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第十話 レオン様協定

 

「なるほどねぇ、出身地は【トーキョー】、気付いたらこの街で眠りこけてて、

【女神の祝福】を受けたレオンですら使えない闇適性を持っている【迷い人】ってか」



 現在、私はヘクターさんの執務室の応接セットで右にレオン、左にフォレスという美形二人に挟まれて

 この街一番の実力者だというギルド長の鋭い視線の前で肩を縮込ませている。


 ……正直、勘弁して頂きたい。

 私にだって今のこの状況を上手く説明することなんて出来ないのだから。

 その上、長身の美形二人に身体がくっつく程近い距離で圧迫感たっぷりに座らされ、

 ヘクターさんの低い声による尋問みたいな質問に答えさせられているのだ。

 見た目の威圧感もさることながら、ヘクターさんの声や雰囲気も相当ヤバい。

 例えるならば、刃物をチラつかされながら、綱渡りのロープの上を逃げているような、そんな気分。



 ……まぁ、レオンの左手がずっと私の右手を握っててくれてるけどね!!!!



 右手から感じる温かさが、かろうじて私の心を平穏に導いてくれているのは否めない。

 それに、たどたどしい私の説明も、所々でレオンが的確にフォローをしてくれていて、

 やっとのことで冒頭のヘクターさんの、一応の納得の言葉を引き出すことに成功した、という訳だ。


「まぁ、このお嬢ちゃんの言っていることに嘘はないようだな」


 ヘクターさんが、フッと雰囲気を和らげてそう言った。

 ……え? なんでそれが解るんだろう……?


「なんだお嬢ちゃん、聞いてなかったのか?

 俺の特別技能(スキル)は「絶対審判」。俺の前で嘘は絶対つけないし、魂の善し悪しさえ判断できる、

 言ってみりゃギルドを背負うには絶対必要なスキルだな」



 なんですとぉぉぉぉーーーー!?



 そんな物騒なスキルを持つ強面な人の前で、私は証言をさせられていたのか……。

 まぁ、嘘をつく気は全くなかったけど、レオンってば一言くらい言ってくれても良かったのに……。

 私がジト目で隣のレオンを見ると、レオンは悪戯が見つかってしまった時の子供のような表情で言った。



「リコをもっと信じる為だよ?」



 許すぅぅぅぅぅぅ~~~~~!!!!!!!!



 はわぁぁ~、ホンっと美形ってずるい生き物だな!

 この表情の前で糾弾できる人間なんて、慣れてるフォレスくらいしかいないんじゃなかろうか。

 少なくとも、私が例え騙されていたとしても「私が悪いの」なんて言ってしまいそうな破壊力がある表情だ。

 ……ヤダ、レオン様ったら女の敵!


「レオンすら使えない闇属性魔法を使える人間、スキルは「心眼」か。

 しかもすごいぜ、このお嬢ちゃん。魂がキラキラ光ってる。眩しいくらいだ」


 ヘクターさんが関心したように私を見つめながらそう言った。

 へぇ~、絶対審判のスキルって、そんなことまで解っちゃうのか~。

 便利だけど、使い方を間違えたら人間不信になっちゃいそうなスキルだな。

 ……うん、私が持っても使いこなせる気がしない。

 ヘクターさんの見た目や雰囲気って、その為の自己防衛的な物もあるのかもしれないな。

 どんなに人を信じたくても、嘘だって解っちゃうって、ちょっと寂しいかも。

 だから予め、人を寄せ付けにくい雰囲気を纏うことに気を配っているのだとしたら、

 ……きっと、想像を絶する寂しさが、彼にはきっとあるんだろうなぁ……。


 そう考えて、しゅんとしてしまう私の頭を、レオンが優しく撫でてくれた。


「リコ、試すようなことをしてごめんね?」



 許すぅぅぅぅぅぅ~~~~~!!!!!!!!



 真っ赤になってコクコク頷く私に。



「……おい、こんな所でまた鼻血出すなよ?」



 フォレスが悪戯っぽく笑いながら注意を促してくれた。

 ……もう大丈夫、な、ハズだもん……!!!!


「とりあえず、このお嬢ちゃんはこの街の脅威どころか、保護すべき【迷い人】だってことは確かなようだ。

 ……レオン、今後はこのお嬢ちゃんの身柄は安心して良いぜ?

