第三十三話 お友達から始めましょう。
何をすれば納得してくれる? ……と、優しくティナちゃんに聞いてみる。
勝負を申し込みに来た、と言っていたから、ギルドの訓練場で魔法勝負でもすれば納得してくれるかな?
「……ギルドの訓練場……。来なさいよ、女男!」
……ってその呼び方は止めてほしいな!?
「名前で呼んでくれるなら、何処にでも行くよ?」
と、私が焦って訂正する。
本当に、デュレク新聞の情報を鵜呑みにし過ぎですよ、この街の人は!!
「……アンタなんて女男で充分だと思うけど……特別にリコって呼んであげるわよっ!」
ティナちゃんが何故だか顔を真っ赤にしながら言ってくれる。
……ツンデレ属性ですかぁぁ~~!!??
ヤバい可愛すぎるっっっっ!!
「フフ、ありがと、ティナちゃん。それじゃ、着替えるからちょっと待っていてね?」
……そうです、私は今、リリィ様から「寝る時はこれを着てレオンに迫りなさい!」と言って渡されてしまった、
シルクにシフォンを重ねたネグリジェのままです。
息子を誑かす小娘の応援をする母親ってどうなの!? と思いながらも、
あまりの着心地の良さに、宿にいる時はこれで寝ようと誓ってしまったので、今はその状態です。
「リコ……」
心配そうに、レオンが着替える為にベッドを出ようとする私の手を引き止める。
「大丈夫だよ、レオン」
……彼女は炎と炎と風の、勝ち気な美少女、と、そっとティナちゃんさえ知らないだろう彼女の情報をレオンに教えてあげた。
こういう時、心眼スキルの情報はちょっとズルいかもしれないね。
「……わかった。ボクの事情に巻き込んでごめん。……けど、悪い子じゃないから……後で連絡する」
ギュッと抱き締めてくれたレオン様の温もりだけで、私は今日一日頑張れますから!
「何度だって、挑戦は受けるよ。そして、負けるつもりもない。
……私は、皆に納得してもらって、レオンやフォレスと一緒にいたいの」
本心からそう告げた私を、レオンがギュウウっと抱き締める。
「……その格好良さ、ボクにもちょっと分けて貰えないかな……!?」
貴方は世界で一番格好良いです、レオン様! これ以上の格好良さは核兵器になっちゃうので自重しましょう!!
そうしていつもの装備に着替え、デュレクの街を移動する私とティナちゃん。
「ティナちゃ~ん、お腹すいた~! どっかでご飯食べないと訓練なんてムリ~!」
「我慢しなさいよっ! あたしだって今日はレオン様が灯亭にいるって聞いて飛び出して来たから腹ペコよ!」
憮然とした様子で私の前を歩くティナちゃん。
あ~、可愛いかわいいカワイイ!!!!
今だって、目の前で揺れる尻尾のモフモフ具合に手を伸ばすのを止めるのに必死なのだ。
こっちを向いてくれないからその表情は解らないけど、どんな表情だってティナちゃんはきっと可愛いに違いない。
「お~な~か~す~い~た~!!」
そう訴える私を振り返り、ティナちゃんが呆れた目で私を見る。
「……解ったわよ。近くにオークドックの屋台があるから……」
と、そう言うティナちゃんをよそに、私はあるお店を発見し、ティナちゃんの柔らかい手を握る。
「あ、あのお店なら、パンケーキも絶対美味しいよ!」
フォレスとプリンパフェを頬張ったあのお店なら、何を食べても絶対に美味しいはず!
パンケーキ、パンケーキ! と私の頭はそれでいっぱいになり、ぐいぐいとティナちゃんを引っ張って行った。
「ちょっと! なんであたしがアンタとデートみたいなことしなきゃいけないのよ!?」
「パンケーキぃぃ~~!!」
ギャーギャー言いながらお店に飛び込むと、「いらっしゃいませ! お二人様ですか?」と、昨日の元気な女の子が迎えてくれたので、
「はい! パンケーキです!」
……そんな残念なお返事をかます私を、店員の女の子がクスクス笑いながら席に案内してくれる。
「だからなんであたしが……ってちょっといい加減手を離しなさいよ、この女男!!」
後ろでティナちゃんがそんな可愛くないことを言うので。
「リコ、だよ。一之瀬 璃心。ちゃんと呼んで?」
くるりと振り返り、ティナちゃんの可愛いおデコをちょん、とつついた。
「やめなさいよっ! 私に触って良いのはレオン様だけなんだからねっ!?」
途端に顔を真っ赤にするティナちゃん。
ぐふふ、眼福です!
