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第二十一話 やっておしまいなさい!

 

 ……ちょっ!? いきなり絶対強者とご対面とか何なの!?

 出るなら出るで、それらしい雰囲気とか音楽とか醸し出しなさいよ、狗ぅ~!!

 ……ってムリか。ゲームじゃないんだから。


 あまりの混乱に私はそんなアホな事を考える。

 そんな私を守るかのように、レオンが素早く剣を鞘から抜き去って私の前に立ってくれた。

 こんなアホな子を庇ってくれるなんて、レオン様ったら男前……!!


「リコ、心眼!」


 と、素早くレオンから指示が飛ぶ。

 えと、ハイ、もう展開してるんですが……



 ■名無し

 ■三頭狗(ケルベロス)

 ■筆舌不可



 ……っておいィィィィ~~!!??

 こんな時くらい仕事しなよ、心眼スキルゥゥ~~!!!!


 ……うぅ、こんな残念な情報、レオンに伝えられないよぉ……。

 せめて属性だけでも、と改めて狗を見ると、赤・黒・風の星型……の、隣にピンクのハートマーク。

 コイツもかっっ!!


「炎・闇・空適性持ち、魅了済です!」

「「了解!」」


 私の言葉に、レオンとフォレスが素早く頷く。


「けど気をつけて、コイツの魅了がレオンのとは限らないから……」


 ……と言ったそばから、向かって左側の頭から炎の塊が飛んで来る。

 ギャッ! やっぱりまだレオンの魅了が届いてなかったみたい。

 前衛にいたフォレスが、疾風スキルを使ってそれを辛うじて避けた。

 けど、コイツにも魅了が効くのか。

 それなら……


「レオン、『真ん中の頭にだけ』強めに魅了スキルってかけられる?」


 と、レオンとフォレスに速度上昇の補助魔法をかけつつ聞いてみる。


「やってみよう」


 レオンは軽く頷くと、真ん中の頭を見据えて「スキルオープン、全開」と呟いた。

 心眼で見る。

 ……う~ん、予め魅了にかかってたから見た目には変化がないや。

 あとは攻撃をかわしながら様子を見るしかないか……。


 現在の陣形は、ケルベロスに向かって左にフォレス、真ん中にレオン。

 私は二人に守られながらジリジリと後退しているという状況。

 相手は、ヌラリと黒光りする皮膚を持つ、体長は3メートルはあろうかという、大きな魔物。

 あの保持適性の並び順を信じるとすれば、向かって左から炎・闇・空の魔法を個別に使えるものと思われる。


 炎が飛んでくる。フォレスがかわす。

 竜巻がレオンに向かって来る。私が土の柱を出現させ、勢いを殺した隙にレオンが後ろへ下がり、竜巻が脇に反れ、大きな音を立てて岩壁にぶつかり、消える。

 こちらの攻撃は、二人とも頭を二つずつ相手にしているようなものなので、攻めあぐねている状態だ。

 上手く真ん中だけ、レオンに見惚れてくれると良いんだけど……。



 ……と、レオンとフォレスに速度上昇の風魔法を重ね掛けしていると、その変化は突然訪れた。



「ギャオオオオオ~~!!」

「ギャッッッ!?」



 真ん中の頭が、隣の頭に突然噛み付いたのだ。

 ……フフフ、してやったり。

 私は一人でほくそ笑む。

 こんな大きなワンちゃんも手懐けられちゃうレオンの魅力(チャーム)ってホントすごい!


「……ど、同士討ち……?」


 その様子を見て、ビックリしているのは魅了をしたレオン様ご本人だ。


「リコ、まさか……」

「フフ。やっぱり頭はそれぞれの意思で動いているみたいだね」


 自分の仮説に確信を得る。

 頭が三つある分、意思も三つある。そして、真ん中はレオンに魅了状態、その他は元の術者に魅了されている。

 と、いう事は、身体は一つ、相反する意思を持った獣の出来上がりだ。

 手足が一揃いしかない以上、二つの相反する意思が混じれば動きは鈍くなる。

 そして頭同士は、それぞれ魅了される相手が異なる以上、混乱するし、レオンに魅了された真ん中は、他の二つを敵とみなす、というワケ。


「……うっわ、思いつくことがえげつねぇ~!」


 今、フォレス側の頭は真ん中の攻撃を受けているので、彼には少し余裕がある様子。

 ホホホ、何とでもお言い、フォレスさん! 頭は使う為にあるのだよ!

