Over the MilkyWay!-始まりの夏-
「ふいー、気持ちええわ〜」
「オッサンかよお前………JKなのに。」
「うっさいなぁ自分、そんなんやから彼女18年も出来てないんとちゃうんか?心ちっさいで。」
「オッサンみてぇなJKに言われる筋合いはねえよ。」
片田舎、というには少々発展している場所、言うなれば都会と田舎の境界線のような場所だ。
そこで男女二人組が川遊びをしながら会話をしていた。内容は、ドッヂボールのようなものだったが。
「あんた、大学出たらどうするん?」
ポニーテールを肩の辺りまで下げた少女が尋ねた。
「………考えたことねえな。まあ多分だが、公務員になってるよ。今の御時世、安定が第一だしな。」
少々色が白すぎる、白髪に紅い目をした少年が、気だるそうにそう答えた。少女は膝まで川に足を入れているにもかかわらず、少年は河岸であしをブラブラさせるだけだった。
西暦2268年、7月7日。この日は七夕であった。
少年は青く澄んだ空を見上げて少女に聞き返し。
「聞くけどさ、お前はどうするんだ?中学のころやりたいことが決まったって言ってたけど、結局何やりたいんだ?」
「ん〜………まだ内緒。あんたには話せん。」
「んだよそれ……俺が言ったんだから教えるのが礼儀ってもんじゃねえのか?」
「そんな礼儀知らないね。お、今日はなんやら魚がぎょうさんおる………一匹取って食うたろうか。」
「原始人かよオメー………親父さん見たら泣くぞ?」
「せやろか?むしろ嬉々として食いそうなもんやけどな。」
ダメだ、この親子頭おかしい………そう呟いて、手元にあった石を少し勢いをつけて投げた。
石は、10回ほど水面を跳ねて川の中洲へと着陸する。その様子を見て、少女は拍手をした。
「やっぱ上手いなぁ。ウチ一回も跳ねんで。さすがやわ。」
「オメエは下手くそすぎんだよ。普通石の水切りで思いっきり水面に石叩きつけるか?」
「うっ………そ、それはやな………」
しどろもどろになる。途端に慌てですのが、少女の癖のようなものだった。
「そ、それは置いといてや。」「なんで置いておくんだよ。」「ええから話聞け!」「………へいへい。」
恥ずかしさからか、若干顔が赤くなった。昔っからこんな感じだっけ、と少年は思いを馳せる。
「今日なんの日か覚えとるか?」
「七夕か?」
「流石に覚えとったか。じゃあこっちはどうや。10年前、ウチがあんたと交わした約束、覚えとるか?」
「………約束?はて、なんだったかな……」
「覚えてないんかい…薄情なヤツ……」
「10年も前のことを全部覚えてるほうが気持ちわりいよ。」
「なら、もっかい言うで?あの時したんはな、10年後、つまり今日や、二人で天の川渡ろうっていったんや。」
「そういやあったなそんなの。突拍子のねえ夢物語過ぎて忘れてたわ……だがどうやってやんだ?ロケットも宇宙服もねえ、そもそも天の川って恒星の集団だぞ?」
「甘い、甘いで自分。そんなことせんでも越えられるんや。今日やったらな。」
「………なるほど、40年周期の大河祭か。」
「ビンゴ。大河祭の日はこの川に天の川のすべてが映る!しかも今日は快晴、今後も雨の心配もない!2015年頃のような突発的豪雨は2140年からずっと降ってないし、天気予報もめちゃくちゃ正確や。今日は大河祭やで。」
「なるほどな、お前にしちゃよく考えたじゃないの。」
「……バカにしとんか?」
「さあね。ご想像にお任せするってやつだ。」
少年は、川の向こう岸を睨みつけて言った。
「でもよ、こっから向こう岸までざっと7、80メートルはあるぜ?どう住んだこんな距離。とてもじゃねえが、飛び越えられる高さじゃねえぞ。」
「何言っとんあんた。泳ぐに決まってるやん。」
それが当然かのように少女は口にした。少年は、呆れた表情をした。
「ダメだこいつ、やっぱアホだ………」
「むっ、アホとは失礼な!」
「そういうところもアホっぽいぞ。あのな、この川水深何センチあると思ってんだ?お前がいる場所が一番深いんだぞ?そんな浅さで泳げるわけねえだろ。」
「なら、歩こうや。それにな、あんたにちょっと言いたいことがあんねん。対岸についたらいうから、首洗って待っとけよ!」
ザバッザバッ、と水を押し退け、少女も岸に上がってきた。
「今日の夜8時、ここで待ち合わせや。拒否権はないからな、遅れるなよ!」
そう言って、家に帰ってしまった。
午後8時、大河祭がそろそろ終わろうかという頃だった。少年は、待ち合わせに場所に来ていた。
「おっせーなアイツ……そろそろ時間来ちまうぞ………」
「お、もう来てんじゃん!お待たせしちゃったかな?」
「お前、その格好で川入るつもりか?」
少年が聞くのも無理はない、少女の姿は、着物を着てしっかりと化粧を指定て、日中とは違った美しさが見られた。
「アカンかったかな……?ちょっと気合入れてきたんやけど。」
「……いや、似合ってる。可愛くなったよ。」
少年が、少し照れくさそうにそういった。
「ほな行こか。暗くなったら上がれんなってまう。」
じゃあなんでこんな時間選んだんだよ。そう思ったものの口に出しはしなかった。
川の真ん中辺りに来た頃。互いに服はかなり濡れていた。
「あのな、うちな、今後何しようか決めたんや。」
「ほー……結局どうしたいんだ?」
「向こう岸についたら話す。まだちょっと勇気が……」
それからさらに10分後、二人は対岸に着いていた。
「ついたぞ。おしえてくんね?」
少年がる彼を見せながらも催促した。
「あのな、うちな………いや、わたしはな……あんたと、その……結婚したいねん。」
ちょうどその時、大きな花火が打ち上げられた。始まりを告げるものか、はたまた終焉を告げるものか、まだ分からないが、この時を境に、二人の運命の歯車は大きく回り始めるのだった。
誰の運命がどんな時に回り始めるのか、実は誰にもわからない。そう、神様にでさえ、ね。