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ホビアル、まだ10歳ッス

ここ数日のホビアルは死んだような状態であった。


 年老いた猫のように寝っ転がり、ぴくりとも動かない日々を過ごしている。

 イエロは彼女の目の前から姿を消して三日過ぎた。

 ホビアルとイエロの保護者であるグレート・ピレニーズの亜人であるセバスチャンはすぐに人を放った。


 騎士団にも連絡を入れ、すぐに非常線が張られた。無線連絡なのであっという間に拡散される。

 それでもイエロは見つからなかった。騎士たちの練度は低くはない。むしろ高い方だ。

 エビルヘッド教団の間者たちが暗闇の中で矜持を働くことが多いからである。


 それ故に騎士たちは常に訓練を欠かさず、各村での情報のやり取りも綿密に行っていた。

 イエロは幽霊のように消え失せてしまったのだ。アイアンメイデンという目立ちやすい種族なのにだ。

 目立つからこそ人はそればかりを見てしまう。おそらくイエロはその隙をついて逃げたのだろう。


 屋敷の者たちはみなしょんぼりとした状況であった。

 まるで太陽が雨雲に隠れ、しょぼしょぼとしたじめったい気分になっている。

 それはセバスチャンの実弟であるラッシー一かですら沈んだ状態になっていた。


 ホビアルは太陽なのだ。いつも全身で明るさを振りまき、みんなの気分をウキウキさせる。

 その太陽が沈んでしまったのだ。みんな表情が暗くなり、胃の中に鉛を飲み込んだような気持であった。


 それは学校でも同じであった。

 サビオは無理やりホビアルを学校へ引っ張って登校させた。

 机の前に座っても、ただそこに置いてあるだけであった。物言わぬ人形をぽつんと置いたといったところだ。


 ホビアルの眼から生気が失せていた。髪の毛も心なしか生気が抜けたように見える。

 風に吹かれても麦の穂のようにそよそよと動いているようであった。

 そんな教室の中でまともに授業が進むと思えるだろうか。まったく進まなかった。


 普段はホビアルのバカでかく声を上げ、質問を繰り返していた。

 好奇心旺盛で知らないことがあると理解できるまでしつこく訊ねるのである。

 担任教師のオリヘンも少し困った顔になっているが、知識を与えることに喜びを感じていた。


 ホビアルは自分が理解できないことを恥と思わない。それを口に出して言う。

 そして理解できればなんで理解できたかをしゃべるのだ。そのおかげか他の生徒も理解しやすくなっている。

 彼女の知性はそれほど高くない。そんな彼女が理解できるとなれば他の生徒も共感できるというものだ。


「……なんだか葬式に参加している気分ですね」


 オリヘンがつぶやいた。それは生徒たち全員同じ気持であった。

 原因はホビアルだ。ミイラと化した彼女がただ息を吸うだけになっている。

 静かになったというより、活気が失われたといったところだ。


 転入生であるフエルテは臆病な小熊のように小さくなっている。

 豚のアトレビドもなんとなく不機嫌そうであった。


「先生。今日は授業になりません。思い切って外に出ませんか?