 レオン側のもう一つの頭も、その状況に驚き、動きが止まっている。

 こうなれば勝負はグンと楽になる。二対が敵対している間に、一つずつ潰して行けば良いのだ。

 ……と、いうワケで。


「レオンさんフォレスさん、右側の頭、やっておしまいなさい!」


 二人の後ろで、あの有名なお爺ちゃんよろしく言い放つ私。


「……全く君って子は……。オーケー! 行くぞフォレス!」

「待ってたぜ!」


 そこからはもう、ワンちゃんにとっては聞くも涙、語るも涙の物語。

 もともと知性の少ないワンコは、右・左・真ん中と次々に頭を潰され、尻尾を巻いて消滅した(※あくまで私のイメージです)。




「ふぅ……」


 レオンが剣を鞘に納めて、その額にかかる黄金の髪を掻き上げながら息をつく。


「……俺、どんな状況になっても、リコだけは敵に回したくねぇ……」


 どういう意味ですかフォレスさん。

 私なんてただの妄想力が豊富な、いたいけな女子高生ですよ!?


「アハハ……まったく。ボクもリコとだけは闘いたくないよ」


 もう! レオンまで!!


「けど助かった。三頭狗(ケルベロス)なんて、伝説だと思っていたのに……」


 マジか。そんなレアモンスターなのか、あのワンちゃん。


「ああ。見ろよ、コレ」


 ……と、フォレスがワンちゃんがいた辺りの地面からキラキラ光る丸い珠を拾って私達に見せる。


魔石(ませき)だぜ、コレ。Aランク以上の魔物からしか採れない、至高石。

 これ一つで一月は遊んで暮らせるぞ、俺ら」


 マジかぁぁぁぁ~~!!!!


「……これ程の魔石はボクらも見るのは久し振りだな……。

 ……ねぇリコ、あの三頭狗(ケルベロス)のランクは、心眼で鑑定できたの?」


 レオンがなんだか呆然とした表情(かお)で尋ねて来る。

 ……え、それ聞いちゃう?


「心眼スキル、意外とザルだよ……。強さ、聞いちゃう?」


 と私が恐る恐る問えば、興味津々な男の子達がコクコクと頷く。

 ……はぁ。理想を裏切って、ごめんね……



「……『筆舌不可』……」



 聞いた瞬間のフォレスの爆笑ったら!!!!

 まぁ、予想はしてたけどさ!!!!


「なんだよ、それぇ!? ザルすぎんだろ!」


 かつて見たことがない程の爆笑に渦に飲み込まれるフォレス。

 あ~ダメだ。こうなったらしばらく復活しないわ。

 レオンですら、俯いて口に手を当て、クックックッと肩を揺らしてるもん。

 ……だよねぇ、心眼スキルのザルっぷりには、笑うしかないよねぇ……。


「……ちなみに、ボクらはどう見えるの?」


 と、笑いながらレオンが聞いてくるので、私は初めて彼らに向かい心眼スキルをオープンする。

 ………うわぁ………。


「……聞きたい?」


 私のドン引きの表情にもめげず、男の子達の好奇心は留まる所を知らないらしい。

 期待に満ちた瞳で私を見つめ、コクコクと頷いている。

 仕方ないなぁ、もう……。


「レオンは……『キラキラ。眩しすぎて鑑定不可』」


 ブッと、耐えきれずフォレスが噴き出す。


「フォレスは……『最強の笑い上戸』」


 言った瞬間、洞窟内にフォレスの笑い声が響き渡った。

 ちょっと! ワンちゃん倒したからって油断しすぎじゃない!?


「ぶはは、やっべェ! 特別技能(スキル)って、やっぱ何処か欠陥あるよな」


 爆笑しながらフォレスがそう言う。

 え、フォレスの特別技能(スキル)に欠陥なんてないと思うんだけど……?


「『疾風』も、何か問題があるの?」


 と聞けば、未だ爆笑の渦に飲み込まれながらフォレスが言った。


「アリアリだぜ。……最初は止まれなくて、何度も何度も……たまに今でも壁に激突するしな」


 ぶっ。

 そりゃまた……大層扱い難いスキルですね……!


「アハハ。特別技能(スキル)ってなんなんだろうね、本当に……アハハハハ!」


 あ~。爆笑するレオンもステキ! これも心のアルバムに納めておこう。

 と、決意しつつ、なんだかんだで強敵を倒した余裕が、私にもあったのだろう。

 アハハ、と大爆笑をかましたところで。



「……楽しそうねぇ、アナタたち……」


 ……と、妖艶な女の人の声が突如、洞窟内に響き渡った。



 ------------------



 フォレスでさえも笑いを治め(これってすごいことなんじゃないかな……)

 声のする方に注意を向ける私達。


 ……来たね。


 伝説と呼ばれているという三頭狗(ケルベロス)を倒したからって、この洞窟に魔物が群れている原因は、明らかにアレではない。

 だって、あのワンコには意思がなかったし、『魅了』されていたのだ。

 ……原因は、この洞窟の最深部に置かれた魔法陣。

 その創造主が、ここに来ている。

 私達はそれぞれの武器に手を添え、その顕現を緊張の面持ちで待った。



「ハァ~イ、ボーイズ」



 緊張感のない台詞で顕現したのはボンテージに身を包んだ妖艶なお姉さま。

 ……うう、またしても私の劣等感(コンプレックス)を刺激するような、ナイスバディなお姉さまです……。

 豊満な胸、括れた腰、張り出したお尻。

 薄紫の、腰まである髪と紅い瞳が妖艶さに彩りを与えている。

 何なのもう! この体型とか美形っぷりはデュレクの標準仕様だとでも言うの!?


