ヘングルとマミーテル
むかしむかしあるところにおじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんは山を狩りに、おばあさんは川へ洗濯されに行きました。
「行かねぇよ!山を狩るってなんだよ!一日で山一個丸ハゲにする気か!森林破壊とかいうレベルじゃねーだろ!おばあさんは川に流されてるじゃねぇかよ!洗濯されに行って帰ってこないパターンじゃねぇか!やり直しだやり直し!」
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むかしむかし、ヘングルとマミーテルがいました。
二人はとても仲のいい兄妹でしたが、とても貧しくて貧しくて、特にマミーテル一人の食費でもう火の車でした。
そしてとうとう、二人は両親に捨てられることになったのです。
「普通に捨てても面白くないから僕の山狩りに一緒に連れて行くよ」
「……ん、わかっ、た…いって、らっしゃ、い……姉ぇ…じゃない、お父、さん?」
「……あぁもう可愛いなぁハク母さんはっ!」
「…むぅ…抱き、つく、やめ、て」
……はよ話進めろやハクジュン姉妹。
翌日の朝、ジュン父さんはヘングルとマミーテルを連れて山狩りに行きました。
その帰りに、二人を山の中に置き去りにする作戦です。
しかし昨日の夜、ヘングルだけは両親の会話を聞いていたので、家を出るときに作戦を立てました。
帰り道の途中、焚き火をして休憩中に疲れて眠った兄妹をその場に置き去りにし、ジュン父さんは一人で家に帰ったのでした。
「大変だよヘングル!あたし達ハゲ山に取り残されちゃった!」
「安心しろ、マミーテル。家までの目印を道に置いてきた」
「へぇ、流石はヘングルだね!で?目印って?」
「あぁ、通ってきた道にパンのカケラを撒いてきた。それを辿れば家に帰れるよ」
「あぁ、あのパンのカケラ?美味しかったよ」
マミーテルの口から、信じられない言葉が出てきた。
なんだって?美味しかったって?
「お昼にちょうど良かったよ!」
「アホかぁぁぁぁぁぁ!」
ヘングルの撒いた目印を見事に全部食べたマミーテルはこれでもかと言うほど怒られ、仕方なく兄妹は食料を求めて、ハゲてない山へと移動する。
「この山菜は食えるな。揚げたら美味そうだ」
「クンクン……美味しそうなキノコの匂いがするっ!」
「おっ!椎茸じゃねぇか!これで美味しい出汁が取れるぞ!」
そうしてしばらく歩くと、森の中からお菓子の家が。
「よっし、これで一先ずは食いつなげるな」
森の中からお菓子の家が。
「あたしてんぷらがいい!」
お菓子の家がっ!
「まてまて、これだけ種類があるからかき揚げにしよう」
お菓子のっ!家がっ!見えてきましたっ!
「……あのなぁ、あからさまに怪しいだろ。普通に考えてみろよ、森の中からお菓子の家ってあり得ないから。胡散臭すぎ」
「落ちた洋菓子は食べるとお腹壊すってヘングルに教わったから食べない」
……お話進まないから。行って欲しいんですけど。っていうか行け。
「ハイハイ、じゃあ仕切り直しな」
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そうしてしばらく歩くと、森の中からお菓子の家が見えてきました。
「ワーミテヨヘングルオカシノイエダー」
「ワーホントダー」
死んだ魚のような目をしながら兄妹は会話する。
ビスケットの扉に手をかけ、アリ避けの薬品を遠目に見ないフリをしつつ、二人は中を覗いた。
「こうして見ると普通の家だよな」
「甘い匂いでもうお腹いっぱいだよ」
誘惑に負けた二人は家の物に手を出し、食べ始めました。
「見てよヘングル!蛇口からホットチョコレートが出てくるよ!?」
「腹壊すぞ、それよりこっちのドアノブ食べとけ」
「おっけー」
「次は窓を食べてくれ」
「ほいほい」
「最後にこの暖炉な」
「もぐもぐ……んぐ、もう食べられない」
「十分だ。さて、と……」
ドアノブのあった所は家のお菓子でパテ埋めし、窓にはスライスしたスポンジケーキをはめ込んで隠す。暖炉は取り壊して進入不可に。
ーーちょっと!何よこれ私が入れないじゃないの!
お菓子の家の持ち主が帰ってきたのだろう、しかし進入経路をふさがれて少々ご立腹のようだ。
ーースグル君!…じゃなかった、立てこもってる人!出て来なさい!
「まずいよ、ヘングル!持ち主が帰って来ちゃったよ!」
「ドア越しに交渉してみる……持ち主さん持ち主さん、あなたはどんな人?」
ーースグル君に愛を注ぎたい系の精霊!出来ることならギュってしてチュッチュしてクンカクンカしたい!
「逃げよう」
「だね」
即答だった。壁のお菓子をもぎ取り、玄関とは逆方向に向かって逃げる。
走って走って走り続けると、大きな湖が見えてくる。
その水面には美しい白鳥達の姿が。
「ああゔぇるたん!あなたはどうしてゔぇるたんなのっ!」
「キモい怖い今すぐ消えて!」
『なんで俺がこんな格好を……』
……股間から白鳥の頭の生えた衣装を着込んだ、ヘングルと同じくらいの男と、その男に追い掛け回される、衣装係が本気を出した白鳥の衣装を着た可愛らしい少女。それから白で塗りたくられた小さなドラゴンが、そこにいた。
正直、関わりたくないと思ったが、それだとあまりにも少女が可哀想だから、助けてやることにした。
「1…1…0……っと」
数分して駆け付けた警察官に、股間から白鳥の頭を生やした男は連行されていった。
「助けてくれてありがとう、ヘングル…さん」
「いやいや、俺は人として当たり前のことをしたまでだから」
「お礼に、道案内してあげる。家に帰りたいのよね?」
少女が言うには、ここから南西の方角に家があるらしい。
俺たちは白鳥の少女にお礼と別れを告げて、南西に歩き出した。
「「……ついた」」
湖から約半日歩くと、俺たちの家が見えてきた。
足がすくんだが、勇気を出して扉をノックする。
「「ただいま、父さん母さん」」
「あっ!ヘングル!ちょうど良かった、ご飯作ってくれないか?」
「……父、さんの、料理、不味、い」
「……あぁ、うん」
「マミーテルの鼻が無いと毒物かどうかの見分けがつかない。食べ終わったら、山菜採りに行こうな」
「う、うん」
かくして、また元通りの日常が、兄妹に訪れたのでした。
めでたしめでたし。
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舞台裏。
「痛っ…針で刺しちゃった……」
「キョウカちゃん大丈夫?」
「大丈夫です、ブラウンさん」
「デザインは私に任せて下さい。こう見えて金賞取ったんですよ?」
「それは凄いな、クシナダちゃん」
「金賞って言っても、地域のコンクールなんだぜ、ショウ兄ぃ」
「バッ…そういうこと言うなよっ……!」
「……あっノヴァ!白鳥のペイントはオレがしてやるよ!」
どうやら、衣装とメイクは彼らの仕事のようです。
ご愛読ありがとうございました。