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第二十話 魔法少女

 

 そうして私達が蒼炎洞に突入すると、途端に魔物達がギギギッとこちらを注視する。

 さすがにその多数の眼を向けられると怯んでしまうけど、レオンとフォレスは堂々としたものだ。

 警戒は解いていないだろうけど、躊躇うことなく侵入して行った。

 事実、魔物達がこちらに飛び掛かって来る様子はない。


「……効いているようだね」


 レオンがニヤリと笑って呟いた。

 当たり前じゃないですかぁ~!! レオン様のレオン様による魅了(チャーム)なんて、抵抗出来るワケがない。

 女神様補正、とことん活用してやって下さいまし!


「襲って来ることはなさそうだけどな。このまま放置するワケにもいかねぇだろ」


 と、フォレスが「おらぁ~!!」と盛大に声を上げ、その大剣を薙ぎ払った。

 途端に群れていた魔物達がシュン、と消滅する。

 ブラボーフォレス! かぁっこい~~!!!!


 魔物を倒した後、グロッキーな死体が残っていたらイヤだなぁ……と心配していた私だけど、

 この世界では倒された魔物は物理的に消滅する仕様みたい。

 彼らの中には核のようなものがあって、それを破壊されると消滅してしまうようだ。

 ……マジで良かった。現実の闘いだから、そういう場面も仕方ないかなぁ……と覚悟はしていたものの、

 ドロドロのスプラッタな光景より、綺麗に消滅してくれた方がヴィジュアル的にも気が楽だもん。

 異世界さん仕様、ありがとう!


「そうだな。遺恨の目は潰していこう」


 そう言ってレオンが光を剣に纏わせ、「ライトストーム!」と声を上げ、魔物に向かって一閃する。

 光を纏った一陣の風が、魔物の群れに襲いかかり飲み込むと、こちらもまた多数の魔物が一気にシュン、と消滅した。

 キャアアア~~!! 素敵です、レオン様ぁぁ~~!!!!


 現在、フォレスが右、レオンが左に陣取り、それぞれ魔物の群れをある程度減らしてくれた。

 ……ここはいっちょ、魔法少女・リコさんもやってやろうではありませんか!


「ブラックホール!」


 そう呟いて杖を一振りし、私は奥に群れている魔物に向かって闇魔法を撃ち放つ。

 全てを飲み込むという、宇宙空間のアレなイメージです。

 すると、大きな円形のドームが魔物の群れを飲み込み、それが消えた頃には魔物の群れも消えていた。

 イェ~イ! リコさん、やれば出来る子!


 ちなみに、この杖はあの特訓の時にサラちゃんが使っていたのを譲ってくれたもの。

 魔力の消費を大幅に軽減させ、発動速度を高めてくれる魔道具なんだって。

 あの時、魔力の使い過ぎで気を失ってしまった私に、サラちゃんが出発前に「無理させちゃってごめんね」と自ら渡してくれたのだ。

 正直、とっても有り難いです。

 魔力の残存量は自分の感覚でしか解らない。

 心眼スキルがザルだからね……。本当はHPとかMPとか解ればもっと便利なんだけど……。

 案の定、今も展開している『心眼』で見える魔物の情報は、「雑魚」とか「ちょっと強い」とか「ヘタレ」とかそんな情報ばかりだ。

 ……ヘタレってなんだよ! 仕事しろぉぉ~心眼スキル!!


