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第十五話 他意はありません。

 

「楽しかったわぁ~!! お店の良い宣伝にもなったし。みんな、ありがとー!!」


 そう言って、私達は3人まとめてクラックさんにギュウウウと抱き締められる。

 だが、疲れきっている私達はなすがままにされていた。


 時刻は既に夕刻近く。太陽がその光を赤色に変えかけ、頭上と言うよりはやや西よりに移動を開始していた。

 関係ないけど、太陽は東から出て西に沈むのは地球と同じらしい。

 こちらの世界に来てから、この世界は『私が設定した通りの世界』なのではなく、

『この世界の設定を使って私が小説を書いていた』と言った方が正しいんじゃないかと思っている。

 世界の理とか構造とか、私には解らないことばかりだしね。

 ……まぁ、かと言って、何故私にそれが出来ていたのかは説明のしようがないのだけれど。


 ……と、まぁそんな余計なことを考えているのは、もちろん現実逃避だ。

 クラックさんの腕力には三人掛かりでも抵抗できそうにないけど、

 今はそれより、疲弊しきっていて抵抗する余裕がないのだ……主に精神面で。


「んじゃ、リコちゃんの装備のコーディネートしましょ」


 そう言われて、私は1階のいわゆる普通の服飾店エリアへ連れて来られた。

 ちなみに、フォレスは「疲れたから帰って寝る……」とフラフラと灯亭に戻っている。

 レオンより人目に晒されるのは慣れていない様子だったしね。

 どこから聞きつけたのか、あの短時間の間に市民全員が集っているんじゃないかというくらいの大混雑だったのだ。

 あの数の人たちに手を振り続けるのは、体力的にも精神的にもクるものがあるだろう。

 身を以って体験した私には良く解る。

 お疲れ様、また後でと声を掛け、私とレオンだけがホワイトスノウ服飾店に残っているのだ。


「アタシもただ遊んでたワケじゃないのよぉ~? お仕事はちゃんとするんだから!

 ちょうど今、リコちゃんに良さそうなのが入ってるの。持って来るからここで待っててね~!」


 クラックさんはそう言って、お店の奥に設置されている応接ブースに私とレオンを残して何処かに向かって行く。

 後に残された私とレオンは顔を見合わせると、なんとなくお互いにフフッと微笑み合った。

 ……ちなみに今はもう、レオンは通常の服、私はジャージに着替えてますので悪しからず。


「とっても良く似合ってたよ。『亡国の王子サマ』?」


 レオンが悪戯っぽく微笑んでそう言う。


「レオンこそ! 本物の王子様みたいでした!」


 思い返してニンマリしてしまう。

 あ~、本当に格好良かったな~!

 お伽話の王子様が絵本から飛び出して来たんじゃないかってくらい似合ってた。

 ……まぁ、私にとってレオンは本当に小説の中から飛び出して来ちゃった人なんだけどね!


「……まったく、リコには驚かされてばかりだな。

 突然現れたかと思えば迷い人だと言うし、とんでもない魔法適性を持っててあのサラと互角に闘うかと思えば

 クラックと意気投合してパレードを開催させてしまうし、リコ自身もあの変身ぶりと来た。

 ……本当に、君といると楽しいよ」


 言いながら、とても優しい瞳で私を見つめるレオン。

 私のせいであんな服を着せられて道化師(ピエロ)よろしく衆目を集めちゃったって言うのに、優しいんだから、もう!


「あはは……。自分でも驚くことばかりです。

 突然この世界に来ちゃったと解った時はすごく不安だったけど、なんだか私、この街の人たちのこと、すっごく好きになっちゃいました」


 それは紛れもない本音だ。

 この少ない日数で出会った人たちは何だか個性的な人が多かったけど、すっごく良い人たちだってのは理解(わか)る。

 なんだか皆、一生懸命で、自分に素直で、愛情を惜しみなく注ぐ人だっていうのが良く解ったから。

 現代日本に比べ、魔物の脅威はあるし、色々な技術が発達していない部分もあるだろう。不便さもきっとある。

 私が知らないだけで、今、この瞬間にも泣いている人も、きっといる。

 けど、この二日で見たデュレクという街は、日本の、他人に無関心で無機質な感じより、よっぽど「生きている」感じがするんだ。

 何故自分が突然トリップしてしまったのかは解らないけど、ここでなら、帰れなくても大丈夫かも、なんて気になっている。

 ……レオンもいるしね。ウフ♪


「フフッ。その中にボクも入っていると嬉しいな」


 えっ、何言うの、この王子様?


