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25/27

25,25日・朝

 超豪華チャリティーオークションは3時を過ぎてようやく終わりました。

「ハイハイ、これにて打ち止め。ニッポンのサンタの皆さん、世界の恵まれない子どもたちのためにご協力ありがとう。メリー・クリスマス!」

 みんなさすがに疲れ切って、まるで催眠術に誘導されるように大人しくそれぞれの客室へ帰っていきました。


 そして朝。

 カモメの鳴き声と、窓から差すすっかり昼の明かり、なんとなくサワサワと伝わってくる街の喧噪に目を覚ますと、お客さんたちはみんなパジャマ姿でベッドの中にいました。

 まったく夢から覚めた思いです。

 そして、昨夜のオークションで品物を落札したお客さんは、自分が契約してしまった金額を思い出して、そのあまりの大きさに青くなり、あれが夢ならいいのにと思いましたが、落札した品物はしっかり部屋の金庫に納まっていたり、船の大型金庫の預り証がテーブルに載っていたりしました。

 朝から忙しく会社に出立していく人もいて、朝食バイキングの時間はみんなまちまちでした。

 船は早朝日が昇る前に港に帰ってきています。

 お客たちはそれぞれの都合でおのおの船を下りていきます。サンタからクリスマスのプレゼントをもらって。

 高いタラップに立って昼の陸地を眺めると、今日がクリスマスの当日なのですが、もうお祭りの後のような、ちょっと疲れた静かさを感じました。昨日までの華やかに浮かれた雰囲気はすっかり消えています。

 なんだかため息をつきたい気分で階段を下りていこうとするお客さんにサンタが最後の挨拶をします。

「チャオ。どうぞ良いお年を。そしてまた来年ハッピーなメリー・クリスマスでありますように。ほおほおほおお」

 サンタのハッピーな笑い声を聞いて、お客さんはそうだなと思いました。

 よし、今度はハッピー・ニューイヤーだ!

 そしてまた来年も、今年に負けないくらいゴージャスでハッピーなクリスマスを迎えられるよう、バリバリ働くぞ!



 最後の客が船を下りると、日本のサンタ支部の支部長サンタが迎えに来ました。

 支部長サンタは丁重に伝説のサンタに挨拶し、言いました。

「サンタの国へお送りします。どうぞごいっしょに来てください」

 伝説のサンタは言いました。

「ニッポンの皆さんにさよならの挨拶をして出国したい」

 困った顔をする支部長サンタに笑顔で請け負いました。

「だいじょうぶじゃよ。どこにも逃げたりせんよ。なにしろこのわしがのんびりできるのは、だあれもいない北極の氷の中だけじゃからなあ」


 クウデル・サンタは望み通り、飛行機で日本を出ることになりました。

 空港で名残を惜しむファンたちと時間の許す限り握手をし、みんなに一生懸命手を振られて搭乗ゲートに入っていきました。

「チャオ、ニッポンの皆さん。メリー・メリー・メリーーー・クリスマス! ほおーっほおっほお、ほおーっほおっほおお」





 黒岩小三太こと、

 佐藤幸一君は、自宅の布団の中で目を覚ましました。あれえ?と思いましたが、

「なんだ、クリスマスはもうおしまいってことか」

 と、頭のいい子なのですぐに理解しました。それよりも。

 枕元にクリスマスのラッピングをされた長方形の包みがあります。

 やったあ! と、喜び勇んで包装をビリビリ破いた幸一君でしたが、出てきたのは、毎年恒例のえんぴつとノートのセットと、今年はゴージャスに英語・国語・漢字の電子辞書が付いていました。

 幸一君は居間へすっ飛んでいきました。

 居間にはお母さんがいて、のんびりお茶を飲みながら読書していました。幸一君のお母さんは小学校の先生で、冬休みなので家にいるのでした。お父さんはいないようですが、大学の先生のお父さんは、どうせ大学の研究室で研究に忙しくしているのでしょう。

「母さん! なんだよこれ!?」

「あら、コーちゃん。おはよう。あー、メリー・クリスマス。

 おじさんの家はどうだった? 昨日の夜、わざわざ送ってきてくれたのよ?クリスマスは家族揃って迎えるのがいいだろうって。あんたはぐっすり眠っちゃってて、おじさん車から運ぶのにヒーヒーたいへんだったのよ?すっかり重くなったなあって」

 お母さんは、覚えてないでしょうねえと、ニコニコ笑っています。幸一君はここでも、ああそういうことになっているんだな、と納得しました。どうやらサンタクロースはこういう工作が得意なようです。そういえば小三太は伝説のサンタの後ろでバンバンいっしょにテレビに出まくっていましたが、それもどうせ知り合いには、似た子がいるなあ、程度に思われているのでしょう。きっと黒岩三太郎とセットで、ロシア人の親子と思われていたことでしょう。

 いいえ! 今はそんなことではありません!

