1話 〜デスマッチ始動〜
「スキルコード。リミッター。リリース!」
そう叫ぶと同時にハクトの周囲に突風が巻き起こった。レイは何が起こったか最初はよくわからなかった。しかし、吹き飛ばされた体を持ち上げハクトの方をみると、両手剣を片手に一本ずつもち、剣は輝いており、ハクトからは蒸気が湧き出ていた。
「レイ。ヒール呪文を唱え続けてくれ」
レイは何がなんだかわからなかった。
一拍おいてから頷くと、ヒール呪文を唱え始めた。一体ハクトは何をしたのだろう。体から蒸気なんて明らかに異常だ。さっきのスキルコードが怪しいけど…
そこで、レイは考えるのをやめた。今は呪文を唱えることに集中しなければならない。
「ヒーリング。グロープ。ポール。ストレンジ!!」
私に今できるのはこれだけ。ハクトのためになるなら、今は呪文を唱え続けるしかない。
「ありがとう」
ハクトはどんどん体力が減っていっていた。ずっとヒール呪文を使っているのに減りが止まらないなんて、少しでも気を休めればハクトは体力が尽きてしまうだろう。
「出たぞ!漆黒の奥義が!」
「双竜だ!」
観客たちがどんどん騒ぎ出した。
とても集中が乱れるがしょうがない。
「あぁぁぁあぁァァァアア!!」
俺は二刀流の乱舞を巨大な化け物に叩きつけまくる。
十撃、十一撃、十二撃……連撃の数はもはや50をも超えていてもおかしくはない。しかしハクトはとまらない。手に持つ双竜を目にもとまらぬ速さで、止まることなく斬り続ける。
もう相手の体力はゼロに等しい。
「どぉぉォォオァァァアァアアアア!!」
最後に全体重の乗った一撃が化け物の体を叩きつけた。化け物は力尽きたように倒れると、光り出してもとの男三人に戻った。
「ハクト!今のってな…」
ハクトは終わったと同時に前のめりに倒れた。ハクトのライフをみるとHPが1になっていた。
「お疲れ。兄貴」
少しでもヒールが遅れたら…そう思うとハラハラしてならない。早く金もらってハクトを回復させないと…
男三人をギラっと睨みつける。男たちはビクっと身震いさせて立ち上がった。
「はい!約束のお金。10万だしなさいよ」
「あ、あぁ…わかった、わかったよ」
真ん中の男がパネルを操作させた。するとレイのところにゼニー振込契約書と書かれたパネルが回ってきた。
契約をすませ10万ゼニー受け取ると、残った力でハクトにヒール呪文をかけた後にコロシアムを後にした。
***
ハクトが目を覚ましたあと、そのまま二人は宿に来ていた。
「ねぇ!なんだったのさっきの!教えなさいよ!」
零が言っている「さっきの」とは俺の双竜のことだろう。
俺は机の上に置いてあるコーヒーを一口啜ってから零の顔をみた。その顔は眉間にシワを寄せまくっていて、とてもひどかった。
「そんなにシワ寄せまくると将来シワが増えるぞ」
秘密にしておいて、あとでまたかっこいいタイミングで使おうと思ってたんだけど…ばれた以上秘密にしておいても無駄だろう。
俺は「ハァ…」とため息をつき、レイに向き合った。
「俺のメインタイプとサブタイプは両方ともセイバーなんだよ。お前がランサーの槍とメイジの魔法を両方使えるように、セイバーとセイバーで、両手剣を二つ持てるようになったわけだ」
タイプとは簡単に言えばメインウェポンとサブウェポンのようなものだ。だからメインウェポンがセイバー、サブもセイバーで、メインサブ共に両手剣となるのだ。ちょっとした裏ワザの一つだ。
「でも、両手にあんな重たい剣を持つなんて、腕は耐えれるの?」
キラっと俺は目を輝かせた。ふ、その質問を待っていた!
