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27,クリスマスの真実

 黒岩三太郎は裁判にかけられ、脱獄前の残りの刑期と合わせて80年の禁固刑が言い渡されました。

 この裁判は一般のサンタには公開されず、秘密の内に行われました。

 判決の出たところへ、グランドサンタが杖をつきながらおぼつかない足取りでやって来ました。

「裁判長、裁判員の皆さん、しばらくわしと三太郎、二人きりにさせてはくれまいか? なにしろこの老体で刑務所まで面会に行くのはしんどいのでのう」

 グランドサンタの頼みを断ることなどできません。しかし大事な、サンタの国の宝であるグランドサンタを極悪な犯罪者と二人きりにするのは不安です。

「かまわねえ、俺をくさりでがんじがらめにすればいい」

 そう言う三太郎にグランドサンタは首を振り、

「こいつはだいじょうぶじゃ。決してわしをどうこうするようなことはしないよ」

 と言うので、裁判長は警備主任と相談し、三太郎に二重に手錠をはめることで二人きりの面会を許可しました。


 みんな出ていって、法廷に三太郎とグランドサンタ、二人きりになりました。

 グランドサンタはどっこいしょと弁護人の席に座って、被告人の三太郎に微笑みました。

「今回もまた、活躍じゃったなあ?」

「いえいえ。俺は今回はなんにもしてやしませんよ。ちょいと裏で根回しをしただけでね」

 三太郎の謙遜を怪しむようにグランドサンタは首をかしげました。

 グランドサンタはじいっと三太郎を見つめて、まるで秘密を打ち明けるように悩ましく言いました。

「今年のニッポンのクリスマスは、あれでよかったのかのう?……」

 三太郎は平気な様子で答えました。

「よろしいんじゃないですか? 景気のいいのはよいこってす。人間の体といっしょで、金の巡りを良くしてやれば経済も健康になるんじゃないですかなあ」

 そう言いながら三太郎はやっぱりどこか人ごとみたいで、その言葉に真実みがありませんでした。黒サンタの彼は、悪い子が面白がって喜べば、それでいいのです。

 グランドサンタも、くよくよ考えているのが馬鹿らしくなったみたいに言いました。

「おまえさんはよいのう、自分が面白ければそれで満足なんじゃから」

「その通りです」

 ごつい黒ひげの中で白い歯を見せて大威張りする三太郎に、グランドサンタは呆れた顔をしました。

 三太郎は手錠につながれて不自由な手を首の後ろに回すと、なんと、バリッと自分の皮膚をはぎ取りました。特殊メイクの偽の皮膚です。その皮膚の下から、あの銀座のナイトクラブで使っていた真っ黒なクレジットカードを取り出しました。

「グランドサンタ。証人になってくださいよ?」

 三太郎はそのブラックカードをミシッと折って、更に両手に丸めてバリバリに砕け散らせ、まるでほこりを払うように手をパンパン払い、カードは細かなくずになって飛び散りました。

「日本の依頼者から預かったカードはこの通り、きれいさっぱり無くなりました」

 グランドサンタは委細承知でうなずきました。どうもあの黒いカードを三太郎に預けた「依頼者」は、とにかく日本人にいっぱいお金を使わせたかった誰かさんだったようですが、その必要経費代わりに預けた黒いカードは、表社会に存在していては色々不都合が生じる物だったようです。

「来年も、楽しいクリスマスが迎えられるとよいのう」

「そうですなあ。是非そうなってほしいもんです。でなきゃあ、なかなか大きな馬鹿騒ぎはしづらいです」

 三太郎はまたニッと悪い顔で笑いました。

 グランドサンタは申し訳なさそうに言いました。

「しかし、これでまたおまえさんの黒サンタ復帰が難しくなってしもうた。どうしたものかのう……」

「平気でさあ」

 三太郎は胸を張って言いました。

「必要とあれば俺はいつでもフリーランスでやらせていただきますよ。……その必要ってのも勝手に決めちまいますけどね。

 それに、なかなか面白いやつでしたよ?わたしの後任黒サンタは。ま、ちょっととんちんかんなところがあるが、黒サンタが悪い子なのはよいこってすよ」

 警備主任がそろそろよろしいですかと聞きに来ました。名残惜しそうにうなずき、よっこらしょと立ち上がったグランドサンタに、三太郎は一つ言いました。

「グランドサンタ。赤ハナのとっつあんに伝言を頼めませんか?」

「何かな?」

「俺はすげえ悪い奴だ、とね」

「すげえ悪い奴、か。分かった。伝えておこう」

 グランドサンタはそれですべて承知のようですが、それではあんまりなので、一つヒントを付け加えておきましょう。敵を騙すにはまず味方から、ということです。この伝言を聞けば赤畠三之助もやっぱりか!とカンカンに怒ることでしょう。



 黒岩三太郎はサンタクロース裁判所の裏口でサンタクロース刑務所に向かう護送車に乗せられます。

 と、三太郎が後ろに開いた囚人用の出入り口に連れられていったところ、突然辺り一面に真っ白な雪煙が立ちました。

「うわっ、なんだこれは!」

 警官サンタたちは大騒ぎになって、濃い雪煙がようやく晴れてみると、囚人の黒岩三太郎が消えていました。

「脱獄だあ! いや、脱走だあ! 黒岩三太郎が逃げたぞお! ええいくそ、またしても。捜せ! サンタ警察の名誉に賭けてなんとしても見つけだすんだ!!」

 サンタ警察は総動員で逃げた三太郎の行方を捜しましたが、広く真っ白な氷の大地に、あの黒い大男を見つけだすことはできませんでした。


 黒岩三太郎は、いったいどこへ消えてしまったのでしょう?






 目隠しに頭からすっぽり被せられていた真っ黒な布を取られると、目の前によく知る顔がありました。ただし、よく見知っている顔とは正反対に、ひどく陰険に、ものすごく怒っていました。

「黒岩三太郎君。よくもわたしの秘密を暴き出してくれたなあ?」

 それはあのクウデル・サンタでしたが、この非友好的な態度は……、薄暗いライトの灰色の狭い部屋で、三太郎は後ろ手に手錠をかけられてパイプ椅子に座らされ、また足かせをはめられていました。後ろには三太郎を誘拐してここまで運んできた特殊部隊サンタたちが仁王立ちしています。

 クウデル・サンターズ北米支部長は、


 ひいひいひいひいひい


 と、陰湿に笑いました。

「さあて、君にはいったいどんなお礼をしてあげようかなあ?」


 ああ、三太郎の運命やいかに!?



 「黒いサンタ 2014」へ、  つづく。



 (「黒いサンタ2013」は、おしまい。)

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