第二十五話 フォレスとデート
「俺はさ、レオンみたいに綺麗なとこばっか見せてはやれないかもしれないけど、
その分、街に暮らす奴らのそのまんまの生活をリコに見せてやれると思うからさ」
そう言ってフォレスが「まずはここな~」と連れて来てくれたのは、
現代日本で言う、屋台みたいなお店が軒を連ねる場所だった。
良い匂いを垂れ流すお店も多いけど、軒先で簡素なアクセサリーやお土産を売っているお店もそれと同じくらい多い。
フォレスの説明によると、この辺りは商店街よりも安価でお店を出す事が可能なんだそうだ。
「デュレクはさ、人気がある分、ちゃんとした店舗を構えるのもなかなか敷居が高いんだ。
けど、この辺りの店は月単位での契約だから、入れ替わりも多い分、
ちゃんと儲けを出せれば継続して商売も可能だし、続けられれば中央での出店も夢じゃねぇ」
だから皆、安くて良い商品を扱うことに必死なのだと教えてくれる。
日本で言う、アメ横みたいな雰囲気のお店が多いけど、
店頭に立つ人達はみんな、自分の所の商品に自信を持っていて、それを強くアピールしている。
「掘り出し物が多いのもこの一帯だな。
今回、お前が頑張ったのは俺も認めてるし、気に入ったものがあれば買ってやっても良いぜ」
確かに、その一帯は活気に溢れていて、皆、キラキラと楽しそうに商売をしていた。
日本に住んでいた頃は、どちらかと言えば下町と言うような場所に住んでいた私にとってはとても馴染み深い雰囲気。
都会への憧れももちろんあるけれど、そこは身に染みついた懐かしさを刺激される場所だった。
「わ~! 皆、すごく楽しそうに商売してるし、買う方もなんだかギラギラしてるね!」
「まぁな。ここで言い値で買うヤツなんかいないぜ。ネゴらない奴なんてただのカモだ」
フォレスが楽しそうにそう教えてくれる。
フフ、そういう売り手と買い手の勝負みたいな感じ、嫌いじゃない。
良い商品をいかに高く売るか、安く買い叩くかの魂のせめぎ合いが、この辺りを包んでいるかのようだ。
「フォレスはいつもこういう所で買い物してるの?」
街の英雄・レオン様と行動を共にしているフォレスがこういう下町に造詣が深いとは意外だ。
だが、そんな私の疑問に、フォレスは楽しそうに答えてくれた。
「どんなものにも表と裏の顔ってあるじゃん?
レオンには表の、正統性とか綺麗な部分の側面を見極めてもらってんだよ。
……けど、アイツに裏の顔を教えてくれる人間なんていねぇからさ……。
そういうのを見聞きするのは、俺の役目。
実際、その方が俺は気楽だしな~。おキレイな虚飾に満ちた言葉なんて、俺には気持ち悪ィだけだし」
そう語るフォレスの言葉にも表情にも、まったく飾ったところはない。
この人の言葉には、本当に嘘がないんだな……。
今更ながら、その真っ直ぐな気質に感動すら覚えてしまう。
「レオンに下町の生活を理解しろなんて、土台ムリな話だろ?
アイツは街の英雄だし、皆が期待してるし、そんな面倒くせぇモンを産まれた時から抱えさせられてるからな。
……けど、俺は孤児だからさ」
そんな、突然のフォレスの告白に、私はハッとしてフォレスを見上げる。
フォレスの過去もまた、何故だか想像することが出来なくて、小説の中では語っていない部分だ。
本当に良く笑っているフォレスだけど、抱えるものは重いんだな……と、私はしゅん、と俯いてしまう。
「……って、落ち込んでんじゃねーよ!
デュレクは平和な都市だ、俺の両親は産まれた直後に事故で死んじまっただけだっつの。
そういう子どもは、教会で両親さながらの愛情と、人並み以上の教育を受けさせて貰えるんだから、
同情なんかしたら、リコに人には言えないようなことしてやるからな!」
人には言えないようなことって何!?
