第十二話 特訓、特訓!
筆が乗ったのでもう一話更新させて頂きますね^^
「あっはははは! 凄いね、リコちゃん!」
サラちゃんはそう言いながら何故か爆笑している。
いやまぁ、自分でもここまでイメージ通りに魔法が撃てるとは予想外だ。
しかもサラちゃんの意地悪な指示の通りにやっていたら、氷と大地をミックスさせたり炎と水を同時に別々の場所に撃ったり出来ちゃったし…。
もしかしたらアレかな。魔法に関してはラノベで言う『チート』ってヤツ……?
……ウフン♪ 良い響き♪
「サラも燃えて来ちゃったなぁ?」
再び寒気すら覚えるような獰猛な雰囲気を纏い、サラちゃんが妖艶とも言える表情で微笑んだ。
自惚れちゃってごめんなさいィィィィィ~~!!!
なんか出来ちゃっただけで、初心者ですから優しくして下さいマジで!
「魔法を撃つのは問題ないみたいだし、次のステップ、行ってみよー!」
……楽しそうだな、サラちゃん。
なんだろう、眠れる獅子を叩き起してしまったような気分だよ……。
「魔法は攻撃するだけが使い道じゃないからねー。
しかも、今みたいに属性が視認できる状態なんてほとんどないから、どの属性を使うかの判断はとっても大事。
魔物によっては自属性を吸収しちゃう子もいるし、属性の使い分けってホント大事なんだよー!」
サラちゃんがそう説明してくれる。
そりゃそうか。わざわざ自分の弱点を叫びながら襲ってくる魔物なんている訳ないし。
間違った対処をすれば一気にピンチになっちゃう可能性もあるワケで、
ホント、使い方は気を付けなきゃいけないな。
「ってワケで実践訓練だよー! サラが相手!
魔法をいなすとか無効化する練習をしてみよー!
力が同等の相反する属性がぶつかると、魔法の効果は消滅しちゃうの。
サラが魔法を撃つから、リコちゃんはそれにぶつけてみて。
ちなみに、この訓練場は特殊な効果のある結界で覆われてて、ダメージは一瞬だけで、すぐになかったことになるからぁー」
……本気で行くね?
壮絶とも言える笑顔でそう告げられた。
怖いィィィィィィィーーーー!!!!!
美少女の黒い笑顔って本気でヤバいよ!!
「当たっても痛くない、痛くなぁい♪ ……ってコトで、いっきまーす!」
そう言って、いつの間に取りだしたのか解らない小振りの杖を軽く一振りするサラちゃん。
その瞬間、矢の形をした炎の塊が私に向かって飛んで来るのが解った。
……ってあれ、私がさっき撃った『炎弾』じゃん!
発動の言葉も無しに私の魔法をコピーするとか、サラちゃん、ホントにえげつないな!
けど、あれ食らったらヤバそうだ。
異世界の魔法結界効果で、痛いのも一瞬だろうし死ぬこともないんだろうけど、
生憎私は現代日本の現役女子高生なんです。
一瞬でも痛いのはイヤなんです!
「水のカーテン!!!」
うわぁぁぁぁ~~!!!!
余裕がなくて言葉に余裕がないよぉ…!
もっと格好良い言葉でビシッとキメたかったのにィィ!!
目覚めよ、私の語彙力ぅぅぅーーーー!!!!
だが、これもすごく効果があったようで、サラちゃんの炎弾は私のギリギリ目の前でプシュウと煙を吐いて消えた。
「さっすがリコちゃん! そう来なくちゃー!」
言いながら、ニヤリと笑って杖を振り続けるサラちゃん。
連続ゥゥゥ!?
誰かこの子を止めてェェェェーーーー!!!!
「土! 闇! 水!」
速すぎてもはや属性しか喋れないィィィィィーーーーーーーー!!!!!!
