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ホビアル、ブルーフライヤーと戦うッス

ホビアルたちの探索は続く。てくてくと歩んでいる。

 トリディマイト要塞は左右を岩山に挟まれた状態になっていた。まっすぐ北に延びており、迷うことはない。しかし先のわからない不安が足元に這いあがる蛭のようであった。

日はすでに真上だが、太陽の光はわずかな時間しか照らすことはなかった。そのせいか大きな動植物は見受けられない。命の営みが感じられぬ死の谷であった。

 それに谷から吹く風は肌寒く、骨身に染みるような冷たさであった。ビキニしか着ていないホビアルとヘンティルだが風邪をひくような深刻な状況ではない。彼女らは耐温油たいおんゆという特殊なオイルが塗られている。砂漠の暑さから、極寒の吹雪にも耐えられる代物なのだ。

 それでもまるで天然の下水路のように暗くジメジメしており、ホビアルたちはまるで自分たちがドブネズミかナメクジになって這っている感覚になった。

 このような場所には人間など住めるものではなく、三日も経たぬうちに逃げ出してしまうであろう。踏みとどまるのは思考を他者にゆだねたプラムクラスのビッグヘッドだけだ。

 ホビアルたちはなぜエビルヘッド教団がこんな何もない場所に要塞を立てたのか理解できなかった。本山から北上し、黒蛇河くろへびがわの上流があるガリレオ要塞があった。そこは念呪草ねんじゅそうという神応石を肥料にして育てた植物がある。

 念呪草は煎じて飲むと通常の倍以上に神応石の影響力が強くなると言われている。だがフエゴ教団ではあまりに危険だと言われていた。

 本人と周囲の感情を強く感じ取ってしまい、人格崩壊の恐れがあるからだ。ホビアルたちは幼少時に病院でその患者を見たことがあるから知っている。

 トリディマイト要塞には何もない。過去にイベリア半島と呼ばれた時代でも何もない谷だったという。二百年前の地殻変動で地形は変化したが、特別に鉱石とか何かが摂れた記録はないらしい。

 ビッグヘッドたちがキノコの胞子をなめとり、土や鉄などをそのまま喰らえば、目から涙鉱石るいこうせきが排出される。それを個別に分けて保管されるのだが、それがない。

 アモルはエビルヘッド教団を舐めてはいけないと言った。彼自身、エビルヘッドの罠に嵌められたのである。自身を殺させることで自信を神に昇華させようとしたのだ。

 エビルヘッドの名前自体に意味があるという。アモルはそれを教えようとしたがホビアルが遮った。

「今はこの要塞の意味を知る必要はないッス。大事なのはフエルテの救出ッス」

 ホビアルは言い切った。

 ヘンティルとアモルも同じ意見である。要塞内には入らなかったがフエゴ教団の騎士たちが待機しているのだ。医者も医療器具と薬を持って待機している。

 ついでに要塞の様子を調べるために電気機械が設置され、電波などを調べているようだ。

 アモルはローブから無線機を取り出した。手のひらに収まるサイズで、黒っぽいデザインである。

 ボタンを押し、定時連絡を行おうとしたが、聴こえるのは砂嵐だけであった。どうやら天然の城壁が電波を遮断しているようである。

 ため息をついたアモルは無線機を仕舞った。

 ホビアルは上空を見上げる。澄んだ青い空であった。まるで自分自身が溶け込んでしまいそうな錯覚になる。

 雲一つない青空に気分は少しだけ晴れやかになってきた。

 だが好事魔多しとはよくいったもので、ホビアルたちは一時の休息も与えられないのであった。


 ☆


「バルバルバルバルバルッ!!」

 上空から声がした。それは女性の声で獣のような鳴き声であった。

 ホビアルたちは見上げた。そして空から何かが飛んできたのである。

 それはビッグヘッドであった。青い髪をポニーテールのようにまとめ、可愛らしい少女のような顔をしているが口をすぼめて舌を回転させている。

 両腕は猛禽類の如く大きな翼であった。おそらくあのビッグヘッドはプロペラ機になり切っているのだろう。

 プロペラは航空機・船舶などで、エンジンの回転力を推進力に変える回転羽根のことだ。

船舶の場合は、ふつうスクリューと言われている。

プロペラ機は発電機から動力を伝達されたプロペラにより推進力を得る飛行機の事である。

 内燃式レシプロエンジンが主力だった第二次世界大戦末期までの航空機は、プロペラ推進がほとんどだった。その後ジェットエンジンの開発により、高速度を要求しないのに限定されてしまっている。

