第一話 プロローグ
初投稿になります。
設定・台詞ともども、甘ったるい可能性がございますので、広い心でお楽しみ頂ければ幸いです。
「ハハハッ、子猫ちゃんたち、いつも応援ありがとう!」
豊かな色の金髪と白い歯をキラリと太陽の光に反射させながら微笑む一人の男。
その手には両手で抱え込むのがやっとくらいの、大量の赤い薔薇。
「今回のダンジョンの前に咲いていたんだ。キミ達の事を思い出して、早く帰りたくなって困ったよ」
切なげな表情で告げる男。
廻りを取り囲んだ少女達からホゥ、と溜息が漏れる。
「レオンドール・フォン・アウンスバッハ、このボクはいつも、いつでも、キミ達の応援があるから頑張れるんだ!
今回も無事に還って来られたのはキミ達のおかげ。
さぁ、御礼を受け取って欲しい!」
そんな気障な台詞のあと、レオンと名乗ったその男が「ウィンド」と呟き、風を顕現させると、
両腕に抱えた薔薇から花びらがその風に乗り、
芳醇な香りを撒き散らしながら辺りに飛び散った。
青い空の下、真っ赤な薔薇の花びらが舞い散るその光景は、さながら一枚の絵画のようだ。
「届け、ボクの想い、キミ達へ!」
そう言って、風の力を周囲をくるりと一周させた後、上空へ舞い上がらせるレオン。
赤い花びらが、空に溶けるように消えていく。
…気障な台詞、派手な魔法、こっ恥ずかしいアクション。
これが、そこらの男が繰り広げた行動であるなら、周囲から白い目で見られる痴態であるに違いない。
けれど。
世界一美しい彫刻を実現化したような、女神の祝福を受けているとしか思えない美貌のその男が行ったその言動は
「キャーーーー!! レオンさまぁぁぁーーー!!!」
若い娘をしてそう黄色い声を上げさせてしまうには充分な魅力を、確かに兼ね備えているのであった。
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「はぁ~…。レオン可愛いよレオン……!!」
私は彩色が終わったばかりの原稿用紙の前で深々と熱い溜息を吐いた。
元々真っ白だったその原稿用紙には、金髪碧眼の美男子が薔薇を片手にポーズをキメているイラストが描かれている。
「…あんたさ、自分で言ってて虚しくないワケ? まぁ、言うだけ無駄なのは解ってるけどさ…」
テーブルを挟んだ向こう側では、メガネをずり上げながらコピックを片手に私の親友が私とは違う意味で溜息を吐いていた。
「それより、早く見飽きて原稿返してよね。まだレオンしか描いてないのに。締め切り間近なんだから」
最後にもう一度、呆れた瞳で私をチラリと見ると溜息交じりの声でそう言い、再び自分の手元の原稿に没頭し始める。
「だって……だってホントに可愛いんだもん、レオン……」
「はいはい。アンタがレオン好きなのは解ったから仕事してよ、仕事。じゃないとレオンが動けないでしょ!」
「もぅ~。藤子はフォレスへの愛情が薄すぎるよ~」
ぷぅっと頬を膨らませて答えるが、藤子がそれ以上反応してくれないのが解ったので、私は仕方なくPCの画面へ向き直った。
私達にとっての「通常営業」である。
私の名前は一之瀬 璃心、17歳の高校3年生だ。
そしてメガネの彼女は鈴村 藤子。私の幼馴染にして親友で、相方でもある。
私達二人は「紅野 悠希」というペンネームで、小説を書き、イラストまで担当して世の中に発信している。
趣味が高じてWEBで始めた小説が好評を得て書籍化し、藤子がイラストを描く事によって発売したそれは、現在3巻まで発売されており、担当曰く売れ行きも好調らしい。
『現役女子高生が描く、冒険ファンタジー!』の煽り文句のもと、なかなかに世間の注目度もあるらしい。