 俺がギルドの名にかけて保護しよう」


 ヘクターさんが真面目な表情で頷きつつそう言ってくれる。

 ……うん、とりあえず、異世界での身の安全は保障されたみたい。

 これからどうなるとしても、最悪の事態は免れることが出来るだろう。

 とりあえず、自活できるように家と仕事を見つけて、この世界や迷い人の情報を集めて、

 元の世界に帰る方法があるなら、平和な現代日本に帰ろう。

 方法があれば、だけどね。

 ……レオンと離れることになるのは、ちょっと……いや、かなり寂しいけど。


 その私の思考はダイレクトに右手に表れ、握ってくれていたレオンの手をギュっと握り返していた。

 はわわぁぁ~、レオンの手って、男らしさの中に優しさが滲み出ていて、すっごく心地良いなぁ……。


「ん? 何を言ってるんだ、ヘクター。リコにはこのまま、ボクとフォレスのパーティーに入ってもらうよ?」



 ……そのレオンの爆弾発言に。



「「「はぁぁぁぁぁぁぁ~~~!!!???」」」



 私とフォレスとヘクターさんの驚きの三重奏が返される。

 だが、街の英雄、自由気ままなイケメン坊ちゃんは1㎜も動じない!



「何か問題でも?」



 ふてぶてしい程のイケメンスマイルが返された!



 私:(鼻を押さえつつ)「レオン……!?」

 フォレス:(額を押さえつつ)「レオン……!」

 ヘクターさん:(眉間に皺を寄せて)「レオン!」



 三者三様のツッコミ!

 打ちひしがれる私達の中で、イチ早く反応したのはフォレスだ。


「めんどくせぇ事になるから、パーティーに女は入れないって決めただろうが!」

「リコは迷い人だ。そしてボクは身元請負人。一緒にいて守ることに問題なんかないだろう?」

「迷い人でも女は女だ!」

「性別は関係ないさ。例えリコが男でも、ボクは同じ判断を下しただろうね」

「ンな訳あるか! 男だったらお前、絶対こんなに世話焼いてねぇだろ!」


 私の頭の上で言い合いながら睨み合うレオンとフォレス。

 うん、私が男だったら、レオンがここまでしてくれなかっただろうなってのは、フォレスの意見に賛成です。


「俺はもう、あんなめんどくせぇことに巻き込まれんのはまっぴらだからな!」


 そう言って、何か辛い事を思い出すかのように眉を顰めるフォレス。

 いつも明るいフォレスにこんな表情させるなんて、一体何があったんだろう……?



「それはあれか。2年前の『レオン様協定』が出来た時の話か?」



 レオン様協定!?

 ヘクターさんの言葉にびっくりだよ!

 いち個人に協定が結ばれるなんて、レオンの王子様力って凄まじいな……。


「……ああ、そうだよ。マジで大変だったんだ、あの時は……」


 呟くようにそう言って額に手を当て、フォレスがハァァァ~~と深い溜息を吐いた。

 深い! 溜息が深いよっ!!

 あのフォレスをここまで消沈させる事件って一体……。


「ああ、ギルドも大変だったぞ、あの時は……」


 フォレスとは反対に、ヘクターさんはなんだかニヤニヤしている。

 レオンはレオンで気まずそうに「リコは知らなくて良いんだよ」なんて私の手をにぎにぎしてるし。

 私一人だけが知らない事実を前に疑問符を浮かべていると、


「いやぁ、モテすぎるのも大変ってこったな!

 街中の娘がお前らのパーティー入りをかけて取っ組み合いの大喧嘩、

 挙句の果てにレオンかフォレスに勝ったらパーティー入りってな変なルールが出来ちまって、朝も晩もなく奇襲くらってたもんなぁ、お前ら」


 ヘクターさんが、もはやゲラゲラ笑いながらからかうようにそう言った。


「おかげでお前らがこの街から拠点を移すことになりそうだった所を、

 それじゃ意味ないってんで、女どもが『レオン様は皆のもの』協定を結んだんだっけか。

 ……いやぁ、喧嘩の仲裁やらお前らの隙を狙う不審者の補導やら身辺警護やら、あん時はギルドもてんてこ舞いだったなぁホント!」


 がっはっは! とヘクターさんが大層面白そうに笑う。

 ……うっは、なにそれ壮絶……。

 王子様も大変だな…と、少しレオンに同情してしまう。


「その節は大変お世話になりました」


 と、レオンがヘクターさんに深々と頭を下げる。


「や、別に良いけどよ。街の治安守るのはギルドの仕事だし。面白かったし」


 ……絶対面白かったが本音だこの人!


「けどよ、そんな協定もあるワケだし、お嬢ちゃんをパーティーに入れたらまた混乱が起きんじゃねぇか?