 このままでは私たちはどんよりとした重い気分に押しつぶされてしまいます」


 手を上げたのはカピバラの亜人ラタジュニアだ。彼はホビアルの従兄だ。彼女の症状を一番気遣っている。


「それは賛成ですわ。このままでは息苦しくなって、窒息死しそうですわ」


 続いて席を立ち賛同したのはシクラメンの亜人グラモロソである。


「そうですね。今日は道徳の予定でしたが、変更しましょう。

 みなさん、外に出て広場を見学しましょう」


 生徒たちは特に歓声を上げなかった。全員ホビアルの方を見た。

 相も変わらず銅像のようにピクリとも動かなかった。



 ☆


 本山の広場は人が多い。司祭ばかりではなく、各地の村から来た人間たちが行き来していた。

 百年前は大陸の中央にあるサルティエラの塩商人くらいしか村に来なかったが、今は様々な人間が仕事のために来ている。

 大農場を経営しているものは大量の野菜を運んできていた。


 漁港から冷凍保存した魚介類が豊富である。鉱山から運んできた鉱石などもあった。

 ホビアルはサビオに手を引かれ、てくてくと歩いていた。

 まるで頭が真っ白な老人のようであった。太陽は真上にある。近くに噴水があり、子供たちは水遊びをしていた。


 ホビアルは死人であった。生徒たちは声をかけることができずにいる。

 話しかければそのまま冥界に誘い込まれてしまいそうになるからだ。

 そんな中軽やかな音色が聴こえてきた。


 それは噴水の前から聴こえてきたのだ。

 音の主はぼろく白いポンチョを着ていた。テンガロンハットをかぶり、ゴーグルと防塵マスクをつけている。

 手にしているのはクラシック・ギターだ。ピックをつかって演奏している。


 ボサノヴァやタンゴ、ジャズにラグタイムなどを弾いていた。

 ボサノヴァとはブラジルという国で起こったポピュラーな音楽である。

 サンバがジャズに影響を受けてできた物だ。


 タンゴは一九世紀後半にアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで起こった、四分の二拍子系のダンス音楽である、

 また、それに合わせて踊るダンスでもあるのだ。


 もっとも一人なのでダンスを踊る者はいない。今はラ・クンパルシータをソロで弾いている。

 先ほどボサノヴァで例を挙げたジャズは一九世紀末から二〇世紀にかけて、米国南部で黒人の民俗音楽と白人のヨーロッパ音楽とが融合してできた音楽だ。


 こちらは黒いオルフェという曲で、物静かな音色を奏でていた。

 ラグタイムは一九世紀末、米国の黒人により作り出されたピアノ音楽の演奏様式である。

 シンコペーションを伴うメロディーが特徴で、ジャズの一つの源流ともなったのだ。


 もちろんギター単品でもできる。これはクラシック・ラグと呼ばれるものだ。

 ちなみに曲を弾くたびにベラが教えてくれる。初めての人だと何が何だかちんぷんかんぷんだ。

 それでも演奏している人の腕前が良いためか、うっとりと聞きほれている。

 奏でる曲は魔法みたいであった。大勢の人間に囲まれており、盛大な拍手に包まれていた。


「あの人は誰なんですか? あのように見事なギターを弾く人は初めて見ました」


 サビオが近くにいた通行人の老人に訊いてみた。


「あの人はベラだよ。渡り鳥のベラさ。四年に一度は訪れてこうしてギターを弾くのさ」


「そうなのですか。でもおひねりとかないようですが?」


 サビオが見たが、誰もお金を投げていなかった。それ以前に金を入れる籠すらない。


「ああベラは金をもらわないんだ。四〇年前に初めて見たんだが、その曲に感動してね。

 銅貨を差し出そうとしたらやんわりと断られたよ。あの人はただギターを弾きたいだけなんだ」


 ちなみに本山には電機蓄音機は存在する。学校の授業で使われたり、酒場にも置いてあった。

 ただし曲の数は少ない。楽器の数が少ないのだ。なにしろここ九〇年近くは医療と食糧事情に力を入れていた。

 そのため楽器は簡単に作れるものしかない。クラシックギターの存在は知っているが、実物を見るのは珍しい。


「四〇年前ですか? じゃあ相当な年配の方なのでしょうね」


「そのはずだがねぇ。その割には体の動きが良すぎるんだよな。年齢不詳でよくわからないな」


 老人は肩をすくめた。彼もあまり詳しくは知らないようである。サビオもそれで諦めた。

 するとホビアルの目に光が宿った。それはある曲を弾いているときであった。

 とても優しくゆりかごに揺らされるようなゆったりとした曲である。

 先ほどの曲と違いどこか単調で拙い部分が目立つがよい曲であった。


「これ、お姉ちゃんが歌ってくれた子守歌と同じだ……」


 ホビアルがひさしぶりにしゃべった。サビオは感動した。それに先ほどの曲は彼自身もイエロの口から聴いたことがあった。


「あの、ベラさん。よろしいでしょうか?」


 サビオはこの機会を逃すまいと、ベラに質問した。演奏中なのにすごい失礼ではあるが、冷静な彼にとっては珍しいことだ。


「……なんだ?」


 それはくぐもった声であった。男か女かもわからず、年配にしては少々若々しい口調である。


「その曲はどこで知ったのですか? いえ彼女の叔母に当たる人が歌っていた曲と同じでしたので」


「……一九年前にライゴ村に立ち寄ったときに村長の娘から教わった」


「ライゴ村……。確かイエロさんとホビアルの生まれ育った村だ」


 サビオは一人で納得した。そしてホビアルを見る。なんとなくだが瞳に生気が戻ってきた気がしたのだ。


「申し訳ありませんが、その曲を教えてもらえないでしょうか?