そうして案内された街道に面した席で対面に座り、改めてティナちゃんをまじまじと見つめる私。
は~、ホント可愛いな、ティナちゃん。
何故だか少し赤くなっている頬をぷぅっと膨らませながら私から目を反らしているけど、
もしかしたらそんな表情が一番可愛いんじゃないかな。
睫毛も長いし、お肌はツヤツヤで綺麗だし、小振りなお鼻は本当にお人形さんみたい。
なんか、この世界の人達って、顔面偏差値が軒並み高いよね。
サラちゃんといい、ティナちゃんといい、お人形さんが動いているみたいだもん。
こんなに可愛い子がいっぱいいる世界で、平凡としかいいようのない私なんかがレオンの側にいるのがちょっと申し訳ないくらい。
……頼まれたって離れてなんかあげないけどねっ! フンだっ!
「……何見てんのよ」
私のアツい視線に根負けしたのか、ティナちゃんがその可愛いお顔をこちらに向けてくれた。
「や、可愛いな~と思って」
ヘラッと笑って言った私の言葉に、ティナちゃんの頬がまた一段と赤くなる。
超絶可愛いんですけど! 天使ですかこの子!?
「アンタなんかにそんな事言われたって……嬉しくなんかないんだからねっ!」
ああぁぁ~、もう! そういう態度はずるいと思います! 可愛すぎですから!!
「リコ。一之瀬 璃心。名前で呼んで?」
そう言いながら、ぷにぷにしてそうなほっぺをツンツンとさせて頂きました。
うっは~、やわらか~い!
「ちょっと、やめなさいよ! あたしに触って良いのはレオン様だけだって言ったでしょ!?」
「ティナちゃんが悪いんだよ~! こんなに可愛い顔して私を誘うから。名前で呼んでくれるまでやめてあげな~い!」
「ちょっ! わかった、解ったからやめてよリコ! 皆が見てるじゃない!」
そう言われて周囲を見渡してみると、男性も女性もおっちゃんもおばさまも、皆立ち止まってこちらを凝視している。
まぁ、ティナちゃんのこんな可愛い表情見ちゃったら、思わず立ち止まっちゃうよね。
私は、街の人達に向けてヘラっと笑い、手を振ってみた。
すると、街の人達もニコニコと笑って手を振り返してくれる。
や~ん! この街の人達は本当に優しいなぁ~!
と、そこに先ほどの女の子が「パンケーキセット2つ、お待たせしました~!」とお皿を二つ運んで来てくれた。
注文をした覚えはないけど……あ、入口でパンケーキって叫んでたっけ……。
「リコちゃんのおかげでお客さんが増えたから、ちょっとサービスしておきました」
ウィンクをしながら置いてくれたそのお皿には、普通サイズのパンケーキの回りをクリームやフルーツが所狭しと飾られており、パンケーキの真ん中は白い粉砂糖で大きくハートが描かれている。
わ~! 可愛い!
……けど、私、このお店の為に何かした覚えはないんだけどな……と、店内を見渡してみると、
いつの間にかお店の中はお客さんでいっぱいになっていた。
……あ~、知らぬ間に客引きしちゃったのね、私。
「ありがとう! すっごく可愛いし、とっても美味しそう!」
店員さんに御礼を言うと、
「いえいえ。お二人がそれを食べているのを見せつけるだけで、またお客さんも増えそうですから」
ギラリと商売人の目をしたその子がそう言って、ごゆっくり、と去っていった。
……なかなか強かですね。素敵です!
「美味しそうだねー! ティナちゃん、食べよ?」
何故だかお皿を前に固まってしまっているティナちゃんに声を掛けると、
「……こんなハズじゃ……」
と、何だかブツブツ言っている。
「ティ~ナちゃん?」
隙があったので再びそのぷにぷにほっぺをつつくと
「やめてって言ってるでしょ! リコのばか!」
やっと復活してくれました。
うん、ティナちゃんは元気な方が絶対に可愛いと思います!
そうして二人でパンケーキを食べながら、時々外からかかる「リコちゃ~ん!」の声に手を振っていると、
「……ねぇ、アンタ、それ、わざとやってるの?」
と、ティナちゃんが胡乱げな目で私を見ている。
ん? 私何か特別なことしたっけ?
美味しくパンケーキを頂いているだけだと思うけどなぁ……と、コテンと首を傾げると
「それよ、それ! なんでそんなに愛想振りまいてんのよ!
