表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

【世界はこうあるべきだと神は言う。】




彼女は、道標の神様だ。



人に自分の進むべき道を教えて、正しい人生を歩ませるのが彼女の仕事である。

一人一人には個々の人生がある。その説明書のようなもの(これを彼女は人生ノートと呼ぶ)を持ち歩いては、彼女は一人一人をよく見ている。


例えばほら、あそこにたくさんの荷物を運ぶのに四苦八苦しているおばあさんがいる。大きな交差点を渡ろうとしているようだが、その足取りは決して軽いものではない。


周りに人がいないわけじゃない。みんな自分のペースで信号を渡っている。


でも誰一人として、おばあさんを助けようとはしない。

だが神様は、これはこれでいい、と言う。

何故なら、この通行人の中に【おばあさんを助ける】という項目は人生に組み込まれていないからだ。

もし【おばあさんを助ける】という項目が人生に組み込まれていない人間が助けると、その人間には今後人生ノートに書かれていない事柄が起きる可能性がある。


つまりは、予想だにしない未来が待っている。それはあってはならないと神様は口癖のように言う。


人生の道はレールだ。そして人間は、そのレールに乗り沿って歩いていく。それが人生というものだ。


少しして、高校生くらいの男の子が同じ方向から交差点を渡ろうとしていた。


そして、おばあさんを横目にさっさと歩いていった。


神様はその男の子に目をつけ、人生ノートをめくる。その中に、彼の人生を見つけた。


その中に、【おばあさんを助ける】という項目が見つかった。


だけど、肝心の彼はそれをしようとせず、点滅し始めた信号を見て足早に横断歩道を渡ってしまった。



ーーーこれはいけない。

見兼ねた神様は彼に囁いた。



ーーーおばあさんを助けなさい。



すると、彼はハッと、何かに気付いたように後ろを振り返る。そしておばあさんの元へ駆け寄り、荷物を持ってやった。


すっかり信号は赤に変わってしまったが、まだ二人は渡り切れていなかった。

信号待ちしていたトラックが鬱陶しそうにクラクションを鳴らすと、おばあさんは申し訳なさそうに運転手に頭を下げる。


「大丈夫、ゆっくりでいいよ」


高校生はそう諭しながらおばあさんと一緒にようやく交差点を渡り終えた。


これで一つ、道を正すことが出来た。


余談ではあるが、先ほどクラクションを鳴らしていたトラックはこの先二百メートルの信号で脇見運転で信号無視、さらには左から信号を渡る軽自動車と衝突。


トラックの運転手は軽傷であったが、軽自動車の運転手は意識不明の重体だそうだ。


だが、これでいい。


もちろんトラックの運転手に悪意があって教えなかったわけではない。彼の人生ノートにこうなると記されてあったからだ。



『その書物に書かれている事は全て真実であり、故にその事実を捻じ曲げることなかれ』


道標の神が上司に言われ、そうして人生ノートを受け取った。

人の人生は最初から終わりまで全て決められている。それから逸れ道から外れれば、因果律の崩壊が始まる。


その先にあるのは、世界の終焉。


それを招かないためにも、今日も神様は道を正す。



それが善でも悪でも、見据えるべきは結果のみだ。


fin...

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