……と、ツッコミを入れる余裕があるくらい、フォレスの口調にはあっけらかんとしたものがある。
育った環境もあるんだろうけど、それ以上に強い人なんだな、フォレスは。
そんなフォレスに街の人達が次々に声を掛けてくる。
良い商品が入ったから見て行って、とか、今度はいつまで街にいるの? とか。
そんな人達にフォレスも気さくに返事をしながら、露店を覗いたり、時々買い食いをしたりしながら私達は街を歩いて行く。
皆がすごくフォレスに親しみを持っていて、フォレスもそんな街の人達を大切にしているのが良く解る。
レオンみたいな憧れとはちょっと違うかもしれないけど、フォレスもまた人気者で、街の英雄なんだね。
レオンが誠実で人心を集める政治家だとしたら、フォレスは下町のお巡りさん、とでも言うのかな、
けど、人々の生活に根付いたその姿勢は、頼りにもなるし信頼もされているんだろう。
どっちが正しいなんてことは決してない。
二人が一緒だから、この街の平和も守って行ける。
役割ってヤツだね。
「んじゃ、甘いモンでも食いに行くか!」
……ハイ。本日一番嬉しそうな表情のフォレスさんです。
ホントに甘党なんだな、フォレスは。
甘い物ばかり食べているのにそのスマートな身体はとてもずるいと思います!!
そうしてフォレスが連れて来てくれたのは簡素ながら過ごしやすそうな雰囲気の、木造の喫茶店みたいなお店。
女の子同士のお客さんも多いけど、デートかな、男女二人の組み合わせもチラホラ見受けられる。
「定番のデートコースだからな、ここは。俺達にもピッタリだろ?」
フォレスが楽しそうにそう言うので、私もなんだか楽しくなって「そうだね!」と答える。
ここのオススメはな~と教えて貰いながら、私達は案内された席に座った。
案内されたのは、通りに面したテラス席。
今日はお天気も良いし、楽しそうな街の人達の様子も良く解るし、とっても快適です。
「そう言えば、レオンとフォレスってどうしてパーティーを組むことになったの?」
と、尋ねてみる。
幼馴染で腐れ縁、という設定ではあったけど、幼少期の事は私も知らない。
今でこそ気の合う相棒、という感じだけど、二人の性格は違いすぎるし、育った環境も全く違う。
どんな理由で一緒に旅をすることになったのか、私は聞いてみたかった。
「あ~、俺の育った教会はレオンの屋敷のすぐ近くでさ。
歳も同じだし、教育施設……この都市では学舎って呼んでるんだけど、そこの同級生っつーかな。
……けど、最初は俺もレオンも、お互いのこと、嫌い合ってたんだぜ」
なんと! そんな頃があったとは意外だ。
確かに二人は何かと喧嘩じみた言い合いをしてるけど、そこには深い信頼があるのが良く解るのに……
「俺はさ、昔からこんな性格だから、他の奴らともすぐに馴染んで何かとヤンチャもしたけど、
レオンもまた、昔からあんな性格で……いや、今よりもっとスカした奴だったな。
昔から女にキャーキャー言われて、あの調子で愛想振りまいて、
けど、俺にはアイツが、心から笑ってないのが解ってさ。
何コイツ気持ち悪ぃってのが、昔の印象」
ククク、と笑いながらフォレスが教えてくれる。
やーね、もう。レオン様が気持ち悪いだなんて、昔のフォレスってば悪い子ですね!
「後で聞いたら、レオンも俺の事、うるさくて苦手だったらしいぜ。
まぁ俺は、先生の言うことも聞かないし、周りのヤツらと悪戯もしまくってたし……それこそ、授業を中断させるような悪戯も散々してたしな~」
アハハ、と笑うフォレス。
もう! 昔のフォレスって本当に悪い子です!
「そんな時、学舎の生徒達で演劇をやることになってな。
学舎に通わせてくれている親やこの街の人達に感謝の気持ちを示しましょうって感じでさ。
題材はこの街を救ってくれた勇者と魔王の物語。
……で、まぁ当然、その末裔であるレオンが勇者を演じることになって、俺はその敵役の魔王役を仰せつかってさ……」
と、そこに「おっまたせ~!」と、元気な女の子が巨大なパフェのようなものを運んで来た。
……でっか!
何これ、器が私の顔くらいの大きさだよ!?
そこに、巨大なプリンのようなものが乗っていて、その周囲をフルーツやクリームが所狭しと飾られている。
「お~、来た来た。ここの名物、プリンパフェ!」
と、フォレスが本日一番の笑顔でそれを受け取った。
……なんて嬉しそうな表情!