 ライゴ村は事情があって今はもうないのです。その曲を知っている人は数日前に行方が分からなくなったので」


 ベラは腕を組み、しばらく頭を上げて考え込んでいる。


「……わかった。今夜、ガローテの丘で待つ。今は曲を弾くのに忙しい。ファンが多いのでな」


 そういってベラは親指で差した。曲を待っている観客が早くしろとせかすのだ。

 サビオも人の楽しみを邪魔するものではないと立ち去った。


「今夜二人で行こうね」


 サビオは耳元でそっとささやいた。それが聴こえたかは知らないがホビアルの頭が微かに揺れた気がした。


 ☆


 満月の夜、サビオとホビアルは町はずれにあるガローテの丘に来ていた。

 ガローテの丘はこじんまりとした場所で人の寄り付かないことで有名であった。

 理由は名前である。ガローテとは鉄環絞首刑という意味だ。


 椅子に座らせた死刑囚の首を鉄の輪で絞めて後ろに捻ることで首を絞める絞首刑である。

 かつてこの地はバルセロナと呼ばれていた。そしてここは元刑務所跡なのだ。

 アントニオ・ロペス・シエラという死刑執行人がガローナを使用したのである。


 その面影はどこにもない。百数年前の地図ではそんなのがあったと記録に残っているだけだ。

 だがここではスマイリーの被害率が他より高いのだ。

 死刑囚たちの怨念がしみ込んでいるのではないかと噂されている。


 あまり恋人が愛を語るにはふさわしくない場所であった。

 サビオたちはベラが来るのを待ちわびていた。両親にはきちんと伝えている。

 ベラは教団の間でも有名な人間で、信頼に値する人物だという。


 ホビアルが元気になるならと喜んで送り出してくれたのだ。

 果たして相手はきちんと待っていてくれた。

 月光に照らされたベラはどこか異世界から来た幽鬼のように冷たい雰囲気をまとっている。

 手にしているクラシックギターはまるで死神の鎌を連想した。


 ベラは二人の小さな客が来たことを確認するとギターを演奏し始める。

 それはホビアルとサビオが赤ん坊の頃に聴いたイエロの子守歌と同じだった。

 まるでゆりかごの中で横たえ、ゆらりゆらりと心地よく揺れる。そんな曲だ。

 ひとしきり弾き終わるとホビアルの眼から涙がこぼれ落ちた。

 サビオは一人パチパチと拍手をする。ベラはぺこりと頭を下げた

「……この曲はライゴ村の村長の娘が教えてくれたものだ。大体一〇歳くらいだったな」


 ベラがぼそぼそと声を出す。ささやき声に近いが今はどんな雑音も邪魔にならない。


「年齢からしてホビアルのお母さんですね。村に古くから伝わる曲なのですか?」


 サビオの質問にベラは首を横にふるう。


「いや。その娘が自分で作った曲だ。なんでも当時母親のお腹にいた妹のために作ったそうだ」


 ベラが答えた。彼の演奏した曲は二百年前以上に流行していた曲だ。

 オルデン大陸にも音楽はあるが、ベラのような腕前の人間はいない。

 すべて過去の模倣に過ぎないのだ。

 それなのに立ち寄った村の村長の娘が作った曲を学ぶとはどういうことだろうか?