「ヒュゥ~! やるじゃん、リコ!」

「リコ、助かるよ。ありがとう」


 前方のレオンとフォレスが振り向いて声を掛けてくれる。

 ……っと、戦闘中、戦闘中。心眼スキルのザルさ加減に改めて慄いている場合じゃなかった。

 けど、レオンの魅了効果は絶大だ。

 数が多いとは言え、襲って来ないのであれば、それはもう、一方的な蹂躙でしかない。


「おらおらおらぁぁぁぁ~~!!!!」

「ライトニング!!」

重力(グラビティ)!!」

 ……あ、「重力」ではあまりにアレだったんでちょっと格好良くしてみました。ウフ。


 と、そんな声が上がる度に魔物はその数を減らしていく。

 正直、なんだか申し訳ないくらいだ。

 けど、魔物は脅威。レオンが魅了を解いてしまえば、絶対に襲って来るし、

 これだけ大騒ぎした後、遺恨を残せば必ず村を襲って被害が出てしまうだろう。

 だから、情けは禁物。

 殲滅できる要素があるなら、しないという選択肢はないのだ。


 そうして進んでいくと、魔物の数すら減ってきたものの、その種類に変化が表れ始める。

 猪の頭を持ったオーク、緑色の皮膚で覆われた巨大なトロル、

 ……げ、こん棒を構えた一つ目のサイクロプスなんてのもいる。

 一匹一匹が巨大な個体の為、群れてしまうと動きに制限が出てしまうのだろう、それらは2~3匹、もしくは単体で私達の前に立ち塞がる。

 どうやら洞窟も半ばからやや最深部に向けて進んで来ているのだろう、魔物も強敵になりつつあるようだ。


 敵が強くなったことで、魅了スキルのかかり具合はどうかと心配していたけど、

 さすがは我らがレオン様の魅力。何の問題もなさそう。

 ここまで魅了されてしまえば、同志討ちなんてのもさせることが出来そうだけど……

 それはなんだかえげつない気もするし、レオンのキャラじゃないので進言するのはやめておこう。

 ……まぁ、必要があれば使ってもらうことになるだろうけどね。


 ちなみに、私の知る『魅了(チャーム)』は相手に見惚れて動けなくなる他に、対象を思い通りに動かせる効果もある。

 魔物達がこの洞窟に集い、外からの侵入を阻害していたことを見ても、その効果は確かにあるんだろう。

 何者かが意思を持って魔物達を操っていると見て間違いない。

 レオンは今、見惚れさせ、行動を不能にすることに特化してスキルを展開しているみたい。

 スキルも、魔法ほどではないけど魔力を消費するみたいだから、あまり強い効果を展開させ続けるのも良くないよね。

 ……え、私? 心眼スキルはとっくに切ってますよ。だってザルすぎるんだもん!


 けど、これだけ優位に闘えるなら、連携も練習しておきたい所だな……。

 練習台にするにはちょっと強い魔物かもしれないけど、まぁ数も減ってきたし行けるでしょ!

 そう考え、私はレオンとフォレスに声をかける。


「レオン、魔法を纏わせるのは私に任せて。フォレスも疾風スキル、切って良いよ」


 この先にはラスボスもいるハズだ。

 二人の魔力の温存もしておきたいところだしね。


 そう言った私に、二人は少し不思議そうな表情(かお)をしたが、「了解」と言って魔法とスキルを切ってくれる。


「ありがとう!」


 私は協力してくれた二人に御礼を言い、まずはフォレスに補助魔法。

 あの長い脚がもっと早くなるようにとイメージして「速度上昇」と呟き、風を纏わせる。

 ……ううう……、語彙力ぅぅ~~!!

 今度ヒマな時にでも、格好良い名前のストックしとこっと……。


「うぉっ!?」


 だが、効果は絶大で、フォレスの身体が数ミリ浮かび上がる。

 ちょっと驚いているフォレスだけど、そこは身体能力の高いフォレス、あっという間に使いこなし、サイクロプスに風より早く辿り着いた。

 と、そのタイミングで「地力!」と私。フォレスの腕に岩のような力を持たせるイメージなんだけど

 ホントにもう、残念すぎるよ、私の語彙力!!!

 だけどこれも効果は絶大。

 その大剣はサイクロプスを真っ二つに叩き切り、敵はあっという間に消滅した。


「……すっげーな、これ。最っ高!」


 おお、フォレスの爽やかな笑顔だなんて、なかなか貴重なショットをありがとう! 心のアルバムにしまっておきますね!