「そこでリミッター解除だよ。リミッター解除は体力がどんどん減っていくが、1になるまでの時間特殊スキルを無限に使えるようになるんだ」
リミッター解除も融合魔法のように禁断魔法の一つだが、規制されてはいない。
しかしとレイが首を傾げ、宿に置いてあったという饅頭をひとかじりして、
「でもあんたメイジじゃないんじゃないの?あんたセイバーとセイバーなんだもん」
まぁ初心者なら誰でもそういうだろう。
「魔法には三種類あるんだ。一つはメイジしか使えない改魔術。二つ目はさっきの三人のように何人かで行う大魔術。これはメイジじゃなくても使えるんだ。そして、もう一つは個人で誰でも使用可能の真魔術の三つだ。でも俺が使ったリミッター解除は真魔術とは少し違って、禁断魔術の部類に入る」
ほんと、色々覚えるの大変だよマジで。
「色々あるんだね。禁断っていうくらいだから、乱用はまずいんだよね?」
「あぁ。禁断魔術は体力の減りがあるからな、メイジがいないとすぐに発動が終了しちまう。しかも終了した後はHPが1だから、発動してる時に倒さないと蜂の巣にされちまう。だから使う時をよく考えないといけないんだ」
レイは、何故あの時に使ったのかがよくわからなかった。あそこは私を犠牲にしてから冷静に少しずつ攻撃した方が私を守る必要がないから確実だったのではないか。
そんな話をしていたらもう時計は5時をさしていた。
「もうこんな時間か…飯の準備しなきゃ…」
ほんと、ゲームやってると時間の流れって速く感じるよなぁ。
俺はメニューを開き、ログアウトのある画面へスライドさせる。
「レイは何が食べたい?まぁちょっとしたもんしかないけ…ど……」
ハクトがいきなり硬直状態になった。
「どうしたの…」
返事がない。一体どうしたのだろうか。
「無いんだ…」
「…は?何が?」
一体何がないというんだろう。ただログアウトするだけじゃないか。
「無いんだ…ログアウトボタンが…」
「は?いや何それ、そんなはずないでしょ?よく見なさいよ」
レイも自分のメニューを確認した。
「本当だ。ログアウトボタンがない」
一体何故こんなことになっているんだ。
「多分今日の4時半のアップデートのバグかなんかだろう。こんな重大なバグだから、一旦全員強制ログアウトされるはずだ」
そう、そうなるはずったのだが…
ピピピピピピピピ…
「ほ、ほら。きっとこれでログアウトできるはずだ」
しかし、メールではなく、ある映像放送だった。
『やぁ。ゲームをプレイしてる皆様』
「せ、瀬名大河!」
瀬名大河とは、このFFのゲーム会社の「クラフト」の最高責任者だ。
『実は、今から君たちにあることをしてもらいたい』
あることってなんだよ。
「まずは俺らをここから出してからにしてくれよ!」
『もう知っている方も多いかもしれませんが、メニュー画面からログアウトボタンが消失していると思います。これは決してバグではありません。そして、あることというのは、このFFの世界で、殺し合いをしてもらいます』
「こ、殺し合い?!。なんかのイベントか?そういうのは明日にしてくれよ」
俺は焦っていた。なぜかはわからないが、ある一つの可能性が頭をよぎったからだろう。
『ルールは簡単。皆さんには敵を倒してキルポイントを貯めてもらいます。このキルポイントを1000p貯めますとゲームクリアとなります。しかし、一回デスしますとキルポイントは10減少いたします。そして、このキルポイントがマイナス50pになると、DCから頭に0.1アンペアの電流が放たれますので注意してください』
「レイ…0.1アンペアって死ぬ?」
「うん。死ぬだろうね。0.02アンペアで皮膚に傷ができる。0.05アンペアでも心臓を止めることも可能。0.1アンペアもあれば人は簡単に死ぬわ」
頭良すぎだろマジで!
「よ、ようするに死ぬってことかよ…」
マジかよ、こんなの漫画の世界だぜ、ゲームで本当に死ぬとか…
「俺らに1000人の人を殺せっていうのかよ」
『あと、三人一組でチームを作ってください。まぁ二人だろうがソロだろうが関係ないですけどね。チームを組んだらメニューからチーム申請をしてくださいね。新しいチームにする時もチーム申請を行ってください。細かなことは、更新されたルールブックで確認してください。それでは』
ここで映像が途絶えた。
俺らは閉じ込められたのだ。このFFという仮想世界に。脱出するには百人の人を殺すしかない。
「ルールブックって…」
俺はルールブックを開くと、新しく項目が増えていることがわかった。
『ゲームクリア方法。チームで1000pのキルポイントを貯める』
『ゲーム内の時間経過。ゲーム内では現実の千分の一の速さで動いているため、ゲーム中の餓死はあり得ない。しかし、空腹感はあるため、その場合はゲーム内の食材で満たすこと』
大きな点はこの二つだった。
チーム一人一人百人ずつ殺す必要は内容だ。
そして、ありがたいことにゲーム内では現実の千分の一の速さだから、一時間でも、現実世界では3.6秒しかたたないらしい。
「一年は31536000秒。だから、こっちの一年は現実の31536秒。8.76時間しかたたないわけ…人は3日間飲み食いしないと死ぬから、3日は72時間。制限時間は8年ってところかしら」
真顔でスラスラ言ったけどこいつマジ何者?
