第二十四話 帰還
そして到着した酒場は……昼間だというのに、それはもう盛り上がっていた。
「おっせーぞ、おまえら! イチャつくのは後にしろよー!」
……と、ご機嫌なフォレスがガシッと肩を組んで来る。
……フォレスさんや、まさか砂糖で酔っ払ってないですよね……?
その後はもう、もみくちゃといった態でおっちゃん達やアンナさん、ジュリさんに次々に絡まれた。
「これで仕事が出来るぜぇぇ~! ありがとなぁ、リコちゃん!!」
「旦那もやっと仕事に行ってくれるよ! さすがだねェ~!!」
「村に活気が戻って何よりだ! 皆、今日は祝勝会だよーー!!」
抱きつかれ、頭をワシャワシャ撫でられ、私もレオンもすでにボロボロの状態なのだけど。
ああ、頑張って良かったなと心から思う。
こんな光景を見たいから、レオンもフォレスも過酷な冒険者稼業を頑張って続けることが出来るんだろうな。
……へへ、すごく嬉しいや。
ヘラっと笑った私に、ジュリさんが何やら紙の束を突き付けてきた。
「『リコちゃんのあ~ん券』、即日完売で、この店もだいぶ潤ったよ。
悪いけど、アイツらに何か食わせてやってくれるかい?」
と、ジュリさんが店をぐるっと囲んで整列しているおっちゃん達の列を親指で示す。
……ちょっと! 人で勝手に商売しないで!?
だが、すでに発券されてしまったものは仕方がない。
私はおっちゃんたちの行列の前に立ち、「あ~ん」と幸せそうな表情で口を開けているおっちゃん達に
脇に置かれた食べ物を次々に放り込んであげるハメになった。
「リコ、あ~ん!」
……ちょ、フォレス、なんでアナタまで金払って列に並んでんのよ!?
「リコ、ボクはそのチーズが良いな」
レオンまでぇぇぇぇ~~!!!!
そうして昼から夜まで、村の人達と全力で大騒ぎをして、
翌日、私達は村の人達の盛大な感謝の声を背に、蒼炎村を後にした。
「また来てねぇぇ~~!!!!」
……そんな野太くも優しい声に手を振りながら。
「残念淫魔は本当に面倒臭い相手だったけど、おっちゃん達が元気になって本当に良かったね!」
時々現れる魔物を瞬殺しながら、私達三人はデュレクに向けて街道を進む。
「本当だね。魔族だなんて、滅多に人間世界には関わって来ない筈だけど……
アレを見ちゃったら二度と関わりたくないと思ってしまうね……『フリーズ』!」
と、敵を凍らせて行動を制限するレオン。
「俺はもう二度と関わりたくねーな……っと!」
レオンが凍らせた魔物を一刀両断しながら消し去るフォレス。
尚、私は後方で心眼を展開させたまま何もせずに二人の後ろを歩いているだけです。
「リコ頼りの戦闘に慣れてしまうのは怖いから、補助も回復も禁止だよ?」
そう、麗しのレオン様が仰せですので、従わざるを得ません。
二人が言うには、私の補助魔法は絶大すぎるのだとか。
「俺たちだって、カッコ良いとこ見せてーじゃん?」
と、フォレスも不敵に微笑みながら、たまに襲ってくる魔物を切り刻んでいる。
……イヤ、貴方達がすごく強いのは解ってますから。
いい加減、私もヒマなんですけど!?
「フォレス、屠った敵の数が多いが勝ちだからな!」
「……ハッ。前衛の俺の方が有利に決まってンだろ! ……何か賭けるか?」
「リコのデート権!」
「……負けねぇぇ!!!!」
と、楽しそうに魔物を倒すレオンとフォレス。
……ねぇちょっと! あの残念淫魔に影響されるの、やめてよね!?
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そうして、野営を挟みつつ、私達はデュレクに戻って来た。
あ~~、平和って本当に素晴らしい!
Sランクの二人を相手にするには、すごく役不足な魔物との対峙しかなかったから、ここに戻るまでは戦闘も比較的楽だったんだけどね。
何故だか、レオンとフォレスが
「今のはボクの獲物だろう!」
「うるせっ! 留めを刺した方がカウントだ!」
……と、やたらと競い合うので、これは闘わなくても良いんじゃないだろうかという魔物とまで対峙していた為、
通常なら三日程度で戻れるデュレクへの行程も、四日半かかってます……。
……私は殆ど何もしてないんだけどさ……。
ねぇ、レオンフォレス、何か道を踏み外してやいませんか……?
