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第十一話 特訓!

 

 そうして、幾つかの転移装置を経由して辿り着いたのは体育館くらいの広さのある、石畳の円形のホールのような場所。

 この街の建物の多くに見られる煉瓦造りの壁で囲われている。

 そこで私は担がれていた肩からやっと降ろしてもらい、へたり込んでゼーハーと呼吸を荒げていた。

 だって、担がれて移動するなんて初めてだし!

 叫びながら移動する私達を、ギルドの中にいる人たちもギョッとして凝視してくるし!

 もう、怖いやら恥ずかしいやらで生きた心地がしなかったよ……。


「がっはっは! 軟弱だな、お嬢ちゃん! 特訓はまだ始まってないんだぜ?」


 そういうヘクターさんは人ひとり担いでここまでかなりの速度で移動して来たというのに息一つ乱れてない。

 どんだけ強靭な肉体をお持ちなんだって話ですよ、もう!


「早速始めるぜ」



 スパルタ!!!



 鬼教官・ヘクターさんは腕を組んで私を見下ろしている。


「……つっても、見たとこ、お嬢ちゃんは前衛タイプじゃねぇしな……。

 付け焼刃で武器の使い方を教えたって意味ねぇし、魔法が得意なやつが特訓した方が良いか」


 そう言うと風を纏わせ、


「サラ、頼む!」


 と風に告げると、それがふわりと舞い上がって行く。

 風魔法で誰かを呼んだのかもしれない。

 私がへたり込んだままその不思議な光景を見ていると、真剣な目をしたヘクターさんがしゃがんで私の顔を両手で挟み込み、


「良いか、お嬢ちゃん。パーティー入りは認めたが、自分の身すら守れねぇようじゃ困る。

 いくら適性があったって魔法が使えないやつはいくらでもいるし、

 そんな状態であいつらについて行って、危険に晒させるワケにはいかねぇんだ。

 あいつらはギルドの冒険者で、街の人気者で……俺の大切な友人。

 ハッキリ言って、お嬢ちゃんのことより、俺はあいつらの方が大事だからな」


 ヘクターさんのゴツい両手が私の頬をむにゅうっと押し潰す。

 絶対ヘン顔になってるでしょ、これぇ!?

 だけど、語られている内容はいたって真面目で真剣で、合わされた目を反らしたら食い殺されてしまうんじゃないかというくらいの威圧感が私を襲う。


「あいつら……特にレオンはなぁ、誰にでもヘラヘラ良い顔してっけど、あれで結構めんどくせぇもん抱えてて、

 誰かをパーティーに入れたいなんて言って来たの、初めてなんだ。

 今日逢ったばかりのお嬢ちゃんに何でここまで肩入れしてんのかは俺も知らねぇが……

 頑固さは俺以上だしな。レオンがお前を連れて行くと言った以上、それを叶えてやるのは俺の仕事だ」



 ……だから頼む、俺を安心させてくれ、と。



 真剣な表情で懇願するように言われてしまえば、承諾しか言葉に出来るはずもなく。



「が、がんばりまふぅ……!」



 ……タコ口になってるせいでイマイチ緊張感が維持できてないよ、もう!!!!!



 と、そこに鈴の鳴るような可愛らしい声が聞こえてきた。


「ヘク~、呼んだぁ?」


 テッテッテっとこちらに駆け寄り、そのままの勢いでヘクターさんに抱きつく女の子。


「エヘヘ、今朝ぶり♪」

「お~サラ、今朝ぶりだな。良く来てくれた」


 そう言って女の子の頭を優しく撫でるヘクターさん。

 ……ってか、ヘクターさんですよね!?

 別人なんじゃないかってくらい優しい表情してますけど!


「急に呼んじまったが、大丈夫だったか?」

「大丈夫だよ! 今日のご飯に使おうと思ってベリーを煮込んでたけど火は止めて来たし!

 サラはヘクに呼ばれたら、世界の裏側からでもすぐに駆け付けちゃうんだから!」

「ありがとな、サラ」


 そう言いながら女の子の頭に優しくキスを落とすヘクターさん。



 のわぁぁぁぁぁ~~~~~!?



 極甘な雰囲気がダダ漏れしてますけど!?

 やめてよもう! 私、恋愛経験値ゼロに等しいんだから!

 ヘクターさん、普段が強面なだけに、そのギャップと来たら破壊力がハンパない。

 さっきまでの威圧感は何処行っちゃったの!?