「す、凄いね…びっくりしたわ!」
しかし、もうこのゲーム内は危険だ。何処から攻めてくるかもわかったもんじゃない。
「ここはもう危ない。街から出るぞ」
「え?」
「荷物をまとめろ!こんな人のたくさんいる場所にいたら何処から攻撃されてもおかしくない」
なんでこんなことになってしまったんだと泣きじゃくりたいが、今は安全なところに避難するのが得策だ。
「お、終わったよ?」
隣でレイが準備を終えたようだ。
「よし、じゃあすぐ出るぞ!」
俺らは宿を出てから東に一時間ほど進んだところににあるモンスターがスポーンしないエリアである隠れウッドハウスに来ていた。ここは俺が毎回使っている隠れ家で、色々と家具は揃っている。
ウッドハウスは、寝室が二つと倉庫が一つというなかなかシンプルな物件だが、人に見つかりにくいことで評判である。
内装は、玄関から一直線に伸びた廊下と、その右側に二つの部屋が並んでいる。これが寝室だ。そして奥にある扉は倉庫になっている。
「レイは奥の部屋を使ってくれ」
「わかった」
レイは荷物を持ち上げると、たたたっと寝室に入っていった。
速く休みたいのだろう。一時間ほどあるいてきたのだ。疲れるのが普通だ。
「さてと。俺も明日の準備しねぇと」
明日にはもう動き出さないといけない。でも、迷いはあった。もう前みたいに死んではいけない。それに、プレイヤーをキルするということは人を殺すのと同じ行為なのだ。しかし、やらなければ自分が殺られるだけだ。
俺は荷物を持ち上げ、考えるのをやめようと思いながら寝室に入った。
内装は4坪ほどの部屋で、ベッドとチェストが置いてあるだけのシンプルな部屋だ。
「明日はみんなの様子を観察してみるか…」
こんな急に変なゲームに参加させられてみんなためらいも無く人を殺せるのか…。
俺はレイの部屋に向かった。こんなことになったのも俺のせいだ。
「レイ、入っていいか?」
「いいけど」
俺はドアを開けて中に入った。
中は俺の部屋と同じになっている。
俺は覚悟を決めレイを見た。
「その、俺がゲームをしようなんて言わなければこんなことにならなかったのに、ホントゴメン…」
レイの性格からしてボロクソ言われるかと思ったが、帰ってきた言葉は予想外だった。
「そんなことまだ考えてたの?あんたみたいな性格ならさっと忘れてそうだったけど。もうすぎたことなんだから仕方が無いでしょ?こんなこと小学生でもわかるわよ?」
俺みたいな性格ならさっと忘れるって部分は腑に落ちないが、そんなに気にしていないようだった。
「ありがとう。そう言ってくれると助かるよ」
「そ、そう…」
レイはちょっと顔を赤く染めて言った。
それと、俺はもう一つレイに言うことがあったので、それも話すことにした。
「明日、様子見も兼ねてもう一人メンバーを探そうと思う。ルールじゃあ最高三人でチーム組めるらしいし、増えたからってキルポイントを集める量が増えるわけでもないから、やっぱ増やしといた方がいいと思って」
「うん。いいんじゃない……?」
こいつ聞いてねぇだろ絶対…。さっきからレイは武器のチェックをしている。
「服…お願いね。明日」
忘れてた…今日の戦利品で10万もらったんだった。てあれ?