「なんだよ、これ? 今年のクリスマスプレゼントはナンテンドー・スリーデーエスがいいってあれだけ言ったじゃないか!?」

 駄々をこねそうな幸一君を、お母さんは困った顔で見て言いました。

「あのねコーちゃん。本当のクリスマスっていうのは子どもがぜいたくなおもちゃを買ってもらう日じゃないのよ? お父さんとお母さんで相談して、あなたのためになるプレゼントを選んだの。コーちゃんも来年は中学生なんだから」

「そんなことどうでもいいよ! 子供がクリスマスにおもちゃのプレゼントをもらえないなんて最低だよ! なんだよ、いっつもいっぱい勉強して立派な大人になりなさいって、そんなに将来のことが大事で、子供時代はどうでもいいのかよ!?」

「コーちゃん。あのねえ…」

 表に車が来て止まる音がしました。バタンとドアの開く音がして、ピンポーンとチャイムが鳴りました。

「あら、何かお届け物かしら?」

 お母さんは幸一君と話の途中で心残りにしながら、はーい、と返事をして玄関に向かいました。

 窓の外にトラックの荷台が見えます。そこに書かれている名前を見て幸一君は目を輝かせ、自分も玄関に飛んでいきました。

「こんにちはー。トナカイ急便です。えーと、佐藤幸一様にお届け物でーす」

「あら、幸一に? どうぞー、開いてまーす」

「失礼しまーす」

 ドアを開けて、赤い帽子をかぶった制服姿のお兄さんが、手に四角い包みを持って玄関に入ってきました。

「はい、こちらになりまーす」

 最近は送りつけ詐欺なんて悪いのが流行っていますから、お母さんは喜んで駆けだしてきた幸一君を横目に見つつ、受け取る前にお兄さんにききました。

「どちらからのお荷物?」

「はい、えーと」

 お兄さんは荷札を読みました。

「赤鼻サンタ商会 クリスマスアンケートプレゼント係 様より、ゲーム機だそうです。へえー、当たったんだ? よかったねえ?」

 お兄さんはこの子が幸一さんだろうと思ってニコニコ笑顔を見せました。

「やったー!!」

 大喜びする幸一君にお母さんはしかめっ面でききました。

「コーちゃん。そんなアンケートに答えたことあるの?」

「え? う、うん。おじさんちの近くのショッピングモールで」

 口から出任せですが、送り主は名前からして赤畠三之助に間違いありません。

 お母さんは鼻からため息をついて、本当に困ってしまって、ニコニコしているお兄さんに言いました。

「申し訳ないけれど、それ、送り主にお返ししてください」

「は?」

「ええっ!?」

 幸一君は心底驚いて、必死になってお母さんにききました。

「なんで? なんで送り返しちゃうの? せっかく当たったのに?」

 お母さんは自分自身決心を固めるようにつんとして言いました。

「ゲームなんていけません。ゲームなんてすると、ゲームのことばっかり考えるようになって、時間はルーズになるし、目は悪くなるし、本も読まなくなるし、勉強しなくなるし、いいことなんてなんにもありません!」

 お母さんは受け持ちのクラスにそういう子がいるのでしょう、実に具体的に実感を込めて言いました。

「ひどい! ひどいよ! そんなの大人の横暴だ!」

 幸一君は泣いて抗議しました。

「大人にとっていいことなんてなくたっていいよ! 僕はゲームがやりたいんだ! 勉強や読書ばっかりじゃなく、もっと子供らしい楽しいことがしたいんだ! うちはゲームばかりじゃない、雷獣武隊ザウルスナンダーだって号面ライダー鋼冑だって見せてくれないじゃないか!」

「コーちゃん、そういうのが見たいの?」

「見たくないよ!別に! 僕はゲームがしたいんだ! 僕に当たったゲームじゃないか! それを勝手に送り返すなんてひどいよ! お母さんには楽しい子供時代の思い出がないの? 大人になったら子供時代なんてどうでもいいの? 子供には子供時代が一番大切なんだよ!」

 幸一君は真っ赤になって涙を流しながら猛抗議して、恨めしい目でお母さんを睨み付けて言いました。

「もし本当にゲームを送り返しちゃったら、僕、お母さんのこと、本気で大嫌いになるからね?」

 苦い顔ですっかり困っていたお母さんは、はあーー……、と大きくため息をつくと、実に苦々しく笑いました。

「ちゃんと時間守る?」

「守るよ」

「本も読む?」

「読むよ」

「勉強もする?」

「するよ」

「分かりました」

 お母さんは折れて、お兄さんが差し出す受取証にはんこを押して、ほっとしたお兄さんから荷物を受け取ると、

「はい、どうぞ」

 と幸一君に渡しました。

「やったー! えへへへへへへ」

 幸一君は涙と鼻水で汚れた顔ですごく嬉しそうに笑って、お母さんはその顔を見て呆れたように笑って、

「毎度ありがとうございます」

 と、お兄さんは帽子をちょこんとやって出ていきました。

 幸一君は居間に戻るとさっそく包みをビリビリ破き、

「やっ   たああーーーーー  っっ!!!!」

 と、すごく嬉しそうに叫びました。その声を聞いて、お母さんも頭を振りながら楽しそうに笑いました。

 送られてきたナンテンドー・スリーデーエスには、学習塾の学習ソフトが、なんてオチでなく、ちゃんと今大人気の「スーパー・マルコ・デラックス」のソフトがいっしょに入っていました。

 幸一君の今年のクリスマスは、最高にハッピーなクリスマスでした。

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