04,悪たれサンタのなれの果て
サンタクロース刑務所を飛び立ったジェット雪上車はアラスカを通過してカナダに降り立ちました。
三人はファミレスに入って手っ取り早くハンバーガーのセットを注文しました。
料理が運ばれてくると三太郎はさっそくかぶりつきました。
「おお、うめえな。熱々のめしなんか1年半ぶりだぜ」
美味しそうにむしゃむしゃ食べ、さっそく追加のハンバーガーを注文しました。お爺さんの三之助はお行儀よくナイフで切って食べ、いつもの調子でかぶりつこうとした小三太も三之助をまねてナイフで半分に切ってから食べました。カナダのハンバーガーは日本人にとっては超ボリューム満点なのです。
ハンバーガーのお代わりが届くのをポテトを食べて待ちながら、三太郎はジロリと小三太を見ました。
「よお、赤ハナのとっつあん。こんなガキ、どっから見つけてきやがった?」
三太郎は自分そっくりの小三太の顔が気に入らないように鼻を鳴らすように言いました。赤畠三之助はヒヒヒと笑いました。
「なんだよ、生き別れの息子を捜し出してきてやったんだ、うれしそうに笑いやがれ」
三太郎は小三太にごついひげの下からニイッと白い歯を見せました。すぐに引っ込めます。
「フン、俺は独身貴族さまだ。子どもなんかいねえよ。おい坊主。おまえ名前はなんていうんだ?」
「黒岩小三太」
「そいつはもういい。本当の名前だ」
「いいじゃねえかよ、オレ、この名前気に入ったもん」
小三太は三太郎をまねて半分のハンバーガーに大口を開けてガブリとかぶりつき、口いっぱいほおばってモグモグしました。
「ほうだにゃ、(ゴックン) あんたからクリスマスプレゼントもらうまでは黒岩小三太でいいや。な、頼んだぜ、父ちゃん」
「ああん? なんのこった?」
「オレ、今年のプレゼントはナンテンドーのスリーデーエスに決めてるから。他じゃあぜったい納得しないからな」
勝手な約束に三太郎は渋い目を三之助に向けました。
「だそうだぜ、パパ。いいじゃねえか、それくらい。首尾よく脱獄できたんだ、ほうびにプレゼントしてやれ」
「どっから連れてきたんだ?」
「今年おれは新人の黒サンタの教育係を担当してたんだがな、このガキ、その黒サンタをまんまと警備員に捕まえさせて、大喜びしてやがる。とんでもねえ悪い子だ。こいつあ新人の手には負えねえだろうとな、おれが勝手に受け持つことにしたのさ」
「へえ、オレの後がまをつけやがったのか……」
三之助は三太郎の顔を見てヒヒと笑いました。
「いよいよお役ご免で、寂しそうだな?」
「へんっ、知るか、この俺様を首にするようなサンタクロースなんざ、未練あるか」
三太郎は到着したお代わりのハンバーガーを引きちぎるように噛み切りました。三之助はそんな三太郎の様子を静かに見ています。
「で? 新人の黒サンタってのは誰だ?」
「おめえは知らねえよ。去年サンタ見習いになって、今年から黒サンタに昇格だ。尾羽黒三太夫って、面白れえ顔の男だ。おめえより十は若いぞ? 最初こそこんな悪ガキに当たっちまってしくじったが、ま、おいおい、いい黒サンタになるんじゃねえかなあ?」
三之助は人ごとのように言いました。
「で? とっつあんはその間抜けな新人の教育係をほっぽりだして、なんだそのかっこうは? 自分も本当に黒サンタに転職か?」
三之助は真っ赤な衣装から真っ黒な衣装に替えています。銀色のトンボメガネは相変わらずですが。三太郎はまじめな目でききました。
「俺を脱獄なんかさせて、これからどうするつもりだ?」
ジェット機に変形する雪上車なんてサンタクロースの支給品以外にないでしょう。だいたいサンタクロース刑務所の位置や扉を開ける合い言葉など、サンタクロース以外に知るはずありませんから、遅かれ早かれ……おそらくはもうとっくに、三之助が三太郎を脱獄させる手引きをしたのはサンタクロース警察にばれているでしょう。
三之助はおしゃれにレモネードのグラスを傾けながらなんてことないように言いました。
「そうさな、ハワイにでも逃げるか。年寄りが余生を過ごすには最適な場所だあな。おい、三太郎。おめえもほとぼりが冷めるまでハワイ辺りで大人しくしてたらどうだ?」
どうやら二人は古くからの悪友らしく、三之助はそれとなく三太郎を誘いました。しかし、
「冗談じゃねえ」
と、三太郎は鼻を鳴らしました。
「このまま逃げてたまるかよ。俺は黒サンタだぞ? 黒サンタが悪いことして何が悪い? まじめに一生懸命仕事した俺を冷たい刑務所に閉じこめて、あまつさえ黒サンタの資格を剥奪だと? くっそお、サンタクロースの裏切り者め。ぎゃふんと言わせる仕返しをしてやらにゃあ気が済まねえ」
「おまえなあ」
三之助もさすがに渋い顔で三太郎をいさめました。
「おととしのありゃあ、さすがにやり過ぎだ。おめえは世界中のクリスマスをぶち壊しにしたんだぞ?」
横から小三太が口をはさみました。
「なあ、本当におっさんが怪獣を出現させたのか?」
「おうよ」
「すっげえなあ。ちぇー、オレも見たかったなあ〜」
三太郎は大威張りし、小三太は憧れのまなざしでリスペクトし、なんだかすっかり意気投合したようです。三之助はやれやれと首を振りました。
「仕返しって、何をやらかす気だ?」
「なんだよ、ハワイでのんびりするんじゃねえのかよ?」
「するさ。おめえの悪さを見届けてからな」
脈ありと見て三太郎はニッと笑いました。三之助はうるさそうに手を振りました。
「いいから、さっさと悪巧みを説明しやがれ」