「んーん。サラもヘクに呼んで貰えて嬉しい! ……でも珍しいね、お仕事中に」


 嬉しそうにヘクターさんの胸に頭をぐりぐりしながら言う女の子。


「お~そうだった。ちょっと特訓頼みたくてな。……けど、サラに会いたかったのも嘘じゃねぇからな?」


 ……って今私の存在忘れてたでしょ!?

 むしろ彼女に会いたい気持ちの方が強かったよね!?


「わ~い! ヘク大好き! サラで良ければなんでもお手伝いするよ~!」

「愛してるぜ、サラー!」


 そう言ってギュッと女の子を抱き締めるヘクターさん。



 ギャアアアアア~~~~!!!!!



 目の前で全力でイチャつかれるとこんなに居た堪れない気持ちになるのか…。

 ……私とレオンもこんな風に見えてたんだとしたら、ララちゃんのあの静かな怒りも解る気がするよ……。


 おそらくは死んだ魚のような瞳になっているだろう私に、ヘクターさんがやっと彼女を紹介してくれた。


「お嬢ちゃん、こいつはサラ。風の民(シルフ)で……まぁ、その、俺の嫁だ」

「嫁ぇぇぇぇ~~~~~~!!!!????」


 恥ずかしそうに頬をポリポリ掻きながら放たれたヘクターさんの衝撃発言に、つい声が出てしまった。

 だって驚かない方が無理だよ!

 振り向いたサラちゃんは、中学生くらいにしか見えなかったんだもん!


「よろしくね~!」


 そう言ってニコニコ笑っているサラちゃん。

 大変な美少女さんです!

 小さなお顔は輝かんばかりの白い肌で覆われていて、若草色の綺麗な長い髪と相まって本当にキラキラ光って見えるくらい。

 何よりも目を引くのはその大きな金色の瞳。

 零れ落ちてしまいそうな、ちょっとタレ目がちなその瞳に見つめられてしまえば、見惚れて息が止まりそうになる。

 ツンと上を向いた小ぶりな鼻、朝露に濡れた花びらのような桃色の唇。

 チラリと真珠のような歯を覗かせて微笑(わら)うその表情は神々しさえ感じられる。



「ヘク、この子は?」

「今日ギルド登録した新米だ。リコ……だったか。どうやら迷い人らしいぜ」

「そうなんだ! 珍しいね!」

「しかも全魔法の適性持ちだ」

「全魔法? アウスンバッハの関係者なの?」

「いや、違う。『全部』だ。闇も含めて、全部」

「えええ!? 闇魔法って……大丈夫なの、それ!?」

「心配ない。俺の審判だ」

「そっか~、ヘクが言うなら間違いないね!」



 目の前ではそんな会話が交わされているけれど、なんだかもう…色々衝撃すぎて私は固まってしまっていた。

 ヘクターさんについてはギルド長という立場上、小説内でも軽く触れることはあったのだけれど、

 赤髪の獅子のような屈強な男、くらいにしか表現してなかったように思う。

 そんな状態だから、当然彼の私生活や性格なんかは私も知らなかったことばかりだけど……

 こんな幼妻がいて、嫁の前ではこんなに甘々な雰囲気をダダ漏れさせる人だとは誰が予想できただろうか。

 意外性がありすぎてビックリを通り越して呆れてしまう程だ。

 は~、やっぱり小説の中とは違うな~!

 事実は小説より奇なりって本当だな。驚きの連続だ。

 ……しかしアレだな。二人が一緒にいる絵面はなんと言うかこう……ちょっと犯罪めいたものさえ想像してしまう……。



「でもなんで特訓? 迷い人なら保護するでしょ?」

「ああ、レオンの奴がパーティーに入れると言い張るんでな……。さすがに何も出来ない状態で旅に出す訳にはいかねぇだろ」

「レオン君のパーティーに!? なんだかまた大変な騒ぎになっちゃうんじゃない?」

「それについてもお前に手伝って欲しい。サラ、頼めるか?」

「ヘクのお願いを断るサラは世界の何処にもいないよー!!」

「サラーーー!」



 目の前で再び桃色劇場が始まってしまいました。

 これ、私、どうすれば良いんだろう……。

 や、微笑ましくはあるけどね?

