05,刑務所のシークレットVIP
「とっつあん。サンタクロース刑務所にどういう囚人が入っているか、知ってるか?」
「そりゃあ、おめえ、おめえみたいにサンタの国の法律を破った悪い奴らが入れられているんだろう?」
「サンタがどんな刑務所に入れられるような悪いことをするって言うんだ? 黒サンタでもあるまいに」
「てめえで言ってりゃ世話ねえな。じゃあ、違うってえのか?」
「そりゃあ俺みたいなのもいるだろうが、実はたいていの囚人はサンタ以外の、外の人間なのさ」
「外の人間だと? そんな話、聞いたことねえぞ?」
「だろうな。俺だって入ってみるまで知らなかったさ。サンタクロースは世界中の秘密機関と協力関係を結んでいる。サンタクロースの活動はいろいろ国の法律に引っかかるところがあるからな、こっそりもみ消してもらってるんだ。一方で、あちらさんの頼み事も、まあそれが悪〜い事でなければ、聞いてやるのもやぶさかではない、ってところでな。
世界にはいろんな理由で決して表には出せない犯罪者ってのがいるんだ。犯罪者って言っても悪い奴とばかりは言えない、俺様みたいにな? しかしそいつが世間に現れたんじゃあ、国がおおいに困る、っていう、実に困った犯罪者だ。
そこでだ、そういう、存在自体を隠したい犯罪者を、こっそり隠しておく場所として、サンタクロース刑務所は使われているのさ」
三太郎のしたり顔に三之助は大盛りハンバーガーが胸につかえたみたいに渋い顔になりました。
「おまえ、まさか…………」
「そうさ」
三太郎は素晴らしいショーでも披露するみたいに両腕を広げ、大得意になって言いました。
「その秘密の囚人を脱獄させてやるのさ! ハッハッハッハッハ、サンタクロースどもめ、さぞかしあわてふためくこったろうなあ!」
三之助は面白くなさそうにナプキンを放り出しました。
「この馬鹿たれが。おめえは本当にただの悪人に成り下がっちまったのか? そんなことしたら、世界が本当にたいへんなことになっちまうんじゃねえのか? おれは下りる。てめえ一人でハッスルして、氷の檻に逆戻りすりゃあいいさ」
すっかり怒ってしまった三之助に、三太郎もなだめるように、今度は背中を丸めて身を小さくしてこっそり言いました。
「さすがに俺も世界中を敵に回すようなことはしねえよ。ハワイの余生が駄目になっちまわあ。
俺のターゲットは、一番の大物、ただ一人よ」
「一番の大物?」
三太郎はしたり顔でうんうん大きくうなずき、興味を隠せない三之助にニイッと笑って続けました。
「氷の刑務所の、一番奥の、特別の部屋に監禁されている。こいつがどこの誰なのか、刑務所の職員でも知ってる者はトップのごく一部に限られる、極秘中の極秘の、特別の囚人だ。俺の感触じゃあ、こいつはどうもサンタクロースの関係者じゃねえかと思う。世界の秘密の囚人たちを差し置いてのVIPだぜ? サンタの関係者なら、世界に迷惑かけることもあるまい?サンタクロースどもはとんでもねえ迷惑かも知れねえが。なあ、それならかまわねえだろう?」
「ううむ……」
三之助はけっきょく三太郎の悪巧みに丸め込まれて、『面白そうだ』と思ってしまったようです。しかし、渋い顔はなかなか崩しません……元々しわだらけですが。
「目的は分かった。しかしだなあ、そんな刑務所の奥深くにいる秘密の囚人を、おまえみたいに出口近くまでおいで願うこともできねえぞ? 一度脱獄されて警備もより厳重になっているだろうしなあ」
「なあに、なんとかなるさ」
三太郎は自信満々に請け負いました。
「そうだな、今度はサンタクロースらしく天井からお邪魔するか……、それとも………、なあ、坊主?」
難しそうな大人の話に退屈していた小三太も、三太郎の悪そうな笑顔に、ケチャップの付いた指を舐めながらこちらも大人に負けない悪そうな顔でニンマリしました。
「また怪獣出してくれよ? オレ、大暴れするところが見てえよ!」