普通の高校生なら受験を気にしている年頃だろうが、私達は幼稚園から大学までエスカレーターな私立の学校に通っており、
授業を集中して聞き、テスト期間はきちんと勉学の時間を割いている為に進学は問題ないと、担任からもお墨付きを貰っている。
また、母親同士も仲が良く、私達の作品を猛烈に気に入ってくれた二人の母親の応援と、娘と妻に甘い父親の援助により、
近所に「仕事場」を借りて貰えている破格の待遇付きだ。
自分で言うのもアレだが、両家庭共に父親が代表・役員クラスの、比較的裕福な家庭に育った事も影響しているかもしれない。
「レオンちゃんの大活躍、一番にママに見せてね!」
出された条件はこれだけである。
私達が創っているのは『レッドローズ・クロニクル』という剣と魔法の世界を舞台にしたファンタジー小説だ。
魔剣士であるレオンドール・フォン・アウンスバッハと剣士であるフォレス・オークレールのコンビの冒険譚を綴ったものである。
彼らに「世界を救う」とか「世の理を正す」とか、そういった大仰な目的はない。
主には暇を持て余した金持ち坊ちゃん(レオン)と幼馴染で腐れ縁な親友(フォレス)が自由気ままに旅をして、冒険者ギルドで依頼を受けて、
時には目に映った人(主に女性)の問題解決に力を貸す、と言った比較的まったりとした物語だ。
実は、この「レオン」というキャラが私、「フォレス」というキャラが藤子、それぞれの好みを結集して作ったキャラだったりする。
自分の好みを結集したキャラを創ったらどうなるか、という遊びを藤子としていて、
それが講じて「動く彼らを見たい」という理由から小説を書き出したのが始まりだ。
故に、それぞれの持ちキャラには人並み以上の愛情があるワケで…
「あんたの愛情はもはや異常」
と、藤子に言われる程、私はレオンを溺愛している。
藤子もフォレスに対してそれなりの愛着はあるようだが、「一人のキャラクター」として認識しているフシがあり、
故に冒頭のようにレオンへの愛を語る私に冷たい言葉も平気で言えてしまうのかもしれない。
私にしてみれば、萌えを結集して創ったハズのフォレスを「一人のキャラクター」と認識できるなんて、
藤子の方こそちょっとクール過ぎやしないか…と思ったりもするのだが。
レオンドール・フォン・アウンスバッハ、19歳。職業は魔法剣士。
魔法都市・デュレクにおいて権力者をも凌駕する貴族にして豪商のアウンスバッハ家の長男一人っ子である。
商人としての目利きに非常に優れ、精力的に商いをこなす父親、それを支える美しく優しい母親。
彼を溺愛する両親の元でスクスクと育ち、「社会勉強」の名の下に自由気ままな旅を続ける彼。
その容姿は太陽の光を宿したような黄金の髪、海の如く深い色の碧眼、最高級の陶磁器のように白くキメ細やかな肌、
均整の取れた身体、全てが完璧な調和で調律された「完璧」な美貌を持つ男。
また、魔法剣士のランクもSランク(ランク最上位。この上にSSランクもあるが、かつて世界を救ったという英雄の為の名誉称号、ぶっちゃけレオンのご先祖様)であり、
その声は聞いた者を陶酔させる程の美声、彼がひとたび微笑めば発せられる金色のオーラに目が眩む程だという。
……という設定の私のレオン。
私は彼に、自分の好みの要素を全て注ぎ込んだ。
曰く、金髪碧眼の超絶美形であったり。
曰く、超絶フェミニストで、女の子の為ならどんな努力も惜しまず、甘い台詞を恥ずかしげもなく言えちゃったり。
曰く、剣も魔法も使えるが実は器用貧乏な男であったり。
またそれを隠す為に口八丁と大仰なアクションで誤魔化しているだけだったり。
実は影で努力をしているだとか、実は歌が下手という設定(ただしこれは物語には関係がないので公にはしていない)があったり。
もう、もう、もう……!!!