 お前らだって大変だろうし、せっかく『レオン様協定』が良い仕事して平和なんだから、わざわざ寝た子を叩き起こすのは止めて欲しいってのはあるな」

「そうだぜ、レオン! また出待ち、待ち伏せ当たり前、尾行・夜這い・奇襲上等な生活に戻りてぇのかよ!?」


 ……うわぁ……。この街の女の子達ってすんごいアグレッシブ……!!!

 そして、そこまでされて未だに王子様やってるレオン様クオリティ、ハンパない!


 けど、レオンを溺愛している自覚のある私には、ちょっとその気持ちも解るかも。

 好きな人とずっと一緒にいたいのは、全世界共通の恋する人間の気持ちだもん。

 まぁ、私はこっちに来て初めてそんな気持ちを知ったけど。

 だけど、私が一緒にいることは、また混乱を来しそうだし、あんまり好ましいことではないのは良く解った。

 ……私は妄想には慣れてるし、今日でだいぶレオン力を補給したし、大丈夫な、はずだ。

 ……なんだか、一緒にいることに慣れて来てしまって、ちょっと寂しいけど。



「……リコと、約束したんだ。守るって。きっと故郷を見つけて帰してあげるって……」



 レオンは私の手を両手でギュッと握り締めてそう言った。

 俯いてしまったから表情は良く見えないけど、その声にはなんだか深い哀愁が漂っている。

 きゅん、と胸が疼いた。



「また守れないなんて、そんなの嫌だ! ボクはリコを守るんだ!」



 レオンが絶対離さないとばかりに私の手をちょっと痛いくらいに握り締めてそう言う。

 ……けど、それより、『また』ってなんだろう?


「お前……まだ引き摺ってやがったのか……」


 そんなレオンの言葉を聞いて、フォレスが軽くチッと舌打ちをする。

 なんだか嫌な過去を思い出してしまったような難しい表情で呟いた。


「……忘れろよ、もう……」


 その場に重苦しい雰囲気が流れる。


『また』の意味は良く解らないけど…なんだか、今聞くようなことじゃない気がする。

 レオンやフォレスは「現実」としてこの世界を生きている人なんだ、私の小説とは違う。

 過去にも色々あっただろうし、話したくないことの一つや二つあって当然だと思う。

 そういう私にだって、近所の男の子と厨二病を拗らせた挙句、新聞紙で剣もどきを作って遊んでたことあったしな……。


「ゆくぞ、まおう!」

「われにかなうとおもっているのか! くらえ、まこうほう!!!!」

「ゆうしゃたるわたしにそんなものがきくとおもっているのか! ぜったいばりあーーー!!」


 今思い返すと赤面ものだ…。

 藤子にも言ってない、私の黒歴史の一つだ。ははは……。


 ……って、私の黒歴史はどうでも良いんだよ!

 とにかく、今はこの重い雰囲気をなんとかしなきゃ……



「あ~もう、わかったよ。お嬢ちゃんのパーティー入り、認めてやらぁ!」


 おお、ヘクターさんあざっす!


「混乱を来さないよう、適当な噂も流しておいてやる。だが、レオン」

「何だ?」

「お前とフォレスなら、お嬢ちゃん一人守りながら依頼をこなすなんて朝飯前の芸当だろう。

 ……だがな、ギルドの責任者としてというより、お前らの友人の一人として、このままお嬢ちゃんを旅に出すワケにはいかねぇ」


 そう言うと、ギロッと野性味たっぷりな瞳で私を見ると。



「特訓、受けてもらうぜ、お嬢ちゃん?」



 ニヤっと黒い笑顔でそう告げた。



 なんだか蛇に睨まれた蛙の気持ちが解った気がするぅぅぅぅ~~~!!!

 助けてェレオンさまぁぁ~~!!!



 一縷の望みをかけてレオンを見上げると。



「……それが条件なら、ヘクターに任せるよ。

 リコ、君にとっても必要なことだと思うから、頑張って?」



 ニッコリ。



 ……ええ、大変麗しゅうございますが!!

 なんだろう、肉食獣の前に立つウサギになっちゃった気分だよ!



「おお、任せとけ!

 んじゃお嬢ちゃん、訓練場行くぞーー!」



 そう言ってヘクターさんは軽々と私を俵のように担ぎ上げる。

 ちょっ、高い! 怖いって!



「お~ろ~し~てぇぇぇぇぇ~~~!!!!」



 その日、ギルドの中に私の魂の叫びが響き渡ったのだった。


お読み頂き、有り難うございました!

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