リコさんはとても心配です……。
「ふふん、俺の勝ちだな!」
「ずるいぞ、フォレス! ボクの補助でカウントした分はボクの分だ!」
「言ってろよ、最初から前衛の俺の方が有利だっつってんだろっ!」
結果、彼らのカウントで言うと58vs49でフォレスの勝ち。
総合数で見ると、本当にこの世界の魔物の脅威がヤバいっていうのが良く解りますね。
スライムとかの雑魚は、群れをなしている事が多いからってのもあるけど。
残念淫魔の魅了で集っていた魔物達に雑魚の数がすごく多かったのも、それが理由かもしれないね。
「……クソッ。とりあえずまぁ、ギルドに行こうか。
ヘクターから、着いたらすぐに報告しろと煩いくらいに通信が入ってる」
そうですね、報告・連絡・相談のホウレンソウはお仕事の基本です!
そんなワケで、私達はキルドに行き、ヘクターさんへの繋ぎを取り、報告をしているワケなのだけれど……
「なんだと!? 魔族がこの都市に影響を及ぼしただと!?」
……サラちゃんが側にいない時のヘクターさんの威圧力、本当に怖いです……。
残念淫魔と対峙したのは主に私だけなので、その経緯を話しているのは私なワケで。
怖いんだって!!
何なの、サラちゃんがいる時はデレデレのくせに!!
「あ~、でも、あの残念な人の興味は何処か他に移ったみたいですし……
魔族の行動原理って本当に理解不能だから、対処するっていうのも難しいかもしれない、ですね……」
ヘクターさんの執務室で応接セットにレオンとフォレスに挟まれて座る既視感の中、
対面に座ったヘクターさんの大きな声にビクビクしながら私はそう報告する。
それを聞いたヘクターさんはふむ……と難しい表情で顎を一撫でし、再び鋭い視線を私に向けた。
「……解った。ギルドでも注意しておくが、その魔族の興味の対象ってのはお嬢ちゃんのことじゃないのか?
あいつら、上級ともなれば何処でも好き勝手に転移できるんだろ?
まさか街中で突然襲撃なんてことにならなけりゃ良いが……」
そうだね。確かにあの残念淫魔も突然現れ、そして消えた。
転移……テレポートというのは、どうやら上級魔族が持つ、特殊な力のようだ。
便利すぎて、ちょっとズルい気もするけど、彼らは私達人間や亜人族よりも魔法適性がとても少なく、弱い。
魔法勝負になれば、大体の場合、私達が勝つだろうね。……もちろん、例外はいるけれど。
……以上、作者からの補足説明でした。
「街中に転移して来る心配はないと思うよ。デュレクの魔法結界を破る程の敵ではなかったと、ボクにもそう思えた」
と、レオンが見解を交えてフォローしてくれる。
ウヘヘ、レオン様、優しいです。
「レオンがそう言うなら大丈夫か。
ならば尚のこと、お嬢ちゃんを外に出すのは危険なんじゃねぇかと思うが……パーティーから外す気は、ねぇんだろ?」
「当たり前だ」
ヘクターさんの言葉に、やや被り気味の強い口調で、レオンが答える。
まだ一緒に旅をして良いんですね! ありがとうレオン!
「……解ったよ。お前らにはまだ頼みたい事が山程あるからな。多少のワガママは目を瞑ってやるよ。
……だが、お前ら、注意は怠るんじゃねぇぞ」
「解ってる。リコは必ず守るよ」
キャア~! レオン様素敵!
何度言われても嬉しいですね、この言葉!
「で、次なんだが、何やらサウスの方がきな臭くてな……。お前らに見て来て貰いてぇんだが、
調査にやった職員があと3日程で戻る予定だ。
そいつからの報告を聞いてから出発してくれるか?
……今回はお前らも疲れただろ。しばらくはゆっくり休んでくれ」
そう言って、ヘクターさんはやっと威圧感を緩めてくれた。
ふぃぃ~~! 怖かったぁぁ~~!!
