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06,再び脱獄大作戦

 三太郎に脱獄されて、サンタクロース刑務所の所長サンタはカンカンに怒っていました。部下の看守サンタたちはビクビクして、脱獄した三太郎と手引きした仲間たちをものすごーく恨んでいました。

 そんなところへ、三太郎の脱獄のわずか翌々日に、コントロールルームに異常を報せる警報が鳴り響きました。

「何事だ!?」

 所長サンタの怖い声にモニター担当のサンタは緊張した声で答えました。

「地下からの振動を探知機がとらえました。地中を何か乗り物がこの建物の真下を狙って浮上してきています」

「乗り物だと? 詳しい形状の解析をパネルに出せ」

 コンピューター解析の3DCGがただちに壁の大きな液晶パネルに映し出されました。

 先が大きなドリルになった、キャタピラーの乗り物です。トンネルを掘る、掘削機です。大きさは大型の自動車くらい。

 なるほど、三太郎一味は今度は地下からモグラマシンで侵入する作戦のようです。

 パネルを見て所長サンタは組んだ腕を揺らしてあざ笑いました。

「馬鹿め。形状記憶氷が壁だけに使われていると思ったか? この刑務所の堅牢さを思い知れ」

 その言葉通り、地下深くから斜めに浮上してきたモグラマシンは、それまで快調に突き進んでいたのが、刑務所の下辺りに来たところで急に速度が落ち、ゆっくりになり、とうとう止まってしまいました。

 所長サンタはざまあみろと笑いました。

「馬鹿者め。地下の備えもバッチリだ。形状記憶氷は破壊された側からあっという間に元通り固まるのだ、そんじょそこらのモーターのパワーで分厚い基礎岩盤を最後まで突き進めるものか」

 ああ残念。自信満々の三太郎の侵入計画はやはりサンタクロース刑務所の厳重さの前にあっけなく失敗に終わったようです。

 モニターを監視しているサンタが報告しました。

「乗り物内部の温度が急上昇しています」

 パネルに映し出されたCGも青色だったのがどんどん赤くなっていきます。所長サンタは忌々しそうに舌打ちしました。

「そら見ろ、大馬鹿者め、案の定モーターが焼き切れたな。中に人は乗っているか?」

「2つ生命反応があります。どうやら大人と子どものようです」

「子どもだと?」

 所長はますます忌々しそうに顔をしかめました。

「黒岩三太郎とその息子だな。奴め、せっかく脱獄しておきながらなんの目的で戻ってきた? ええい、本当に馬鹿な奴だ。内部の温度は何度になっている?」

「40…45…、50度になります!」

「ええい! 仕方ない、車庫へ誘導してやれ。警備の看守たちを全員車庫に向かわせろ!」


 重要な持ち場についている者以外の看守サンタたち全員が車庫に集合しました。所長サンタも間抜けな侵入失敗者の顔を見てやるために直々にやってきました。

 氷の透明な床に、深い海の底からのように徐々にモグラマシンの黄色い車体が浮かんできました。形状記憶氷は特殊な周波数の電流によって形を操ることができ、こうして中に閉じこめた物を好きなところへ移動させることができるのです。

 天井が床の上に現れ、車体が半分現れ、氷をかいていた大きなドリルが現れ、タイヤ代わりのキャタピラーが現れ、モグラマシンはすっかり氷の表に吐き出されました。

 看守サンタたちはショック銃を構えてコックピットを狙っています。

 所長サンタが大声で呼びかけました。

「中の者に告ぐ! 大人しく出てきなさい! 抵抗すると痛い目にあうぞ?」

 コックピットのドアは開く気配がありません。所長サンタは真っ白に曇ったフロントガラスをじいっとにらみました。モーターが焼き切れた高温で中の乗組員は気を失っているのかも知れません。このまま放っておけば取り返しのつかないことになるかも知れません。所長は近くの看守サンタに命令しました。

「ドアを開けろ。気を付けてな」

 命令を受けたサンタは近づくと慎重にレバーをひねりました。鍵はかかっていないようで、ガクンと重い音がして、引くと、ドアは開きました。むうっと熱が吐き出されてきて、看守サンタは思わず後ずさりました。

「どうなっている?」

 銃を構えた看守サンタたちが入れ替わりに開いたドアに近づいていき、中をのぞきました。ドリルの上のフロントガラスも、中の熱が抜けたせいか、透明になって、中のコックピットが見えるようになりました。

「あっ! なんだこれは!?」

 中を確かめた看守サンタが驚いた声を上げました。フロントガラスからも中の様子が見えます。

 コックピットの2つのシートに座っているのは、三太郎と小三太ではなく、大小、緑色の体をした、トゲだらけの、サボテンでした。

「サボテンだと? ううむ、植物だから生命反応があったのか? しかしこんな物を送り込んでいったい…………」

 自らコックピットをのぞいた所長サンタは、2体のサボテンの後ろに置かれた物を見てハッとしました。

 トナカイの顔のおもちゃです。

 そう、黒サンタの活躍に詳しい人ならよくご存じの、例のドリームマシンです。

 眠っていたトナカイのまぶたが、パカッと開き、目が怪しく光りました。

「いかん! 全員退避ーっ!!」

 所長サンタが叫んで、車庫の看守サンタたちは大急ぎで廊下へ逃げ出しましたが……

 このモグラマシンを中に入れてしまった時点で手遅れだったのです。

 ドリームマシンの虹色のオーロラは、届かないはずの車庫の外、廊下や、囚人たちの檻、コントロールルームまで、まんべんなく光の波をゆらゆら揺らし、トロイメライの甘く感傷的なメロディーを聴かせました。

「ううむ、やられ…た…………」

 こわもての所長サンタまで全身の力が抜けて、その場に倒れると、スースー、気持ちよさそうに眠ってしまいました。他の看守サンタたちももちろん、みんなあちこちでグーグーガーガー、いびきをかいて、何とも幸せそうな顔で寝入っています。

 いったい何が起こったのでしょう?

 これが三太郎の作戦でした。

 サボテンにはテレパシー能力があります。科学的には立証されていませんが、科学とファンタジーの融合がサンタクロースのテクノロジーですから、サンタクロースの育てたサボテンにはテレパシーがあるのです。しかもこの2体のサボテンは、体があって、頭があって、手足があって、見事に人間の形をしていました。これを育てたのはメキシコのサンタクロースで、子どもたちの夢をのぞき見するためのアンテナとして利用していました……もちろん、子どもたちの夢をのぞき見するのは変な趣味じゃなくて、子どもたちが何を欲しがっているか調べるためです。

 三太郎はそのメキシコのテレパシーサボテンをこっそり拝借してきて利用したわけです。

 サボテンにドリームマシンのコードが接続され、夢のオーロラとメロディーが強力なテレパシーで刑務所中に広がりました。

 これでもう刑務所内で眠っていない人間は一人もいないはずです。

 しかし、では三太郎はどうやって中に入るつもりでしょう?

 表の扉の「回れ、ドラム」の魔法の言葉は、実は中のコントロールルームで聞いていて、ここで扉を操作して開けていたのです。そうでなくては不用心ですから。今そのコントロールも、職員たちはみんな眠りこけています。それに、脱獄に利用されたパスワードはもう変えられています。今度のパスワードは「重力、シンパシー」で、どうやら所長の趣味のようです。

 さて、三太郎はどうするのでしょう?

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