「そんなの当たり前じゃないですか。お世話になっているから、とかじゃなくて、一番はレオンですよ?」


 告げてから後悔する。

 レオンの頬が、西日を受けたせいだけでは決してなく、ポッと薔薇色に染まっていたから。

 また告白めいたことしちゃったけど……まぁ良いや。

 何となく、レオンにも知っていて欲しかったんだ、私。

 優しく私を見つめるレオンの瞳が、どことなく寂しそうに見えたから。


「まったく君って人は……。どんな風に育ったらそんなに素直になれるんだろう。

 明日から旅に出ることになると思うけど……君のこと、もっと教えてくれる?

 ……知りたいな、リコのこと、もっと」

「はい! 旅には不慣れですが宜しくお願いします!

 私もレオンのこと、もっともっと知りたいです!」



 ……そうだ。私は知りたい、もっともっと、レオンのことを。

 妄想の中じゃない、現実のレオンを、彼の色々な表情を見たい。そして、出来れば笑っていて欲しい。

 恋というものを初めて知った私にとっては、今は色んなレオンを知りたい、と願うことが精一杯だ。

 そのことで、辛いことを知る時がきっとあるだろう。

 けど今は、レオンがここにいる、その幸せを噛みしめていたい。



「大丈夫。君は絶対ボクが守るよ」



 そう言って、心底幸せそうにレオンが微笑んでくれる。

 今までいろんなレオンの表情(かお)を見て来たけど、一番のベストショット、頂きましたぁぁぁ~~~!!!



「あらぁ~、レオンちゃんもリコちゃんもそっちもイケる人なのぉ~?

 やだぁ~、アタシも頑張っちゃおうかしら!!!」



 気付けば、ウッフッフと野獣めいた笑みを浮かべたクラックさんが立っていた。

 ……ね、狙われている……!?

 ……ってか、こっちに来てからというもの、二人でいると周りに目が向かなくなって来ている気がする……

 気付けば側に人がいるなんて、冒険に出たらすごく危険だ。自重、自重!


「リコは特別だよクラック。期待しないで」


 ちょっ!? レオンってば、そんなにバッサリ切らなくても!

 ……でも、特別だと言ってくれて、すごく嬉しいなぁ……ウヘヘ……。

 まぁ、深い意味はないんだろうけど。しゅん。


「やぁねぇ~! そんな怖い顔しないでレオンちゃん。

 けど珍しいわね。レオンちゃんがそんな表情(かお)するなんて……なんだか嬉しいわね」


 そう言って、クラックさんが初めてみる慈愛に満ちた表情で微笑んだ。



「……アタシも頑張るわ」



 野獣EYEも消えてませんでしたぁぁぁぁ~~~!!!



 ------------------



「持ってきたわよぉ~、リコちゃんの装備。見たとこ後衛タイプみたいね。

 丁度良いのを仕入れた所だったのよ。お客さんたち、ホント運が良いわぁ~!」


 何だか商売人の眼になったクラックさんがそう言って持っていた服を私に渡してくれる。


「とりあえず着てみて。サイズは絶対に間違いがないから」


 そう言われ、私はひとまずその装備一式を受け取った。

 クラックさんの趣味全開だったらどうしよう……との心配は少しあったけど、

 パッと見た感じ、あのステージ衣装みたいな装飾過多な感じはなかったし、

 新しいお洋服にワクワクしちゃうのは女の子の共通事項です!