私みたいな迷惑な子にまでヘラヘラしちゃって! 何なのよ、もう!」
突然怒り出すではないか。
なんでしょうね、思春期なのかな~、でもそんな所も可愛いな~と、ニッコリと微笑むと
「ティナちゃんを迷惑な子だなんて思ったこと、一度もないけど?」
そんな私の言葉に、ティナちゃんは飲んでいた紅茶をぶっと噴き出した。
あらあら大変!
私は即座にポシェットからハンカチを取り出し、その口元を拭ってあげる。
……この辺の日用品は、レオンがしっかり用意してくれています。ウフッ♪
「やめてよ! 自分でできるから……」
「私がしてあげたいの」
フフっと微笑んで口元を拭い、頭をポンポンすると、狐耳が嬉しそうにぴょこっと動いた。
キャアア~~!! 何これ可愛い!!
「……ハァァ……。何か毒気抜かれちゃった……。もう、勝負は良いわ……勝てる気しないし」
と、ティナちゃんが深い溜め息を吐いた。
わ~い! ちょっと面倒臭いな、と思ってたんだよね、実は。
そんじゃ、ここでのんびりお話といきましょう!
「ありがと、ティナちゃん。それじゃ、少しここでお話でもしよっか。
……ねぇねぇ、ティナちゃんのこと教えてくれないかな?
まずは……そうだな、お名前とご趣味をどうぞ!」
ご趣味は? ……は、お見合いの基本ですよね!
「ティナ。ティナ・アークエルよ。家はデュレクでパン屋をやってるわ。
……趣味は、レオン様のおっかけ」
わ! 意外と素直に答えてくれた! 嬉しいな!
……それにしても、こんなに可愛い子におっかけられるなんて、レオン様は幸せ者ですね!
「ねーねー、どうしてレオンを好きになったの? レオンの何処が好き?」
好きな人を褒められてイヤな気持ちになる人はいないと思うし、
特に私は、レオンの素晴らしさを布教しようと思っているので、他人から見たレオン像というのも、ちょっと聞いてみたかった。
そんな私の質問に、ティナちゃんはポッと頬を薔薇色に染めながら答えてくれる。
うっは! ヤバイい可愛いィィ~~!!
「……格好良いだけじゃなくて、優しいのよ、レオン様は……。
お誕生日に、お店で一生懸命作ったパンをプレゼントしたくて……。
……でも、レオン様の回りはファンのお姉さま達が群がってて、なかなか入り込めなかったことが、あるの」
弾き出されて、尻もちをつきそうになった所を、レオンが抱きとめてくれたのだと言う。
「君の華奢な身体はまるで風のようだから、吹き飛ばされてしまわないように気をつけてって言って。
それで、プレゼントのパンを渡したら、お花みたいに微笑んでその場で食べてくれて……。
こんなに美味しいパンを毎日食べることが出来る存在が現れたら、ボクはきっと嫉妬してしまうなって……」
うっほーー!!??
レオンの誑かし魔めぇぇ~~!!
あの顔と声でそんなこと言われて、惚れない女の子がいるワケないじゃん!!
なんか、ウチの子がごめんなさい、と謝りたい気持ちになるじゃないか、もう!
「レオン様が誰にでもそんな優しい言葉を掛けるのは知ってる。
……けど、ボクはたった一人の特別な人を探しているんだ、ともいつも言っていて……
もしかしたら自分が、と思っちゃうのは仕方ないじゃない!」
ティナちゃんは俯き、その瞳をウルウルさせ始めた。
「……泣かないで、ティナちゃん。その気持ちはわかるよ」
言いながら、さりげなく狙っていた狐耳にも触れながら頭をポンポン撫でてあげる。
キャッ! 可愛いお耳ですね、本当に!
「だから、レオン様かフォレス様に勝ったらパーティー入りのルールが出来た時、チャンスだと思って……。
毎日竈に火を送りこんで、やっと火魔法を『炎』にクラスチェンジさせて、
街中での急襲や、宿に潜んで寝起きを狙ったりもしたけど……レオン様には通用しなくて」
……ってティナちゃん!? それはいくらなんでも危険だからやめようか!?
「結局、誰もあの二人には勝てなくて……。
それでも、協定が出来た後も、パーティーには入れなくても、レオン様の『特別な人』になれるかもしれないっていう希望は消えなくて、
出来る限り祝勝会にも行こうと思ってたのに……中止だなんて……」
再び瞳をウルウルさせるティナちゃん。
「亡国の王子だなんて、リコがレオン様を誑かして中止にさせたんだと思ったのよ!