 語彙力は残念だったけど、フォレスのお気には召したようで何よりです。

 んじゃ、次はレオンだね。


「黒金剛石!」


 レオンの剣にダイヤモンドの硬さと鋭さ、そこに闇を纏わせてみる。

 ……うん、レオンに適性はなくても、私が使えれば付与させることは出来るみたい。

 そして更に「速度上昇、鉄壁!」と速度と守りを上昇させる補助魔法をかける。

 フォレスより過保護なのは恋する乙女のエコヒイキです、ごめんね、フォレス。


「ありがとう、リコ!」


 そう言ってレオンが奥に3匹で群れている巨大なトロルに一瞬で辿り着き、その剣を横薙ぎに振り抜いた。

 それに合わせて風魔法も纏わせてみる。

 黒い風が、一瞬にしてトロル達を切り裂き、消滅した。


「……なんだかすごいな……。リコ、君、本当に何者なの……?」


 あまりの威力にレオンも呆然としている。


「だからただの女子高生ですってば!」


 ……ただし、現代日本で小説を書いていて、ある程度ゲームもやったことある、イメージ豊富な女子高生ですけどね!


 そんな私に二人は、


「「こんな女子高生いてたまるか!!」」


 と声を合わせて抗議してくる。


 も~、ホントにこの二人ってこういうタイミングがバッチリだよね。

 ……ハッ! まさか、レオンの『魅了(チャーム)』効果で早くも耽美な世界に…!?