「音楽とは誰が聴いても心に響くものでなくてはならないからだ。

 私は様々な曲を知っている。世界各国で伝わる民俗音楽も知っている。

 だが大切なのは心だ。たった一人だけでもいいから心を伝えることが大事なのだ。

 その曲は長年旅をしてきた私の琴線に触れた。だから教わったのだ」


 ベラは一気にしゃべりだした。長々としゃべる印象がなかったのでサビオは驚いた。

 年代的にホビアルの母親はまだお腹の中にいるイエロのために曲を作ったのだ。

 それがイエロに伝わり今に至るのだろう。


「……あたしのじゃ、ないんだ」


 ホビアルがぼそりと呟いた。目に生気は宿っていない。


「お姉ちゃんだけに作ったんだ。あたしなんか、どうでもいいんだ……」


 まるで口寄せのようにつぶやくホビアル。それを聞いたサビオの顔は蒼くなった。

 子守歌はイエロだけのためと思い込んだのだ。おそらくベラの説明を誤解したのである。

 ホビアルは糸の切れた人形のようにくたくたと崩れ落ちた。


 サビオは駆け寄り彼女を抱き起す。彼は彼女をここに連れてきたことを後悔した。


「いや、そんなことは……」


 ベラは自分の言葉足らずを釈明しようとした。すると。

 何も障害のない地面がぼこりと盛り上がった。そこからうめき声をあげて何かが這い出てきた。

 それはビッグヘッドであった。だが普段のビッグヘッドとは違っている。


 サビオらは授業の一環で騎士団の後ろからビッグヘッド退治を見物していた。

 ビッグヘッドは巨大な人間の頭に手足がくっついた生物だ。

 大抵青白い肌をしており、視線は定まらず、舌を出してぴちゃぴちゃ気持ち悪い音を立てていた。


 今目の前に立つのは三体のビッグヘッド。だがこいつらの姿は異常であった。

 まず眼球の一つがどろりと飛び出ているのだ。さらに残った眼も白目である。

 舌をだらしなく垂らし、よたよたと歩み寄ってくるのだ。


 通常でも人間に近くて人間に遠い生物は生理的悪寒が走る。

 だがこいつらはそれ以上に気味の悪いものを感じさせるのだ。


「……ゾンビヘッド」


 ベラがポツリとつぶやいた。


「毒のある木で作られたものだ。今までのビッグヘッドと違い、外見に生理的悪寒を与えるのを目的としている。ついこの間は不死王国アンデッドキングダムで見かけたな。

 かつて大都市だった場所でよく見かけたものだが、まさかここでも出会うとはな……」


 ベラはサビオたちを下がらせる。そして自身はギターに手をかけた。


「下がっていろ。こいつらは私が対処する」


 そういってベラはゾンビヘッドに立ち向かった。

 ベラはクラシックギターを演奏し始めた。耳がつんざくほどの高音だ。

 空気が振動し、サビオたちはまるで全身の骨が楽器のように鳴らされた感覚になる。


 きぃんと音が鳴ると、ゾンビヘッドの一体に縦の傷ができた。ぱかっと切断されたように見える。

 ゾンビヘッドは後ろに倒れた。だがゆったりと起き上がる。傷ができても気にする気配はなかった。


「どういうことだろう? ビッグヘッドは傷をつけられると怯えて逃げ出すか、怒り狂うかのどちらかだったはずなのに」


 サビオが疑問の声を上げる。


「そういう品種だ。感情を一切あらわさず、淡々と、そして確実に攻めてくる。

 これがエビルヘッドが生み出した新種だ」


 ベラは振り向かずに攻撃を続ける。

 音波の攻撃はゾンビヘッドたちを傷つけた。だが怯む気配はない。

 その内ゾンビヘッドが大きく息を吸うと大量の痰を吐き出したのだ。


 それはベラの全身にひっかけられた。その前にギターは天高く投げ飛ばしており、被害はない。

 ベラのポンチョは焼け落ちた。どうやらこの痰は溶解する作用があるようだ。

 だがベラはすでに脱出していた。そして空に投げたギターをキャッチする。


 サビオは驚いた。ベラの中身を。

 それは美しい女性であった。肌は真っ白で、銀髪のボブカット。瞳はルビーのように赤い。

 下着は黒く細かい細工がしてあった。

 しかしどことなく生気を感じられない。まるで石膏像のような印象しかないのだ。


「よくも自分の一張羅を溶かしてくれたッスね!! このお礼はたっぷりさせてもらうッスよ!!」


 今までのぼそぼそした口調から体育会系に変わっていた。

 ベラは下着姿でギターを演奏する。


「さあ! グレイト・ラグタイムショーの始まりッス!!」


 ベラの周りから音の渦が生まれる。ゾンビヘッドは毒の痰を吐き出した。

 それは音の壁で弾き飛ばされる。その音の波はゾンビヘッドを切り裂いたのだった。

 残るはマンチニールだけである。樹肌に触れただけでただれ、実は甘く蕩けるが人を殺す毒という代物だ。


