ユビキタスその1 ~ ユビキタスその7
《ユビキタス》メンバーをメインとした4コマ感覚のショートショートショートです
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ユビキタスその1 『BQ232』
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「未来ってBQ232なのよね? 信じられない話だケド」
CSN同好会の会室で美耶子はポータブルゲーム機をピコピコとやりながら未来にそう話を切りだした。するとテレビを見ていた未来は誇らし気に胸を張る。
「うん、そうみたいだよー。えへへ、凄いでしょー。あ、232で思い出したけど転校試験の点数も232点だったよー」
「へぇー、うちの転校試験って100点満点じゃないのね」
未来は嬉々とした表情でテスト用紙を取りだして長机の上に広げた。美耶子はそれを上から覗いてみる。そこには赤ペンで彩られた五枚のテスト用紙の姿があった。
「ほらー、五教科合計で232点~!」
「いや五科目平均46点は全然誇れることじゃないから。よく入学できたわね、あんた」
自慢げな未来と打って変わって美耶子の視線は冷ややかだった。
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ユビキタスその2 『彼女が生徒会長になった最初の改革』
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「郁巳ちゃんって生徒会長だったんだねー、凄いよっ!」
そう言って未来はキラキラと眼を光らせて羨望の眼差しを永森郁巳に向けていた。
「ええ、まあね。未来は転校したばかりで知らないでしょうけど、城東学園はBQが一番高い人が生徒会長をやることに決まっているのよ。なりたくてなったわけじゃないわ」
未来の熱い視線に照れた様子も無く、文庫から顔をあげた郁巳は長い黒髪を手で流した。
「でも、なったからにはこの権力を存分に利用させてもらうつもりだわ。“迅速な考動”をモットーとする私はもう最初の改革にとりかかっているわよ」
「うわー、政治家っぽい! ねぇねぇっ! どんな改革しようとしてるのっ!?」
「最初に学園と交渉しているのは書籍売店に官能小説を置いてもらうことよ」
その言葉にソファで寝転びながらポータブルゲームをやっていた美耶子が顔をあげた。
「生徒会長が率先して風紀を乱してどうすんのっ。あんた今すぐ会長を辞任しなさいっ!」
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ユビキタスその3 『生徒会長の引継ぎ』
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「生徒会長を辞任してもいいのだけれど。でもそうなると引継ぎに支障が出るわね」
郁巳は少し考え込むように顔を伏せる。その様子に美耶子は訝しがって首を捻った。
「どういう意味よ。現生徒会長が辞任した場合、次に生徒会長になるのは学園の二年生で二番目にBQが高い人でしょ? 現副会長の御崎さんなら郁巳より真っ当に生徒会長してくれると思うわよ。純朴な真人間だし」
「美耶子。何か忘れていないかしら。今年は時期遅れの転校生がいたでしょう。しかも崇高な頭脳をお持ちであらせられる私よりBQの高い転校生が」
美耶子は思い出したようにハッと声をあげた。
「……うん。やっぱり郁巳が生徒会長を続けた方がいいわね」
美耶子は未来を見ながらそう呟く。
彼女に視線を向けられた未来は「ほえ?」と眼をぱちくりさせていた。
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ユビキタスその4 『永森郁巳の癖』
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何かを思案しているのか郁巳は長机に置いた資料に眼を通しながら右手の親指を唇に押し当てていた。
「ねぇ郁巳ちゃん。考える時に親指で唇を触るのって癖なのー?」
興味深そうに郁巳を見つめる未来に、郁巳は今気づいたように親指を唇から離した。
「ええ。どうやらそのようだわ。特に意識してやっているわけではないわね」
「癖が出てる時の郁巳ちゃんって大人の女性って感じでカッコいいと思うよっ」
「そうかしら。ありがとう、未来。でもこの癖は大人の女性という印象と異なると思うわ。本当の大人の女性というのは――」
郁巳は親指を唇に押し当てるのではなく、はむと口の中に含み、流し目をした。
「あはははっ! グラビア雑誌とかでありそう! あ、もっと制服を半脱ぎにした方が大人の女性っぽいかも!」
そうね、と郁巳は制服から肩をはだけさせ、ブラ紐を肩から二の腕に落とす。その様子を断固として無視しながら美耶子はポータブルゲームを続けていた。
(もうやだっ……! 誰かはやくこの二人を止めてーっ!)
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ユビキタスその5 『明日野未来の口癖』
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「ミヤちゃんは何か癖とかあるの?」
未来にそう問われ、美耶子は視線を上にして普段の自分を思い返してみる。
「癖、ねぇ。あ、口癖ならあるわよ。どうやら私も意識せずに言っちゃってるみたいなんだけど……。これがあんまり良い口癖じゃなくてねー」
「おぉ、ミヤちゃんにもやっぱりあるんだぁ。癖ってどうして出るんだろうねぇ?」
「反射的に出るパターンみたいなのが自分の中で決まってるんじゃないの? 郁巳の考え事をすると、反射的に親指を唇に当てる、みたいに」
「うーん。私もよく反射的に『わっかんないよー』って口癖を使っちゃうんだよねぇ」
「それは口癖じゃなく単純に知らないことが未来にとって多すぎるだけだと思うわよ」
朗らかに笑う未来に美耶子は冷ややかな視線を投げつけていた。
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ユビキタスその6 『栄誉ある城東学園生徒会』
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放課後、生徒会室に深森郁巳はいた。
彼女ら四人は長机においた資料を前に椅子に座していた。
「時間ね。会議を始めるわ。先般、学園側に提出していた案件はどうなったかしら」
「か、会長……。学内の書籍販売店に官能小説を置くのはいくらなんでも……」
「その通り。我々は生徒の代弁者として行動を起こさなければなりませんよ」
郁巳の問いに会計と書記が口々に否定的な意見をだす。それに郁巳はすっと眼を細めた。
「あなたたち、何か勘違いしているわね。私はこの交渉を『私たちがどこまでやれるのか』という試金石にしたいのよ。だからあえて不可能だと思える要望を提出したのだわ」
役員の中で一番BQが低い庶務は肩身狭そうにしながら、ちらちらとみんなの顔を覗う。
(あぁ……か、会長が言いくるめにかかってます……。で、でもこの中で一番BQが低い私がみんなを差し置いて発言するのもなんだか気が、引けますし……)
「私たちは城東学園のトップなのよ。教師陣よりもBQが高い組織なのよ。そんな優秀な頭脳が集まった私たちに出来ないことはないはずだわ。私たちはこの不可能だと思われる案件を通しきることで初めて名実ともに学園の支配者となったということを学生たちに示せるのよ!」
「「なるほどそりゃ納得だ!!」」
(せ、洗脳されちゃったぁー! BQが高いだけの馬鹿生徒会めー!)
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ユビキタスその7 『息抜き?』
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ある時、一之瀬美耶子は陸上部のメンバーに声をかけられていた。
「ミヤー。聞いたよー。『ワールドマスター』やってるんだって?」
「あー、うん、まあ。ちょっと息抜きにねぇー」
美耶子は頬を掻きながら苦笑いを浮かべた。
「確かCSN同好会の人たちと一緒にやってるんだっけ。ミヤが私たち以外に心を開くなんて珍しいねー。大人になったねぇ、ミヤ」
「……どういう意味よ、それ。事と次第によっちゃ足がでるわよ」
「もう、怖いなぁ。それでCSN同好会の人たちってどんな人たちなの?」
脳裏にメンバーの『あははは!』と能天気に笑う四人の顔が浮かぶ。
「…………な、なんだか胃が痛く……なって、きた……」
「ねぇ……それ、本当に息抜きになってるの?」