 けど、疎外感というかさぁ……居た堪れないから、正直そういうのは家でやって欲しいな、なんて思うワケで……。



「わかった。リコちゃん……だっけ? この子の魔法の特訓をすれば良いんだね?」

「おぅ。頼むわ。魔法使いの特訓なら俺よりサラの方が適任だろ」

「りょーかい! 任せておいて!」



 そう言って私に視線を向けるサラちゃん。

 フッと笑顔が消え、その表情がギラリとした野性味を帯びたものに変わる。


「闇の適性持ちなんて初めて。……ウフフ、楽しくなりそう♪」


 突然総毛立つような雰囲気を纏わせたサラちゃんの前で、背中にタラリと冷や汗が流れるのを感じる。


「……あ~お嬢ちゃん、魔法に関してはサラ、本気でえげつねぇから。まぁ、頑張れや!」


 がっはっはと笑うヘクターさん。




 狼の前で震える子豚ちゃんの気持ちが解ったよ!!!!




 ------------------



「そんじゃ行ってみよー! リコちゃん、あそこにある的に魔法を当ててみて」


 そう言ってサラちゃんが指さした方向には私の背程もある石の柱が何本か立っている。

 距離にして30メートル程先だろうか。

 白い柱の中心部分には光の線が走っており、定期的に放つ光の色が変わっている。


「あの色の属性魔法を当てれば光が変わるからね。こんな風に……」


 そう言ってサラちゃんが「ウィンドカッター!」と呟くと、翳した右手からゴウッという大きな音がして、風の刃が出現する。

 それはそのまま緑の光を放つ柱へと向かって行き、バシンッと大きな音を立てて当たると、弾けるようにして消えた。

 緑の光を放っていたその柱は、今度は黄色い光を放っている。


「あれは魔道具だから、どんなに強い力を当てても壊れることはないよ」


 やってみて!


 と、期待を込めたキラキラした瞳で見つめられ、戸惑いながら手を翳してみる。

 目標の柱の色は……って、全部黒いんですけど!?


「闇魔法見るの初めてなんだもん♪」


 テヘッとサラちゃんが隣で悪戯っぽく笑っている。

 ……この子の仕業か!

 まぁ、適性はあるみたいだし、何でも良いけどさ……。


 さて、魔法か。

 イメージ、と簡単に言うけど、いざやってみると難しいな。

 闇魔法を使うキャラはあんまり出て来なかったしな~。

 とりあえず、描写してたのはこんな感じ……


「黒槍!」


 実態を伴った影が大きなダーツのような形になり、対象に向かって行くイメージ。

 すると、私の呟きに合わせて私の手から黒い影が出現し、凄い勢いで柱に向かって飛んで行き、当たるとバシンっと消えた。

 魔法を当てた柱の中央は、今度は赤に変わっている。

 ……はは、本当に出来ちゃった。


「わーお!」


 隣ではサラちゃんが目を輝かせてその様子を見ている。


「カッコ良いねー、闇魔法! あ~サラも使いたいなー!」


 くぅぅっと拳を握り締め、頬を染める様は超絶可愛らしい。


「んじゃ次は範囲魔法に挑戦してみよー! さっきと同じ要領で、全部の柱に同時に魔法を当ててね」


 と、サラちゃんが指し示すのは、まだ黒い線が走ったままの柱の群れ。

 ……また闇魔法をご所望なんですね…。


「やってみます……え~と……、重力!」


 柱郡全体に重力の負荷がかかるようなイメージだ。

 …呟く言葉がそのまんまなのは勘弁して頂きたい。そう即座に厨二めいた言葉なんか出て来ないんだから。

 だが、効果は覿面で、負荷を受けた柱郡はめっこりと音がしそうな程に地面にめり込んでいる。


「キャーカッコ良いーー!!」


 サラちゃんが喜色満面な笑顔を浮かべてパチパチと手を叩いた。


「いやぁ~それ程でも!」


 可愛い女の子に褒められて悪い気がしないのは、全世界・全人類の共通事項ですね!!!




 そうして私は、しばらくサラちゃんの号令に合わせて魔法を撃つ訓練を続けた。



「次、右2本!」

「炎弾!」

「左3本!」

「雷陣!」

「中央5本!」

「氷石雨!!」

「右2本、左2本!」

「双龍波、とりゃあああ~~~!!!!」



 そんな私達を、後ろで私達を見ていたヘクターさんと、いつの間にか来ていたレオンとフォレスがぽかんとした表情で見つめていて。


「……なんだありゃ。あのお嬢ちゃん、バケモンか? 複合魔法まで使ってやがるぜ」

「迷い人ってのはハンパねーな。ただ鼻血を吹くだけの変人じゃなかったのか……」

「……さすがだ、リコ!」


 そんな会話が交わされていたことに、私は気付かずにいたのだった。


お読み頂き、有り難うございました!

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