レオンの設定の事だけで丸一日は寝ないで語れる程、私の好みを詰め込みまくった、まさに「萌えキャラ」。
レオンの事を考えるだけでニヤニヤしてしまう程、私はレオンというキャラを愛してしまっている。
時にはアイドルのように、そしてまた時には息子のように。
「はぁ……レオン……」
呟いた私を、藤子がメガネの奥から「いい加減にしないとキレるよ」と言いたげな瞳で睨んで来た。
おっと、またレオンの事を考えるあまり手が止まってしまっていたようだ。
私は首をすくめると、続きを書き進めるべく、原稿に向かった。
それでは、レオンとフォレスの日常を綴った小説の一部を少しだけお見せしよう。
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「今日はイマイチだな…」
定宿にしている『灯亭』で、美しく球状に細工された氷の入った琥珀色の酒をカラカラと揺らしながら、レオンが言った。
「そうか? 手軽なクエストの割には中々の稼ぎだったと思うが…」
自分の背丈程もある大剣の手入れしながらフォレスが返す。
彼の前に置かれているのは粗方片付けられた大量の肉料理と紅茶。
そこへ、「おまたせしました~♪」と、この灯亭の看板娘であるオーガ族のジーナちゃんが甘い蜂蜜のたっぷりかかったパンケーキを運んで来た。
「やぁ、ジーナ。今夜もとても輝いて見えるね」
ニッコリと微笑んで言うレオン。ジーナちゃんは赤みがかった褐色の肌を更に薔薇色に染める。
「やだ、レオン様…」
「本当の事さ。キミの姿を見たら女神も尻尾を巻いて逃げ出すよ」
更に妖艶とも言える微笑みで続けるレオン。
ジーナちゃんはそんなレオンを見て一瞬眩暈でもしたのか、クラッと一歩よろめき、しばらくレオンに見惚れていたが、
やがてハッと何かを思い出したようにパンケーキの乗っていた銀の盆を豊満な胸に両手で抱え込み、「ご、ごゆっくり…」と少々名残惜しそうに去って行った。
「お前……よくそんなクッサい台詞を臆面もなく言えるな。毎度の事ながら関心する」
「そうか? 綺麗な物を綺麗だと言っているだけじゃないか。何を恥ずかしがる必要があるのか、ボクには解らないね」
そう言って手元の酒をまた一口、クイッと煽る。
「それより、そんなデカい図体して酒はダメ、甘い物大好きなお前の方がボクには信じられないよ」
胡散臭そうな瞳で目の前の大男を眺めるレオン。
そんな視線に全く動じる様子もなくフォレスが返す。
「糖分は一日の疲れを癒し、安息を与えてくれる。お前も一口どうだ?」
「いらないね。この酒との相性は最悪だ。まるでエルフ族の美女とドワーフ族の男のようじゃないか」
「この場合、パンケーキがエルフ族の美女というワケか。お前にしては言い得て妙だな」
「フン、お前とはとことん芸術を愛でる感性が合わないようだ」
「それは同感だな」
そんな軽口をたたきながら、お互いに気分を害した様子は全くない。
ただの暇つぶし。そんな感じである。
「で、何がイマイチだって?」
パンケーキを旨そうに頬張りながらフォレスが軽く首を傾げる。
「……子猫ちゃん達がいない…」
ぷぅと頬を膨らまし、とてもとても不満気な表情でレオンがポツリと呟いた。
対するフォレスは「そんな事だろうと思ったよ」とでも言いそうな表情でレオンの言葉を華麗にスルーし、パンケーキに没頭することにしたらしい。
「いつもならこの時間は可愛い子猫ちゃん達に囲まれてワイワイしているのに…
なんだって今日はこんなムッサい男と二人で食事をしているんだろう。これは神の試練なのか?
あまりに美しいボクに嫉妬した神が与えたもうた試練だというのか…」
ブツブツと呟きながらレオンは残っていた酒を飲み干した。
そこへ、扉をバタンッと大きな音を立てて開け、人影が飛び込んで来る。
「街に火喰い鳥が入り込んだぞ! 相当デカいやつだ! 火を吹いて露天のテントを燃やしてる!助けてくれ!!」
男が叫び終わるのを待たず、開きっぱなしの扉から金髪と深い藍色の髪の長身の男が剣を片手に走り出して行った。
彼らが座っていたテーブルには、綺麗に片付けられた皿と、提供された料理分より少し多いくらいの銅貨が数枚。
「お前が女の依頼でもないのに飛び出すなんて珍しいじゃないか。明日は雨が降るな!」
「露天にいる花屋のマチルダちゃんとは今度デートする約束をしているんでね!!」
何処か楽しそうにそんな事を言い合いながらレオンとフォレスは夜の街並みを迷いもなく駆けて行く。
一方、急を知らせに灯亭に飛び込んだ、良く見ると所々煤の付いている鎧を身に付けた男が呆然としていると
「大丈夫、あのお二人が行ってくれたら大概の事は片が付くさ。お前さんはまず、これで顔でも拭いたらどうかね?」
そう言いながらこの店の主人が真新しい手ぬぐいをその男に手渡す。
「あの人達は……?」
「この街自慢のヒーローのお二人だよ」
灯亭の主人が、自分の息子程の年の彼らが駆けて行った扉の先を優しい瞳で見つめながら呟くように言うのだった。
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「ふぉぉぉぉ~~!!!」
PCの前で奇声を発した私に、藤子がまたか、と溜息を付きながらそれでも一応声を掛けて来る。
「……一応聞くけど、今度は何?」
「レオンたん可愛いマジ天使!!!!」
「………」
私たちの作品は、こうして作られています。
お読み頂きありがとうございました!