 ……と、私が人知れずツッコミを入れてしまうくらい、美形ですよ、ええ。

 テラテラと光る赤い唇は今にも魂を吸い出されそうだし、

 白い肌は透き通るようだし、お顔の造形も大層整ってらっしゃいます。


「リコ」


 緊張したレオンの声が私を呼ぶ。

 ……展開してますよ、ザル心眼。

 強さは推して測るべしなので、今は省略しますが。



「……淫魔(サキュバス)……」



 呟いた私の言葉に、レオンとフォレスがハッと息を飲むのが解る。


「……アラ。正体バレちゃったヤダぁ~。

『亡国の王子様』アナタ、侮れないわねぇ!」


 お姉さんがコロコロ笑いながら楽しそうに告げる。


 ほわぁぁ~~!!??

 初対面の魔族さんにまで私の偽情報が行き渡っているとはこれ如何に!?



 淫魔(サキュバス)

 それは、まごうことなき「魔族」の「支配者階級」だ。

 得意技は『魅了』。

 魔物はもちろん、同族すら『魅了』し、自らの望む快楽の為に他者を操るという、上級魔族。

 男性に対し、夢を操り、自らの虜にし、精液を枯れ果てるまで搾り取るという、えげつない悪魔。


 ……ってか、なんでこんな辺境の土地に上級魔族が到来してんのよ!?

 アンタみたいな強敵はもっと後で出て来るってのがゲームのお約束でしょうがっ!

 いきなりピンチはゲームや小説ではお約束だけど、現実で遭遇するのはお話にならないよっ!

 ……まったくもう……。

 けど、来ちゃったものは仕方がない。


『レオン』


 私は、空魔法を操作して、フォレスはおろかお姉さんにも聞こえない微風を調整してレオンにだけ語りかける。

 それを察したのか、レオンが一瞬驚いた表情を見せたが、さすがは一流冒険者、コクコクと頷くだけで私に応えた。


『レオンとフォレスの周囲に最大限の魅了を展開して、このお姉さんから出来るだけ離れてくれないかな』


 心眼で見えたレオンの魅了(チャーム)は、ピンク色の風を身にまとう感じだった。

 そうしてそれを、周囲に撒き散らしたり、特定の対象にぶつけたりして効力を発揮させている。

 魅力勝負で効力の強さが変化するのだとしたら、二人を覆っていればお姉さんの力を弾くことも出来るかもしれない。

 ……確信はないけどね。

 とにかく、離れるに越したことはない。


 ……君は? ……とその麗しの瞳だけで問うレオンに、私は言った。


『私は貴方しか見えてない。レオン以下の魅力しかない魔族なんて怖くない』


 ……また告白めいたこと言っちゃった……。

 けど、このお姉さんはヤバい。

 淫魔(サキュバス)だなんて、男の子の敵だもん。

 私の大切な仲間を……レオンを誑かされてたまるか!

 今、この場で対抗出来るのは多分……私だけだ。

 サキュバスは男性に、インキュバスは女性に対して大いに影響を与えるもの。故に、私なら彼らより有利に振る舞えるだろう。

 レオンもフォレスも、そんなに心の弱い人じゃないってことは解ってる。

 けど、万が一でも、彼らがこの女にそんな瞳を向けるのを見るのは……絶対にイヤ!


『私を信じて任せて、レオン』


 そうとだけ告げ、レオンへの通信を切る。

 このお姉さん、風魔法の適性もあるもんね。

 その上位の『空』でレオンにお願いをしている私の言葉を盗み聞きされる心配はあまりないけど、あんまり長く話すのも危険だ。

 何しろ相手は上級魔族なのだから。



 決意を込め、私は改めてお姉さんを見やる。

 ……ねぇ、この洞窟の魔物達全部が、魅了されていたのを『心眼』で見た時から、私、貴女の存在を予感してたよ。

 だから、フォレスにもレオンの『魅了』を浴びるようにお願いしてた。

『魅了』状態に対する耐性をつけてもらう為にね。

 魅了といえば淫魔(サキュバス)だなんて、ゲームのお約束みたいな展開だもんね。

 ホント、予想通りすぎて笑っちゃうくらい。


 なんだか可笑しくなり、ククッと笑いながら、私はレオンとフォレスの前に立つ。

「おい……」と、フォレスが咎めようとするのを、レオンが黙って止めてくれていた。

 ありがとレオン。

 二人は出来るだけ下がっていてね。


 精一杯の不敵な笑顔を意識しつつ、私はお姉さんに言った。



「やっと会えましたね、『メリア』さん」



 キャッホーイ!

 初登場のクールキャラ、黒リコさん!!

 演じるの、すっごい楽しいでっす!!


お読み頂き、有り難うございました!

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