だけど、サラちゃんから飛んできた風・光・炎の攻撃はかろうじて防げたようだ。
「むぅ……やるなぁ……。サラ、結構強いのに……。
やっぱり全適性持ちだと不利だなー。ロンちゃん、おいでー」
サラちゃんがそう言うと、その隣に光の魔法陣のようなものが現れる。
かなり大きなその魔法陣から放たれる光で辺りが一瞬カッと光に包まれると、
次の瞬間にはそこに、翡翠の鱗を纏った地蟲が顕現していた。
……なんというか…日常では馴染みのない威容だ。
3メートルはあろうかという巨大な体躯は堅そうな鱗に覆われており、
節くれだった身体には巨大な口があるだけで、手足はおろか眼すら私には見つけることが出来ない。
例えるならアレだ。眼のないオー○。
「ロンちゃん、昼ぶりー!」
楽しそうに地蟲に語りかけるサラちゃん。
そんな彼女に対し、地蟲さんはハァァと、風属性を伴った息……というよりブレスですねアレは……を吐いて応えた。
『サラ、くだらない用事で我を呼び出すなといつも言っているだろう』
なんだろ。声と言うより意識に直接届くような音。
ただし、その音は引き続きとっても残念な事実を告げる。
『高所のベリーが欲しいの♪……だの、ベリーを煮込む石窯作って、だの、地中のお芋を取って来て、だのと……
おまえは誇り高い我が一族を何だと思っているのだ』
うわぁぁぁ………。
見るからに「私は強いです」って存在感を発揮している地蟲にそんなことさせてるのか……。
サラちゃんってある意味スゴい。
「ロンちゃんはサラの相棒だもーん!
……あ、リコちゃん、この子はサラの相棒のロンディアヌスちゃん。
風の民はね、人間みたいに特別技能がない替わりに、
サラが持ってない属性をカバーできる相棒と魂の契約を交わしてるの。
それでも、闇だけはどうしてもカバー出来ないんだけどねー!」
あっはっはと楽しそうに笑うサラちゃん。
愛おしげに地蟲さんの身体の表面を撫でている。
「ロンちゃんは見た目こんなだから、なかなか相棒が出来なくてグレてたんだよー。
けど、サラはなんか運命感じちゃったんだ。
ロンちゃん可愛いし、便利だしー」
……可愛くはないと思います!
「ずっと一緒に生きて来たから、サラの一番大事な子なの。
……あ、ヘクは別だからね! ヘクはサラの世界一の旦那様だから!」
そう言って私の後方に満面の笑顔でサラちゃんが手を振っている。
つられて私が振り返ると、そこにレオンが来ていたことに、私はここに来てから初めて気がついた。
金髪の王子様はニッコリと麗しの微笑みを浮かべ、私に向かって手を振り
「ガ・ン・バッ・テ」
そう声に出さずに伝えて来る。
……くぅぅぅ~! これは頑張らざるを得ないっ……!!!!!
「ってワケで、ここからはロンちゃんにも特訓にお手伝いをしてもらうねー!
ロンちゃん、よろしく!」
『わざわざ我を呼び出すということは、見込みのある人間なのだろう。
せっかく来てやったのだ、楽しませろよ、人間』
……言った側からアレですが、怖すぎて頑張れる気がしないです!!!
けど、サラちゃんは勘弁してくれる気はなさそうだ。
異世界に来たばっかりで魔法なんて今日初めて使った女子高生になんたるスパルタ…。
まぁ、でもレオンの足手まといになるのは私もイヤだし、自分に出来ることは知っておきたい。
……怖いけど! 地蟲さんの威圧感ハンパないしね!
あ、そう言えば私には『心眼』の特別技能もあるんだっけ。
どうせならこれも使い方も研究しておこう。
そう考えて、私は頭の中で「スキルオープン」と念じる。
使い方を知っているのは作者補正です。ウフ♪
すると、サラちゃんの頭の上辺りに緑・赤・黄色の星型、地蟲さんには緑・茶色・青の星型が現れた。
そうだろうとは思ってたけどさ! 二人して上位魔法適性バリバリじゃないですかヤダー!!
ふむ。けど、心眼なら相手の保持適性は見抜くことができるようだ。
続いて彼らの情報を見ていく。
これは彼らの隣辺りにステータスウィンドウのようなものが出現することで知る事ができた。
■サラ・ローンバイン
■風の民
■超強い
■ロンディアヌス
■最上位地蟲
■伝説レベルで強い
ってええェェェェェェェェェェェェーーーーーー!!!???
もっとこうさ! HPとかMPとかステータスとかさ!
そういう詳細な情報プリーズ!!!
意外とザルだな、心眼スキル!!!
「リコちゃーん、行くよぉ?」
楽しそうなサラちゃんが杖を構え、隣の地蟲さんの鱗が緑色の光を纏う。
やっば! 本気のやつだ、これぇぇーー!?
