝会を楽しみにしている女の子は他にもいっぱいいるはず。
中止を聞いて悲しい気持ちになっている子も、ティナちゃん以外にもいるかもしれない、と思うと、なんだか切なくなってしまい、私はレオンにそう進言した。
「はぁ~!? 馬鹿かおまえ!? そんなん、中止になった方がお前にとっても……」
と、フォレスが何かを言いかけるけど、それをレオンが遮る。
「以前から思ってたんだよね。依頼達成の度に、皆がそれを祝福してくれるけど、それってボクだけの力じゃないし……。
自分だけが良い顔するのもどうなのかなぁ……ってさ」
困ったように笑いながらそう言うレオンに私は言った。
「そんなことないよ! それに……祝勝会はきっかけの一つなんだと思うし……。
皆、レオンと少しでもお話がしたいんだよ……中止だなんて、きっと皆悲しむよ?」
私のそんな言葉を聞いて、レオンがなんだか傷ついたような表情をする。
え……。なんでそんな表情になっちゃうんだろう……。
私は、街の皆の為にも、交流を持つことは悪いことじゃないと思うんだけどな……。
「……それじゃ、今度から、フォレス様もリコも参加してくれれば良いじゃない!」
と、微妙な雰囲気になってしまった私達に、ティナちゃんが元気な声でそう言った。
「確かにレオン様のファンはいっぱいいるけど、フォレス様派や……最近ではリコ派も増えて来てるみたいだし。
今まではフォレス様派はレオン様の祝勝会を羨ましがっていただけだけど、
一緒に参加してくれれば、レオン様派の子以外も楽しめるじゃない!」
……ちょっ!? リコ派ってなんですかティナちゃん!?
「ああ、それは名案だね、ティナ」
と、レオンは嬉しそうにティナちゃんの頭を撫でてあげている。
うっは! ティナちゃんの満面の笑顔を頂きました! 可愛いっっ!!
「俺はイヤだからな! そんなめんどくせぇモン、参加できっかよ!」
「何を言ってるんだ、フォレス。依頼の達成はボクらパーティーの功績だろう。
その達成の祝いは、メンバー全員が平等に受けるべきだ。
……今までサボってたんだ。そろそろお前にも、そういう表の仕事もして貰う」
有無を言わさぬレオンの迫力に、フォレスも絶句している。
あ~うん、フォレスってそういうの苦手そうだけど、レオンの言うことにも一理あるかな。
確かにレオンは街の英雄の末裔という立場にいるけど、さすがに一人では依頼の達成なんて出来ないしね。
というか、どちらかと言うと、戦闘力、という意味ではフォレスの方が高いような気もするし。
レオンなりに、自分ばかりが目立ってしまうことに対する申し訳なさがあったのかもしれない。
「……けど、そうなるとかなり大規模なものになってしまいそうだね。
今までボクは、招待されるままに会場に行っていただけなんだけど……」
と、レオンが心配そうに言うのを聞いて、ティナちゃんが両手にグッと力を込めて元気いっぱいに言った。
「その辺は任せて下さい、レオン様! 各派閥の代表と繋ぎを取って、きっとなんとかしますから!
……また祝勝会が出来るって解れば、皆きっと協力してくれると思います!!」
瞳がキラッキラです、ティナちゃん!
よっぽど祝勝会が楽しみなんだろうなぁ……。可愛いなぁ……。
私がティナちゃんに見惚れていると、ティナちゃんは悪戯っぽい笑顔を私に向ける。
「……他人事みたいな表情してるけど、アンタだって主役なんだからね、リコ!
この私が手配してあげるんだから、アンタもちゃんと顔出しなさいよ!?」
……そうなると人数は……とか、会場の広さは……とか、女の子だけじゃなくて男の子も来たがるだろうし……
と、ティナちゃんが何やらブツブツと呟き始める。
……元気になったのは大変良かったと思いますが、その豹変っぷりに私はちょっとビックリです。
「こうしちゃいられないわ!」
グッと紅茶を飲み干し、ティナちゃんが元気に立ち上がる。
「レオン様、今日は本当にごめんなさい! もう二度とお宿に突撃とかしませんから安心して下さい!
