09,クールジャパン
「お・も・て・な・し」
日本は次の次のオリンピック開催地に決定して、今からもうお祭り騒ぎで浮かれています。
「ほうほう、ニッポンは不景気だと聞いていたが、これはどうだ、すっかり賑やかに盛り上がっておるではないか?」
クウデル・サンタはきらびやかな不夜城の街を歩きながらその様子をながめて感心しました。せっかく自分が盛り上げてやろうと張り切ってきたのでしょうが、がっかりする風でもなく、思いっきりニコニコして、楽しんでいるようです。
「あっ! サンタクロース!」
女子高生たちがクウデル・サンタを見つけると歓声を上げて指さし、クウデル・サンタは喜んでいっしょに携帯の写真に納まってやりました。
一行はすっかり、「サンタクロースとそのお供の者たち」になっています。クウデル・サンタは赤いサンタ衣装で、どこに行っても人目を引かないことがありません。大人気です。
たまたまクリスマスシーズンの街のにぎわいを取材していたテレビのクルーが大勢の人たちを引き連れて歩いているサンタクロースを見つけて、これはいいと、さっそくカメラを担いでやって来ました。女性リポーターがマイクを向けてインタビューします。
「メリークリスマス、サンタクロースさん。日本にようこそ」
「ふうーっふっふっふう。メリークリスマス、ニッポンのみなさん。みなさんに楽しいクリスマスをプレゼントに、サンタの国からやって来ました」
クウデル・サンタが本当のことを言っても、だれも信じませんが、だれも疑いません。みんなどこからどう見てもサンタクロース以外の何物でもない、青い瞳の、立派な白ひげの、チャーミングなおじいさんに、見ているだけで幸せな気分になって、いっしょにニコニコしました。
クウデル・サンタは逆にリポーターのお姉さんにききました。
「わたしはニッポンの子どもたちが何を喜ぶのかとても知りたいです。綺麗なお嬢さん、わたしを子どもたちが喜ぶ物がたくさんある場所に案内してはいただけませんか?」
子どもたちにはもう遅い時間です。テレビクルーは、これは面白くなりそうだと相談して、明日サンタさんをデパートに連れていくことにしました。
翌日。テレビの取材クルーは約束通りクウデル・サンタを新宿のデパートに案内しました。
サンタクロースの現れたデパートは大騒ぎです。そんじょそこらのアルバイトの安っぽい物まねサンタとは訳が違います。本物の、とても立派な、外国人のサンタクロースなのです。お客たちの無遠慮な携帯のカメラにもクウデル・サンタはにこやかに手を振って応えてあげました。
デパートの人は後からついてくるマネージャーらしい三太郎にたずねました。
「どちらのイベントのサンタさんでしょう? お時間がありましたらぜひ子どもたちのための撮影会をお願いしたいのですが、ギャラはいかほどに…………」
三太郎はニッと笑って答えました。
「彼は本物のサンタクロースですからお代はけっこう。撮影会もどうぞご自由に。喜んで参加させていただきます」
これを聞いてお店の人は大喜び。さっそく店長に報告に行って、これから大急ぎで会場の準備です。
浮かれた大騒ぎに三之助は渋い顔です。
「本当にいいのかねえ、こんなに目立っちまって」
小三太も三太郎に注文を付けました。
「ギャラにナンテンドー・スリーデーエスをもらってくれよお? そんなのギャラとしちゃ安いもんだろう?」
三太郎はニッと笑って二人に答えました。
「カリスマってのはすげえもんだなあ? ただいるだけであちらさんからわんさと押し寄せてきて、放っておいちゃくれねえ。こうなったら俺たちはただ見守ることしかできねえよなあ?」
おもちゃ屋に案内されたクウデル・サンタは小三太ご所望の「ナンテンドー・スリーデーエス」の実物を見て、試しにちょっと遊ばせてもらって、
「おお、こりゃあすごい! やっぱりニッポンのハイテック技術は素晴らしい! うふふふふ、こいつは夢中になってしまうわい!」
と、大興奮で喜び、
「どれ、これはぜひともサンタクロース公認の素晴らしいおもちゃに認定してあげよう」
と、いつの間に用意していたのかポケットから立派なサンタ「公認」マークのシールを取り出すと、ベタッと、勝手にゲーム機の箱に貼ってしまいました。大事な商品に勝手に変なシールを貼られてお店の人が怒るかと思いきや、
「やった! サンタクロースさんに公認してもらえたぞ!」
と大喜びで、
「みなさん! サンタさんがナンテンドー・スリーデーエスを今年の公認プレゼントに選んでくださいました! ただ今ナンテンドー・スリーデーエスをお買い求めの方はサンタさんとのツーショット写真をプレゼントいたしまーす! さあさあ、サンタさんがいらっしゃる今がチャンスですよ!」