「行っておいで、リコ」


 レオンの言葉に後押しされ、とりあえず近くのフィッティングルームに移動する。

 そして、渡された装備を眺めてみると、これがもう、ドキドキしちゃうような可愛さだった。


 襟のついた長袖の赤いボレロは金の縁取りで飾られ、所々に細かい花柄の刺繍があしらわれている。

 インナーは胸元に宝石が飾られたキャミソール。

 虹色に輝くシフォンと白い布の二重構造になっているスカートは、前身部が膝より少し上、後ろは脹脛あたりの長さになっている。

 それに黒いスパッツを合わせて着る感じになっているようだ。

 あっちの世界でたまに見かけた、いわゆる魔法少女っぽい感じもするけど……

 いやぁ、可愛いって正義だわ。一目で気に入ってしまいました!

 ……なんだかコスプレっぽくてちょっと気恥ずかしいけども。


 そうして試着したそれは、クラックさんの言う通りサイズはジャスト。

 ……ってか胸までジャストフィットですクラックさん!

 採寸もしてないのに私のバストサイズまで熟知するのやめて!!!!


「リコちゃ~ん、どうかしらぁ~?」


 そう外から問われ、おずおずとフィッティングルームから私が出ると。



「可愛いよ、リコ」



 満面の笑顔の王子様が私を出迎えてくれました!!!!


「あらホントねぇ~! 予想以上に似合ってるわ、リコちゃん。さすがアタシの同類!」


 クラックさんはと言えば、拍手までして出迎えてくれる。

 違いますからね!? 女装趣味があるワケじゃないですから!!


「ボレロは魔力消費を抑える火蜘蛛の吐く糸が織り込まれてて、

 スカートは魔法防御力の高い虹布と、それを解いて糸も細かくしてシフォン状にした布の二重構造なのよん♪

 インナーの宝石は魔法を手助けしてくれる魔石で出来てるから、リコちゃんにはピッタリでしょぉ~?」


 うぉっ! なにそれすごい!


「その靴も、ウチの店の商品よね。

 そのままでも可愛いけど、こっちの方が良いと思うからぁ……」


 そう言ってクラックさんが私の足元に靴と同じ素材のリボンを巻きつけ、編み上げ状にしてくれる。


「『状態記憶』」


 そう呟くクラックさん。


「これでこの靴はこの状態を維持してくれるわ。

 装備も、一定期間の間、キレイなこの状態を維持できるように技能付与してるから、冒険にも安心よ」


 バチン☆とウィンクをして得意気にクラックさんがそう語る。


「アタシはねぇ、『状態記憶』の特別技能(スキル)を与えられてるの。

 生物には使えないから、冒険者時代には、殆ど役に立たなかったスキルだけど……今はすっごく満足してるのよぉ~!」


 楽しそうに、けれど少し淋しそうにそう語るクラックさん。

 ……昔は冒険者だったのか。

 まぁ、この屈強な肉体を見るに前衛だったんだろうな。フォレスと良く訓練してたって言ってたし。

 きっと、メチャクチャ強かったんだろうな。


「どうかしら? レオンちゃん?」


 自信に満ちた笑顔でレオンにそう問うクラックさん。



「……さすがクラック。全部頂くよ」



 わぁ~お! レオン様太っ腹ぁ~!!!

 けど、これってとびっきりの装備だし、金額もすんごいことになってるんじゃ……



「お買い上げ、ありがとぉございまぁ~す♪」



 うっわ、クラックさんの笑顔も最上級だ!




 ……そうして、装備一揃いを整えてもらい、灯亭に向かう私とレオン。

 気になるのはこの装備の値段だけど、今の私は無一文の為、当然レオンが支払ってくれている。


「あの……レオン、この装備のお金だけど……」


 そう言い淀む私に、王子様はキラキラの笑顔で仰いました。



「お姫様がドレスの値段なんて気にするものじゃないよ」



 ……くぅぅぅぅ~~~!!!!

 その言葉だけでご飯山盛り三杯はイケそうですけれども!!

 けど、現代日本人の感覚では、相当の価格だろうこの装備をタダで貰ってしまうのは忍びなくて。



「……えと、これから少しずつ、身体で払いますね?」



 そう言った私に。



「……頼むから、そういうのはボクの前だけにしてくれ……!!!」



 レオンは顔を押さえて道端に蹲ってしまった。



 これから冒険の役に立てるよう頑張りますし。

 ……他意はありませんよ? レオン様?


お読み頂き、有り難うございました!

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