あのビッグヘッドは青髪の飛行士ブルーフライヤーであろう。彼女は周囲を旋回しながら、ぴーっと口笛を吹いた。

 すると空から黒い影が無数に現れる。見た目は鴉に見えるがスイカほどの大きさで禿げ頭の中年オヤジの首だ。それに耳のあたりに鴉の翼がついてある。下は鳥の足がついていた。

 小人形態リリパットモデルでクロウヘッドと呼ぶべきものだろう。

 そいつらは数十羽とホビアルたちに目がけて襲い掛かってきたのだ。黒いカーテンが一斉に襲い掛かる様は夜の闇に包まれるような恐ろしさがある。

 だが襲われたのはか弱い女性たちではなかった。心と肉体は鉄のように硬く鍛えられているのだ。クロウヘッドなどものともしなかった。

 特にアモルは拳銃を使い、一撃で撃ち落としているのだ。

 引き金を引く度、額に風穴が開くのだ。

 そして落ちて地面に転がったクロウヘッドは鴉の胡麻ごまへと変化した。

 鴉の胡麻とはシナノキ科の一年草である。基本的に山野や荒れ地に生え、高さは約六十センチほどだ。

葉は卵形で先がとがる。秋に黄色い5弁花が咲き、実は細長い角状になっている。

それが谷底で咲き乱れていた。なんとも不気味は風景だ。

とはいえクロウヘッドの数は多い。まるで黒い壁だ。空の様子が全くわからない。

その時黒い壁から突如ブルーフライヤーが急降下してきた。そしてヘンティルの両肩をつかみ取ったのである。

まるで鴉が地面に這いまわる虫をついばむようであった。

だがヘンティルは慌てない。深呼吸すると、一気に息を吸い込んだ。そして腹部がポッコリと膨れ上がる。

 大気中の水分を吸い取ったためだ。

だからというわけではないが、ブルーフライヤーはヘンティルを手放した。まるでホビアルたち目がけて投下したように思われる。

落下する最中にヘンティルは身体を回す。そして口から水を噴き出した。

身体は独楽のように回転させ、落下速度を鈍くさせたのであった。

そして地面へ華麗に落ちる。ホビアルは思わず拍手をした。

「さすがッス。まるで子供の頃に学校行事で見たバレエみたいッス」

「ほほほ。実はあたしも昔村に来たバレリーナを見て感動したのよね」

戦闘が行われているのに、二人とも落ち着いていた。アモルは冷静に銃を撃つ。回転式拳銃なので六発撃てば空になる。だがアモルは落ち着いて銃弾を装填していた。

「おそらくまた来るッス。今度は自分たちが罠を張るッス」

 ホビアルは右手を突き出す。そして手首から何か糸が飛び出た。それは近くによらないと見られないほどの細さである。

 ホビアルはそれを岩壁に突き刺した。自身は反対側の岩壁に背を付ける。そしてアモルに左手で囮になる様に指示した。

 アモルはすぐに頷くと道の真ん中に立つ。手にした拳銃でクロウヘッドたちを撃ち落とした。

 するとブルーフライヤーが再び急降下してきた。アモルを目がけて捕食しようとした。

 だが捕食者の身体は横から切断された。ホビアルの仕掛けた罠に引っかかったのだ。

 哀れな青髪のビッグヘッドは地面に衝突し、ごろごろと転がっていった。

 遺体は木藍きあいに変化した。天然の藍のとれる木本植物のことである。

 指揮者を失ったクロウヘッドはかたき討ちなどせず、大空へと飛び去って行った。

 見れば冷たい岩肌と地面しかなかった谷底は、木藍を中心に鴉の胡麻だらけになっていた。


 ☆


 さて邪魔者はいなくなったのでホビアルたちは前に進む。数十分も経つとトリディマイトの壁が現れた。そして鉄の扉の右側にお約束通りのテレビジョンが設置されていた。

 またフエルテの辱められた動画を見せられるのかと思うと、さすがのホビアルも憂鬱であった。ヘンティルもあまりに下品な映像に嫌悪感を現している。

 そんな中アモルは顔を紅潮させていた。しきりに胸と股間を手で押さえつけている。

 どことなく色気のある姿であった。彼の中身は男であると主張しても初見なら信じる人はいないだろう。

 むしろ男とわかっても一緒にしとねをともにしたいと願うもの好きがいるかもしれない。アモルなら老若男女問わず、金を出しても抱きたくなる空気が出ていた。

 そうこうしているうちにテレビジョンの電源が付いた。そこには画面いっぱいにウィッチヘッドの顔が映る。顔だけは冷たそうな目にすらっとした鼻、小さな唇には紅が塗られていた。だが彼女はビッグヘッドなのだ。人間と同じく言葉をしゃべるパインクラスのビッグヘッドなのだ。