そんなの許せないって思って宿に乗り込んだけど……あんなに怖いレオン様、初めて見た」
その大きな瞳から、ついにポロっと涙が零れ落ちる。
慌てた私がそっと親指でその涙を拭ってあげると、ティナちゃんは焦ったように「やめて……」と呟いたけど、
なんだかさっきまでみたいな元気がなくなってしまっているみたい。
狐耳も、しゅん、と落ちてしまっている。
「……そんなことないよ? レオンって、あれで結構黒いところあるし……」
何度も黒レオン様にはやられているもんね、私。
「レオンが女の子に優しいのはさ、もう、身体に染み付いた性分っていうか……
皆が期待している王子様を演じるのが、自分の役目だって思っている節があるんだよね。
だって、あのレオンに優しくされたら、誰だって嬉しいでしょ?」
そんな私の言葉に、コクンと頷くティナちゃん。
「だけどね、あれで結構、強引だしすぐ拗ねるし、泣いたり笑ったりもする、一人の男の子なんだよ、レオンは。
レオンが何で祝勝会を中止だなんて言い出したのかは私も聞いてないから知らない。
だけど、この街の人達のこと、すごく大切にしているのはこれからもきっと変わらないと思うから」
だから好きでいてあげて、と諭す私を、ティナちゃんが驚いた目で見つめている。
「……リコはそれで良いの? いつかレオン様に大切な人が出来ても、そんな風に笑っていられる?」
……レオンの大切な人かぁ……。それはかなり寂しいかもしれないけど……
「……うん。それでも、私はレオンの側にいたいと思う。そして、その大切な人も守ってあげたい。
私はね、レオンにはいつも笑っていて欲しいんだ」
言ってしまってから、チクリと胸を刺す痛みを感じる。
……けど、うん。その言葉に嘘はない。
今は、私が好きなだけ。側にいたいだけ。そして、その笑顔を守りたいだけ。
いつかレオンに大切な人が出来たら、ちょっとは泣いてしまうかもしれないけど……
けど、レオンが幸せになれるなら、その人ごと、私も守ってあげたいな、とも思う。
レオンは私の大切な人だから。私も、その幸せを守ってあげられる存在でありたいと……思うよ。
「……そうだよね、リコは王子だもんね……。
……良いなぁ、私も男に生まれて、そんな風にレオン様と一緒にいたかったな……」
ポツリと呟くティナちゃん。
……ってそれは誤解なんだけどね!?
私だって嫉妬もすれば泣きもする一人の女の子だけど……今は、彼にとっては『仲間』だから。
レオンだけじゃない。フォレスにとって大切な女性が出来たら、その人の事だって守ってあげたいんだ。
守られるだけじゃなくて、隣に立って一緒に闘い、進んで行ける存在になろう。
彼らのパーティーの入れて貰うことになった時、自分にそう誓ったから。
……だけど今のティナちゃんには、そんなこと関係ないよね。
「ねぇ、ティナちゃん。私ね、この街に来たばかりで、まだお友達がいないんだ。
もし良かったら、私と友達になってくれませんか?
なんだか私、ティナちゃんのこと、すっごく好きになっちゃったみたい」
嘘偽りのない本音でティナちゃんにそうお願いしてみる。
すると、彼女は本日一番の紅潮を見せ、言った。
「……リコってレオン様以上にヒドいよね!?」
酷いってなによぉ~!!??
レオン以上の誑かし魔なんて、そんなのいたらデュレクが大変なことになっちゃうよ!
「何よ、それ!? ティナちゃんが可愛いのが悪いんだからね!」
もう、こうしてやるっ! と、いつかフォレスが私にしたように頭をグリグリと撫で、その狐耳のモフモフも堪能する。
「ちょっと、やめなさいよ! また皆が見てるでしょ!?」
「ティナちゃんが可愛いせいなんだから仕方ないじゃん! こいつめぇ~!!」
そうしてティナちゃんをわしゃわしゃしていると、
「おい、やめろ、そこのバカップル。ギャラリーが酷いことになってるぞ」
と、やたらと良い声がして、後ろから私の手を誰かが止めた。
振り返らなくても、こんな声でこんな事を言うのはフォレスしかいない。
「何よぉ~! せっかくモフモフを堪能してたのにィィ!!」
首を上げてその声の主を見上げると、隣にはレオンまでいるではないか。
「……リコ、本当にこれ以上、恋敵増やすのやめて」
「そんなことした覚えはありません!」
と、私がぷくっと頬を膨らませると
「「「……天然タラシ……」」」
何故かティナちゃんまで声を揃え、呆れた目で私を見ていた。
何なのよ、もう!
あんまり酷いことばかり言うと、リコさんだって拗ねちゃうんだからねっ! プンプン!!
お読み頂き、有り難うございました!




