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『タール砂漠はかつて海だった』

作者: ゆき。

ある写真の雑誌にあった1枚の砂漠の中の化石達に魅せられて書いた小説です。


静かな夜だった。目を閉じる前まで、そこは海が広がっていた。

目を閉じてる間にどれくらいの時間が過ぎていったのだろう。紫と紺が混ざり合った夕暮れと水平線から登っていく太陽が繰り返し通り過ぎていく。


どうやら深い眠りについていたようだ。目の前に広がっていた水の世界は、いつの間にか姿を変えていた。

私の目の前には、ざらりとした砂粒が一面に広がっていた。少し汗をかくと肌に砂粒が付いてくる。


重さのある音が段々とこちらに近づいてくる。複数の足音とカラン、コロンと何かがぶつかり合う音がした。

何かの動物のこもった匂いが辺りに広がる。


低めの声が聞こえてきた。声の主は少し唸るように呟いた。

『ここだ。やっぱりここだったんだ。やっと見つけた。』

砂がどんどん掬い上げられる。

砂だけの世界から、吸い込まれそうなぐらいに深い青色の空がそこに広がっていた。


顔をしわくちゃにさせながら、微笑む老人が居た。彼は、私を持ち上げて、呟いた。

『こんな姿になっても、君は相変わらず綺麗なんだなぁ。』

彼の瞳に映る私は、オレンジ色の貝の化石だった。


そうか。私は寝ている間に化石になっていたのか。なんだか時間の感覚がよく分からなくなってきた。

混乱している私を気にするでもなく、彼は話し続ける。


『君は覚えているかな?ここが海だった頃、僕はアンモナイトだった。

広い海の世界で僕達は出会って、何万回の夜明けと夕焼けを繰り返した後、明日ここでまた会おうと約束したのを。約束した日の夜は、とても静かで。穏やかな夜だったんだ。

だけど、たった一つの隕石で、水の世界が砂だらけの世界に変わっちゃうなんて、想像出来ないよね。』

優しく微笑む彼は、遠い昔に見た時と変わらずに笑うから、もう言葉が見つからなかった。


私も彼の笑顔に釣られて、いつの間にか笑っていた。


もう届かないけど、伝えたい。

化石になってしまった身体から

言葉が出ることはもうないけど、

そばを通り過ぎる風に乗せるように

想いを込めた。


あなたのことが今でも好きです。

これからもずっとそばに居てくれませんか?


身体を一生懸命動かそうとした。

1cm動いたか、どうか分からないけど、わたしはとにかく伝えたかった。

あなたはわたしをそっと掌に持ってきて、ふわりと羽毛に撫でられてるみたいに、化石になったわたしをさらりと撫でてるばかりで、それがくすぐったくって仕方なかった。


言葉はもういらないのだと気づいた。暖かい瞳で見つめてくるので、こちらは恥ずかしくなってくる。


あなたは私に世界を見てとでも言うように、掌を空いっぱいに広げた。

砂の海とどこまでも続く青い透き通った空がそこにあった。


大きなコブを背中に持っている動物に揺られて、

私は彼と旅をすることになった。


新しい一日が今日も始まる。


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― 新着の感想 ―
[一言] 俺は恋愛ものは嫌いなのですが、なんだろう。うまく読めました。もしかすると、性愛的な要素が薄く、ただロマンティックなだけだからかもしれない。(ほめ言葉です。)よかったです。
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