『オホホホホ。ようこそいらっしゃいましたホビアルちゃんにヘンティルちゃん。アモルちゃんも御機嫌よう。

 わたくしが造ったビッグヘッドを悉く破るなんてすごいわね。

 でもそれはわたくしの望んだこと。あなたたちは蜘蛛の巣に囚われた蝶々なのよ。もがいても決して逃げられない策略の網に絡まれているのよ。

 さて前口上はこれくらいにしないとね。せっかくのお楽しみを先延ばしにするなんてエンターティナーとしては失格だわ』

 ウィッチヘッドは右へよけた。すると無機質な石造りの部屋が映し出される。

 一番奥の壁にはフエルテが両腕を鎖で吊るされていた。その横を二本のろうそくの光が照らしており、なんとなくこの世の物とは思われぬほど不気味さを感じ取った。

『おおう……』

 フエルテは喘ぎ声を漏らした。画面はフエルテの裸体を大きく映す。毎日筋肉トレーニングで身についた肉の鎧だ。日に焼けており、まるではがねを連想する素晴らしい身体だ。

 だがフエルテの身体に小さなものが蠢いていた。それはかたつむりであった。それらがフエルテの乳首やわきの下、そして腹部や太もも、股間の先端を這っていたのだ。

『うぐぅ……』

 無数のかたつむりがフエルテの身体を這う姿は悍ましいものであった。それをウィッチヘッドがあざ笑う。

『あはははは、見てよこの顔!! フエルテの感じる表情はとっても可愛いわ!!

 あなたたちはこんな素敵な姿なんか知らないでしょうね。だってこの子のことは外見でしか見ていないのですもん。

 ああ、でもアモルは違うかもね。毎日自分の部屋に誘ってフエルテの身体を舐めまわしているかもしれないわね。

 なんて羨ましいのかしら。だってフエルテはアモルの家族に飼われているものね。

 嫌がるこの子の気持なんかどうでもいい。自分が楽しければいいのだもの。

 フエルテだってあんな自分勝手なアモルの家に帰るより、わたくしと楽しんだ方が素晴らしい人生を送れると思うのよね。

 じゃあね』

 ぷつんと電源が切れた。そしてホビアルは激怒する。

「なんスか、あの人は!! 無理やりかたつむりを這わせて可愛いなんておかしいッス!!

 あんなことをしなくてもサビオなら舌先だけで自分を昇天させるッス!!」

「ああ、あなたとサビオさんの関係ってそうなのね……」

 ヘンティルはドン引きしていた。だがそれ以上にアモルの様子がおかしかった。

 激しく息切れを起こしている。額からは脂汗がだらだらと流れていた。

「わっ、私は男よ。女なんかじゃない。私の股間には立派なこん棒がついているもの。

 そうよ。私は女の子とえっちなことをしたくてたまらないのだわ。

 そう、私は男、男なのよ……」

 アモルは胸と腹部を押さえつける。そして膝をついてしまった。

「大丈夫なの? とてもつらそうだけど」

 ヘンティルが気遣った。だがアモルは礼を言いつつ、立ち上がる。

「ありがとう気遣ってくれて。私は大丈夫。だって私はあなたたちと違って男なのだから」

 やたらと男を強調するアモル。その様子に二人は異質なものを感じた。

 何かアモルに対して破局が訪れる。そんな予感がしていた。

 それは別の意味で当たっていたのだった。

なんとなくバトルだと盛り上がる気がするな。思い込んでるだけかもしれないけど。

気づいているかもしれないけど、フエルテのシーンはナムコのローリングサンダーがモデルです。

でも男が辱められて誰得状態ですが。

あとはジャレコのアーケードゲーム、シティコネクションとプラスアルファがモデルです。

どちらも女の子が主役なんですね。こちらは特殊なビッグヘッドになっていますが。

あとブラッドメイデンは二話で終わらせます。ではまた。

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