23,自分への贈り物
オークション・ナンバー1は、伝説のサンタに負けず華麗に社交活動を繰り広げていた一般参加の演技派セクシー女優、麦蔵京子さん、の、カクテルドレスの胸に眩しく輝いていた大粒ダイヤのネックレスです。
クウデル・サンタに招かれて壇上に上がった麦蔵さんは、実はテレビ局から頼まれて、チケットをもらっての参加だったのですが、それは一つには一流有名人に参加してもらってイベントの華やかさを盛り上げるためと、もう一つの目的は、オークションにかけるこのダイヤのネックレスを宣伝するためでした。
せっせと社交活動を展開して、その豪華な宝飾品を見せびらかして、今壇上で胸を張って改めて見せつけているきらびやかに輝く大粒ダイヤモンドに、羨ましく見つめていたご婦人方は卒倒しそうなほどテンションが跳ね上がりました。
もちろんネックレスは麦蔵さんの私物ではありません。ちゃあんとスポンサーがあるのです。
このオークションは豪華クルーズといっしょに企画されていたもので、テレビ局の偉ーい人と相談したりして、銀座の最初の夜から三太郎が準備していたのでした。
これから超リッチなオークション品が続々登場してきます。それぞれに大企業や一流店の出品者がいるのです。
クウデル・サンタが張り切って司会進行します。
「落札者には今身につけている麦蔵さんが直接手渡しいたしますぞお? 殿方、ご自分のコレクションにするも良し、恋人、奥様にプレゼントするも良し。もちろんご婦人がご自分で落札なさるも良し。さあ、ではスタートの値は、500万円から!」
いきなりの値段に会場がどよめきましたが、あの大粒の輝きなら当然そのくらいの値はするでしょう。
クウデル・サンタがオークションの趣旨を説明します。
「落札額の5パーセントが世界の恵まれない子どものために寄付されます。大きな金額をつけてくれるほど、寄付の金額も上がりますぞ? さあ、どなたが最初の値を付けてくださいますかな?」
麦蔵さんが見せつけるように胸を振って、ダイヤモンドがキラキラ輝きます。
「550万!」
手が上がって、最初の値が付けられました。すかさず、
「580万!」
の声が上がって、
「600万!」
「650万!」
「700万!」
「800万!」
「1000万!」
と、どんどん上乗せされていきます。クウデル・サンタが煽ります。
「お支払いはカード、または小切手でお願いします。さてさて、皆さんのカードは何色をしておいでかな? それともこのくらいの金額、ポケットマネーでお持ちかなあ?」
サンタの横にはセクシーなバニー衣装のお姉さんたちが、手にしたlove−Padを見つめていて、手を挙げて「1200万」と、オークションに参加しました。他の会場にもセクシーバニーさんたちがいて、モニターを見てオークションに参加するお客さんたちの中継をしているのです。
値段はとうとう「1880万」まで上がって、
「他におりませんか? よろしいですか? 締めきりますぞ? ハイ、ハンマープライス!」
クウデル・サンタは木槌を打ち鳴らす代わりにハンドベルを盛大に振って競りの決着を告げました。
競り落としたのは大ホールのお客さんで、前に出てきたのは、まだ30代の高級なスーツを着た伊達男で、きっとIT関連のベンチャー企業の社長さんでしょう。そうに決まってます。いっしょに若いキャンペーンガールみたいな恋人を連れていますから、なおさら間違いありません。
男性はゴールドのカードをアシスタントのバニーさんに渡し、麦蔵さんの見ている前でさすがにドキドキしながらlove−Padの支払い確認を押し、買い取り契約が確定しました。
「おめでとう」
麦蔵さんはネックレスを外して男性に手渡し、チュッと祝福のキスを頬にしてあげました。男性は真っ赤になってデレデレし、となりの恋人に怖い目で睨まれました。もう少し麦蔵さんのぬくもりのあるネックレスを手にしていたい男性でしたが、仕方なく恋人の首にかけてあげました。途端に恋人もニッコニコです。
「ハイ、若い恋人たちに拍手ー」
パチパチパチ、と拍手が送られ、
「ハイ、ではオークション・ナンバー2」
とクウデル・サンタが次の品物を紹介しようとすると、
「ちょっと待ってください」
と手を挙げる男性がありました。
「これを、オークションにかけてもらいたいんですが」
そう言って掲げて見せたのは、床に転がっていた一昔前の変身ヒーローの人形です。
「僕はこれを買い取りたい。今日の記念に、是非お願いします!」
「うーむ……」
クウデル・サンタは正直なところ面倒くさそうな顔をしましたが、
「俺も欲しい。5000円でどうだ?」
「だったら僕は6000円だ」
「わたしは1万出そう」
「なんの、2万5千だ!」
と、勝手にお客さんたちの間で競りが始まってしまって、まだまだそんなチンケなおもちゃ比べ物にならないすごい品物が目白押しのクウデル・サンタは、ハンドベルをカランカラン鳴らし、
「ハイ、5万円で決定! 欲しい人は早い者勝ち。バニーちゃんに手続きしてもらってね? ハイ、ではナンバー2。こちら!」
と、今度は今が旬のイケメン俳優が登壇して女性たちの歓声にはにかみながら、スーツのそでを下げオーロラのような光を放つ腕時計を掲げました。
「今最高に輝いている梅坂道理くんには最高に輝く時を刻む腕時計がふさわしい。日本が世界に誇るグレード・サイコーの最高級腕時計、幻のピンクゴールド仕様! さあ、手に入れられる機会は限られておりますぞお?」
男性陣からもほお…と感心する声が漏れました。
「スタートは300万円から。さあ、どうだ?」
これまた400万、500万と、どんどん値段が跳ね上がっていきました。ここに集まっている人たちの金銭感覚はどうなっているのでしょう? 普段からニコニコしているクウデル・サンタですが、もうどうにも笑いが止まりません。
「ハイハイ、リッチなサンタの皆さーん、どんどん張り切っちゃってちょうだいねー? 子どものため、子どものため。ほおーっほおっほおっほおー」
伝説のサンタのハッピーラフィングに乗せられて、オークションの熱狂はもうどうにも止まりません。
「ふあ〜〜〜ああ……」
小三太は大あくびしました。サンタに変身した大人たちは大騒ぎしていますが、子どもにはどうにもアホらしくて、もうすっかり遅い時間ですし、さすがに眠くてたまりません。
「よしよし。もう十分楽しんだな? 部屋に帰って寝るとしよう」
「うん……」
三之助に手を引かれて、小三太はもう半分眠りながら歩きました。他にも子どもたちを連れて部屋に帰るお母さんたちがいます。さすがにこの異常な騒ぎに嫌気が差して正気に戻ったのでしょう。
部屋に入り、ベッドに寝かせると、三之助はそっと言いました。
「眠って起きたら、クリスマスの朝だ。プレゼントを楽しみにしてるんだな」
小三太は笑いながら、むにゃむにゃと、完全に眠ってしまいました。
三之助は微笑んで、
「かわいくねえ寝顔だなあ」
と言いつつ、ひょいと手品のように担ぎ上げた袋の中から、クリスマスプレゼントの包みを取りだし、小三太の枕元に置きました。
「やっぱりおれは黒サンタより赤サンタの仕事が好きだぜ」
そうして、
「あばよ」
と、部屋を出ました。