「ふぅ、やれやれッス。今日の自分は運が悪すぎッス。でもこれでこれでいいことッス」


 ベラは敵を片づけた後、手で額をぬぐう。別に汗はかいてないのだが、癖なのだろう。


「悪いことが起きたときは幸運が来るッス。人生は悪いことばかりじゃないッス。

 ホビアルちゃんもネガティブに考えすぎちゃダメッスよ」


「あれ? 自己紹介しましたか?」


「君が昼間に出した名前を憶えていたッス。自分はこれでも物覚えはいいほうッス」


 ベラの言っていることが分からない。そもそも彼女はいったいいくつなのだろう。

 見た目は二十代の女性にしか見えない。


「ああ、自分の年齢は大体三百歳くらいッス」


 ベラは右手で三本指を立てた。

 三百歳!? 世界がキノコ戦争で滅ぶ前より生きていることになるではないか。


「自分は吸血鬼の女王ヴァンパイア・クイーンッス。昔はカーミラと呼ばれたけどベラにしたッス。

 ベラは数百年前に流行った魔人ドラキュラの俳優ベラ・ルゴシから取ったッス。理由は特にないッス」


 ベラは明るく、屈託のない笑顔を浮かべている。外套がなくなったことで性格が変わったのだろうか?


「先ほどの子守歌とはべつッスけど、自分の演奏したボサノヴァやジャズは元々その地で生まれた曲がいつの間にか世界中に広がったッス。

 ホビアルちゃんのママさんも最初はイエロちゃんのために作ったかもしれないッス。

 でもそれは始まりッス。今度はホビアルちゃんが自分の赤ちゃんに聴かせてあげるッス。

 いい曲は誰が聴いてもいいものッス。幸せはみんなにおすそ分けッス!!」


 ベラがバンとホビアルの背中を叩いた。


「でも意外ッス。イエロちゃんに頼まれたけどまさかここまで落ち込んでいるとは思わなかったッス。

 それに自分が演奏したせいでますます沈ませるなんて反省ッス」


 ベラの言葉にサビオは反応した。


「あの、ベラさんはイエロさんと知り合いなのですか?」


「そうッス。数年前から知り合いッスが、ここに来る前にばったり会ったッス」


「!?」


「そこでもしホビアルちゃんに出会ったら伝えてほしいと頼まれたッス。

 イエロちゃんはホビアルちゃんが大好きッス。すごく愛しているッス。

 でも自分はお天道様に背を向けて生きることになるので離れて暮らすッス。

 すごく大好きだから、自分の罪のせいで巻き込まれるのがつらいッス。

 だから別れたッス。でもホビアルちゃんのことは絶対忘れない。いつも心の中で想っているッス」


 それを聞いたサビオはほっとした。ホビアルも少し柔らかくなっている。


「詳しくは知らないッス。でもイエロちゃんはホビアルちゃんが好きッス。

 口下手だから説明できないし、面と向かって別れを告げるのができないッス。

 だから自分に伝言を頼んだッス」


 ベラの言葉にホビアルは泣いた。自分は捨てられていないとわかったからだ。

 逆にサビオはイエロの不器用さにため息をついた。

 きちんと説明すれば納得できたのだが、完璧そうに見えて抜けている彼女であった。


「あの、ベラさん。いいですか?

 その口調は一体……」


 ホビアルが小声で訊ねた。


「ああ、これはキャラづくりッス。理由は特にないッス。まあ、容姿が変わらないから顔を隠しているッス。

 もっとも百年前にフエゴ教団に人体実験してもらったから知っているッスけど」

「そうなのですか? 初めて知りました」

「火であぶられたり、氷漬けにされたり、口から硫酸を飲まされたのに死ねなかったッス。

 せっかく死ねると思ったのに拍子抜けッス」


 と残念がっていたが、追求しないことにした。さすがのサビオも真っ青である。

 こうしてベラは去っていった。

 その後姿をホビアルは熱く見つめていた。だが数歩後ベラは後ろを振り返った。


「その前に服を売ってほしいッス。前に下着姿で町を歩こうとしたら注意されたッス」


 ☆


「おいッス!!」


 翌日ホビアルは元気になった。正確に言えば元気を演じているのだ。

 ベラの口調を真似て、口調を変えたのである。

 クラスメイト達はあきれ顔だが、元気になった彼女を見て安堵していた。


「また騒がしくなりそうだな」


 アトレビドがサビオに声をかけた。


「前よりキンキン声でうざいな。これから毎日聞くとなるとうんざりするな」


 サビオは苦笑いを浮かべた。


「だが不思議に聞いてて心地はよい。こんなのは初めてだ」


 アトレビドの周りにいた生徒たちも同時に頷いた。

 ホビアルは太陽だ。彼女が笑うだけでみんなが笑顔になる。

 サビオはそんな彼女と共にいられる幸福を噛みしめるのだった。

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