「それにしても、淫魔なんてな。俺も拝んだことないが、やっぱり良い女なのか?」
と、ヘクターさんが興味深げに聞いてくるので。
「「「とても残念な人です」」」
私達は声を揃えて、そう教えてあげたのだった。
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そうしてギルドを出た所で、
「キャアア~~!! レオン様ぁぁ~~!!」
という黄色い声を上げた女の子達に囲まれた。
レオンを囲むその集団から、私とフォレスは弾き出されてしまう。
……うう、この街の女の子達って、本当に元気だなぁ……。
「やぁ、みんな、ただいま」
そんな女の子達に、レオンは優しい笑顔で応えている。
「ご無事で何よりです、レオン様!」
「私、心配で夜も眠れませんでした!」
「レオン様がいらっしゃらないこの街はまるで色を失ってしまったようで……」
と、次々に話しかける女の子達一人ひとりに、レオンは優しく対応している。
「心配かけてしまってごめんね……おいで、リュシー」
そう言うと、女の子の集団の中から茶色い髪の大人しそうな女の子がおずおずと出て来た。
「レオン様……」
ウットリとした瞳でレオンを見つめる彼女を、レオンがギュッと抱き締める。
……あれ、なんだろう、今、胸がチクっとした気がする。
「……戻ったら一番のハグを君へ。約束したもんね?」
抱き締められた女の子は、もう血が沸騰しちゃうんじゃないかってくらい顔を真っ赤にしていて、
だけど、本当にレオンの事が好きなのが解って、可愛いな、と思う。
チク、チク、と胸を刺す痛みは、何故だかどんどん大きくなっているけれど。
本当に、なんだろう、これ。
まぁ、耐えきれない程のものでもないし、気にしなければ大丈夫だよね、きっと。
「ただいま、リュシー。無事に戻って来られて、君にまた会えて、ボクは本当に嬉しいよ」
女の子を抱き締めたまま、レオンが彼女の耳元でそう囁いた。
うわぁ~、今日もハンパないな、レオン様クオリティ。
あんなんされたら、惚れるなって方が無理でしょ。
……けど、今までは、あの腕の一番近くにいた女の子は私なのにな……
そう考えた時、かつてない位の痛みが胸を刺す。
チクリ、というよりはズキリ、と、心臓が何かに貫かれているようだ。
レオンは次々と、女の子達をハグし、甘い言葉を囁き、私が採掘したあの蒼輝石のお土産を渡している。
何故だか、そんな光景を見ていると心臓の痛みが増すような気がして、
私は胸を押さえたままそっと視線を反らし、静かにその輪から遠ざかった。
「……ンな表情してんじゃねぇよ。ホラ、行くぞ」
と、そんな私の手を取り、引き摺るようにして何処かに向かうのはフォレスだ。
あ、考えてみたら私、意識してフォレスと手を繋ぐの、初めてかも。
レオンのそれより大きくてカサカサしていて、剣ダコかな、固いものが出来た手が私の手を、それでも優しく包んでくれる。
「フォレス、何処に行くの?」
どんどんレオンと引き離されながら、私を引っ張るフォレスに息も絶え絶えに尋ねる。
もう! 足の長さが全然違うんだから少しは気を遣ってよね!!
「レオンのあれは、一仕事終えた後の儀式みたいなモンだしな。しばらくどうにもならないぜ。
見てて面白いモンでもなし、あんな所に突っ立ってても仕方ねぇだろ?」
振り向いてニヤリと笑うフォレス。
……あ~、そうですね。レオンってば女の子との約束は絶対守る人だし、
冒険から帰ったその日は「お話を聞かせて下さい」と強請る女の子たちと、
祝勝会、だっけな。女の子たちとご飯を食べながら色々話してあげてたっけ。
私もそんな場面を何度も描いていたような気がするわ。
「お前、この街に友達の一人もいねぇだろ。
しょーがないから、今日はお兄さんが相手してやるよ」
そこでようやくスピードを緩めてくれたフォレスが、私の隣に立ち、ワシャワシャと私の頭を撫でる。
ちょっと! 頭がボサボサになるからやめてよね!
ぷくっと頬を膨らませ、フォレスに抗議の視線を送ると、
そこには健康的な褐色の肌を陽の光に晒した腕を私の頭に置いたまま、
不敵な笑みで私を見つめる美形がいた。
……あ~、レオンの魅力すっかりやられてたけど、フォレスもまた美形なんだよな。
男らしく整った精悍な顔立ちは、レオンのそれとは違った、爽やかな風のような色気を放っている。
レオンが大輪の薔薇だとしたら、フォレスは太陽に向かって伸びる、大きな向日葵みたい。
……いつもは私を玩具か何かと勘違いしてるんじゃないかっていう、ちょっと残念な人だけど
彼もまた、今では私の大切な人だ。
笑い上戸で甘党で、けど真っ直ぐでやたらと良い声の、私の仲間。
藤子が愛情を込めて設定したキャラだからかな、私にとっては親友のような安心感を与えてくれる。
「……で、何処に行くのよ?」
いつの間にかなくなった胸の痛みが消えた事に安心しつつ、フォレスにそう聞いてみる。
「デートだ、デート!
俺が勝ったんだからな、景品のお前に拒否権はねぇんだよ!」
アッハッハと楽しそうに笑いながら、フォレスが再び私の手を取り、街の中を移動する。
ちょっともう! 人を景品扱いするのも、あの残念淫魔に影響されるのもやめてってば!!!!
お読み頂き、有り難うございました!