と、ちゃっかり商売に利用して、それを聞いた子どもたちは
「サンタさんといっしょの写真、欲しいー! ねえ、買って買って!」
とお父さんお母さんにおねだりしたり、また、
「え〜〜、スリーデーエスはもうもってるよお。ずるい〜〜」
とだだをこねる子もいて、困ったお店の人はクウデル・サンタに
「他にもこんなに楽しいおもちゃがあるんですよお?」
と、おすすめの商品を紹介して、太っ腹のサンタは
「おお、これも楽しい! ふむふむ、面白い。よろしい、公認!」
と、次から次に公認シールをべたべた貼っていき、お店の人は大喜び。
「さあさあお客さん、こちらはサンタクロース公認おもちゃコーナーでございまあーす! サンタさんとのツーショット写真は今だけのチャンスですよー!」
チリンチリンと鐘を鳴らして宣伝して、子どもたちにおねだりされたお父さんお母さんたちは、デパートの高級おもちゃ屋さんは値引きが少なくてお高いのですが、年に一度のクリスマスでありますし、ついついお財布の口がゆるんで、公認おもちゃコーナーの少々お高い商品がじゃんじゃん売れていきました。もうお店の人はサンタ様々で顔がゆるみっぱなしです。
クウデル・サンタに挨拶に来た店長さんはおもちゃ屋さんでもう勝手に始まってしまっている写真撮影会にちょっと渋い顔をしましたが、まあクリスマスの主役はなんと言っても子どもたちですし、なにしろすごい勢いで高い商品が売れていきますので、すっかりご機嫌になりました。
ところで困ったのはとにかくサンタが大人気過ぎることです。これは希望者全員に撮影会をやっていたら閉店時間が過ぎても終わりそうにありません。
そこで、おもちゃ屋の公認コーナーを見た店長はひらめきました。
おもちゃ以外の商品も、お店のおすすめ商品をサンタさんに公認してもらって、その商品を買ったお客さんに撮影会に参加してもらえばいいのです。それもあんまり安い商品では誰でも買えて参加者が多すぎて困りますから、ある程度お高く……、いえ、
年に一度のクリスマスなのだから、ちょっと強気に少しぜいたくにお高く、高級品の商品をサンタさんに公認してもらおう。それでもきっとちょうどよいくらいの人数になるに違いない。
店長さんは頭の中のコンピューターをフル稼働していくら以上の商品にしたらよいか、計算しました。
「よーし。君、子供向けの商品は1万4000円以上、若者向けは3万2000円以上、大人向けには5万4000円以上のプレゼント品をピックアップして大至急持ってきたまえ!」
店長の命令は各売場の主任たちに伝えられ、それぞれ大急ぎで商品をピックアップして、撮影会で忙しいクウデル・サンタの所に運んできました。
集められた商品を見たクウデル・サンタは、
「おお! どれもこれも素晴らしい! さすがはメイド・イン・ジャパン、素晴らしい品質だ! はい、全部公認。あー、三太郎くん、小三太くん、三之助くん。君らに任せるから、はい、ぺたっと、シールをお願いね」
と、シールの束を三人に渡してすっかり丸投げしてしまいました。
「ちゃんとバイト代くれよな?」
小三太がべたべたシールを貼っていき、
「ありがとうございます!」
立派な店員たちにお辞儀されて、えっへんと大得意になりました。
たっぷりあったコーナーの商品が最後の一つまですっかり売れてしまい、ここでのクウデル・サンタのお仕事はおしまいになりました。
え〜〜っ、と、おもちゃを買い損ねてサンタさんとのツーショット写真が撮れなかった子どもが泣いてしまい、店長さんはすかさず宣伝しました。
「たいへんありがとうございます。おかげさまでおもちゃ屋の商品はすっかり底をついてしまいました。しかし皆様、お子さまたちもご安心ください。店内の他の売場にもサンタクロース公認のクリスマスプレゼントはたっぷりご用意しております。サンタさんにはクリスマスツリーのありますセントラル広場のイベントステージに移動していただいて、引き続き公認商品をお買い求めくださいましたお客様、ご家族様との、お写真をお撮りいたします。公認商品はたくさん用意しておりますが……、申し訳ございませんが無限にはございません。デパートの閉店時間も決まっておりますので、サンタさんとのお写真が欲しい方は、確実に撮っていただけますよう、早めのお買い物をお願いいたします」
クウデル・サンタがにこやかに手を振って広場の会場へ向かうのを見送ると、写真を撮り損ねた家族は店員さんに詰め寄って他にどんな公認商品があるのか問いただしました。そして今度こそ息子や娘、恋人のサンタさんとのツーショット写真をゲットすべく、各売場へ競争して散っていきました。