それじゃまたね、リコ!!」
そう言って勢いよく頭を下げ、ティナちゃんは嵐のようにお店を去って行った。
「……あ~、メンドクセ。なんでこんな事になるんだよ、まったく……
リコ、お前も大概お人好しだよな……。ちょっと心配になるぜ、たまに」
と、不満たらたらなフォレス。その表情はとても不満げなものだ。
何故だか私の心配もしてくれているみたいだけど……
その前にパンケーキを置かれ、一口頬張ると、
「お、美味いな、コレ!」
一口食べた瞬間に、全開の笑顔になった。
……まったく、フォレスの扱い易さは私こそたまに心配になっちゃうくらいの単純さだよ!!
「……フフ。これで祝勝会の度に、フォレスにリコを奪われる心配がなくなったな……良かった」
レオンもまた、上品な仕草でパスタを咀嚼している。
フォレスに奪われるってなんですかレオン様!?
まさか中止の理由って、フォレスと私が二人で出掛けたことが面白くなかった、とかじゃないですよね!?
そんなの、街の人達に申し訳なさすぎるから違うってことにしておきますから、ねっ? ねっ!?
……と、私は勝手に納得する。
なんだか私も巻き込まれた気がしなくもないけど……
「皆に祝って貰えるような仕事が出来るように、次も頑張ろうね、リコ」
麗しのレオン様に満開の笑顔でそう言われてしまえば、
「うん! 頑張ろうね、レオン!」
と、笑顔でお返事する以外、選択の余地はなかった。
お仕事を一生懸命頑張るなんて、当たり前のことだもんね!
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そし再び、私達はギルドに向かう。
夕刻には少し早かったけど、今日着くという職員さんをお待たせするよりは待機していた方が良いだろう。
ところが、ギルドに着くとすぐにヘクターさんの伝言を持って職員さんがやって来て、
「皆さま、お手数ですがすぐにギルド長室にお越し下さいませ」
と、何やら難しい顔をして私達を案内してくれる。
……なんだろう、サウスの状況が芳しくないのかな……?
オフの間、楽しく過ごさせて頂いた私だったけど、キュッと気持ちを引き締めてお仕事モードに切り替える。
レオンのパーティーに入った以上、その責任は重大なんだと、改めて自分に言い聞かせながら。
そうしてヘクターさんの執務室に着くと、そこには既に難しい表情をしたヘクターさんと、
なんだかすごく疲れてボロボロな状態の職員さんが向かい合って座っていた。
「おぅ、悪ィな、お前ら。こいつはカミル。サウスからの要請を受けて調査にやっていたんだが、事態が芳しくないと判断したみてぇで、早馬で駆けて来てくれた。
少し体力を消耗してるようなんで、悪いが着席で報告させてもらうぜ」
そう言って紹介されたカミルさんは、憔悴した表情でペコリと私達に頭を下げる。
一人掛けが二つ並べられた椅子にヘクターさんとカミルさん、
その対面に私達三人が腰掛けると同時に、ララちゃんがお茶を運んで来て、私達の前に置いてくれ、黙って礼をし、去って行く。
「疲れてるとこ悪いがカミル、早速報告を頼む」
真剣な眼差しのヘクターさんに促され、カミルさんは頷いて一口、お茶を啜ると、話し出した。
「はい、ギルド長。
……今回、私がサウスの要請を受けて向かったのは、ある海域に魔物が増え、
その奥にある採掘場への立ち入りが困難になっている、という報告を受けてのものでした」
聞けば、その採掘場は、珊瑚やパールや貝といった宝飾品の原料として使われる物が摂れる他、
食用の貝や、珊瑚に隠れるようにして棲む小魚、それを餌にしている海洋生物等が水揚げされる為、
サウスの漁師さん達の中にも、その海域の近辺を漁場にしていた人は多かったのだとか。
「私が噂の海域に出向いて目視したところ、採掘場の奥から魔物が流出してきているように見えました。
採掘場の奥には海底神殿があると言われていますから、そこで何かが起こり、
海底神殿にいられなくなった魔物が流出し、海域を荒らしているのではないかと推察致しました。
海底神殿の魔物達は、侵入者以外の人間に牙を剥くことはありませんから、人的被害は今のところ殆どありません。
ただ、数が相当いますので、このまま放置するのは心配であること、採掘場の小魚や海洋生物に被害が出始めていること、
海底神殿に戻れない状態が続けば、魔物たちも外で生活することを覚えざるを得ませんから、
採掘場の生態系が乱れる程に餌が食い尽くされてしまえば、人間達にも牙を向け、襲うことがあるかもしれません。
そして、気になることがもう一つ……」
カミルさんがもう一度、お茶を啜る。
「海底神殿からの流出の原因について、です。
私を含めた調査隊が、一度、採掘場に赴き、海底神殿に向かおうとしたのですが……」
奥に向かおうとすればする程、声にならない声のような物が頭に入り込んで来て、頭痛が耐え切れなくなったのだと言う。
「……気がついたら全員が気を失い、採掘場の入り口まで押し戻されていました。
あの音……と呼んで良いかどうか不明ですが…が原因で魔物が海底神殿にいられなくなり、流出して来たのだとすれば、
原因を排除すれば、元の平和な海域に戻る可能性は大いにあるかと思います」
と、カミルさんが話しを結び、溜息をついた。
この状況をイチ早くギルドに報告すべきと考えた彼は、通常なら馬でも五日掛かる距離を、早馬と替え馬を使って駆けて来たのだとか。
ヘクターさんに三日程で戻ると報告してしまった以上、遅れることは出来ないと自分を叱咤し、戻って来たそうだ。
「……ギルド長をお待たせなどしたら……と、それこそ死ぬ気で駆けて来ましたよ……。
おかげで予定よりだいぶ早く戻れましたけどね」
報告を終えたカミルさんは、クスッと笑いながらそんな冗談めいたことを言う程に余裕を取り戻していた。
……ヘクターさんをおっかないと思ってるのは、私だけじゃなかったんだね!