この表情を女の子に向けたら、フォレスももっとモテそうなんだけどな。
なんというか……フォレスらしいや。
ってか、この世界にもあるんだね、プリン。
「この二人前のパフェをカップルで食うのがこの店の定番なんだぜ。
俺は一人でも食い切れるけど、まぁ、郷に入っては郷に従えって言うだろ。付き合えよ、リコ」
そんな嬉しそうな表情で美形に見つめられて、断れる女の子なんかいるもんか。
私だって、プリンは大好きだし。
「うん、頂きます!」
……カップルとは違うけどね、私達は。
「んでさ、さっきの話の続きなんだけど……っておまえそれ、俺が食べようと思ってたライトベリー!」
「何よ、フォレスこそ、私が楽しみにしてたチェリー食べちゃったじゃない!」
「うっせ、早い者勝ちだ!」
……と、まぁ、周りからみればカップルのようなやり取りをしながら、私とフォレスはパフェを頬張る。
むふぅ~ん! こっちの世界のプリンも、甘くてとっても美味しいです!
「んで、話の続きな。
俺もさ~、魔王役やることになって張り切ってたワケよ。なんか格好良いだろ、魔王って。
それに、その頃、俺と同じように教会で育てられてた妹分……まぁ、ぶっちゃけ当時気になってた女の子にも良い所見せたくてさ……」
おお、こんな所でフォレスの初恋の話を聞けるとは。
けどフォレスは、それ以上その子のことについて触れることはなく、話を続ける。
大切にしておきたい思い出なのかもしれないな。
「けど、レオンの奴がさ、絶対に勇者なんてやらないって言い張って。
練習にも出て来ないし、皆困ってさ、脚本を変えようかって話になったんだけど、俺はどうしてもやりたかったんだよ、魔王。
そんで、レオンに直談判しに行ったんだ。お前、ワガママ言うなよって。
だけどレオンは頑として首を縦に振らなくて……最終的には掴み合いの大喧嘩だよ」
昔を懐かしむような優しい瞳で遠くを見つめるフォレス。
男の子の喧嘩の理由って、そんなくだらないことが多いものなのかな。
私と藤子はあまり喧嘩ってしたことないかも。
……私がいつも一方的に怒られてただけで。
「俺はその頃、学舎の中でも一番身体が大きかったし、ヤンチャだったし、腕には自信があったんだ。
レオンのことは貧弱なモヤシ野郎だと思ってたし。
けど、その時のレオンはとにかく必死に俺に食いついて来てさ、最終的には二人ともボロボロで、
疲れ切って学舎の屋上で転がって夕陽を見上げながら、なんでお前そんなに勇者やりたくないんだよって聞いたらさ……」
クク、と悪戯っぽくフォレスが笑う。
「……歌が、あるだろって。ボクは人前では絶対に歌いたくないって、拗ねた表情でそう言ったんだよ、アイツ。
確かにそういう脚本だったんだよな。歌劇だったから。
……アイツさ、すんげー音痴なの。その時無理やり歌わせて以来、俺も聞いたことねぇけど、
そりゃもう酷いのなんのって。なんであそこまで音を外せるのか、天才的なくらいだぜ」
ついにフォレスはぶははっと噴き出した。
なんと! 私の中でもレオンは実は歌が下手という設定があったけど、藤子以外誰にも言ったことないのに!
こんな所で設定が符合するとはね。ビックリだよ!
「でもな、その時思ったんだ。レオンは完璧だと思ってたけど、こんな弱みもあるんだなって。
それが解ったらなんだか親しみが湧いてさ……。
それで二人で相談して、歌をなくす代わりにアクションシーンを派手にするってことで、周りを説得して、公演日までの間、二人で剣で打ち合うシーンの猛練習してたら、これが面白くなっちまってさ。
アイツもそれは同じだったみたいで、二人して剣術にハマッて稽古しまくってたら、なんだかお互いくらいしか相手がいなくなる位強くなっちまったみたいで。
突然冒険者になるって言い出したレオンと一緒に、旅をしてるってそういうワケだな」
と、食べ終わったパフェの替わりに運ばれて来た紅茶を飲みながらフォレスが話を締め括った。
……ちなみに、パフェは約2/3をフォレスのヤツが平らげています……。
食べるのすんごい早いんだもん! 追いつかないよ!