 と、私は人知れず恐れ慄くのだった。

 だって、フォレスが恋敵(ライバル)だなんて、勝てる気がしないもん……。しゅん。



 ------------------



 そうして色々試しつつ魔物の群れを駆逐していくと、ついに最深部と思しき場所に辿り着いた。

 ふぃ~、距離としては対したことなかったけど、戦闘に次ぐ戦闘だったからな、ちょっと疲れた。

 まだ魔力量には余裕がありそうだけど、これから先、ラスボスとの対峙を考えるとちょっと休憩も必要かもしれない。


「……魔物はおおかた駆逐出来たようだね。

 ここらには魔物もいないようだし、少し休憩しよう」


 レオン様の言葉に、「さんせ~い!」とへたり込む私とフォレス。

 ずっと緊張状態が続いていたしね。

 襲って来ない魔物の駆逐とは言え、最深部に近付くにつれてその威容は凄さを増していったのだ。

 最終的には「ドラゴンなんじゃないの、アレ……」と言いたくなるような大蜥蜴もいたし……。

 実戦初参加の私としては、主に後方支援をしていたとは言え、その異形には正直、ちょっとビビっていたりもしたんだよね。


「リコ、本当に助かったよ、ありがとう」


 そう言って、レオンが朝、出掛ける前に村の商店で購入していたハチミツ水と一緒に、ラムネのような形状の錠剤を渡してくれる。


「魔力回復材だよ。だいぶ無理させてしまったから……。

 これから先、まだ何が起きるか解らないから、出来れば飲んでおいて」


 そう言って渡されたそれを、私は疑うことなく飲み込んだ。

 その瞬間に感じる、体の中の魔力が復活して行く感じ。

 ……おお、MP回復ってこんな感覚なんだね~。

 ゲームでは解らなかった実際の感覚に、私は感動を覚えてしまう。


「しっかしアレだな。今はだいぶ数を減らせたとは言え、原因を排除しないとどうにもならねぇぞ、コレ。

 せめて発生場所くらいは特定しないと、この数は洒落になんねーだろ」


 フォレスもハチミツ水と回復薬を口にしながら、そんなことを言っている。


「……ああ。しかも、この近辺の魔物は通常ならダンジョンの奥に潜んでいるような大物だったしな。

 こんな魔物が村の周辺に、これだけの数いるなんて、まったく脅威としか言いようがない」


 レオンも難しい表情で頷いている。


 う~ん……。

 まだ原因を特定出来てないから解らないけど、なんだか周囲の魔物全てがここに集められているって感じだよね。

 だから、村の周辺や街道には魔物の姿がなかった。

 今は何故だかこの洞窟の中だけで犇きあっていたけど、これが外に出て行ったらと思うと、ゾッとする。


「それにしてもリコ、君の活躍には目を見張るものがあるよ。

 ……本当に、君の国には魔物はいなかったの?」


 ……と、レオンが不思議そうな表情で私を見つめている。

 ア、アハハハハ……。そりゃそうだよねぇ、魔物のいない平和な国から来たって説明しているのに、

 難なく実戦をこなしてしまったのだから。そりゃ疑問にも思うだろう。

 ……けどなぁ、まさかゲームで闘ったことがあります、なんて言っても信じて貰えないだろうし……


「う、うん。魔物はいないけど、そういう小説はたくさん出回っているから……

 私、とっても想像力が豊かみたいで、小説の色んな場面を想像してイメージしていたの。だから……」


 ……これもまた、説明としては苦しいかなぁ……。

 だけどレオンはそんな私の言葉に、フフっと微笑んで頷いてくれた。


「物語の世界かぁ……。君の国は本当に平和なんだね。

 ボクも出来れば、魔物なんて実物より物語の中でお目にかかりたかったよ」


 そう言って苦笑する。


「けど、読んだだけでイメージしてここまで実戦に活かせるなんて、お前の妄想力、どんだけなんだよ」


 フォレスはそう言ってぶははと噴出している。

 ちょっと、こんな所で爆笑の渦に突入するのは止めてよね!?


「フフッ。リコが読んでいた物語。

 その中にボクがいて、格好良く活躍してたら良いな」


 ……と、レオンが楽しそうに呟いた。


 ええ、まさにその通りですが。

 それどころかその物語を私が描いていましたが!

 レオンの格好良さを世に布教していたのはこの私ですが何か!


 ……と、思わずそんな事を口にしそうになり、危ない危ないと自重する。

 いつかは、私のこの小さな秘密もレオン達に伝えることがあるかもしれない。

 けど、なんだかさ……。それを言ってしまったら現実に立ち返ってしまいそうで。

 本当に、何でこんなことになっているのかは、私の妄想力を以ってしても想定の範囲外なんだけど、

 いつか、あっちの世界に戻ることがあるんだろうか。

 果たして、その方法があったとして、私はその時、日本に帰りたいと思うのかな。

 こうして、手を伸ばせば触れられる距離にレオンが──今では、『好きな人』と認識してしまった人がいるのに……。

 あっちの世界のパパやママ、それから藤子(とうこ)

 別に不満なんてなかったよ。彼らのことも、それはそれは大好きで、大切だ。

 けど……やっぱりそれは、レオンを想う気持ちとは違うもので。


 いつかは、どちらかを選ばなければいけない。

 こちらで生きると決めたなら、家族や、親友との別離を。

 もしあちらに戻る方法が見つかって、戻ると決めたなら、レオンやフォレスとの別れを。



 ……あ~、今は考えたくないな! やめよ、やめよ!

 どうせすぐに答えなんか出ないんだ。

 今はお仕事中だし、答えのない思考の渦に沈んでいる場合ではないハズ。

 しっかり、リコ!


 ……と、私は自分の両頬をパンパンっと叩いて叱咤する。

 すると、そんな私を見て、レオンがスッと隣に寄って来て言った。


「……故郷を思い出させてしまったかな……ごめんリコ。

 いつか、君を故郷に帰してあげると約束したけど……なんか、自信がなくなってしまうな」


 ……ずっとこのまま……


 そう遠くを見つめながら呟くレオン。


 ……ずっとこのまま。

 レオンと、一緒に……



 そんな幸せな妄想は、突然の咆哮で打ち消される。



「ウォォォォォォ~~~~~ン!!!!!!」



 大きな大きな、獣と思しき生物の咆哮。

 それは、今まで私達が休憩していた岩壁のすぐ後ろから聞こえて来た。

 咄嗟に立ち上がり、壁から距離を取る私たち。


 すると、その岩壁がドーーン! と大きな音を立て、崩れ落ちる。

 その先にいたのは……



三頭狗(ケルベロス)……!!!!」



 誰の呟きだっただろう。私かもしれない。

 そこに表れたのは、三つ首を掲げた、大きな大きな黒い狗の魔物だった。


お読み頂き、有り難うございました!

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