「おい、装備品はメニューから買えるぞ?お前にしては珍しいなぁ。どうかしたのか?」
あんな頭のいいレイのことだからFFの知識についてはほとんど覚えたと思ってたんだが…
「俺が選ばなくてもお前は頭いいから自分で選んで買えるよな?なんかわかんないことあったらチャットよこしといて。もう俺寝るわ。お休み」
「お休み」
そのまま俺はレイの部屋を後にし、俺の部屋に戻りベッドですぐ寝ることにした。
***
小鳥の鳴き声とともに俺は目が覚めた。相変わらず小鳥の鳴き声は仮想世界とは思えないほどにリアルだった。
俺はまだ眠いといっているかのように重たい体も無理やり起き上がらせた。
今日はプレイヤーの観察も兼ねてメンバー探しをすることとなっている。メンバーは増やせるだけ増やしといた方がいい。とは言っても一人だけだか…。
俺はよっこらしょと立ち上がり、廊下へでてレイの部屋へと向かった。
扉の前に立つと、ふうっと息を吐いてから扉をノックする。
「レイ、起きてるか?」
返事はない。まだ寝ているのだろうか…
「レイ、入るぞ〜」
ここに立っていても仕方がないので、俺は中に入ることにした。
覚悟を決め、深呼吸してから扉を開けると、案の定、レイはベッドの上で寝ていた。
俺はそっと近づき、レイの寝顔を目に収めることができた。その顔はとても可愛かった。生きてて良かったと思えるレベルだ。
「寝てる時はこんなに可愛いのになぁ」
無理矢理起こすのも可哀想なので、なぜか置いてあった椅子に腰掛け、起きるのを待つことにした。
「ん〜…ん〜〜ん……ンぁ?」
「あ、起きたか?」
あれから約十五分後、レイは目覚めた。
レイは眠気ナマコをこすりながら「ほぁあ…」とあくぴをした。あぁあ…あのまま寝てたら可愛かったのに…。
「ハクト…おはよう…」
「あぁ、おはよう。俺朝飯つくってくるわ」
ここだと狭いので、部屋ですることにした。
FFでは、焼いたり蒸したりとかは全部タップするだけでできてしまうのでキッチンは必要ないのだ。
今日の朝食はバタートーストとキャベツサラダにしよう。
この世界では単品で食うととても美味いとは言えないが、他のアイテムと合わせることで、現実世界の食べ物に近づけることができるのだ。
「このクッキングレベル1の俺が腕をふるってやるぜ!」
「なにこれ…虫の餌?」
「ひどいなぁ。しょうがないだろぉ?クッキングレベル1だしリアルでも料理なんて中学の家庭科以来やってねぇんだよ!」
この際リアルは関係ないんだけどね。
俺の作った飯はとても悲惨なことになっていた。トーストは真っ黒焦げで、サラダは味付けが酸っぱすぎる。正直リアルならこれくらいできるのだが、この世界では数値がものをいうのだ。
俺らはなんとか虫の餌を食べ終えると、身支度をし始めた。
持っていく特別なものは、双眼鏡と煙玉だけだ。煙玉は敵に万が一見つかって、逃げる時に使う。まぁそんなこと滅多にないけどな。
俺は身支度を済ませるとレイの方を見やった。
「レイ。準備終わったか?」
さっき気づいたがレイの服と武器が新しくなっていた。服装は青色のちょっと変わったデザインになっていて、ランサー用の動きやすい服になっていた。
「私も準備終わったわ。行こ」
「あぁ」
俺たちは玄関から外に出た。
外は昨日と変わりなくジャングルに覆われていた。俺がマップを開こうとした次の瞬間、俺の特殊スキル、千里眼が気配を察知した。
「伏せろ!」
俺らはすぐに家の影に隠れる。レイをそこに座らせると俺はたちあがった。
「お前はここで見ておけ、考えがある」
俺はそうレイに告げてから家の影から姿をさらけ出した。
「マイストレージ。ソード。ナンバーツー。ジェネレート!」
俺は剣を持ち出し、呪文を唱えた。
「スキルコード。マイハンド。エンハンス!」
次の瞬間、俺の手が光だし、力がたぎってきた。
「さぁ…いつでもこい!」
そして、真っ直ぐ奥の方から弾丸が飛んできた。スナイパーだ。魔法で連射性能をあげているようで、スナイパーライフルなのにどんどん弾がとんでくる。
それを俺は二つの両手剣を遠心力をを使い次々と弾を弾いていく。
「す、凄い」
レイをそう言わずにはいられなかった。スナイパーライフルの弾丸を肉眼で見切るなんて、人間の次元を超えているようにしか思えない。
そのままどんどん弾を防ぎ続け、スナイパーのいる方向へ走り出した。
「ここら辺か?」
俺は上を見上げて、何処からスナイピングしていたのかを探った。
俺は目を閉じ、特殊スキル、千里眼を発動させた。
「…………………!」
そこか!
俺は感じ取った気配のある場所に猛ダッシュする。こんな遠くからのスナイプとは並大抵のプレイヤーにはできない。こいつは相当の熟練者の俺は判断した。
俺はスナイパーに接近し、剣を突きつけた。
エメラルド色のショートヘアーで、明らかにスナイパーって感じの服をきている女の子だった。
「一体、お前は誰だ」