まさか『疾風』スキル使ってないよね、と疑ってしまうくらいの速さだった。
……いやまさか、いくらフォレスでも……とは思うけど、
ヤツのことだ。そのくらいのことはしそうな気がする……。
けど、レオンとフォレスの昔話、聞けて嬉しいな。
当たり前の事だけど、ここが現実の世界である以上、彼らには今までの思い出がたくさんあって、色んな経験や想いが今の二人を形成しているんだ。
私が彼らの過去に干渉することは絶対に出来ないけど、
これから少しずつでも、思い出を共有して、二人と一緒に成長して行ければ良いな、と思う。
「……なぁ、リコ」
と、突然フォレスが今まで聞いたこともないくらい真面目な声で私を呼ぶ。
コテン、と首を傾げた私を、そのアメジストみたいな瞳で見つめてフォレスが言った。
「お前はアイツを、完璧な王子様か何かみたいに思ってるかもしれねぇけど……
アイツだって一人の人間だしな、弱みや欠点だってあるんだよ。
特にアイツは、あれで結構頑固で面倒臭い信念みたいなのをずっと捨てられずに持ってて……
一緒に旅をするってことは、これから先、アイツのそういう部分を見ることもあるかもしれない」
けどさ……と、私から視線を反らし、どこか遠くを見つめるような表情のフォレス。
「ここ最近のアイツは、何だか腐れ縁の俺から見てもすげぇ楽しそうに見えるんだよなぁ。
まぁ、俺自身も良い玩具が出来てすっげぇ楽しいけど」
……ってちょっと! やっぱりアナタ私を玩具だと思ってたんですね!?
ひどい! 後でレオンに言いつけてやる!!!!
「今日みたいに傷つくことも、あるかもしれねぇ。
あの博愛っぷりだけは、俺にもちょっと理解出来ねーんだけど、アイツも悪気はねぇんだ。
まぁそれも、レオンの面倒くせぇ性格の一つだと思ってくれるとありがてぇな。
……まぁ、それでもどうしても耐えられない時は、俺が何とかするからさ」
……ああ、フォレスが今日、私を連れ回した理由がやっと解った。
女の子達に囲まれ、甘い言葉を囁くレオンを見て、私が傷ついたと思ったんだろう。
確かにちょっと胸はチクッとしたけど、まぁ原因不明の、刺がささったみたいなもんだし……
「大丈夫だよ、フォレス。心配してくれてありがと。
レオンに女の子たちがキャーキャー言っちゃうのはさ、もう仕方ないよ。あの容姿だし、性格だし。
それにレオン様は皆のもの、なんでしょう?
一緒に旅が出来るだけでも、有り難いと思ってる。これ以上を望んだらバチが当たるよ」
フフっと微笑んでそう言った私に、フォレスが何故だかビックリした表情で言った。
「……いや、そこは自信を持って良いと思うけど……」
と、何かを言いかけたフォレスの言葉を遮って、私は言った。
「それに、私にだって、まだ二人に言えてないこともあるし、二人に比べて平凡だし、多分欠点だらけだと思うから……。
フォレスこそ、こんな私を見捨てないで、これからも一緒にいてくれると嬉しいな。
私、フォレスのことも大好きだから」
と、心からの言葉をフォレスに告げる。
すると、フォレスは何故だか頭を抱えてテーブルに突っ伏してしまうではないか。
「……マジかよぉ~!! お前、そういう台詞は絶っっ対に俺ら以外の誰にも言うんじゃねーぞ!
これ以上俺の周囲に王子増やしてたまるかっての!!
ちったぁ自重しろ、馬鹿、バァ~~カ!!」
キィィ~~!!!!
何よフォレスのくせに生意気な! 誰が王子だ! 自分こそイケメンのくせに!
「馬鹿って何よ! フォレスのイケメン!」
「お前それ、詰ってんのか褒めてんのかわかんねーよ! どっちかにしろ、この天然タラシ!」
「天然タラシって何よ、失礼な! フォレスの男前!」
「って人の話聞いてんのかよ! 襲うぞ!」
そう言って、フォレスが対面に座った椅子から身を乗り出し、私の頭をワシャワシャと撫でくり回してくる。
「頭がボサボサになるから止めてよぉ~~!!」
「うっせ! お前みたいな天然王子はこんくらいダサくて丁度良いんだよ!」
と、お店の中でそんな風に大騒ぎする私達を、店内の女性客がうっとりした瞳で見つめていて、
この時お店にいたカップルや街を歩いていた恋人達が、この後、こぞって軽い喧嘩になったという事実は、私もフォレスも知らずにいたのだけれど
何故か噂は麗しのレオン様の耳に届いており。
「何をやってるんだ、おまえたちは!」
……と、お怒りのレオン様の前に二人して正座をさせられお説教されたのは、後日のことであると、言っておく。
お読み頂き、有り難うございました!