「……俺ってそんなにおっかないか?」
ちょっと自信なさげに言うヘクターさんの言葉に、その場にいた全員がコクンと頷く。
「……いいんだ……。やっぱり俺を解ってくれるのはサラだけだ……」
……と、なんだかいじけている。
……いやゴメンなさい、そんな姿もやっぱり怖いのです……。
「カミル、報告ありがとな。確かに一刻を争う事態のようだ。ギルドとして、しっかり最速で動くから、お前は今日は安心して休め。
……本当にご苦労だった」
気を取り直したヘクターさんがそう言ってカミルさんを労い、退出を促す。
と、扉の前でカミルさんが何かを思い出したようにこちらを振り向き、
「レオン様、サウスに行かれたら、まず、エリック・ベルツという男をお訪ね下さい。
ベルツ商会の嫡男ですが、今は海洋生物などの研究を主に行っているようです。
海の魔物にも詳しいので、今回の事件の原因について、何か知っているかもしれません」
そう教えてくれ、「失礼します」と頭を下げると、今度こそ本当に出て行った。
「……今の話、どう見る? レオン」
カミルさんが去った後も緊張の色を隠せない雰囲気のギルド長室で、ヘクターさんが尚も難しい表情でレオンをギッと見据えて言った。
「……海底神殿に何かがあった事しか解らないね。
魔物がいられなくなる程の音、というのも気になる所だが……行ってみるのが一番早いだろう。明朝には早速出るよ」
レオンも真剣な表情で請け負った。
本当に、この世界の魔物というのは脅威なんだな。
そして、今回のように、原因が解らないまま、人々の生活に多大な影響を及ぼしてしまう。
その海域の魔物が、『人間は見つけ次第排除』という意識が働いている魔物ではないという事が不幸中の幸いかもしれない。
けど、時間はない。それがいつ変わるか解らないのだから。
「……助かる。それからもう一つ、サウスに向かうに当たっては、アウンスバッハ家から指名、という形で護衛の依頼が出ている。
商隊の護衛だそうだ。頼まれてくれるか?」
「ああ、父上から聞いている。次はサウスに行くことになりそうだ、と言ったら丁度良いと仰って……。
……息子なんだし、そんなに義理立てすることはないと言ったんだけどね。
冒険者を仕事にしている以上、身内といえども客は客だと、諭されてしまったんだ」
そうなんだ~!
さすがルーファ様、仕事に私情は持ち込まないというワケですね!
この分だと、きっとリリィ様の手掛ける服飾の利益も、アウンスバッハ商会ではなく、リリィ様個人に、とかしてそうな気がする。
ロマンスグレーで仕事のデキる色男かぁ……。
レオンも将来、あんな風になるのかな。グフフ。
……と、私が将来のレオンについて妄想してほくそ笑んでいると、話がまとまったのか、
「それじゃ、明朝に南門で」
と、ヘクターさんとレオンがガシッと握手をしている。
「……お前、最後、話聞いてなかっただろ?」
隣でニヤニヤしながらフォレスがそんな失礼なことを言うので、
私は誤魔化す為に口笛を吹こうとして……失敗した。
クッ、はずかしいっ!!
お読み頂き、有り難うございました!