「んじゃロンちゃん、連携でいこう! そぉ~れ♪」
杖を振るサラちゃんに合わせて地蟲さんが口を大きく開く。
杖から放たれる炎の塊に、地蟲さんが空魔法を付与し、炎は殺人的なレベルでの爆風へと変わる。
そのあまりの速度に、心眼スキルのザルさ加減に呆然としていた私の魔法は間に合いそうになかった。
相殺が間に合わないなら防ぐしかないでしょーー!?
「盾ぇぇぇーーー!!!」
ダイヤモンド並みの強度を持つ鉱物に氷を纏わせる壁を目の前に出現させるイメージでそう叫ぶ。
目覚めよ、私の語彙力ぅぅぅーーーー!!!!
けど、さすがは『超強い』サラちゃんと『伝説並み』の地蟲さんの連携魔法。
力加減を見誤ったのだろう。
防ぎきれなかった爆風が私の横を掠めてチリっと右側の髪と頬、ジャージの一部分を焼いていく。
けど、この程度で済んだのは不幸中の幸いだ。
相当重かったし、直撃したら吹き飛ぶどころの騒ぎじゃない。
「あっは! たっのしー!」
……もう! なんなのこの子! 私を殺そうとでも言うの!?
楽しそうに笑うサラちゃんにそんな恐怖を覚える。
けど、これから旅に出て、実際に遭遇することになるだろう魔物には意思すらないのだ。
『人間は見つけ次第排除』。
何故だか、魔物達にはそんな意識が働いているようなんだよね。
その辺は私も設定出来ていない原因があるのかもしれない。
何故か魔族は襲わないらしいしね。
「こんなの久し振り……。ヘクー! 特訓任せてくれてありがとーー! 愛してるーーー!!!」
そう言って、サラちゃんは私の背後のヘクターさんに両手で投げキッスを送っている。
『そういうのは家でやれ』
地蟲さん、私の言いたいことを代弁してくれてありがとう!!!
ヘクターさんの「俺の方が愛してるぜぇ!」という騒音が聞こえますけど、とりあえず無視しますね。
今は戦闘中なのだ。
小説を書いていて、普通にゲームもやっている女子高生がこんなことで集中を切らすと思うなよ!
「サラちゃん、油断してるヒマはないよ?」
やられてばっかりでたまるか!
これでも結構負けず嫌いな自覚があるんだからね!
「いっけぇーー!!!! 四重奏ーーーー!!!!」
光魔法に炎・闇・氷の属性を纏わせる。
光の渦が紅・漆黒・蒼の光と一体になり、竜巻のような暴力をもってサラちゃんと地蟲さんに向かって行った。
わー、キレイ! 花火のイメージうまくいった!
「ってリコちゃんえげつないね!? ロンちゃん!」
『任せておけ。【無効】』
そう呟いた地蟲さんとサラちゃんの前で、私の渾身の魔法はフッと消えてしまう。
ちょっと! 魔法無効とかずる過ぎる特別技能でしょ!?
そういうのは『心眼』では解らないんだからね!?
「はー、アブなかったぁ。ロンちゃんありがと」
『これを食らったら我も危なかったからな』
目の前ではサラちゃんが地蟲さんを撫でながらそんな会話を交わしていた。
「んー、合格だよねーこれは。サラでも勝てる気しないや」
そう言って、今までの威圧的な雰囲気を緩めると、サラちゃんがこちらに近づいてくる。
『我は帰るぞ。サラ、あまり無用な要件で呼ぶな。
……人間、なかなか楽しめた』
そう告げて、地蟲さんの姿がフッと消えてしまう。
サラちゃんは「またねー」と笑顔でそんな光景を見ているけれど。
正直、身体が絶不調です!
なんだかクラクラして、視界はチカチカ点滅しているよう。
足も手も力が入らないし、今すぐ意識がなくなってしまいそうになる。
「おつかれさま、リコちゃん」
そう言って片手を差し出すサラちゃんの手を取ることすら出来ず、私はガクっと膝を折ってその場に崩れ落ちた。
「リコ…………!!!!」
レオンの声が聞こえる。
完全に意識を失う前に、フッと誰かの温かい胸に抱きこまれる幸せな感触。
「……レオン、わたし、がんば……った………」
殆ど無意識な状態でそう告げると。
「見てたよ、リコ。無理させてごめんね……」
そう、レオンの声がした気がしたけれど。
……私はそのまま、意識を失った。
お読み頂き、有り難うございました!